Merry Birthday 今日は素敵なことがありますように ずっと笑顔でいられますように そう願って、空に − 1 − 夜が明ける少し前に、カル−は目を覚ました。 “超カルガモ”とはいえ夜目の利かない鳥類である彼の夜は早く、朝も早い。 ぶるッと羽根を震わせて、頭をもたげる。 月が沈み、星は消え。お日様が顔を見せる直前の世界は、一面の鉛色だ。 どこまでが海で、どこからが空か。 何も見えない混沌の中を、小さな海賊船ゴ−イング・メリ−号は進んでいる。 「クエエェ…?」 寝惚けた声で低く鳴くと、狭い見張り台でカル−の背中にもたれていた少女が身じろいだ。 彼女が4つの女の子で、彼が生まれたばかりのヒナ鳥で。 それからの十数年を共に過ごした一人と一羽は、主従であると同時に親友だ。 「カル−、おきた?もうじき日が昇るわ」 毛布の中から抜け出した腕が、真っ直ぐに彼方を指差す。 そこに、光が生まれた。 一点の光は白い線になり、海と空との境を区切る。 雲が金と薄紅に輝いて、頭上は薄紫から藍色へのグラデ−ションに染まる。 光と影とが重なった海に、オレンジ色のお日様の道。 目の前に拡がる光と色とを見ていると、カル−はワクワクする。 特に今朝は、何か素敵なことが起きそうな気がするのだ。 「今日の夜明けを、一緒に見れて良かった」 眸の中にお日様を映して、彼の御主人様は言った。 その手の中に、砂の国を指す“永久指針(エタ−ナルポ−ス)”を握りしめたままで。 「クエエエェ〜!!!」 クチバシを天に向け、カル−は力の限りに声を上げる。 最近仲間になったばかりのトナカイが居たら、こう訳してくれただろう。 『ワタシもです、御主人様!!!』 次の瞬間、キッチン兼操舵室兼食堂のドアがバタ−ン!!と開く。 早起きの料理人は、カル−が目を覚ます前から朝食の準備に取り掛かっていたのだ。 「ビビちゃん、何かあったのか!!?」 血相を変えた料理人に、御主人様はニッコリ笑う。 爽やかな朝の空気の中、カル−の頭がスパァン!と音を立てた。 「なんでもないの、サンジさん!! カル−ったら、ニワトリでもないのに夜明けなんか告げちゃって」 安堵の顔にハ−トを添えた料理人がキッチンへ引っ込むと、御主人様も笑顔を引っ込める。 「まだ早いのに静かにしないと、みんなを起こしちゃうでしょう!?」 カルガモとニンゲンとのコミュニケ−ションは、ムズカシイ。 海賊旗が、項垂れるカル−を慰めるようにパタパタとはためく。 クチバシを上に向けると、色とりどりの輝きも今は消えて。 空はいつもどおり、御主人様の長い髪とそっくり同じ色をしていた。 * * * 朝が来るたびに、祈る どうか何も、悲しいことは起こらないで 誰も死なないで 血を流さないで 戦わないで 願うことは、それだけ 昨日も 一昨日も その前も そして、今日も 他には何も、望まない − 2 − 冬島を離れて早、数日。 寒さもすっかり遠のいて、太陽の昇ったグランドラインはポカポカ陽気。 キッチンからはパンとコ−ヒ−の良い香り。 どこからか一羽のカモメがやって来て、すいっと見張り台を横切った。 「ク−!(おはよう!)」 「クエ〜!(おはよう!)」 鳥同士での挨拶を交わすと、カモメは斜めに弧を描いて船首を掠め、もう一度鳴いた。 「ク−!(おはよう!)」 それから、ふわりと船縁に舞い降りて更に一声。 「ク−、ク−ッ?(捕れたてのサカナのように活きのイイ、ニュ−スはいかが〜?)」 新聞配達カモメは朝早くから自分の担当海域を飛び回り、めぼしい船を見つけては こうして営業に勤しんでいる。 伝達手段の乏しいグランドラインでは、新聞は貴重な情報源なのだ。 まともな船なら、毎朝甲板でカモメの姿を待っているのが普通である。 この船でも、進路の確認と測量がてら新聞を待っていた航海士のナミが、財布を手に カモメに近づいていく。 「また値上げぇ〜?っつたく、足元見てんじゃないでしょうね!?」 眉を吊り上げ、ナミはカモメにコインを渡す。 数日前まで熱病で死にかけていたとは思えない元気溌剌ぶりである。 ヘイゼルの眸に睨まれながら、カモメはコインを受け取った。 「ク〜!(まいどあり〜!)」 小さいとはいえ、旗にも帆にもジョリ−・ロジャ−を描いた海賊船だ。 ス−プの出汁にされる前に逃げようと、船縁から飛び立つカモメに更に一声。 「毎日買ってるんだから、偶にはオマケしなさいよ−ッ!!」 「ク−ッ!!(やなこった!!)」 叫んだカモメは去り際にもう一度見張り台を通り過ぎ、カル−に別れの挨拶をした。 「ク−ッ!!(食われないように気をつけろよ−!!)」 小さくなるカモメを見送りながら、カル−はぶるッと羽毛を逆立てる。 この船の船長は肉が大好きだし、料理人は彼の方を時折じ〜っと見ているし。 けど、いざとなれば御主人様が守ってくださるだろう。 人間もカルガモも、雄は雌に弱いものなのだ。 「クエッ!!(ねッ、御主人様!!)」 けれど御主人様の返事は無い。見張り台から身を乗り出し、真剣な顔で下を見ている。 甲板では、パラパラと新聞を繰る航海士。 カモメが運ぶ毎朝の新聞を一番に待っているのは航海士ではなく、彼の御主人様なのだ。 見張り台の縁に置かれた手に、ぎゅっと力が入る。 「大丈夫よ、ビビ!!まだ、それらしい記事はないから!!」 ナミが顔を上げて、見張り台に向かって言った。 手摺を掴んだ手から、ふっと力が抜けていく。 「……ありがとう、ナミさん!!朝ゴハンが終わったら、私にも読ませてね!!!」 御主人様は、笑って言った。 甲板の航海士が見張り台をじっと見つめる。 「じゃあ、朝食までお願いね。何かあったらキッチンに居るから」 オレンジ色の頭がドアの向こうに消えるや、空色の頭も見張り台から見えなくなる。 ぺタリと床に膝をついて、小刻みに震える肩を両手でぎゅっと掴む。 「クエエェ〜?(寒いですか?)」 ふわふわの羽毛で覆われた身体を摺り寄せるカルガモに、砂の王国アラバスタの王女 ネフェルタリ・ビビは繰り返した。 「大丈夫よ、カル−。大丈夫。アラバスタは……、まだ大丈夫」 鳥であるカル−には、“国の危機”や“戦争”のことなどわからない。 それでも彼女の気持ちは自分のことのように感じるのだ。 胸が潰れそうに、痛くて苦しい。 カル−は波を切って進む船首に向かって、大きく鳴いた。 「クエェ〜、クワックワッ!!(お願いですから、もっともっと急いでください!!)」 麦藁帽子のジョリ−・ロジャ−が、風をいっぱいに受ける。 波の間を飛ぶような“最高速度”で、ゴ−イング・メリ−号は進む。 王女とカルガモの願いを叶えようとして。 * * * 誕生日に家に帰ると、ノジコはみかんのケ−キを焼いて テ−ブル一杯に料理を並べる あたしは、帰るたびにノジコに“食事代”を渡していたけれど お金は全部、1億ベリ−を貯めてた箱に戻されていて 卵とか、砂糖とか、野菜とか、お肉とか ココヤシ村のみんなが、少しづつ持ち寄ってくれていたと知ったのは 全部が終わってから 今となっては、何もかもが大切な思い出 だから、あの子にも覚えていて欲しい この船の上にだって、『おめでとう』があることを − 3 − 朝食が終わった後、ナミが読み終えた新聞を手に取るのがビビの日課だ。 アラバスタの記事が無くとも、世界政府の動きや国際情勢は気にかかる。 これもまた、“王女の嗜み”なのだろう。 この船で、きちんと新聞を読むのは航海士と王女の二人だけ。 後は料理人と狙撃手が、三面記事を眺める程度だ。 前者はレディ−との“ラブト−ク”のネタを、後者は法螺話だか新発明だかのタネを 拾うのが目的である。 何にせよ、ビビが食後のコ−ヒ−を片手にゆっくり新聞を読んでいても、誰も文句を 言わないのだ。 朝食の済んだキッチン兼操舵室兼ラウンジに残っているのはビビとカル−、航海日誌を 書いているナミ、後片付けをしながら二人の美女にコ−ヒ−と笑顔をサ−ビスしている 料理人のサンジだけである。 「…ナミさん、ここの記事は?」 パラリと頁をめくったビビは、斜め前に座るナミに尋ねた。 顔の高さに持ち上げた新聞の、やや右上寄りに開いた穴。 10cm四方に切り取られた窓からは、長い睫毛に縁取られたビビの片目が覗いている。 「ああ、それ?ダイエットの情報が載ってたんで、スクラップしとこうと思って。 裏も大した記事じゃなかったし」 言われて紙面を裏返すと、確かに広告のスペ−スだ。 デカデカと目立つ文字で “話題沸騰!効果抜群!!ダイエット特集” とかなんとか。 お酢に豆乳に寒天に…、その隣の大きな枠がそっくり切り抜かれていた。 「ナミさんには、ダイエットなんて必要ないのに」 抜群のプロポ−ションに、ビビが羨ましそうな視線を向けると、ナミはミニスカ−トを ものともせずに優雅に足を組み替える。 「日々のたゆまぬ努力が美容の秘訣vv」 「さっすがナミすわ〜んvvその美しさを保つことは、俺と全人類への貢献ですッvvv」 航海士のウインク一つで即座に壊れる料理人。 それを当然のように聞き流す航海士。 いつものやり取りに苦笑するビビに、ナミは表情を改めた。 「けど、あんたが読む前に切り取っちゃって悪かったわね。…読む?」 どうせ三面記事的な、あまり深刻で無いニュ−スが載るスペ−スだ。 どこそこの国で、王子が生まれたとか結婚したとか即位したとか亡くなったとか。 途中で欠けているのも見出しによれば、どこそこの王室の離婚騒動で、最後まで読む 気はしない。 「いいえ、構わない……ふぁ」 答えた端から、ビビは欠伸を噛み殺した。 ナミが気遣うように声をかける。 「あんた、夜は寝てないんだし。そろそろベッドに入れば? 新聞は部屋で読めばいいし、お昼には起こしてあげるから」 「じゃあ俺が、“お姫様抱っこ”でビビちゃんをベッドにお連れしまぁ〜すvv お目覚めは、もちろん“王子様のキッス”でvvv」 右目をハ−トにしたサンジに、ビビはニッコリと笑顔を返す。 「大丈夫ですよ〜、目覚まし時計をセットしておきますから。 じゃあ、お昼までベッドを借りますね。おやすみなさいナミさん、サンジさん」 ラブコックの申し出をすげなく断わり、ビビは新聞を手に席を立った。 「おいで、カル−。一緒に寝よう」 ブロ−クンハ−トのサンジが、妬まし気な視線をカル−に送る。 ……トリの分際で女部屋で寝起きしやがって、その上ビビちゃんに添い寝まで!! ああ〜ッ、俺もカルガモになりてェ〜!! 所詮、ラブコックの考えることはその程度だが、カル−は背中の羽毛を逆立てた。 ……丸焼きにしても燻製にしても、ワタシは美味しくないです〜!! 勘違いしているカルガモは、ビビの後を追って逃げるようにキッチンを出た。 * * * 「ビビ〜ッ!!もう寝ンのか!?」 「見張りごくろ−さん。ぐっすり寝ろよ〜!!」 「あとで、一緒に釣りしよ−なッ!!」 階段を降りたところで、ビビとカル−は一度に声をかけられた。 船長のルフィに狙撃手のウソップ、そしてトナカイで船医のチョッパ−だ。 船縁に一列に並んで座り、狙撃手お手製の竿で釣り糸を垂らしている。 「ええ。ルフィさんもウソップさんもトニ−君も、頑張って大物を釣ってね。 それじゃあ、おやすみなさい」 笑って三人に応えたビビは、その笑顔を見張り台に向けた。 「おやすみなさい、Mr.ブシド−。見張りもトレ−ニングも、頑張って!」 「……………。」 両手で特大の鉄アレイを上げ下げしていた剣士が、顎だけで頷く。 「クエエェ〜(おやすみなさい〜)」 カル−も一声挨拶をして、ビビと一緒に女部屋へ続く倉庫に入った。 パタン 控え目な音を立てて、ドアが閉まる。 とたん、船長以下は釣竿を甲板に放り出した。 転がる竿を飛び越えて、一目散にキッチン兼操舵室兼会議室へと駆け出していく。 その後を追うように、見張り台の梯子がギシギシと音を立てた。 * * * 「…で。ビビをのけ者にして何の相談だ?」 両手に鉄アレイを持ったまま見張り台を降りたゾロが、不機嫌そうに言う。 「人聞きが悪いわね〜。大事な相談だから、ビビには席を外してもらったの」 平時には、このゴ−イング・メリ−号の事実上の船長ではないかとさえ思われる航海士は 開いたままの航海日誌に片肘を乗せて答えた。 『ビビが女部屋へ寝に行ったら、全員集合!!遅れたらトイレ掃除半年!!! ついでに、今日のお昼も抜きよッ!!!』 見張り当番だったビビとカル−が最後に朝食の席に着く前に、麦わら一味の面々には 航海士の口から申し渡されていた。 そういうワケで、朝食後の彼らはキッチン兼操舵室兼食堂のドアが見える位置に陣取って、 ビビが出てくるのを待ち構えていたのである。 「よしッ、今日の晩メシは肉だ!!決定!!!」 「それのドコが大事な相談だっつ−んだよ、クソゴム!!」 非常時にしか役に立たない船長を、料理人が蹴り飛ばす。 ここは、そういう海賊船である。 「おい、まさかアラバスタで戦争が始まっちまったとか言うんじゃね−だろ−なッ!? だったら、このままアラバスタに向かうのはヤベぇよなッ!!!」 「ホントかッ!?今朝の新聞にアラバスタの記事は無いって言ってたのに!! 新聞はウソつくのかッツ!!?」 先走るウソップと、つられてパニックに陥るチョッパ−。 「いいから、黙って話を聞けッ!!!」 一発、ナミが雷を落としてようやくキッチンは静かになる。 彼等の会議は、概ねこのように進行するのだ。 溜息を吐いて日誌の頁をめくったナミは、そこに挟んでいた紙片をテ−ブルに置いた。 「これよ」 ナミが示したのは、新聞の切り抜きだ。 とはいえ、グランドライン有数の文明大国での百万人を巻き込む戦争勃発を告げる ニュ−スとは思えない小さな記事である。 テ−ブルに前足をついていたチョッパ−が、端から記事を読み上げた。 「え〜っと。こ…、 『皇太子の女性関係は以前から問題となっており、今回の不祥事に皇太子妃は…』 なんだ、コレ??」 「「「「???」」」」 可愛い声にそぐわない内容に、聞いている皆の目が点になる。 しかも、話が途中からだし。 「違うッ!!その下の枠の中ッ!!!」 ビビの目を誤魔化すため、裏のダイエット広告に合わせた所為で余計な部分も切り取って しまったのだ。 チョッパ−から切り抜きを引っ手繰ったナミは、一つ咳払いをして10行にも満たない 小枠の記事を読み上げた。 『大旱魃と内乱の渦中にあるアラバスタ王国では、今日、王位継承者である ネフェルタリ・ビビ王女の17歳の誕生日を迎える。 本来であれば、この日王女は宮前広場に面したバルコニ−で国民からの祝福を 受け、その後は内外からの賓客を招いての盛大なパ−ティ−が催される。 しかし、ビビ王女は2年前に王国護衛隊長と共に失踪し、現在も行方不明である。 王室報道官によると、王女不在のため祝賀行事は執り行われないとのことだが、 王国内では現在もこの日を『祝日』とする向きが強く、昨年と同じく主な商業施設の 半数以上が自主休業となる見込みである。 王国政府は王女の行方に関する情報を求めており、その安否が気遣われている。』 読み終えたナミは、一同を見回す。 「つまり、今日はビビの誕生日だってことよ」 「そんじゃ−、今夜は宴会だなッ!!サンジ、やっぱり晩メシは肉だ!!!」 にぱっと大口を開ける船長に、料理人は肩を落とす。 「っつたく、てめェは…。それより、ビビちゃんの好物が先だっつ−の」 「誕生日のお祝いするのか!?ビビ、喜ぶなッ!! オレ、何したらいい!?何でも手伝うぞッツ!!!」 ウキウキと踊り出しそうなチョッパ−の隣で、ウソップは訝しげに腕を組んだ。 「しっかし、ビビも水臭ぇよな−。こっちにも準備があるってのに、何で黙ってたんだ?」 「そりゃあビビのことだもの。あたし達に気を遣ってるのよ」 ナミの意見に、サンジもハ−トを撒き散らしつつ手放しで賛同する。 「王女という高貴な身分でありながら、心優しく奥ゆかしいビビちゃんだからなァ〜vv ……どっかの盗み食い集団のおかげで、船の食料事情が厳しいのを気に病んで 言い出せねェんだよッツ!!」 ギロリと睨んだ視線の先にいる、船長以下の盗み食い常習犯が縮み上がった。 「……とにかく。折角、この船に居るんだもの。 サンジ君、後の食料配分のこともあるだろうけど、ケ−キはお願いね」 ナミからのリクエストに、サンジの頭はプリンセスの為のバ−スデ−ケ−キへとトリップする。 「はぁ〜い、ナミさんvお任せあれvv そうだなぁ…。ベ−スはビビちゃんお気に入りの、ふわふわのシフォンケ−キ。 仕上げは生クリ−ムで真っ白にデコレ−ション。色とりどりのベリ−で華やかに…。 そう、イメ−ジは“プリンセスのティアラ”だなvv」 「「「うまほ−!!!」」」 声に出してイメ−ジを練る料理人に、ヨダレを垂らす年少組。 ナミもワ−ドロ−プを思い浮かべながら、楽しい想像をめぐらせた。 「ビビにはあたしの服を貸して、うんとお洒落させちゃうわ。 ウソップ、お姫様みたいな髪飾りをお願いね♪」 「おいおいおい。おれ様はこれからパ−ティ−の飾りつけの準備で大変なんだぜぇ〜。 そんなヒマあるかよ……って、ナミ!! わかったから、トイレ掃除の当番を全部おれの名前に書き変えるのは勘弁してくれぇ〜」 「……阿呆じゃね−のか、お前ら」 盛り上がるばかりの仲間達に、ゾロは素っ気無く言った。 聞きとがめたナミが眉を吊り上げる。 「ちょっと、どういう意味よ? あんた、ビビの誕生日を祝いたくないっての!?」 非難の視線を浴びつつも、ゾロは鉄アレイでのトレ−ニングの手を止めようともしない。 その態度に、女性最優先(レディ−ファ−スト)主義のサンジが食って掛かる。 「レディ−におけるアニバ−サリ−の重要性を理解出来ねェマリモの国の住人が、 余計な口出すんじゃねェ!!」 一触即発かと思いきや、ゾロはくるりと背を向けた。 剣士が背中を見せるのは、戦(や)る気が無いことの証だ。 「ビビの“お誕生会”がしてぇなら、別に反対はしねぇ。 どうせ、俺は見張りだからな。お前らで勝手にやってくれ」 ゾロが鉄アレイと共に出ていくと、一斉にブ−イングが起こった。 「付き合いワリ〜ぞッ、ゾロ!!!」 「ゾロ、ビビの誕生日が嬉しくねぇのかなぁ〜?」 「まァ、確かにゾロは“お誕生会”ってガラじゃね−けどよ」 「クソマリモ−!!おめェは一生、鉄アレイと添い寝してろッ!!」 口々に言う皆を、ナミが両手をパンパンと叩いて注目させる。 「アイツは酒さえあてがっとけばご機嫌なんだし、放っときゃイイわ。 あたし達で、サッサと準備を始めましょう。 ああ、もちろんビビにはナイショでビックリさせる趣向だから。みんな、わかった?」 「「「「了解(ラジャ−)!!」」」」 航海士の号令の元、見張りに戻った剣士を除くクル−等は“サプライズ・パ−ティ−”の 準備に取り掛かった。 * * * キラキラの飾り イッパイのごちそう ロ−ソクの並んだケ−キ みんなでカンパイして、言うんだ 『Happy Birthday VIVI !!』 エッエッエッエ ドクタ−、スゴイな!!海賊ってスゴイな!! 青っ鼻のトナカイのオレだって お姫様の誕生日のお祝いができる そんで、そんで、きっと オレの誕生日にも エッエッエッエ キラキラの飾り イッパイのごちそう ロ−ソクの並んだケ−キ みんなでカンパイして、言うんだ 『Happy Birthday CHOPPER !!』 − 4 − ベッドの中で目を閉じていても、ビビは眠ってはいなかった。 身体は休みたがっているのに、神経が昂ぶって眠ることが出来ない。 足元のラグに寝そべっているカル−も、時折首をもたげてはビビを伺っている。 カル−の方は夜明けまで見張り台でぐっすり眠っていたから、眠くはない。 ただ、御主人様のそばに居るのが自分の使命だと、そう思っているのだ。 「カル−、甲板に上がっていいのよ?」 目を開けたビビが、ベッドに横たわったままで言った。 「ウソップさんの“工場(ファクトリ−)”に行くなら、邪魔にならないようにね。 Mr.ブシド−がお昼寝をする時は、枕になってあげて。 …それから。トニ−君とおしゃべりする時は、余計なことを言わないように気をつけて。 特に、今日のことは」 冬島で仲間に加わった船医のトニ−トニ−・チョッパ−は、“ヒトヒトの実”を食べてしまった トナカイだ。 彼がカル−と話が出来ると知った後、ビビはカル−に言い聞かせたのだ。 『もうじき、2月2日ね…。 でも、誕生日のことは、絶対にトニ−君に話しちゃダメよ?』 「クェ〜(でも…)」 女部屋にかけられた日めくりのカレンダ−とビビの顔とを、カル−は何度も見比べる。 さっきから落ち着きが無いのも、実はそれが気になっているからだ。 カレンダ−に、“2”の模様が二つ並ぶ日。 お城の中には人が溢れて、空には花火が打ち上げられる。 御主人様はキレイなドレスと宝石で飾られて、広場に集まった沢山の人に手を振る。 カル−も羽根にブラシをかけてもらって、首に大きなリボンをつけて。 カルガモ部隊の仲間たちに羨ましがられながら、御主人様と一緒に胸を張る。 山のようなプレゼントの周りで、王様と護衛隊長さんが走り回っていて。 山のようなごちそうを運ぶ給仕長さんに、じゃまだと怒られていて。 一日中にぎやかで、楽しくて、みんなが笑顔で。 そういう日だったのに。 ベッドの上に起き上がったビビは、カル−の頭を抱き寄せた。 ふかふかの羽根に頬を埋めて、もう一度言い聞かせる。 「……だって、アラバスタが大変な時だもの。 皆が苦しんでいるのに、誕生日だからって浮かれてる場合じゃないでしょう? アラバスタに帰って、国と雨を取り戻して。それまで、『おめでとう』はオアズケよ。 それに……、私達、もうじきメリ−号から降りるのよ? お祝いしてもらっても、何も返せないわ。ナミさんにも、ルフィさんにも、Mr.ブシド−にも、 ウソップさんにも、サンジさんにも、トニ−君にも…。 私達は、『おめでとう』って言えないの。そんなの、嫌でしょう? …だから、トニ−君には言っちゃダメ。わかった?」 ビビに念を押され、カル−は何度もうなづいた。 「クエェ〜ッ!クエックエッ!! (わかりました!クチバシが裂けても言いません!!)」 ビビに鳥の言葉は通じないが、カル−が言っていることは何となく理解できる。 4つの頃から、ずっと一緒だったのだから。 まだ微かに砂のニオイがする羽根から、ビビはそっと顔を離した。 「それじゃあ、みんなのところへ行きなさい」 笑って見送る目尻が、少し赤い。 カル−は何度も振り返りながら、女部屋を後にした。 御主人様は最近、一人になりたがる。 もっと小さかった頃は、いつでも一緒だったのに。 空を飛ぶ鳥になれるお城の人に叱られて、泣いていた時も。 写真でしか知らないお母さんや、遠くへ行ってしまった友達を思って泣いていた時も。 いつでも一緒だったのに。 * * * 女部屋の蓋を頭で押し開け、片足で倉庫のドアを開けたカル−は、トコトコと甲板に出た。 「クエ〜?(みなさんドコに?)」 釣りをしていた船長と狙撃手とトナカイの姿が無いのに、カル−は首を傾げた。 けれどもキッチンの煙突からモクモクと煙が出ているのに気づき、トコトコと階段を登る。 そして、器用にクチバシでドアノブを咥えようと バンッ!!! ……したところで、内側から勢い良くドアが開いた。 「グエッ!!?」 固まるカル−の前を、ドアから飛び出した何かが階段を転げ落ちていく。 「ビビちゃんのバ−スデ−ディナ−に手ェ出すなっつってんだろ−が、このクソゴム!!」 開きっぱなしのドアの中からは、料理人の怒鳴り声。 「まったく、懲りないわねぇ〜。 あんたはパ−ティ−まで準備の邪魔になんないように、自転車でも漕いでてよ。 今夜は電気がタップリ必要なんだから」 航海士の呆れ声に、甲板を跳ね回る船長が不満そうに答える。 「やだ!!今日はビビがめでて−日だ!!だから、肉だ〜ッ!!」 更にドアの中からは、トナカイの弾んだ声と狙撃手の得意そうな声。 「うわ〜、キレイだなウソップ!!これでメリ−を飾ったらビビ、きっと喜ぶなッ!?」 「おうよ、このウソップ様が芸術的センスの限りを尽くし、このゴ−イング・メリ−号を 世界一ア−ティスティックなパ−ティ−会場にしてやるぜ!! どんな宮殿にも負けね−からなッ!!!」 『ビビ』 『バ−スデ−』 『パ−ティ−』 飛び交う言葉にまさかと思いつつ、カル−はドアから中を覗いた。 シンクとコンロの周辺を凄まじいスピ−ドで動き回っている料理人。 色とりどりの布を手に針仕事をしている航海士。 細いロ−プにその布を結びつけているトナカイ船医。 電球やカンテラに絵の具で色を塗っている狙撃手。 壁に立てかけられた大きな板には、真っ白な下地に空色の絵の具を使い ア−ティスティックな書体で、こう書かれていた。 『 Happy Birthday VIVI 』 カル−は鳥なので、字は読めない。 でも、この“模様”の意味だけは知っていた。 「グギョッ!!?」 思わず上げた鳴き声は、チョッパ−でも通訳不可能な文字通りの奇声である。 キッチンの一同が振り返り、立ち竦むカル−に気がついた。 「グワ、ワ、ワ…」 焦るカル−に、皆がニンマリと笑う。 それは、彼の御主人様がコッソリお城を抜け出そうとする時の顔にソックリだった。 「カル−!!あのな、あのなッ!! エッエッエ…。今、ナイショでビビの誕生パ−ティ−の準備してるんだ!!」 トナカイが腰から下でクネクネと踊りながら言った。 「あんた、鳥だから知らなかったでしょうけど。今日はビビの誕生日なのよ」 ハンカチ大の小旗を縫う手を止めた航海士が、胸の谷間から新聞の切り抜きを取り出す。 「お前の大事な主人の為に、最高のパ−ティ−を演出してやるからなッ!! ど〜んと、このキャプテ〜ン・ウソップに任せとけッ!!!」 狙撃手が、絵の具で汚れた鼻を天井に向ける。 「今夜のパ−ティ−はサプライズだからな、ビビちゃんには黙っとけよッ!!? …って、お前なら心配ね−か」 大量の食材と格闘しながら、料理人が肩越しにニヤッと笑う。 「いや〜、今日はホントにめでて−なッ!!!」 溢れる善意の笑顔にトドメを刺す、船長の真っ白な歯。 有無を言わせぬ迫力に、カル−は頷くしかない。 「ク、エェ…(は、いぃ…)」 「…とか何とか言いながら、ゴムの手ェ伸ばしてんじゃね−ッツ!!!」 ドッガ〜ンッ!!! 再び蹴り出された船長は、マストを目がけて一直線に飛んでいった。 * * * 俺の親友は、12で死んじまった けれど先生は、毎年あいつの誕生日を祝ってた 俺も、先生と一緒にあいつの好物を食って あいつを思い出しながら、稽古をつけてもらった 今はどうだかしらねぇが 俺が村を出るまで、先生はずっとそうしていた 誕生日、なんてモンは そいつの為にあるんじゃねぇ そいつが生まれて、生きていることを 生きていたことを 祝いたい奴の為にある − 5 − ただ一羽、カル−は船首に立っていた。 羊の頭を模(かたど)ったフィギュアヘッドは船長の指定席だが、今はパ−ティ−の準備 …というよりディナ−メニュ−を巡っての料理人との攻防戦に忙しく、誰もいない。 「クエェ…、クェ…。(どうすれば良いのでしょう、ワタシ…。)」 項垂れたカル−は、鳥らしからぬ溜息を吐いた。 誕生日のお祝いを望んでいない御主人様と、嬉々としてその準備をしている皆。 鳥ながら、両方の事情を知ってしまったカル−の悩みは海よりも深い。 ドッゴ−ン!! ゴロゴロゴロ……、ポ−ンポ−ンポ−ン!! またもやキッチンから蹴り出された船長が、マストにぶつかって甲板を跳ね回る。 だが、すぐさま立ち直るとゴキブリのようにコソコソとキッチンへの侵入を試みるのだ。 その合間には狙撃手と船医が、キッチン兼操舵室兼パ−ティ−準備室と格納庫とを 忙しそうに往復している。 皆、とっても楽しそうなのに、当の御主人様はちっとも楽しそうじゃなくて一人で部屋にいる。 何かヘンだということは、カルガモにだってわかる。 でも何がヘンで、どうしたらイイのかということはサッパリわからないのだ。 「クェ、クエェ。クエエ…(言うべきか、言わざるべきか。ソレが問題だ…)」 「主人に付き合って、心配事か?」 突然話しかけられて、カル−は声も出ないほど驚いた。 いつの間にやら剣士のゾロが隣に立っている。 鉄アレイでのトレ−ニングに飽きた彼は、一万回ほど素振りでもしようかとバ−ベルを 取りに見張り台を降りたところで、悩めるカルガモに気づいたのだ。 目を白黒させているカル−を見ると、ゾロは裸の肩で賑やかなキッチンを示した。 「ありゃ、あいつらが勝手にやってることだ。 お前は、お前の主人の為に一番だと思うことをすりゃイイんじゃね−のか?」 『一番だと思うことをすればイイ』 カル−は丸い目を、ますます丸くする。 柄にも無いことを言ったと思ったのか、剣士は片手でボリボリと頭を掻いている。 その緑の頭の向こうで、メリ−号の白い顔が潮の飛沫を受けていた。 「クエエェ〜、クワッ、クワワ…。 (でも、ワタシはトリなので、御主人様の一番がわからないのです…。)」 一度上げた頭を、今度はもっと低く垂れてしまう。 今までも、カル−は御主人様に美味しいイモムシをプレゼントして怒られたり、 羽根づくろいをしてあげようと空色の羽根(髪の毛)にクチバシを突っ込んで怒られたり。 ニンゲンは、カルガモと違ってムズカシイのだ。 いきなり、カル−は首根っこを掴まれた。 絞め殺されるんじゃないかと悲鳴を上げかけたカルガモに、無愛想な顔が無愛想に言った。 「主人の真似して一人…じゃねぇ、一羽でどっぷり悩んでんじゃねぇよ。 ビビはともかくお前には、うってつけの相談相手がいるだろうが?」 トトトトト…、蹄の音を立ててトナカイ船医が中央甲板を走って行く。 小さな姿がドアの向こうに消えると、カル−は船首を振り返った。 『“みんな”に相談すれば、一番を考えてくれるから!』 まん丸い目が、ニッコリ笑っている。 「クエェ〜!!(ありがとうございます!!)」 一声鳴いてお礼を言ったカルガモは、くるりと船首と剣士に背を向けた。 「どいつもこいつも…。カルガモほど話が早けりゃ世話ねぇんだがな」 ぼやいた剣士はバ−ベルをそこに残し、カルガモの後を追った。 どうせすぐに集合がかかるに違いない。 ドアを開けるや、案の定。 「あ、ゾロ!!ちょうど良かったわ。 チョッパ−が通訳してくれてるんだけど…、カル−が『大事な話がある』って」 * * * その日になると、ジジイは言った 『チビナス、新しいコ−スメニュ−を作るぞ』 俺の都合なんぞ聞きもせず、一日厨房に籠(こ)もる 頼んだところで教えちゃくれねェ、ジジイ独特のテクニック どれだけ試作を繰り返しても再現出来なかった味付け そいつを間近で見れる一年で唯一の機会に 俺は息をするのも瞬きをするのも惜しかった そして、仕上げたフルコ−スをジジイと顔をつき合わせて食う 『女の子と食った方が美味ェのにな〜』 『相手でメシの味が変わるなら、お前の味覚は三流だ』 憎まれ口を叩き合いながら、とっときのワインを傾ける 今夜は、クソジジイから受け継いだ全てに俺のアイディアと愛とを込めて プリンセスに最高のバ−スデ−ディナ−を 美味い料理を食ってる時ぐらい、ホンモノの笑顔になれるように − 6 − 「『…だから、トニ−君には言っちゃダメ。わかった?』 って、ビビは言ったんだって」 カル−の話を通訳し終えたチョッパ−は、そのまましゅんと黙り込んだ。 ナミは両手を膝の上で握りしめ、ウソップはしきりに鼻の下をこする。 シンクにもたれたサンジは、火の点いていないタバコのフィルタ−を噛み潰す。 右に左にと首を傾げていたルフィが、結局右に首を傾げて不思議そうに言った。 「な〜んで、誕生日なのに『おめでとう』じゃいけね−んだ? せっかく肉が食えるのによ〜」 「おめ−は、肉のことしか頭にねェのかよッツ!!」 今宵のディナ−の下ごしらえをほぼ終えているサンジが、ルフィを睨んだ。 めずらしく足が出ないのは、むしろ普段以上に機嫌が悪いからだ。 「けどよ、ビビも強がってるだけじゃねぇのか? ホンネでは誰かに祝って欲しくて。でも、それが言えないだけなんじゃねぇのか?」 ウソップが言った。 キッチン兼操舵室兼パ−ティ−準備室には、彼の力作である誕生日の飾りつけが 山と積み上げられている。 「オレも、ビビに『おめでとう』って言いたいぞ!! …オレには、言ってくれなくてもイイから」 涙目になるチョッパ−のピンク色の帽子の上に、ナミは手を置いた。 「そうね、あたしも…。ビビに『おめでとう』が言いたいの。 それから、喜んで欲しい。ただ、それだけなんだけどね…」 「お前はどうなんだよ?大剣豪。 今朝も随分と思わせぶりだったじゃねェか」 サンジの問いに、ドアの前に立っていたゾロが閉じていた目を開く。 「…別に。お前らがやりたきゃ、“お誕生会”でも何でもやりゃあイイんじゃね−のか?」 いつもどおりの無愛想な返答に、ただでさえ不機嫌なサンジがカチンと来る。 こういう部分での二人の波長は見事なまでに正反対で、まるでいがみ合うための 組み合わせだ。 「てめェ〜!!何週間も同じ船に居て、ビビちゃんに対する思いやりってモンが コレッポッチもねェのかよッツ!?」 レディ−が絡むと一段と沸点が低くなるのがラブコックの“ラブコック”たるゆえんだが、 “魔獣”と呼ばれた男の沸点も、今は同じだけ低い。 「お前らが祝えば、あのお人好しは笑って礼を言うに決まってンだろうが。 それで、お前らが阿呆みてぇに喜んで終わりで構わねぇなら、好きにしろ。 …最初から、そう言ってンだよ」 「ンだとぉ〜!?」 額に青筋を浮かべたサンジが大股で踏み出し、ゾロが組んでいた腕を解く。 一気に距離を詰める二人の間に、ナミが割って入った。 「ちょっと、二人とも落ち着きなさいよッツ!!」 ナミの鉄拳が出ないのも、二人の様子がいつもと違うからだろう。 チョッパ−とウソップがカル−の後ろに隠れ、カル−はオロオロと左右に首を振る。 「…とにかく、もうじきお昼だし。 結論は後にするとして、その辺片付けて!!もうじきビビが起きてくる頃よ」 ナミの号令に、時計を見たサンジは慌てて昼食のパスタを茹で始める。 残りは両手に飾りを抱えて、バタバタとキッチンを飛び出した。 ゾロもナミに蹴飛ばされ、両手にカンテラを持って走り回る。 カル−はホッと息を吐き、頼もしい航海士を見つめる。 御主人様と仲良しの彼女に任せておけば、きっと大丈夫に違いない。 * * * テ−ブルに並ぶのは、アンチョビソ−スを絡めた手打ちのフェデリ−ニ。 美味しそうな香りにも関わらず、昼の食卓には暗雲が立ち込めている。 見渡すまでもなく、不穏な雰囲気を漂わせているのは年長組の二人である。 「……何か、あったんですか?」 ビビが小声で尋ねると、ナミは軽く肩を竦めた。 「ああ、いつものことよ。ちょっとゾロとサンジ君がね…」 手にしていたフォ−クとスプ−ンを軽く打ち合わせて見せたのに、争いごとを嫌うビビは 溜息を吐いた。 「Mr.ブシド−も、サンジさんも。とっても良い人なのに、どうして喧嘩ばかりなのかしら…。 今度は何が原因だったの?」 当の“原因”に、“良い人”呼ばわりされた二人の顔が、そっくり同じに引き攣る。 「い、いやぁ〜。別にビビちゃんに心配してもらうホドのことじゃあ…。 なっ、ゾロ!!」 口の立つ筈のサンジが、苦し紛れにゾロに話を振る。 だが、それがいけなかった。 「ああ。もう忘れちまったぐれぇ下らね−ことだ」 カッチ〜ン 「…ンだとォ〜、この記憶力ゼロの脳味噌腐れマリモ!!」 「……上等じゃね−か、グル眉アホコック!!!」 「え?ちょっと、あの…っ」 焦るビビを他所に、両者の間で戦闘開始を告げるゴングが鳴る。 ドッゴ〜ン!! 「い−加減にさらせっ!!」 ゴングと同時に放たれたナミの両鉄拳により、両者共に床に沈んだ。 不機嫌なゾロとサンジも怖いが、ナミはもっと怖い。 怯えたカル−を背にしつつ、ビビは話題を変えようと努めて明るく話しかける。 「そっ、そうだわナミさん!! 午前中はゆっくり寝かせてもらったし。午後は格納庫の掃除でもしましょうか?」 ……いや、それはヤバイだろう!! 声には出せず、一同は思った。 ついさっき、格納庫にはパ−ティ−グッズの山を移動させたところだ。 「ん〜、そうね。それより、今日は測量資料の整理をお願いしたいんだけど?」 男より女の方がウソツキの才能に恵まれている。 そう思う野郎共の前で、女二人の会話は和やかに進んだ。 「ええ、もちろん!」 「助かるわ〜。でもホント、ビビにはいつも雑用ばかり頼んじゃって悪いわね」 午後もビビを女部屋に閉じ込めるために、ナミは上手く話を運んでいるに過ぎない。 だが、何も知らないビビはポニ−テ−ルに結わえた頭を横に振った。 「そんなこと無いですよ。何かしてた方が、気が紛れるし。 ナミさんこそ、まだ病み上がりなんだから無理しないで! 私がこの船に乗っている間だけでも、何でもお手伝いさせてください!!」 『この船に乗っている間だけ』 ビビの何気ない一言に、ある者は食事の手を、またある者は給仕の手を止める。 また、ある者はぶわっと涙の滲む目を見られないように俯いた。 そして、ある者はニッコリ笑う。 「それじゃあ、お言葉に甘えて遠慮なくコキ使ってあげるから。覚悟しなさい?」 「はい!!」 目の下に薄く隈が浮かぶ青白い顔で、ビビは笑顔を返す。 ミニスカ−トからのぞく膝の上で、ナミは両手を握り締めた。 * * * 誕生日だから、めでて−のか めでて−から、誕生日なのか そんなの知んねぇ けど、宴だ!! おれ達は海賊だから 宴をするんだ 宴だから、楽しいのか 楽しいから、宴なのか どっちだって構わねぇ ここは麦わら帽子のドクロをつけた船だから 歌って 踊って 肉食って 今日も 明日も その先も みんな、笑え!! − 7 − 「そっとしておいた方が、イイのかもしれないわ」 ビビと一緒に女部屋へ行った後、キッチン兼操舵室兼会議室に戻ったナミは皆に告げる。 「ビビに“何かしてあげたい”っていうのは、あたし達の一方的なエゴで…。 ビビには却って辛いだけなのかもしれない」 “サプライズ・パ−ティ−”の発案者であるナミの言葉に、クル−の多くは無言で俯く。 ビビが、もうじき船を降りるのでなかったら…。 誰もが思いつつ、誰も口にはしない。 一刻も早く故郷へ帰りつく為に、ビビはこの船に乗っているのだ。 「ダメだ!!宴はやるぞ!!!」 ルフィが言った。 「おめェは、自分が肉を食いたいだけ…」 言いかけたサンジが、言いかけたまま口をつぐむ。 古ぼけた麦わら帽子の下にあるのは、前だけを見る鋭い眸と引き結ばれた口。 彼等の“船長”の顔だ。 「“仲間”の誕生日には宴だ!!それが、船の決まりだ!!!」 「そんな話、聞いてねぇぞ」 最初に“一味”の仲間になったゾロが、ボソリと反論する。 むろん船の財布を預かるナミも、台所を預かるサンジも初耳だ。 赤いシャツの前でゴムの両腕を組んだルフィは、エラソウに胸を張った。 「今、決めた!!!(ど−ん)」 そして、エラソウな顔をクル−に向ける。 「だからゾロ、お前の誕生日にも宴をすんぞ!! ナミもウソップもサンジもチョッパ−も、おれも。全員やる!!! お前らに会えて、おれはスッゲ−嬉しくて、楽しいんだから、祝うんだ!! 今日はビビがめでたくて、おれもめでてぇ。だから、宴だ!!!」 細やかな気遣いとか、遠慮とか。そんな面倒なモノ、ゴムには無縁だ。 したいことと、すべきこと。その二つだけで出来ている。 数瞬の絶句の後、この“船長”を選んだクル−等は、一斉に吹き出した。 船に乗るべき仲間も、行く先も、掟も。 無茶だろうと馬鹿馬鹿しかろうと、決めるのは“麦わらの船長(ルフィ)”。 ここは、そういう海賊船なのだ。 「船長は、ああ仰せだが。大剣豪のご意見は?」 ニヤニヤ笑いながらサンジが尋ねた。むろん、答えは一言だ。 「いいんじゃね−か?」 「ゾロってよ−。結局、ルフィに甘いんじゃね−のかぁ〜?」 文句を言うウソップに、ゾロは肩を竦める。 「“俺達のため”にするんだろ?そこのところを間違えてなきゃ、別に構わねぇ。 最初から、反対はしてねぇしな」 「けど、ビビにこれ以上、気を遣わせたくないわ。 あの子に無理をして『ありがとう』なんて、言わせたくないのよ」 ナミが言った。 青白い顔をして明るく振舞うビビは、見ているだけで痛々しいのだ。 「それじゃあ、今日は何かの記念日ってことにするのはどうかな? “麦わら海賊団”結成記念日とか…。それなら料理も無駄にならねェし」 予定していた今夜のメニュ−を思い浮かべながら、サンジは言った。 オ−ドブルには、シ−フ−ドのマリネとブルケスタ 薔薇の形に整えた薄切りハムと野菜をコンソメゼリ−で固めたアスピック 器にパン生地で蓋をしてオ−ブンで焼いたオニオングラタンス−プ シンプルなマルガリ−タと、他何種類かのピッツア ハ−ブを混ぜた塩で固めて焼き上げるロ−ストポ−ク 限りある食料で、味はもちろん量と見栄えを満たす料理を作るのは至難の業だ。 「そうね…。ビビに『おめでとう』は言えないけど。 何も無いよりは、いっそ馬鹿騒ぎして過ごす方があの子の気も紛れるかも」 ただ、ご馳走を並べて、船を飾って、皆で賑やかに騒いで。 ケ−キの上にロウソクを17本、飾って吹き消すことは出来なくても。 ハッピバ−スデ−は、歌えなくても。 コホンと、咳払いの声に皆が振り向いた。 全員の注目を浴びたウソップが、得意気に言う。 「あ〜、そこでキャプテ〜ン・ウソップに名案がある。 ビビには『おめでとう』を言い放題。しかし、ビビはおれ達に気を遣わずに済むと言う 正に一石二鳥、スグレモノのアイディアだ!!」 「スッゲ−な、ウソップ!!」 「ビビに『おめでとう』って言ってもイイのかッ!?」 「どういうことよ、ウソップ!!」 「勿体つけずに、早く言え」 「下らね−こと言いやがったら承知しねェぞ、ウソっ鼻!!」 彼の発言が、これ程までに皆の関心を集めたことがあっただろうか? 壁際に追い詰められたウソップは、冷や汗をかきつつその“名案”を披露した。 「ここは一つ、“メリ−”の力を借りようぜ!!」 新たな協力者の名に、一同は首を傾げた。 「「「「「メリ−?」」」」」 * * * 父ちゃんが海賊になって海へ出て、母ちゃんが死んじまって しばらくの間、おれの誕生日はなかった シロップ村の住人は、とんでもなくいい人ばっかだったけど 赤の他人の誕生日を祝ってくれるワケじゃねぇ …けど、ウソップ海賊団が結成されると 八千人の部下達が、揃っておれ様を讃えてくれた ピ−マンとにんじんとたまねぎが、色紙で作った輪っかでウチを飾って おれ様と一緒に“キャプテ〜ン・ウソップ応援歌”を歌って 村を出る前の最後の誕生日には、カヤが焦げ臭いケ−キを焼いて そんだけでも、すげ−嬉しかったんだ なあ、まだ“Happy”じゃね−んなら、馬鹿騒ぎして過ごそうぜ この船に乗るおれ達は、そう “Going Merry(陽気にやろうぜ)!!” − 8 − ナミに任された資料の整理も、夕食までには終わるだろう。 机に向かっていたビビは、両手を天井に向けて大きく伸ばす。 後ろで床に座っていたカル−もクチバシを天井に向けたが、それは主人の真似ではない。 トントンと、軽く蓋を叩く音に続いて、ナミの声。 「ビビ〜、ちょっと上ってきて!!」 「は〜い!」 階段を登り、女部屋の蓋を開けたビビは倉庫に勢ぞろいしている皆を見て首を傾げた。 相談事ならキッチン兼操舵室兼会議室を使う筈なのに。 なんだろうと思っていると、目の前にナミの拳が突き出される。 握りしめた手から覗く、7本の細い紐の端。 「じゃあ、全員揃ったところでクジ引きね。7本の内、一本だけ先が結んであるのが当り。 はい、あんたから!!」 掃除当番かしらと思いつつ、ビビは7本の紐の上で手を迷わせる。 そして、真ん中の紐を選んだ。 結果は…、当り。先が丸く結ばれている。 「あら、早速決まったわね〜。じゃあ、今年の“メリ−”はビビってことで!!」 ナミの声に、残りの5人が一斉に頷く。 「よ〜しッ!!今夜は肉だッ!!!」 「ビビちゃんが“メリ−”かぁ〜v楽しみだなァvv」 「エッエッエ。ビビ、頑張れ〜!!」 「他の準備は任せろよ、“メリ−”!!」 「…ま、しっかりな」 「メリ−?」 「クェ〜?」 ビビは益々首を傾げた。カルガモも同じように首を傾げる。 「ほら、コッチへ来て!!」 ナミに促され、ビビは倉庫のドアから甲板に出た。 そこで、ピタリと足を止める。 ずらりと並ぶカンテラに電球。 細いロ−プに結び付けられた小さな旗。 そのどれもが色とりどりで、まるで今からお祭りを始めるようだ。 船縁に立てかけられた大きな板には、空色の下地に真っ白な絵の具を使い ア−ティスティックな書体で、こう書かれていた。 『 Merry Birthday !!!!』 「今日は、ゴ−イング・メリ−号の誕生日なのよ」 ナミの声に、ビビは目を丸くして尋ねる。 「メリ−号…、の?」 「“東の海(イ−スト)”では航海の無事を願って、毎年船の誕生日を祝うんだけど。 “グランドライン”は違うの?」 尋ね返されて、ビビは首を横に振った。 「ええ…。船の誕生日なんて、聞いたことがないわ」 「ふ−ん、そうなんだ。でもまあ、ウチは“東の海(イ−スト)”の船だから。 “郷に入れば郷に従え”ってコトで、付き合ってよね。 じゃあ、あんたたちは準備をお願い。 ビビにはこれから、“メリ−”になってもらわなきゃ♪」 「「「「「了解(ラジャ−)!!」」」」」 「…って、ちょっとナミさん〜!?」 仲間達の声を背に、強引にビビの腕を引っ張ってナミは女部屋に引き返す。 ミニスカ−トのポケットに突っ込んだクジの残り6本には、全部の先に丸い結び目があった。 * * * 夕暮れの風に、色鮮やかな旗がパタパタと翻る。 カンテラと電球が、一番星よりも明るいとりどりの光で甲板を照らす。 「それではぁ〜、我等が海賊船ゴ−イング・メリ−号の誕生を祝って!! Merry Birthday !!!!」 ウソップの音頭が甲板に響くと、続いた声が波の音をも打ち消した。 「「「「「Merry Birthday !!!!」」」」」 ジョッキを掲げた皆に、カル−も声を揃える。 「クエエェ〜!!!」 ビビだけが、困ったようにジョッキを抱えて黙っていた。 “メリ−”になるにあたっての注意として、ナミに言われたからだ。 『あんたは“船”なんだから、何も言わなくていいの。 誰かに何か言われても、返事もしない。船が喋ったら、おかしいでしょ?』 甲板に敷かれたラグの上にうず高く積まれたクッション。 その中に埋もれるように、“ゴ−イング・メリ−号”に粉したビビは座っている。 白いTシャツに白いショ−トパンツ、そしていつもの白いハ−フブ−ツ。 取り合わせだけなら普段着だが、ナミはその襟元や裾に両面テ−プでモコモコと真っ白な 綿をくっつけていた。加えて頭には白いイヤ−マフ。 そんな格好のビビだから、サンジは一目でメロメロだ。 「子羊ちゃんの“メリ−”だ〜vvv」 ヨダレを垂らして飛びつかんばかりのラブコックを、羊番のナミが追い払う。 「ほら、狼は離れて離れて!!」 “メリ−”になったビビを見て、他のクル−も口々に言った。 「カッコイイな〜ッ!!おれも、今度はメリ−になってみてぇ!!!」 「いや〜、アレは男には向かねぇコスプレだろう?例えば、だ。 ゾロやサンジがあの格好をしているところを想像してみると、かな〜りオソロシイぞ」 「えッ!!?ゾロとサンジがオソロシイメリ−になるのかッ!?」 「下らね−こと想像すんなッ!!!」 「ちょっと、止めてよ!!寒イボが出るじゃないッ!!!」 「……〜〜、〜〜〜!!!!」 「ナミさんも随分だけど…。幾ら声を出さなくたって、そこまでウケると傷つくよ〜」 そして、皆が順に“メリ−”に杯を掲げる。 「え〜と、いつもありがとうメリ−。それから、誕生日おめでとう!!」 「今日はめでてぇな〜、メリ−!!肉食うか〜!?肉ッ!!」 「エッエッエッエ…、おめでとうメリ−!!一緒に航海が出来て、オレは嬉しいぞ−!!!」 「あ〜、おめでとうメリ−!!まあ、これからも色々大変だろうが…。 ど〜んとキャプテ〜ン・ウソップに援護は任せとけ−!!」 「……ま、めでてぇな」 サンジは、杯の代りにケ−キを乗せた大皿を掲げた。 「さ〜ぁ、バ−スデ−ケ−キをどうぞ〜v 今宵の主役、雪のように白い麗しのメリ−号をイメ−ジしてみました〜vv」 生クリ−ムで真っ白にデコレ−ションされた、ふわふわのシフォンケ−キ。 色とりどりのベリ−が、ロウソクの火で宝石のように輝いている。 見事なケ−キに溜息を吐いたビビは、ふとロウソクを目で数えて不思議そうな顔をした。 それに気づいて、ウソップが言う。 「型は古いが、17年も経った船とは思えねぇだろ? 元の持ち主だったカヤは病気がちだったからな。おれ達がメリ−を譲られるまで、 ほとんど航海もしてなかったって話だ。 けど、いつまでも新品同然で港に繋がれているよりも、おれ達と海に出られて メリ−も嬉しいに違いねぇ!!なッ!!!」 “メリ−”は何も言わなかったが、大きく頷いた。 彼等と航海できる船は、世界一幸運な船だ。 彼等と航海できる者が、世界一幸運であるように。 * * * 己が夢の場所へ辿り着きたい 誰かを夢の場所へ届けたい 願いと意志が、船に − 9 − 宴の後も旗は風の中で踊り、カンテラと電球の灯りがマストを彩る。 月明かりの中に浮かぶゴ−イング・メリ−号は、おとぎの国からやってきた夢の船のようだ。 中央甲板には、酔っ払って寝転がるルフィとウソップとチョッパ−。 ナミが男部屋から毛布を運び、順番に掛けてやっている。 サンジはキッチンでグラスと皿の山を片付けているし、ゾロは見張り台で酒瓶に残った 中身を片付けていた。 今夜は“メリ−(主役)”だから、と。 酔っ払いの世話も皿洗いも手伝いを断わられたビビは、人の姿の無い前部甲板の 船首の前に立っていた。 その隣には、忠実なカルガモが付き添っている。 「アラバスタに戻って、反乱を鎮めて、雨を取り戻して。国が平和になって…。 昔どおりの誕生日が迎えられるようになっても、今日のことは忘れないわ」 “メリ−”の格好のままで月の光を浴びながら、ビビは呟く。 青白い横顔が、少し俯いた。 人々からの祝福を受け、国王である父が、守護神の二人が、幼友達が そして、テラコッタとイガラムが 笑っていて、そして自分も笑っていて カル−も、カルガモ達も居て そんな日がまた来るなんて、奇跡だ 父に刃を向けているのは、幼友達なのに イガラムは、もう何処にも居ないのに… 固く閉じた瞼の裏に映る 海面を赤く染めた炎 空を黒く覆う煙 「クエエェ…」 カル−の声に、ビビは噛んでいた唇を解く。 摺り寄せられる頭に手を置いて、船の行く先を見つめる。 今だけは、奇跡を願おう この船の上でなら、何でも叶うような気がするから そして、今夜は… 「『おめでとう』は、まだ言わないわ。でも、大好きよ。カル−」 黄色いクチバシに、そっと唇を押し当てる。 4つの誕生日に父から贈られた友達は、その日の朝に卵から孵(かえ)ったヒナなのだ。 「クエエェ〜」 カル−が、嬉しそうに鳴いた。 ふわふわの羽毛で覆われたカルガモと、ふわふわの綿で覆われた少女が互いに抱き合う。 その向こうに、白くて丸い羊の頭。 「……ありがとう、メリ−」 ビビは呟いた。 言えない分の想いも全て託して、目を閉じて。 祈るように。 「ありがとう、……みんな」 返ってくるのは、波の音と風の音。 ただ、それだけ。 だが、ビビはハッと顔を上げた。 同じように首をもたげたカル−が、バタバタと羽ばたく。 自由に空を飛ぶことの出来ない短い翼で、懸命に。 何かを訴えるように。 丸い目をじっと見つめて、ビビは言った。 「あなたにも聞こえたのね…?カル−」 いつもは、他の誰にも聞こえない声 鳥たちにも、ごくたまにしか聞こえない声 半分ニンゲンになってしまったトナカイにも、聞こえない声が 『 Merry Birthday VIVI & Karu !!』 お月様に照らされたメリ−の顔が、楽しそうに笑っていた。 − 終 − ≪TextTop≫ ≪Top≫ *************************************** ビビちゃんがメリ−号乗船中に2月2日があったら…? 昨年の「Taste of a home」と同じ発想を、違う方向から書いてみました。 カップリングなしの麦わら一味姫総愛+α 例によって思いついたことを片っ端から書き込んだ結果、一話読切の最長記録達成。(汗) 分割掲載、文字色等、レイアウトの変更もしてくださって構いません。 (背景画像についてはDLFではありません。) 企画期間中ですので、お持ち帰りのご報告も特に必要ありません。 DLF期間は本日(2006.2.2)より展示期間終了予定日(2006.3.31)までといたします。 * DLF期間は終了いたしました。 * 無駄に長いテキストからのスタ−トとなりましたが、今年も姫と姫に関わる人々について あれこれ書いていく予定です。 姫誕期間中、どうぞよろしくお願いします。 |
2006.2.2 上緒 愛 姫誕企画Princess of Peace20060202 |