コックと素顔と、おいしい時間 「見える?Mr.9」 金メッキの王冠を被った頭に尋ねると、Mr.9は灯台に双眼鏡を向けたまま答えた。 「よくわからんが…。どうやら、まだあの女が持っているようだ」 海岸に見えるのは、旧式のキャラヴェル船。 帆はたたまれているけれど、マストのてっぺんにはドクロを描いた旗が翻っている。 よりにもよって海賊船に“ログポ−ス”を落とすなんて、本当にドジなんだから! 一刻も早く任務を終えて町に戻り、イガラ…Mr.8と話をしなきゃならないのに。 これじゃあ、帰るどころか…。 ヒイイィィ……ン カチカチカチカチ… 不吉な二重奏に顔を上げるや、空から爆弾が降ってきた。 我が社のエ−ジェントが最も怖れる“アンラッキ−ズ”からの死の贈物…。 「「ギャアアアアアア!!」」 ドゴオオオォ…ン!!! 乗っていたイカダごと吹き飛ばされた私とMr.9は、どうにか岸まで泳ぎ着いた。 幸い彼等が放ったのは、“おしおき”レベルだったみたい。 やれやれ、助かったわ……と、思ったところで。 「お手を、ミス・ウェンズデ−」 跪いた男が、私に手を差し延べる。 指の長いキレイな手。 濡れた金色の髪が陽を浴びて、キラキラと輝いていた。 『お手を、ビビ王女』 「まあ、ありがとう」 私は感謝の笑みを浮かべ、差し出された手に自分の手を置いた。 置いてしまってから、思った。 ……条件反射って、コワイ…。 あんなに気をつけていたのに、不意を衝かれたというか魔が差したというか。 一瞬とはいえ、私は“ミス・ウェンズデ−”を演じることを忘れてしまったのだ。 「さあ、どうぞこちらへ〜vv ご一緒に、くつろぎのティ−タイムでもvvv」 細身の割に意外な力で私を海から引き上げた男は、慣れた様子で肩に手を回してくる。 どうやら何も気づいてないみたい。 ホッとして、私は馴れ馴れしい手を放っておくことにする。 もちろん妙なトコロに手を伸ばしたら、タダじゃすまないけどッ!! それが伝わったのかどうか、彼は肩以外には私に触れようとしなかった。 * * * 拝み倒して、泣き落として。 私とMr.9は、“東の海(イ−ストブル−)”からやってきたばかりの海賊一味をウイスキ− ピ−クへ向かわせることに成功した。 双子岬の大クジラを町の食料にする任務は、幸い…じゃなくて残念なことに大失敗。 でも、こいつらをウイスキ−ピ−クで生け捕りにすれば、多少の賞金は手に入る。 ただ大きいというだけで何の罪も無いクジラより、海賊共を狩る方がずっとマシ。 “ドクロ”を掲げてこの海に来た以上、賞金稼ぎの百人や二百人、覚悟していて当然よ。 同情なんか、するもんですか。 ようやく正体を突き止めたアイツ…、“社長(ボス)”と同じ海賊なんかに。 ……だけど。 彼等を間近で見ていて、つくづく思う。 こんな海賊、見たことない。 船長は、麦わら帽子を被った男の子。 年齢をどうこう言えた義理じゃないけれど、まだ17歳で船長だなんて信じられない。 航海士だというオレンジ色の髪の若い女性に、始終怒鳴られたり殴られたり。 狙撃手はといえば、口ばかり達者な臆病者。 アイラインのせいでキツク見える視線をちらりと向けると、コソコソ物陰に隠れてしまう。 こんなんで敵船が現われて、ちゃんと大砲を撃てるのかしら? 一番海賊らしく見えるのが剣士だという男だけど、これがまた雪が降ろうが嵐が来ようが 気づきもせずに甲板で昼寝をしている寝太郎だ。 これで全部……、じゃないわね。一人足りない。 あの金髪男がいたんだわ。 指折り数えていた私は、小指をピンと立てたまま最後の一人を思い浮かべた。 海の上なのに黒いス−ツにネクタイまで締めて、ヘラヘラした態度で。 航海士にも私にも、ハ−トの山と歯の浮くようなお世辞を振り撒いて。 きっと、ああいうのを“女ったらし”とか言うんだわ。 星空を眺めながら、眉を顰める。 クジラを守っていたお爺さんは、私達をゴロツキと呼んだけど。 そう呼ばれたって、仕方が無いけれど…。 それなら、あいつらだって無法者のゴロツキじゃない。 少しばかり変わっていようが、海賊らしくなかろうが、…“王下七武海”だろうが。 海賊なんて、奪うことと殺すことしか頭にない悪党よ。 羽織った毛布をキツク握りしめた私は、咽喉の渇きを覚えて立ち上がった。 メインマストの梯子を降り、真っ暗なキッチンへ向かう。 乗せてもらってる以上、文句を言える立場じゃないけれど。まさか、海賊船で不寝番を させられるとは思わなかったわ。…と、言うよりも。 『私に見張りを任せていいのかしら?』 念を押すと、航海士は肩を竦めた。 『死にたくなけりゃ、あんたも真面目に見張ってるでしょ? それに、“この海”に関しては、あんたは一応先輩だし。 “王様”よりはあんたの方がまだマシみたいだしね』 そうね、Mr.9には悪いけど私の方がマシなのは確か。 無事にウイスキ−ピ−クに着くまでは航海に協力するわ。 着いてから後のことは知らないけれどね…。思いながら、キッチンのドアを開けた。 ……瞬間、 「来やがったな、クソネズミ!!!」 鋭い声と同時に、何かがヒュッと空を切った。 間一髪で避ける。ここは海賊の船だもの、警戒は怠っちゃいなかったわ。 田舎海賊が、バロックワ−クスのナンバ−エ−ジェントをナメんじゃないわよ!!! 「……チッ!!」 舌打ちをしながら、私は右手の小指をタンクトップの胸の頂に引っ掛ける。 変装だからって、こんなトコロに武器を仕込むんじゃなかったわ…と、毎度のごとく 後悔しながら。 けれど、スラッシャ−を引っ張り出す前に、慌てた声が言った。 「…って、クソゴムじゃねェの!?げ…、ミス・ウェンズデ−!!!」 雲が途切れ、窓から入る月明かりに金色の髪がキラキラと輝いていた。 * * * 「ごめんごめん…。最近、ウチの船には夜毎に麦わら帽子を被ったネズミが出るもんで。 てっきり、クソゴムだとばかり」 明かりをつけたキッチンで、この船の料理人(コック)だという男は金髪を掻きながら 申し訳なさそうに謝った。 私はツンと頭をそびやかし、いかにも不機嫌そうに答える。 「あら、そう。貴方は大きなネズミ捕りだったと言うワケね」 本気で怒ってるワケじゃない。むしろ、謝るべきなのは私の方だ。 夜中に足音を殺してキッチンに忍び込むなんて、海に放り込まれたって仕方ないのに。 だけど、私は詫びたりなんかしてはいけないの。 “ミス・ウェンズデ−”は、そういうキャラクタ−じゃないのだから。 「ところで、ミス・ウェンズデ−vvキッチンには何の御用で?」 愛想の無い私にめげることなく、コ−ドネ−ムの後にはハ−トマ−クを欠かさない。 そういう態度にムッときて、私は自分の声と態度から本気で愛想を失くすことが出来た。 「咽喉が渇いたから、お水を一杯いただきたくて」 ツカツカとシンクに近づく私に、彼が尋ねる。 「あれ?ポットのコ−ヒ−じゃ足りなかった?」 「……ええ」 こんな変装をしていてさえ、私は嘘を吐くのが苦手だ。 不寝番に向かう私に、タバコの煙までハ−トにした彼が手渡した保温ポットの中身は、 一滴も飲まずに海へ捨てていた。 けれど疑う様子もなく、金髪男は愛想の大盤振る舞いを続ける。 「じゃあ、俺と真夜中のティ−タイムなんてどうでしょう? ココアは好きかな、ミス・ウェンズデ−vv」 ココア、なんて…。 国を出てから一度も口にしていない。 銀のお盆の上に乗った、白いカップが目に浮かぶ。 あたたかな濃い褐色と甘い香り。 砂砂団の副リ−ダ−になった日 ペルの背に乗って初めて空を飛んだ日 毎年の誕生日や、お祭りの前の日の夜 興奮して眠れない私に、テラコッタさんが笑顔と一緒に運んでくれた特別な飲み物。 あの味を思い出した私は、小さく唾を飲み込んでから、答えた。 「夜中に甘い物なんて、美容の敵ね」 ここは海賊船で、この男は海賊なのだ。信用なんか出来るものですか。 なのに、“罪無き民の敵”兼“女の敵”であるこの男は、ヘラリと笑って言った。 「今のままでもスタイル抜群なんだけど…。 ミス・ウェンズデ−は、あと少しだけグラマ−だとますます俺好みだな〜vv」 えぇ、そりゃあ航海士さんに比べれば、お粗末でしょうとも!! まったく、男って生き物は…。そういうトコロしか見ないから、隙が出来るのよ!! ソレを狙ってのコスチュ−ムを着ている癖に、私は腹が立った。 「別に、貴方好みになる必要はまるで感じないわ」 食器棚に並んだグラスの、わざわざ二列目に置かれたものを選んで私は蛇口を捻った。 普段使っている水になら、何かが入っている心配はないだろう。 それでも用心を重ねて、最初の一口を暫く口に含んで確かめる。 大丈夫。臭いも味も感じない。ただの蒸留水だ。 コップ半分の半分だけを飲んで、口をつけた部分をスポンジで擦り、もう一度すすいで 水切り籠に伏せる。 バロックワ−クスに入社して、間もない頃。 “敵”の正体を探るのに夢中だった私は、ミリオンズの男達から勧められたお酒に痺れ薬 を混ぜられたことがあった。 その時、危ういところを助けてくれたのがミス・マンデ−だ。Mr.9とイガラ…、Mr.8も 駆けつけてくれて。そうでなかったらと思うと、ゾッとする。 以来、私は他人が勧めてくるものには細心の注意を払っていた。 「ごちそうさま」 そう言って、私は見張りに戻ろうとした。 ドアノブに手を伸ばしたところで、それまで黙っていたコックが独り言のように呟く。 「ココアってさァ…。 ストレスに効くんだぜ?特にレディ−にはね」 「……何が言いたいの?」 ドアの前で足を止め、眉を吊り上げる。 コックは相変わらずヘラヘラした笑みを浮かべているばかりだ。 「この船に乗ってる間くらい、もっとリラックスしてくれればいいのになァ〜ってこと。 化粧なんかしなくたって、その歳ならスッピンでも十分可愛いのに」 ぎくり、とした。私が歳を誤魔化していることを、見透かしている口ぶりだ。 この二年間、誰にも疑われなかったのに…。 だけど、きっと航海士さんぐらいの歳だと思っているに違いないわ。 本当は…、まだ16だなんて気づくハズがない。 だから私は動揺を抑え、ツンと頭をそびやかす。 「余計なお世話だわ。…それに」 キッチンのドアを開けた私は、コックを振り向いた。 何があろうと生き延びて、果たさなければならない目的が私にはある。 「“この海”では、リラックスしている暇なんかないわ。 死にたくなければ、さっさと仲間を叩き起こしてきなさいよ」 真っ黒な雲が、凄い速さで空を覆い尽くそうとしている。 遠くで走る稲妻も、あっという間に追いつくだろう。 高くなりはじめた波を感じたのか、呼ぶまでもなく航海士が飛び出して来た。 「すぐに錨を上げて、右舷からの風を受けて!! 追いつかれる前に、走るわよッ!!!」 デタラメに巡る風と波と季節と天候が、“偉大なる航路(グランドライン)”の証。 一本目の航海を終えることなく、海の藻屑となる田舎海賊がどれだけいるか…。 なのに、この男ときたら。 ポケットから取り出したタバコを咥えてニヤリと笑った。 「“嵐(ハリケ−ン)”と来ましたか…。 恋の始まりにはうってつけだぜ、ベイベ−」 ……馬鹿じゃないの、コイツ。 思った私を裏付けるように。 「ちょっと、サンジ君!!早くあの阿呆共を蹴り起こしてきてッ!!! あんたは舵を!!あたしの指示に従って!!!」 航海士の一喝で、顔がだらしなく崩れた。 「はああぁ〜い、ナミすわあぁ〜んvvお任せを〜!!! ミス・ウェンズデ−、恋の舵取りヨロシク〜vvv」 ハ−トを撒き散らしながら階段を降りるや、マストの下から男部屋へ飛び込む。 「クラ、クソ野郎共〜!!!ナミさんがお呼びだ、起きやがれ〜ッ!!!」 羊の頭を模(かたど)った操舵に手を置いて、私は溜息を吐いた。 ……やっぱり。 あんな海賊、見たことないわ。 * * * それから暫くして。 その暫くの間に、色々なことが起こって。 私は、この奇妙な海賊船に再び乗ることになった。 今度は“ネフェルタリ・ビビ”として。 引っつめていた髪を緩くポニ−テ−ルに結んで 胸元が見えないように、航海士のナミさんから借りたシャツを着て 大嫌いだったお化粧も落として 鏡の中に映るのは、16歳の私。 この二年間、一日にほんの数時間しか戻れなかった素顔の…。 「ビビ!!ちょっと測量の記録を取るの手伝ってくれる?」 「おう、ビビ!!一緒に釣りしね−かッ? おれ様の見立てでは今日あたり伝説の海王類がかかるハズだ!!」 「ビビ、悪ィが昼寝にカル−を借りるぞ」 「にしししっ、海賊は楽しいだろ〜?ビビ!!」 皆は、すぐに私のことを“ビビ”と呼ぶようになった。 お客でもなく厄介者でもなく、クル−の一員のように扱う。 ナミさんは、ソファ−ベッドは一日交代で使うと決まりを作った。 ウソップさんは私専用の釣竿を作ってくれて、Mr.ブシド−はカル−を枕に昼寝をする のが気に入ったみたい。 ルフィさんは相変わらずだ。羊頭の船首に座り、毎日の食事とオヤツと冒険を楽しみに している。 それから、サンジさんは…。 「ビビちゅわぁあ〜ん、いらっしゃ〜いvv何か飲み物でも?」 恐る恐るキッチンのドアを開けると、金色の頭が振り返った。 黒いス−ツのコックさんだけは、私を“ビビちゃん”と呼ぶ。 砂砂団のおかめちゃん達、トト小父さんとアスワ小母さん、機嫌が良い時のパパ。 懐かしくて、くすぐったくて。何だか笑いたくなってしまうのだけど、今はぐっと我慢する。 「ええ、お願いします。……あの、」 できれば…、と言いかけて口ごもった。 私は“リクエスト”をすることに慣れていなかったのだ。 何かが欲しいとか嫌いとか。王家の者が軽々しく口にすると皆が困るのだと知ってから、 出されるものは何でも笑顔で受け取って来たから…。 後の言葉が続かない私に、青い右の目を細めたコックさんが言う。 「ココアでいい?」 金色の髪が昼下がりの陽射しに、キラキラと輝いていた。 「ビビちゃん、ココア好きでしょ」 その笑顔に、ずっと胸の中でわだかまっていたものが溶かされるような気がした。 「……ごめんなさい!!」 謝るきっかけが欲しかった私は、大きく頭を下げた。 彼は立派なコックさんで、自分の仕事に誇りを持っていて。 人の口に入る物に何かするなんて、絶対にない。 そんなこと、たった一日彼を見ていればわかるのに。 “ミス・ウェンズデ−”だった私は見ようともしなかったのだ。 「私、あの時……!!」 あんな言い方をして、あんな態度を取って、疑って。 貴方を侮辱して、傷つけて、嫌な思いをさせた。 けれど、サンジさんは私の言葉を遮った。 「ビビちゃんが謝ることなんか、全然ねェって。俺も配慮が足りなかったんだし。 だって、ホラ。おにぎりとか大皿に盛った料理なら食ってくれてたでしょ? ああいう風に、お茶の時間に連中と一緒に飲んで貰えば良かったんだよね〜」 女性には何時でも愛想良く、細やかな心遣いとサ−ビスを。 “私”がどんな姿をしていようと関係なく。 こんな不思議な人、見たことない。 「それに、今日は一人でお茶を飲みに来てくれたし。 俺って信用されちゃってるなァ〜って、思ってもイイかなvvv」 ハ−トを添えてニッと笑う彼に、私はこくりとうなづいた。 サンジさんは白いナプキンを腕に掛け、しゃんと背筋を伸ばす。 「お席へどうぞ、マドモアゼル。 ただ今、ゴ−イング・メリ−号の名コックがとびっきりのココアをお作りいたしますvv」 彼の腕が、いつの間にか決められた私の指定席を示していた。 * * * お菓子でも焼いていたのか、キッチンに残るバニラの香りにココアの香りが混じっていく。 こんなに静かで、穏やかな午後は久しぶり…。 やがて指の長いキレイな手が、音もなく白いカップを目の前に置いた。 あたたかな濃い褐色の飲み物の上には、フワフワと白いものが浮いている。 生クリ−ム?…じゃ、ないみたいだけれど…。首を傾げる私に、サンジさんが言った。 「それはね、“マシュマロ”っていうの。 卵の白身が余ったついでに作っといたんだけど、ココアに入れると美味ェんだ」 雲の切れ端のようなフワフワを、添えられたスプ−ンで混ぜてみる。 白い泡のように溶けたそれに口をつけて、一口飲んで。思わず言った。 「美味しい…!!」 今まで見た中で一番嬉しそうなサンジさんの顔の前で、私は夢中でココアを飲んだ。 テラコッタさんのココアと同じ筈なのに、ゼンゼン違う。 このフワフワのせいかしら? クリ−ムよりしつこくなくて、やわらかくて、甘いバニラの香りがして…。 ポタッ ふいに、ココアの上に何かが落ちて溶け残ったマシュマロが揺れた。 ………え? ポタッ ポタタッ パタタタッ カップの中に、幾つもの波紋が拡がる。 せっかくの甘いココアがしょっぱくなりそうなくらい。 慌てて顔を擦りながらサンジさんを伺った。 けれど彼はいつの間にか換気扇の下に立っていて、タバコを咥えて煙を吐いている。 見えるのは金色の頭とストライプの青いワイシャツ。 テ−ブルの手の届くところに置かれた、真っ白なナプキン。 懐かしい特別な飲み物を口にして、思い出したのは 近づいている国のことではなくて 何故だか、遠くなる町のことだった Mr.9 ミス・マンデ− Mr.8…、だったイガラム ごめんなさい ありがとう さようなら ミス・ウェンズデ−だった、私… サンジさんがタバコを吸い終わる頃には、私の涙も止まっていた。 使わせてもらったナプキンは、ずいぶん湿っぽくなってしまったけれど。 「ビビちゃん、もう一杯いかが?」 灰皿にタバコを押し付けて、サンジさんはニッコリと笑う。 私の真っ赤になった目には気づかないフリをして。 「こんなに美味しいココア、たくさん飲んだら太っちゃいそう」 ヒリヒリする目元に感謝の笑みを浮かべて、私は言った。 すると彼はテ−ブルの上に身を乗り出し、空いたカップを引き寄せながら耳元で囁く。 「今のままでもスタイル抜群なんだけど…。 ビビちゃんは、あと少しだけグラマ−だとますます俺好みだな〜vv」 ……………………………… …………えぇ、っと…。(////) ニコニコ笑うコックさんは、返事に困っている私を気にも止めずにテキパキと ココアのオカワリを準備する。 前にも、同じことを言われたけれど…。 これって、もっと太れということなのかしら? いえ、そうじゃなくって…。 色々あって、食が進まない私を気にしてくれている…の、よね…? 赤くなった目と頬を隠そうと俯く私は、すべるように目の前に置かれたココアに浮かぶ フワフワのマシュマロを見つめる。 甘くあたたかな中に溶けていくそれは、今度は真っ白ではなくて。 淡いピンクのハ−トの形をしていた。 「よかったら、クッキ−も食べる?ココアに合うように作った自信作だからvv」 「い、ただきます…。(////)」 お化粧を落とした素顔の私は、彼好みになる必要をまるで感じない …と、いうワケではないようだ。 − 終 − ≪TextTop≫ ≪Top≫ *************************************** 100,000Hit Thanks! 御来訪の皆様のおかげを持ちまして、拙宅も6桁の大台に入りました。 10万打御礼として、このテキストは“お持ち帰りフリ−”です。 お気に召されましたら、お連れください。 事後にでも、BBSまたはメールでお知らせいただけましたら、喜んでお礼に伺います。 なお、フリ−期間は2006.2.18〜未定です。 (期限を設ける場合は、改めてBBS&テキストにてお知らせします。なお、背景画像は DLFではありません) ちなみに、このテキストのタイトルは某フランス映画のパクリです。 邦訳タイトルは「シェフと〜」ですがサンジ君は今のところ自称“コック”ですから。 本当は、もっと軽いサンビビ馴れ初め話の予定だったのですが、書いている内に…。(汗) サンビビは薄味になりましたが、ミス・ウェンズデ−が書けたのは楽しかったです。 これからもマイペースに励みますので、どうぞよろしくお願いいたします。 |
2006.2.18 上緒 愛 姫誕企画Princess of Peace20060202 |