温泉へ行こう! アラバスタは砂の国である。 砂漠では、時に水が黄金以上の価値を持つ。 家に風呂があるのは大金持ち。 公衆浴場は大都市にしかなく、それすらも営業は雨季に限られている。 人々はたらい一杯の水で顔を洗って歯を磨き、全身を拭いた後で畑にまく。 つまり、一般庶民には“風呂にはいる”という習慣がないのである。 そんな国に、ウッカリ開かれた“温泉島”へのトンネル。 西砂漠の交差点“ユバ・オアシス”の人々は、どうしたものかと額を寄せ合った。 オアシスの住人と訪れる旅人にだけ解放すれば良いという意見もあった。 だが若者達は、トンネルの向こうで湧き出る湯が砂の国の黄金になると主張したのだ。 連日深夜に及ぶ議論の末、彼等を中心にプロジェクトチ−ムが結成された。 そして今、一人の若者が王都アルバ−ナへと向かう。 “ユバ・オアシス”の…、いやアラバスタ王国の復興を担う彼等の挑戦が始まったのだ。 (♪ジャジャ〜ン ジャンジャカ ジャンジャカ ジャン♪←オ−プニングテ−マ) - 1 - 絨毯が敷かれた大理石の床に、砂漠の民の正装をした青年が膝をつく。 エリマキランナ−ズ便で今日の謁見を願い出てはいたものの、表門から謁見の間まで直通 コ−スで通されたことに驚きつつ、深く頭を垂れる。 「“ユバ・オアシス開拓団”一同を代表し、本日の謁見をお許しいただき、感謝いたします。 ネフェルタリ・コブラ国王陛下並びにネフェルタリ・ビビ王女殿下におかれては、ご機嫌麗しく お喜びを申し上げますとともに、ここに謹んでお願いを申し奉りたく…」 舌を噛みそうな文句をスラスラとこなせるのは、“反乱軍”の指導者として何万もの群集に 演説をぶち上げていた日々の賜物だろう。 だが、立て板に水のような彼の口上は、うら若い女性の声に妨げられた。 「そんな堅苦しい前置きは要らないわ。 人に頭を下げるのが大嫌いなリ−ダ−からの“お願い”なんて、よっぽどのことだもの」 真剣そのものの王女だが、口調は砕けきっている。 “ユバ・オアシス開拓団代表代理”は、布を巻いた頭を一層低くくして言った。 「……ここは、公式の場ですので。何卒…」 濁した語尾の後に続くのは心の声である。 ……王女のクセしていい加減、ガキの頃とおんなじに呼ぶんじゃね−よッツ!!! 「けど、そうは言っても…。 貴方や私が気を遣わなければいけないような顔は、此処には居ないんだもの」 確かに。 入室と同時にざっと見回したが、この場にいるのは玉座の国王と、その横の肘掛け椅子に 座る世継ぎ王女。 後は国王の傍に護衛隊長のイガラムが、王女の傍に副隊長のチャカとペルが控えるだけ。 本来であれば広間の左右にずらりと並んでいる筈の文官の姿がない。 槍を掲げた衛兵でさえ、ドアの向こう側だ。 それも見方を変えれば、最大級の警戒といえる。 “ジャッカルのチャカ”と“ハヤブサのペル”が揃えば、百人の兵士も敵ではない。 王と王女の前に跪くのは、半年前まで“反乱軍の頭目”であった男なのだから。 だが、謁見の間に漂う空気は緊張感とはほど遠い。 玉座の王は娘の無作法を諌めるどころか豪快に笑った。 「まったくだな、コ−ザ。 謁見の間では、いつもわしに言いたい放題だったお前がそうも殊勝な態度では、調子が 狂ってかなわん」 あの娘にして、この父あり。 王女の絶大な人気は、亡き王妃に生き写しの美貌や“救国の姫”としての名声もさることながら、 国王譲りの気さくな人柄に寄るところが大きい。 「それで、リ−ダ−の“お願い”って何?」 ビロ−ド張りの椅子から立ち上がったビビ王女は、トコトコと階段を降りてくる。 緋(あか)い絨毯を踏むサンダルの音。 跪く彼と目線を同じくしようとしてか、その場にぴょこんと屈み込む。 一国の王位継承者が下々の者に取るべき態度では、絶対にない。 「……おまえ、いつもこんな謁見してるのか…?」 僅かに顔を上げたコ−ザは、サンダルから覗くつま先に向かって小声で囁いた。 彼女以外には聞こえぬよう気を配ったにも関わらず、答えは大理石の空間に良く響いた。 「そんなワケないでしょ〜?リ−ダ−だからに決まってるじゃない!!」 ……なら、良いが…って、良くね−よッ!!! 口に出してしまいそうになるのを、渋面で飲み込んだ。 “アラバスタの守護神”達が、逞しい肩を震わせているのが気配でわかる。 吹き出すのを懸命にこらえているのだろう。 そして彼自身も、何時の間にか己の肩の力が抜けていることに気づく。 国王が一つ、咳払いをした。 それが合図であるかのように王女は立ち上がり、衣擦れの音を立てて脇に下がる。 「では“ユバ”のコ−ザよ、面を上げなさい。そして、そなた等の願いをここに」 本来の中継ぎ役に代わって進み出た護衛隊長のイガラムに、懐から取り出した嘆願書を渡す。 ユバで待つ仲間達と、幾日もかかって書き上げたものだ。 イガラムから国王の手に渡るそれを、コ−ザは固唾を呑んで見つめる。 士気を上げるための檄文や演説の草稿を書くより難しいと、寝不足の目を擦っていたかつての 参謀や副官達の顔が浮かんだ。 ふと、ビビも真剣な顔をして嘆願書の行方を見つめているのに気づく。 右手で、左腕の手首の少し上をぎゅっと握り締めて。 封蝋が切られ、国王が折りたたまれたそれを開こうとした、瞬間。 バタ−ン!!! 絹のカ−テンの奥にある小さな扉が勢い良く開かれた。 同時に威勢の良い声が謁見の間に響き渡る。 「さぁさぁ、菓子も焼けたし湯も沸いたし、みんな食堂に来とくれ!! お茶の時間だよ!!!」 宮殿を取り仕切る給仕長・テラコッタの声に、国王は嘆願書を手にすっくと立ち上がった。 「では、話の続きは茶でも飲みながらゆっくりとな」 王女もニッコリと笑って言った。 「今日のお菓子は、“東の海(イ−ストブル−)”の一流コックさんのレシピなの。 リ−ダ−もきっと気に入るわ」 - 2 - アラバスタで一般的な飲み物は、挽いた豆を濾(こ)さずに煮出すコ−ヒ−なのだが、陶磁器の 器を満たすのは香り高い紅茶だ。 “東(イ−スト)”風だという小ぶりの焼き菓子に合わせたものだろう。 ビビに熱心に勧められ、コ−ザはその一つを口に入れる。 なるほど、サックリと砕ける歯応えと程よい甘さが舌に心地よい。 アラバスタ本来の菓子は苦くて濃いコ−ヒ−に合わせてクドイほど甘いものなのだ。 「ね?リ−ダ−は昔から甘いお菓子が嫌いだったけど、……さんのレシピなら、大丈夫だと 思ったの!!」 ニコニコと笑う彼女に、コ−ザは曖昧に言葉を濁す。 世継ぎ王女がアラバスタ以外の国の食べ物を好んでいて良いものか。 どこでどうして“東の海(イ−ストブル−)”のコックと知り合ったのか。 王女がこの国に連れてきたという“海軍”の船のコックかもしれない。 それとも…。 どれも、今の彼が口にすべきことではなかった。 そもそも謁見を願い出た自分が、のん気に茶を飲んでいること自体おかしいのだ。 だが、国王は紅茶と菓子を楽しみながらも、“ユバ・オアシス開拓団”の嘆願書…、もとい 『プロジェクト・ユパから温泉へ行こう!』企画案の吟味を続けていた。 「なるほど、ユバを玄関とした民のための温泉保養地か」 紅茶のカップを受け皿に戻しつつ、企画書を読み終えた国王が言う。 「素敵だわ!!アラバスタの国民皆が何時でも楽しめる温泉なんて、今までなかったもの。 王宮の大浴場だって雨季にしか使えないのだし。 お父様、是非、王家でも協力をすべきよ」 嘆願書に目を通した王女も、熱心に賛成した。 確かな手ごたえに、コ−ザは心でガッツポ−ズをとる。 「しかし、“アラバスタ王国王室御用達”を認定する件については…。 最低10年間の献上の継続と、その間変わらぬ品質が確認されるというのが正規の条件。 だからこそ、これまでに“御用達”と認められた品は両手の指の数ほどしかないのですぞ」 そろって理想主義者である父娘に苦言を呈するのは自分の役目とばかりに、護衛隊長が指摘 する。 反論しようとテ−ブルに両手をついたコ−ザは、しかし立ち上がることが出来なかった。 サンダルを履いた小さな足で、思いっきり向こう脛を蹴り飛ばされたのだ。 痛ぇじゃね−かッ!!…と、涙を滲ませつつ睨んだ王女は涼しい顔でこう述べた。 「温泉は商品じゃないのだから、献上なんて無理よ。 それなら、“王家御用達”の名を与えるに相応しい温泉かどうか、王家の者が直にこの目で 確認してはどうかしら?」 「まあ、是非そうなさいませ。雨季も終わって宮殿でも大浴場は暫く使えないことですし。 ビビ様もこのところ働きづめでいらっしゃるから、一日二日、のんびりとお湯に浸かるのが 一番だと思っていたところですよ」 ポットを手に紅茶のお代りを注いでいたテラコッタが、王女ににこやかな顔を向ける。 そして護衛隊長の方を向くや、眉を吊り上げた。 「アンタ!!あたしもビビ様のお世話に一緒に行かせてもらうからねッ」 「これ、お前。何を勝手に…」 慌てる護衛隊長を、その妻でもある給仕長は両手を腰に当てて睨みつける。 「何言ってるんだい。アンタも当然、姫様の護衛に来るんだよ!! 置手紙一つで二年もほったらかしといて、ここで女房孝行しなきゃ即刻離縁だからねッ!!」 二の句も継げずに黙り込んだイガラムが、肩身が狭そうに紅茶をすする。 隊長の隣で笑いを噛み殺しつつ、お茶の相伴に預かっていた二人の守護神にも、王女は笑み を向けた。 「チャカとペルも一緒に行きましょう。二人とも、ずっとお休みを取っていないでしょう?」 「いえ、我々は…。イガラムさんがビビ様の護衛に付くのであれば」 「勿体無いお言葉ですが、国王様の護衛に残らねば…」 そんな彼等に寛容を絵に描いたようなコブラがねぎらいの言葉をかける。 「お前達が居なければ城の警備もままならんというのでは、護衛隊の意味がなかろう。 行って来るがよい」 直々のありがたいお言葉に、頭を下げる二人。 かくして王女御一行の温泉島視察が決定した。 プロジェクトの第一段階である“王家御用達”への道が開かれたことに、コ−ザはホッと胸を なで下ろす。 だが、彼等の前には解決すべき問題が、まだまだ山のように待ち構えているのであった。 − 3 − さて、数週間後。 王女一行の温泉視察日がやってきた。 既に近隣のオアシスや交易にやって来る商人を相手に、試験営業を行っていた“うっかり湯”も 今日は貸し切りだ。 王女自らの視察とあって、町は異様なまでに盛り上がっている。 到着予定時刻の何時間も前からオアシスの入口で王女を待つ住民は、老いも若きも皆が皆、 “UKKARI湯”の染め抜きが入ったお揃いの半被を着ているのだ。 果ては何時の間に作ったのか、“歓迎!!王女御一行”とデカデカと書いた垂れ幕まで…。 「幾らなんでもやりすぎだろ、親父」 王女の視察は、一応は休暇を兼ねた“おしのび”という名目である。 溜息を吐く息子に、開拓団の代表であるトトが唾を飛ばす。 「何を言う!!せっかくお出でくださるビビちゃんに、失礼の無いようにするのがわしらの務め ではないか!!」 痩せた身体は多少マシになったが、王家が絡むとムキになるのは死ぬまで変わりそうも無い。 その癖、公式の場以外では王女を“ちゃん”付けで呼ぶのも変えようとしないのだ。 「イガラム隊長やお付きの方と御一緒に、カルガモ部隊でいらっしゃるのかしら?」 「ビビ様のことだから、お一人で先に“ハヤブサのペル”に乗って現われて、我々をビックリさせ ようとなさるかもしれないぞ」 到着時刻が近づくにつれ、ユバの人々は首を伸ばし、踵を上げて砂の彼方を見つめる。 そこへ王女を迎えての町の警戒に当っていたケビが、目立たぬようにコ−ザに近づいた。 「………。」 かつての副官に目線と顎の動きだけで呼ばれ、二人は静かにその場を離れる。 ケビの誘導で向かうのは、ユバの四方向にある入口の内のレインベ−ス方面だ。 皆が王女を待つアルバ−ナ方面の入口とは、90度違う方向を向いている。 「何があった?」 今はプロジェクトチ−ムの副官でもある彼が、町外れの砂漠を指し示す。 遠く、レインベ−スの方角に立ち昇る砂煙。 ユバを繰り返し襲った砂嵐…。ぞくりと背筋に走った悪寒を、コ−ザは払い退ける。 砂漠の民の目には、それが砂嵐でないことは一瞬で見分けがつくのだ。 「一体何なんだ!? サンドラ大トカゲが突っ込んで来るとか言うんじゃねぇだろうな!!」 「見りゃわかる」 コ−ザの問いに、待機していたナット−が双眼鏡を差し出した。 彼もまた、砂砂団から反乱軍。そして現在のプロジェクトチ−ムの一角を担う若者だ。 双眼鏡を覗いたコ−ザは、そこに映る巨大生物に我が目を疑った。 「あれは…まさか、噂に聞く幻の…。 って、げげッ!!なんでビビが背中に乗ってんだ−ッ!!?」 * * * ガカカカカカカカ……、ザザァ−ッ!! 王女一行の到着は、アルバ−ナではなくレインベ−ス方向から。 それも幻のカニと呼ばれる“ヒッコシクラブ”に乗ってであった。 「すげ−、これが“ヒッコシクラブ”か…」 「この砂漠で60年生きてきたが、初めて見たぞ」 とんだサプライズに文字通り仰天する人々の前に、カニの背中からビビが下りて来る。 すっぽり被った濃紺のロ−ブのフ−ドだけを降ろし、空色の髪とロイヤルスマイルを披露する 王女に歓声が上った。 「っつたく、どこが“おしのび”なんだか…。派手な登場しやがっ…痛ッ!!」 呟くコ−ザの脇腹に肘鉄を食らわせつつ、トトは恭しく頭を下げる。 「ようこそおいでくださいました。ユバ・オアシス一同、歓迎いたします」 「こんにちわ、トト小父さん。今日は一応“おしのび”なので、どうかお気遣い無く。 あ、このカニはマツゲの友達で、名前は“ハサミ”って言うの。……さんの命名だけど」 付け加えられた一言に、護衛隊長と給仕長、守護神達、そして何故かトトが笑った。 それを怪訝に思う間もなく、カニの背中でカルガモ部隊のカル−隊長がクチバシを空に向ける。 「クエエエェ−ッ!!」 それに応えて6羽の隊員と特別隊員のラクダが吠えた。 「クワ〜」「クエックエッ」「クェッ(キラ〜ン)」「グエッ〜プ(グビグビッ)」 「グワ〜ッ(スパ〜ッ)」「………。(ボ−ッ)」「ヴォヴォ−!!」 ちなみに左から、ストンプ・イワンX・カウボ−イ・バ−ボンJr.・ケンタウロス・ヒコイチ・マツゲ の順である。 最後にヒッコシ・クラブが右のハサミを持ち上げる。 全員揃って挨拶のつもりかもしれない。 まるで遠足に出発する子どものように眸を輝かせて、ビビは言った。 「途中まではカルガモ部隊で来たんだけど、どうせなら大勢で楽しい旅をしたいと思って。 レインベ−スの近くまで行って、マツゲにハサミを呼んでもらったの。 ……君が居なくて話が出来ないから、どうなるかと思ったけど。 カル−達のおかげで、マツゲも私の言うことを大分わかってくれるようになったから。 これで温泉島まで半日かからずに皆で行けるし、ゆっくりおしゃべりも出来るわね」 こうして王女一行と『プロジェクト・ユパから温泉へ行こう!』の面々は、“温泉島”へ出発した。 − 4 − 身体中にサ−チライトを取り付けられた“ヒッコシ・クラブ”はトンネルをひた走る。 『プロジェクト・ユパから温泉へ行こう!』最大の問題は、ユバと温泉島を結ぶ足にあった。 企画ではラクダに引かせる大型の荷車と超カルガモのタクシ−を予定していたが、前者では 片道に丸一日の時間がかかり、後者では輸送量に限りがある。 温泉リゾ−トへの往復で客が疲れてしまっては意味が無い。 だが、この“幻のカニ”を活用できれば問題は一気に解決するのだ。 ハサミの背中にはシ−トが敷かれ、テラコッタ夫人の十段重ねのお重弁当を肴に宴会が 始まっていた。 トトの弟で“うっかり湯”の支配人でもあるゴロ−の腹踊りや、護衛隊長の王女コスプレなど。 宴会芸に興じる年長者から距離を置き、真面目な若者達は現実的な話題で盛り上がっている。 「こいつを足にすりゃ、弁当や酒を売ったりも出来るんじゃねぇか?」 「移動中も宴会やってりゃ、客も飽きないだろうし。いっそ、ここに座席を作って…」 「土産物も置けば、“ナノハナ”や“カトレア”の商人も金を出すかもしれねぇぞ」 アラバスタの黒ビ−ルを片手に、ケビやナット−等が口々に言う。 考えることは皆、同じらしい。ツマミのスルメを噛みながらコ−ザは思った。 反乱軍に身を投じた二年、幹部と呼ばれた彼等の主な仕事は戦闘ではなかった。 武器弾薬や糧食、もろもろの備品・消耗品の確保と軍資金集めに文字どおり奔走した日々。 アラバスタの為に新しい何かを始めるのは、戦争をすることと少しだけ似ている。 人が死なないという、大きな違いはあったが。 「だけど、このカニ。どうやって餌付けしたの?」 砂砂団から反乱軍を経て、現在のプロジェクトチ−ムまで。 変わらず紅一点のおかめがビビに尋ねる。 一人だけジュ−スのグラスを持たされているビビは、カニの甲羅にこびりついた砂苔を白い手で 撫でながら答えた。 「“ヒッコシクラブ”は雑食だから、ご飯は何でもイイみたいよ。 でも、以前も今回も、食べ物で走ってもらってるワケじゃないの。 ハサミはね、踊り子が大好きなのよ」 そう言って、ビビは着ていたロ−ブをパラリと落とす。 「「「「おおっ!!?」」」」 美人が脱げば、ついどよめいてしまうのが男という生き物の習性。 その気配に、ぐりんとコッチに向けられたカニの目玉が、ポッと音を立ててハ−ト型になる。 次の瞬間、カニは確実に加速した。 そして余分に壊れたラクダが一匹。 「ヴヴォ〜〜〜ンvvv」 「ねッ♪」 片目をつむってみせるビビに、コ−ザはボソリと呟く。 「そりゃ、単なるヘソ出しだろ?」 ロ−ブの下の服は、何で誰も止めなかったんだと思うほど王女らしからぬ大胆さだ。 丈の短い肩紐のタンクトップと、これでもかとばかりに腰履きにしたハ−フパンツ。 アクセサリ−の類は一切無く、飾りらしいものといえば左腕のリストバンドだけ。 確かにクラブでヒップホップでも踊っていそうなスタイルではあるが…。 「いいじゃない、“おしのび”なんだから変装ぐらいしたって。 こういう……さんみたいなカッコ、一度してみたかったんだもの」 ぷうっと頬を膨らませるビビの顔は、露出の高さに反してまるで子どもだ。 “砂砂団の副リ−ダ−”だった頃と変わらない。 「ビビちゃん、スタイルいいし。すっごい似合ってるよ。 そんなカッコしてたら、誰も王女だとは思わないってばさ〜ッ!!」 「おかめちゃんだってスタイル良いし。おヘソ出してみれば?」 「そお〜?んじゃあ…“ハ・サ・ミ”くぅ〜んvv」 ビ−ルのせいか、すっかりタメ口になったおかめが調子に乗って“UKKARI湯”のロゴ入りTシャツ (フリ−サイズ/赤(黒も有)/販売予定価格2,980ベリ−)の裾をペロンとめくる。 「「「「おおっ!!?」」」」 「ヴヴォ〜〜〜ンvvv」 またもやどよめく野郎共と、壊れるラクダ。 そして、カニは更に加速した。半日どころか1/4日で到着出来そうな超特急である。 「うっわ〜、このカニってば、おヘソがアクセルなんだぁ!!」 「そうなの。前なんか、……さんのおヘソと胸の谷間で水の上まで走ったのッ!! すぐに沈んじゃったけど〜ッ!!!」 「なにソレ−!!ギャハハハッ」 その後、ハサミは『ユバ⇔温泉島』間の無料送迎バスとして正式採用された。 バスにはもれなく女性のバスガイドが付き、その制服が踊り子風のヘソ出しとなったことは 言うまでもない。 − 5 − “うっかり湯”は、温泉島の先住獣(?)である森番長とその子分の猿達によって、男女別の 脱衣所はもちろん宴会場からボ−リング・カラオケ等の娯楽施設も完備された温泉リゾ−トと なっていた。 本日貸切りの今日は、カルガモもラクダも入り放題だ。 もっとも、ラクダのマツゲもカルガモ達もみんな雄なので、揃って男湯へと案内される。 女湯を使うのはビビ王女とテラコッタの二人だけであった。 カッポ−ン…… 広々とした空間には、湯煙が立ち込めている。 「あ〜、いい気持ち」 アルバ−ナからレインベ−スまではカルガモに乗って。 それから後はカニの背中で揺られ続けた疲れを取るように、ビビは両腕を大きく伸ばした。 タップリの湯で身体を伸ばす贅沢は、王女の身でも雨季に限られているのだ。 「ビビ様、お背中を流しましょうか」 テラコッタの声に頷いて、ビビはタオルを巻いたまま湯から上る。 「私もテラコッタさんの背中、洗ってあげるわね!!」 アルバ−ナ宮殿の大浴場の何倍もの広さがある“うっかり湯”は、女湯だけでも大小様々な 風呂があり、とても一日では入りきれそうにない。 テラコッタと交代で背中を流しながら、ビビは残念そうに言った。 「おかめちゃんも、一緒に入れば良かったのに…。」 到着して、ビビとテラコッタを女湯へ案内したおかめは、仕事があるからと風呂に入るのを遠慮 してしまったのだ。 ビビの背中を丁寧に洗いながら、テラコッタが答える。 「この温泉をビビ様にお見せするのが彼女達の仕事なのですから。 ビビ様はしっかりと、御自分のお仕事をなされば良いのですよ」 頷くビビの背に、手桶でそっと湯をかける。 流れ落ちる石鹸の泡の下からは、陶器のようにきめ細かな肌があらわれた。 丸みのある肩と、すらりとした手足。 かつての女主人そのもののような。いや、それ以上に伸びやかで瑞々しい美しさ。 いずれはアラバスタの主となる王女の成長を満足そうに眺めつつ、テラコッタはまるで違うことを 口にする。 「あたしも今夜は宿の宴会料理をしっかり吟味させてもらいますからね。 王家の名を出すのに恥ずかしい料理じゃ、黙っていられませんよ!!」 石鹸とタオルを手に、テラコッタの背中に回ったビビは笑いながら言った。 「お手柔らかにね、給仕長さん」 * * * 久しぶりにのんびりと湯に浸かったビビは、サウナに入るというテラコッタを残して女湯を出た。 風呂はもちろんだが建物や設備にも興味がある。 浴衣姿に半纏を羽織って暖簾をくぐると、番台の奥にある冷蔵庫に気づいて声をかけた。 「フル−ツ牛乳1本ください」 だが、番台に座る男は知らん顔だ。 護衛隊長に負けず劣らず妙な髪型で、革ジャンの背中には何故か白い羽根をしょっている。 よくよく見ると、白目を剥いているような…? 「あ、あのぉ〜、フル−ツ牛乳……」 そこへ折りよく、男湯の暖簾をくぐってコ−ザが現われた。 おかめと同様、今夜の宴会の準備に忙しいケビ等に加わろうとした彼は、護衛隊長以下の 接待をと男風呂に押し込まれていたのである。 番台の前でまごついているビビに気づいて、声を掛ける 「ああ、またか…。おいッ、起きろ番長!! フル−ツ牛乳とコ−ヒ−牛乳1本づつなッ!!」 ドンッ!! 番台を叩いて怒鳴るコ−ザに、ハッと黒目を見せた“うっかり湯”の番長…もとい番頭のゲダツ。 どうやら“ウッカリ”白目を剥いて居眠りをしていたようだ。 ゴロ−曰く、『ある日、空から降ってきた』という男が、空番長として雲の上で青っ鼻のトナカイと 戦ったなど、ビビが知る由もない。 「ほらよ」 「ありがとう、リ−ダ−」 それぞれの牛乳ビンを手に、二人は中庭に出た。 並んで歩く湯上りの浴衣姿の男女。 石灯籠や植え込みが整えられた静かな庭に、楽しげな二人の声が響く。 「お前、いまだにフル−ツ牛乳みて−な甘いモンが好きなのか。変わってね−な」 「あら、リ−ダ−のコ−ヒ−牛乳だって十分甘いじゃない」 「俺のはコ−ヒ−の苦さを引き立てる甘さなんだよ」 「嘘ばっかり〜」 色気の欠片も無い会話だが、幼なじみとはそういうものだ。 乾いた咽喉を潤そうと、木のベンチに腰掛けたコ−ザはさっそくビンの蓋を開けた。 「あら、駄目じゃないリ−ダ−。お風呂上りに牛乳を飲むのに座ったりなんかしちゃ〜」 「?」 怪訝な顔をするコ−ザに、ビビはフル−ツ牛乳のビンを掲げる。 「……さんから、“風呂上りの正しい牛乳の飲み方”を教わったの! まず、足を肩幅に開いて−!左手は腰に当てて−!! ビンは一度、目の高さに上げて−!!!さぁ、一気にッ」 ごきゅ ごきゅ ごきゅ、ぷはぁあ〜っ!! 「って、飲むのが全世界に十億人の会員がいる“風呂上りの牛乳愛好同盟”で推奨されている 一番美味しい飲み方なんですって!!」 ホントに普通に飲むより美味しい気がするわ!!と、得意気なビビ。 ……何処のどいつか知らねェが、一国の王女に大嘘吹き込むんじゃね−ッ!! ってか、お前も気づけよッ!! 心でツッコミを入れつつ、コ−ザはコ−ヒ−牛乳をちびちびと飲む。 「折角だが、俺は牛乳を一気に飲むと腹を壊す性質なんだよ」 「あら、そんなセコイ飲み方してると、ゴムゴムのぉ〜〜」 コ−ザがビンから口を離した瞬間、ビビの両手がさっと伸びる。 あっという間もなく、コ−ヒ−牛乳のビンは白い手の中にあった。 「それは俺の…って、お前ッ!!?」 「半分も〜らったッと」 コ−ザが口をつけた同じビンから、ごきゅごきゅとコ−ヒ−牛乳を飲み干すビビ。 これは俗に言う間接キッス…。 だがしかし、ビビはケロリとした顔でのたまった。 「ごちそうさま〜♪」 その邪気の無い顔にコ−ザはただ絶句し、それから溜息を吐いた。 「お前…、今日ははしゃぎすぎだ」 「いいじゃない。ず−っと忙しかったんだし、今日一日ぐらい骨休めしたって。 ここに居るのは気を遣わなくていい人達ばっかりなんだもん。 そんなの、海の上に居た時以来なんだもん」 ペタンとコ−ザの隣に腰掛けると、下駄を履いた足をぶらぶらと揺らす。 子どもの頃のクセだ。 ビビの顔にチラリと浮かんだのは、淋しさだろうか?疲れだろうか? 見極めようとしても、彼女の表情は目まぐるしく代わるばかりだ。 「アラバスタの人達にも…、うんと楽しんで、くつろいで、疲れや傷を癒して…。 明日への元気を養ってくれるような。ここは、そんな場所になって欲しいわ」 そう言ったのは、もう王女の顔だ。 背筋も、地についた爪先までもがピンと伸びて、遠くを見つめる眸をする。 チャカの胸に残る、クロコダイルの鉤爪に切り裂かれた傷跡 ペルの全身に残る、爆発に巻き込まれた傷跡 ビビが二人に温泉を勧め、また国王がそれを許したことを思い出す。 彼自身の胸にも残る銃弾の傷跡 元気そうに見えて、アルバ−ナへの旅すらままならないトト ユパの、そして国中の若者や兵士達の多くと、その家族 国中の誰もに、癒しを そして、いつかアラバスタだけでなく… まだ紙には描けない“未来”を想う 気がつくと、ビビは右手で左腕の手首の少し上をぎゅっと握り締めている。 そして、呟くように言った。 「いつか、みんなにも来てもらいたいな…」 ビビの言う“みんな”とは、“東の海(イ−ストブル−)”の一流コックや、カニやラクダと話の できる不思議な奴や、踊り子の衣装が似合う色っぽい美人や、しょうもない大嘘を吐く奴や、 盗み食いばかりしている奴や…。 けれど、ビビとこの国を救ってくれた奴等なのだろう。 それが“海軍”であろうとなかろうと、どちらでも良い。 ビビが…、この国の次代の王が信じているのなら、信じよう。 「案外、近いうちに会えるかもしれねぇぞ?」 ……楽しいことに目の無い奴等なら、な。 コ−ザの言葉に、ビビは小さく首を傾げる。 だが、彼は王女に背を向けた。 「湯冷めしちまったし、もう一風呂浴びてくる。お前もしっかり視察してくれよ。 国民への宣伝には、“王家”の名を出すのがどんな文句より一番効果的なんだからな」 「ええ、もちろんよ。リ−ダ−」 砂砂団のリ−ダ−で、元・反乱軍の指導者(リ−ダ−)で。 今は『プロジェクト・ユパから温泉へ行こう!』のリ−ダ−である青年は、片手に空になった 牛乳ビンを二つ持って男湯の方へ去っていく。 その後姿に、ビビは聞こえないように囁いた。 「いつか、ちゃんと話すから…。アラバスタを救ってくれた私の“仲間”のこと。 それから…、ちょっとの間だけ私が“海賊”だったことも」 話したら、彼は何と言うだろう。 ポカンと口を開けたまま少しの間絶句して、それから…。 『さすがは砂砂団の副リ−ダ−だな!!』 笑ってくれるに違いない。 だって彼は、ビビのたった一人の“リ−ダ−”なのだから。 ……“未来の海賊王”でさえ、私の“船長(リ−ダ−)”にはなれなかったんだもの。 これって、ちょっと凄いことなのよ? いつか、そう言いたいと思う。 「あ、ビビちゃん。こんなトコロに居た〜!! ねぇ、新しく卓球台が出来てるの。ちょっと、やってみない?」 娯楽施設へ続く廊下の向こうから、おかめが手を振っている。 「うん、するする〜!!」 砂漠の国では野球やサッカ−のグラウンドなどそうそう無く、スポ−ツは屋内に限られる。 卓球は、アラバスタでは人気の高い競技なのだ。 下駄を脱ぎ捨てたビビは、おかめと一緒にパタパタと廊下を走って行った。 − 6 − 番台番長のゲタツは、相変わらず白目を剥いていた。 だから唐草模様の頬ッ被りをした不審人物が“本日貸切”の立て札の前を通り過ぎ、コソコソと 男湯の暖簾をくぐっても“ウッカリ”気が付かないのである。 だが、空になった牛乳ビンを番台に置いて二度目の風呂に入ろうと脱衣所に入ったコ−ザの 目は誤魔化せない。 腰にタオルを巻きつける以外は生まれたままの姿が温泉のマナ−だというのに、唐草模様の 手拭いで頬ッ被りをしたまま男湯に足を踏み入れようとするアンチマナ−な不審人物。 その正体は余りにもバレバレだ。 砂砂団の副リ−ダ−をスト−カ−していた頃から、全く同じ頬ッ被りスタイルなのだから。 「お前は…、やっぱり国王!!」 遡ること数時間前、王都では未決裁書類の山を残して逃走した国王に、宮殿が大騒ぎに なっていた。 以前の誘拐事件があるだけに、要らぬ心配をかけないようにという配慮か国王直筆の 置手紙だけは残されていたという。 『捜さずとも、すぐ戻る。 Byコブラ』 その連絡が温泉島に届かなかったのは、例によって番台番長が“ウッカリ”緊急連絡用の 電伝虫の受話器を外したままにしていたからである。 なお、国王が乗ってきたのは、アラバスタ最速No.2を誇るF−1ワニ(王室仕様・ロイヤル シ−ト付き)である。 「国王のあんたが王都をほっぽりだして、何でこんなところに居る!!!」 鋭く詰め寄るコ−ザに、一国の王らしい威厳ある声が答えた。 「コ−ザよ、驚かせてすまなかった。 実は忍んで来たのには、それなりの理由があってのことだ。 そう…、ビビのことでな」 真面目な顔をするのは頬ッ被りを外してからにしろ!! そうツッコんでいたコ−ザだが、最後の一言で彼の意識から唐草模様は消えた。 「ビビ…、王女が何か?」 呼び捨て気づいて、慌てて後を付け足した。 彼女に付き合っている内に、すっかり昔どおりの“幼馴染み”気分に浸ってしまったようだ。 生真面目な顔を赤らめるコ−ザに目を細めつつ、国王は密かにここへやってきた理由を語り はじめた。 「お前も知っているとは思うが、ビビの面差しは亡き王妃に瓜二つ。 見かけに寄らぬ意志の強さも、過ぎるほどに辛抱強いところもそっくりなのだ。 ……それだけに、どうしても気がかりなことがあってな…」 コブラの声の深刻な響きに、コ−ザは聞き入った。 ティティ王妃は、ビビを産んで間もなく病で亡くなったと聞いている。 コ−ザが覚えているのは村中の人々が黒い服に身を包み、嘆き悲しむ光景だけだ。 その王妃に似ていて、気がかりなことというと…? 固唾を呑むコ−ザの前で、コブラは大きく溜息を吐き、亡き妻の面影を瞼の裏に映そうと するかのように目を閉じた。 「ビビちゃんのボディラインは、ど−も妻とは違っているように思えてな〜。 ティティはこう…、もうちょっと安産型だったように記憶しておるのだが。 そこらへんの発育具合が気になって気になって気になって……」 「……で、ビビの尻のデカさを確かめるために、温泉くんだりまでやって来たと?」 コ−ザの声からは、抑揚というものがキレイサッパリ消え失せていた。 「お前も男の端くれならば、幼なじみの成長を確認したいなァ〜とか思うだろうが。ン〜!?」 弾みまくった声で、脇腹を小突いてくる国王。 イヤラシ気な笑みには、唐草模様の頬ッ被りがイヤというほど良く映えた。 「何処の世界に、娘のハダカを他人に見せたがる親父が居るッ!!?」 こめかみの血管が2、3本切れるのを感じつつ、コ−ザは怒鳴る。 だが、腐っても国王。若造ごときがほざいても、そよ風ほどにしか感じない。 「ここに居るッ!!!」 開き直って威張るその様は、親馬鹿を極めたが故の無駄な自信に溢れていた。 ……コレが…、コイツが国王なのか…ッ!! ぐらぐらと眩暈を起こす彼の脳裏に、トトの声が蘇る。 『疑うな、コ−ザ。国王様のお人柄は、お前も良く知っているはずだ…』 ……って、親父!!王ってこ−いう奴だったっけかッ!!? そんな心の叫びなど何処吹く風と、コブラは颯爽と女湯の方向を指差した。 「よし、あっちだな!!さぁ、行くぞ!!! 捜せばあちらへ通じる水路の一つや二つ、見つかるかもしれん」 「……断わるッ!!」 国王自らのお誘いに、コ−ザは背を向ける。 言いたいことが余りにありすぎると、人は却ってほとんど何も言えなくなるのだ。 だが、爆発寸前の火山のように怒りを募らせている彼に、国王は火薬を樽ごと放り込む。 「お前は真面目すぎてつまらんのぉ〜。あの……とか言う剣士と同じタイプか。 他の連中はわしと一緒に宮殿の女風呂を覗いたりして、もっとノリが良かったぞぉ〜!!」 ぷりぷりと怒りながら、頬ッ被りの国王は男湯に消えた。 その、数秒後。 「お前になんか、お前になんか、この国を委ねておけるかあぁ−ッ!!!」 ガラガラ ガ−ン!! ガポ−ン ドンガラガラ カッポ−ン…… 素っ裸で男風呂に飛び込むや、桶や椅子や石鹸を手当たり次第に投げつけるコ−ザ。 むろん狙いは唐草模様の頬ッ被りである。 「コ−ザ!?一体どうした…って、コブラ様!?いかん!! “モデル・ジャッカル”!!アウォ〜ンッ!!」 「落ち着け、コ−ザ…って、コブラ様が何故ここにッ!? “モデル・ファルコン”!!ケエェ〜ンッ!!」 「ウチのドラ息子が国王様に何たる無礼をッ!!かくなる上は、死んでお詫びを−ッ!!」 「早まるな兄貴ッ!!この温泉での責任は全て俺が!!!死んでお詫びを−ッ!!」 「クエエエェ−ッ!!」 「クワ〜」「クエックエッ」「クェッ(キラ〜ン)」「グエッ〜プ(グビグビッ)」 「グワ〜ッ(スパ〜ッ)」「………。(ボ−ッ)」「ヴォヴォ−!!」 「おお、ここは危険だイガラム。さあ、あの壁を乗り越え女湯へ脱出を〜♪」 「イヤ、アンタ何いうとるんだ−っ!!?」 * * * 岩壁の向こうから響く大騒ぎに、のんびりと湯につかっていたテラコッタは呟いた。 「大の男が何をはしゃいでるんだか…。まったく、みっともないったらありゃしないよ。 …ねぇ?」 クオッ クオッ クオッ 拳を振り上げ応えるのは、土番長がサンドラ河の下流近くに“ウッカリ”開けたトンネルを通って 温泉にやってきた海の生き物。 “うっかり湯”は、クンフ−ジュゴンもOKな良質の塩化物泉(食塩泉)なのであった。 − 7 − その後。 晴れて“アラバスタ王国王室御用達”となった“温泉島のうっかり湯”は、アラバスタ国民に 親しまれる温泉保養地となった。 『プロジェクト・ユパから温泉へ行こう!』の成功を足がかりに、やがてグランドライン全域への 一大観光キャンペ−ンが展開される。 グランドライン五大新聞への折込み広告やポスタ−などの宣伝費。 “温泉島”のログを記録した“永久指針(エタ−ナルポ−ス)”の大量製造と無料配布。 温泉島の湾岸一帯と港の整備。 莫大な費用は、アラバスタの主だった産業都市の商人等が負担した。 “温泉島のうっかり湯”が、“キュ−カ島”にならぶグランドライン有数のリゾ−ト島として人気を 博すると共に、アラバスタ各地の産業都市も出資以上の見返りを手に入れたのだ。 「ついでだから、“アラバスタ”って国にも行ってみるか…。 海底バスはタダだし、珍しい遺跡がたくさんあるらしいぞ」 「ママァ、ぼくカニバス乗りたい!!カルガモにも乗りた〜い!!」 「ちょっと奥さん、アラバスタの“ナノハナ”って香水の名産地なんですってよ!! 温泉の土産物屋に並んでいるのより値段が安くて種類も豊富だなんて。 お得な日帰りお買い物ツア−、行ってみませんこと!?」 「おお、カジノツア−もあるじゃないか!!女房が買い物してる間に、こっちは一攫千金を…」 これこそが、若者達の求めた真の黄金。 『プロジェクト・温泉島からアラバスタ王国へ行こう!』である。 温泉島から“ユバ・オアシス”を経由した観光収入と特産品の輸出量の大幅な増加は、 アラバスタ王国の奇跡の復興と、その後の発展を支える大きな力となったのである。 (♪タタ〜ン タタタタ〜〜ン♪←エンディングテ−マ) * * * 「今朝の新聞に入ってたチラシ、温泉リゾ−ト島ですって。ここから割と近いわね。 浴衣の柄が温泉マ−クってのはアレだけど」 「『今なら“永久指針(エタ−ナルポ−ス)”無料プレゼント+飲食費10%OFF』だってよ」 「温泉か…。湯上りには、やっぱ冷えたビ−ルだな」 「阿呆が。湯上りといやあ、浴衣姿に纏め髪の色っぽさだろ−がvv …ってこのチラシのモデル、ビビちゃんにすげ−似てねェか?」 「うわ−、ホントだなッ!!カル−そっくりなトリと、マツゲみてぇなエロい目のラクダがフロに 入ってるし!!」 「おれの弟子のクンフ−なんとかも居んぞ。こいつらみんな、賞金首になっちまったのかぁ〜?」 「……ねぇ、この温泉…。“アラバスタ王家御用達”って書いてあるけれど?」 “一度はおいで温泉島のうっかり湯 〜たまには、いのちの洗濯を〜” 麦藁帽子のジョリ−・ロジャ−を掲げた海賊船も きっと、もうじきやって来る − 終 − ≪TextTop≫ ≪Top≫ *************************************** いわずと知れた扉絵シリ−ズ第7弾「ゲダツのうっかり青海暮らし」 Vol.21以降(コミックス36〜37巻収録)を参考にしています。 ただし、細かいところは扉絵のとおりではありませんが…。 “麦わら”達があちこちで大冒険の大活躍をしているように、ビビちゃんもアラバスタメンバ−と 楽しく頑張っているんだよ〜というような、短くて楽しい話をイメ−ジしていました。 でも、書いている内に色々と想定外の暴走を…。(汗) ちょこっとコザビビなようなそうでないような。一応、分類としてはカップリング未満となります。 砂砂団(兼元反乱軍)のメンバ−や、イガラム&テラコッタ夫婦、チャカ&ペルも、ちゃんと出番 をあげたかったものの、どんどん収拾がつかなくなり、書いたり消したりの紆余曲折を経て今の 状態となりました。 多分、こういうのって四コマシリ−ズとかの絵でやるべき内容なんだろうな〜と、描けぬ我が手 をじっと見る…。(涙) ともあれ、これにてようやく2006年姫誕企画の〆となります。 期間延長を含めて約2ヶ月間、ありがとうございました!! 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2006.3.29 上緒 愛 姫誕企画Princess of Peace20060202 |