青い、空の下で。〜中学生編〜

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第35話 修学旅行〜1日目〜


「班ごとに点呼とってー、班長は揃っていたら報告しにきてね!」

「美月、こっちこっち! 2班ここだよー。」

「かずさん、まーや。おはよっ。」

いよいよ2泊3日の修学旅行へ出発。

班のメンバーとも自由行動の話し合いがきっかけで仲良く話せるようになって、いつの間にか名前やあだ名で呼び合うようになっていた。

かずさんは仁田和沙ちゃんで、まーやは川添麻矢ちゃんの事。

円香たちいつものメンバーと班がバラバラになったのは残念だけど、せっかくだしこの班で楽しく過ごしたいな。


「おおー、ここが大阪か!」

「見てみて、あそこの売店にたころくんグッズが売ってるよ。」

「うっそー、エスカレーターでも動く歩道でも歩いてる人がいっぱいいる!」

駅の構内から早くもみんなのテンションは上がりっぱなし。

ここから大阪城公園ってとこに移動して、そこでお昼ごはん。

その後は大阪城を見学して、夕方にホテル到着予定。

お昼を食べるメンバーもホテルの部屋割も、バスの座席や大阪城を見学する列も、とにかく旅行中は全部班が基準。

ちょっと前までなら、今まであまり仲良くなかった子とばっかり行動しないといけないなんて不安でしょうがなかったと思う。

でも、心ない悪口を言う人もいたけど、そうじゃない人もいっぱいいるって分かった。

遠慮したり我慢したりするばっかりじゃなくて、自分の意見を言うことが仲良くなるきっかけにもなった。

一年生の時はうわさを気にして友達を作れなかったり、悪口言われた事で毎日憂鬱だったり………

その頃から考えると、ちょっとは成長出来たのかもしれないね。

「美月、カメラ持ってきた?」

「かずさん。うん、もちろん!」

写真屋さんも修学旅行について来てくれているけど、写真を撮ってほしいときにうまいこと捕まるかわからないし。

必死に頼み込んで、まい兄のデジカメを貸してもらったんだ。

「ホテルでも自由行動でも、旅行中撮りまくろうね! 思い出いっぱい作ろ!」

「うん!」

ほら、苦手だと思っていたかずさんだってこんなに優しくていい子。

同じ班にならなかったら、ひょっとして“苦手なタイプの人”ってカテゴリーに分類したまま、仲良くなろうとしなかったかもしれない。

それって勿体ないよね。仲良くなかった人ばっかりの班で、むしろラッキーだったのかもしれない。

「このレポートがなかったらもっと楽しいんだけどな。」

永岡君が“大阪城を見学して気付いたことや疑問に思ったことを書きなさい”のプリントを見て、ため息をついた。

「しょーがないじゃん、家族旅行とかとは違うんだからさ。適当に片付けようぜ。」

「ねえねえ、それより今日の晩御飯って何が出るんだろう。しおりに“到着してからのお楽しみ”って書いてあるなんて、超気になる!」

「大阪も京都もすごいおいしいご飯が出たって。量もかなり多いらしいよ。」

これはすー兄情報。去年と泊まるホテルは同じだから、ご飯も期待度大。

「えーっ、あたしダイエット中なのに!」

「大丈夫、俺が全部食ってやる!!」

山田君がドン! と勇ましく胸をたたくと、大きなおなかがぽよんと揺れた。その様子がおかしくて、みんなで大爆笑。

このメンバーで過ごす修学旅行は、まだ始まったばかり。


第36話 修学旅行〜2日目〜


「今から班ごとに自由行動ですが、必ず同じ班のメンバーとともに行動すること。また、くれぐれも他人に迷惑をかけないように。それと集合時間は守らないと置いていくからな!」

学年主任の先生の諸注意が終わるのを今か今かと心待ちにしている空気が、学年全体に蔓延している。

「それでは解散! 気をつけて楽しんできなさい!」

待ってましたとばかりに、みんなが班ごとに散っていく。

「よし、俺らも行くぞ! まずは地下鉄御堂筋線で梅田駅だ!」


大阪での自由行動であたしたちの班が選んだ行き先は、梅田ってところにある大きな観覧車。

「わあ、大きな街だねー。」

「観覧車はここをまっすぐ行ったところにあるショッピングモールにあるんだって!」

最初にまーやが観覧車の案を出したとき、かずさんとあたしは楽しそうだから賛成したけど男子三人は反対だった。

観覧車なんて県内の遊園地にもあるんだから、わざわざ大阪に行ってまで乗らなくても――っていうのが反対理由。

でも大きなショッピングモールに観覧車があるなんて珍しいし、晴れてる日はすごく遠くまで見渡せるらしいから後悔はしないはず!

女子三人でそうアピールしまくって、結局観覧車の後に男子のリクエスト“アメ村”に行くってことで決着がついたんだ。

「おおー。高ーい!」

「カメラカメラ! 観覧車の中でも景色見たり写真撮ったりするから忙しいぞー。」

「いいお天気でよかったねー。」

観覧車に乗る前から、あたしたちは大はしゃぎ。

「子供のころ、観覧車乗るのって勇気いったなぁ。」

お父さんとお母さんがたまたま同じ時期に夏休みをとれた小学2年生の時を思い出す。

家族みんなで県内の遊園地に行って、フリーパスで一日遊びまわったっけ。

「ほかの乗り物と違って動いているゴンドラに乗らないといけないから、タイミング逃すと置いていかれるでしょ? 必死に乗ったの覚えてる。」

「あー、わかる! その気持ち。無事に乗ったらほっとするよなー。」

「見てみて、海が見えるよ! それにあの赤い建物テレビで見たことある!」

「あれ神戸だよ! 家族で行ったことある!」

「あっちには山が見えるぞ。すっげー、本当に遠くまで見えるんだな!」

「ね、乗ってよかったでしょ?」


「さて、次はアメ村行くぞ! そこで昼飯と買い物だ!」

切符を買って、再び地下鉄御堂筋線へ。

「心斎橋にもいろいろお店があるんだねー。ちょっと覗いてかない?」

「ダメダメ。時間との戦いなんだぞ、土産買って飯食って精一杯!」

「それにほら、私らには縁のないブランドのショップとか宮野にもあるようなチェーン店が多いみたいだよ?」

「それもそうか〜…。」

まーやをなだめて? あたし達六人は予定通りアメ村へ。

賑やかな古着屋さんにいい匂いのするお店、たくさんの大阪土産も。

「タコ焼きタコ焼き!」

「ああ、腹減ったなー。」

「食べたらあそこ入ろうよ、お土産色々売ってるみたい。」

「あ、俺妹にご当地キッキのストラップ頼まれてたんだった。」

たくさんのお店についつい目移り。あたしは何買おうかな。ご当地キッキに“大阪!”って書かれたTシャツ、お笑いグッズ……

おこづかいは8000円、明日の京都用にも残さないといけないし…悩むなぁ。


楽しい時間はあっという間で、すぐに集合時間がやってきた。

「美月〜っ。」

「やちる。」

「美月達の班はどこ行ってたのぉ?」

「アメ村だよ、こんなの買ったんだ。」

大阪から京都までのバス座席は、たまたま通路を挟んでやちると隣同士。

雑貨屋さんで買ったご当地キッキのストラップとハンドタオルを見せる。

「きゃ〜、可愛い〜! キッキちゃんがタコ焼きになってる! こっちは食い倒れのコスプレキッキちゃんだ〜!」

「やちるはどこ行ったの?」

「水族館! お魚超かわいくって癒された〜。写真もいっぱい撮っちゃった。」

「いいなー。見せて見せて。」

「私も見たーい!」

隣に座っていたかずさんが手を挙げた。

「てゆーか提案なんだけど、今日の夜うちの部屋集まらない? 他の子も誘ってさ、みんなの自由行動の話とか聞きたいし。」

「何々、女子会? 楽しそう、やろうよ!」

前の席にいたまーやも話に入ってきた。

「賛成〜! 雪ちゃんも行くでしょ?」

やちるも同じ班の雪村さんに声をかけている。

「うん、行きたい。お菓子とかトランプも持ってっていい?」

「いいよ〜、遊ぼ!」

「なんや、みんなおもろそうな話しとるやないの。混ぜて混ぜてー。」

「お帰り、ちあちゃん。実はね、今日の夜……。」

少しの時間でたくさんの楽しいことを共有できて、友達との距離が縮まった。輪が広がった。そんな二日目でした――。


第37話 修学旅行〜2日目→3日目〜

修学旅行後半、大阪から京都へ移動中。

窓の外を眺めていたあたしとかずさんが、「マイドナルドが茶色い!」って気付いて言ったら、バス中が「本当だ! どうして?」って騒がしくなった。

小柄で気さくな感じのバスガイドさんが笑顔で口を開く。

「ええ所に気付いてくれました。何でか言うたら…何でや思います?」

「え〜っ!」

てっきり答えを言ってくれると思っていたから、まさかの流れに35人の不満声が重なった。

「えー……どうしてだろ。塗料が切れて茶色いのしかなかったとか?」

「まさか。」

「なあ、森は知らねーの? 小学校まで大阪いたんだろ?」

「知らんねん。うち京都ってよう行かんかって。」

「茶色…茶色……あ!」

斜め後ろから、小高の声が聞こえた。思わず耳を澄ませる。

「はいはーい! ひょっとして、茶色の方が赤より京都っぽいから!?」

「はい、正解! まっかっかの看板やと景観を損ねるので、茶色言うかえんじ色になってます。」

「おお! ハルすげー!」

「小高、冴えてるね。」

振り向いてそう声をかけたら。

「まあ、これが俺の実力だし!」

なんて、おどけて笑った。


あの後はみんなで金閣寺や二条城、清水寺なんかを順番に巡ってって、夕方ホテルに着いた。

「もう二日目の夜か〜。変な感じ。」

晩御飯のテーブルで、和風ハンバーグを食べながら呟いたのは藤沢。

「ホント。明日の今頃は宮野駅で解散してるんだよね。」

「2泊3日って短い〜。」

「でもこの修旅でさ、なんか私友達一気に増えたかも!」

「あ、分かる〜!」

うん、本当。班のメンバーはもちろん、その友達とか別の班の人とも、昨日からいっぱい話してる気がする。

移動中とかホテルとかで、気が付いたら話の輪に入っているパターン。今日も夜の自由時間、女子何人かで部屋集まって色々しゃべる予定だし。


3日目は、京都の自由行動。

「あ。ここだよ、例の手作りブレスのお店。いろんなパワーストーンのビーズを自由に組み合わせて作れるんだって!」

「じゃあ、1時間後にまたここで集合って事で!」

円香とやちると約束していたブレスレット作り。

男子と別れて店に入ると、店内には他にも西中の女子集団が何組か来ていた。

円香とやちるは……と。きょろきょろと見回すと、左端のテーブルに二人並んで座ってる。

「あ、美月だ〜。」

やちるがこっちに気付いて、おいでおいでって手を振る。

「二人とも、早かったね。班の人は?」

「あっち。混んでいたから、全員近くの席は無理だったのよ。」

円香がそう言って、もう少し奥の方を指差した。確かに、同じクラスの子達が座ってる。

向こうはあと二人くらい座れそう。こっちは一人分。自然と、かずさんとまーやが向こうの席へ向かった。

「どうぞ〜。」

お店の人が、パワーストーンのビーズを通すためのゴムを渡してくれた。透明で、細いのにちぎれにくそう。

「あちらに色んな種類のパワーストーンのビーズありますんで、好きなのを選んでゴムに通してくださいね。最後にくくるんはこちらでやりますんで。」

「はい。」

「ねえ、今すいてるしどのビーズ使うか早く選ぼうよ〜。」

本当に何十種類もビーズがあって、目移りしちゃう。

お揃いで作ろうって約束したけど、一番好きな色って三人バラバラなんだよね。

やちるはピンク、円香は緑、あたしは水色。一番に気に入ったビーズも、てんでバラバラ。

恋愛運アップのローズクォーツ、知的幸運をもたらすグリーンメノウ、幸せな方向へ導くハウライトトルコ。

「どうする? 説明には“自分のピンときた石を選びましょう”って書いてあるよね。」

「三人ともこの三種類使って作る…のは色がゴチャッとしちゃうわよね。」

「お揃い諦めるのも残念だよね。」

円香と二人、パワーストーンを前に考えていると。

「ねえねえ、いーこと思い付いたよ〜。」

「何? やちる。」

「これも使おうよ〜。」

そう言ってあたし達に見せたのは、少し小さめの透明な石。

「これは?」

「水晶! 三つの石と交互に使えばうるさくなりすぎないし、オシャレだと思うんだ〜。」

言いながら、やちるは三色のパワーストーンと水晶を順番に並べる。ピンク・水晶・緑・水晶・水色・水晶・ピンク……

「あら本当。間に水晶を挟むとそんなに派手にならないのね。」

「さっすがやちる、オシャレ〜。」

「ふふっ。」


30分後、無事にブレスレットが出来上がった。

「美月達、三人お揃いなんだ! いいね。」

「ありがとう! まーやのも可愛いね、黄色の石と黄緑の石だ。」

「願いは我ながら生々しいけど。金運アップと健康運アップなんだ。」

「あははっ。」

店を出てからはまた班行動。やちるの班はこれからお昼ご飯で、円香の班はお土産店巡り。

あたし達は男子と合流してからバスに乗って地主神社へ。

「また後で!」

店を出てすぐのところで、手を振って別れた。作りたてのお揃いブレスレットが、三人の腕できらきら輝いてる。

新しい友達も好きだけど、やっぱり特別で大切なのは、円香とやちる。

昔も、今も、きっとずっとこれからも。


第38話 円香とやちる

二泊三日の非日常・修学旅行から帰ってきたあたし達を待っていたものは。

「はい、進路調査用紙配りまーす。提出は来週、10日だからしっかり考えて書いて出してね!」

授業。期末テスト。進路。現実。


「やだちょっと。数学のテスト範囲ヤバくない? 広すぎるって。」

「うわー……やだなぁ。数学苦手なんだよ〜。」

帰りの会で配られたテスト範囲表を見て、まーやと思わず顔を見合わせる。

今回が内申書を左右する最後のテストだって先生が言ってた。

進路調査用紙とテスト範囲表。半ピラのプリント2枚が、やけにずっしり感じるのは気のせい?

宮野市内の公立高校は普通の成績の人が普通に頑張って勉強すれば大丈夫って言われてる。

だけど不安なものは不安。普通って、どこからどこまでなんだろう?


家から近い県立宮野高校は、第一志望に書いた。これはずっと決めてたこと。

第二志望は、私立星蘭女子高。同じマンションに住んでる2歳年上の有紀ちゃんが通ってる。

電車一本で通えるし、文化祭とかの行事が毎回すごく盛り上がって楽しいって言ってた。

それもいいなって思うけど、やっぱり一番いいのは円香とやちると三人で、宮野高校に合格すること。

保育園の頃から、小学校も中学校も高校も、ずっと一緒にいようねって決めてたんだ。

「美月、おはよー。」

「ちあちゃん、おはよ。」

下足室でちあちゃんに会った。

「進路調査、今日提出やんな。書いてきた?」

「もちろん。ちあちゃんどこにしたの? あたし宮高だよ。」

「あー、ほしたら離れてまうなー。うち宮野浦やわ。」

「浦高?」

同じ県立高校だけど、この辺りからは遠いから、あんまりよく知らない。

「遠いんじゃないの? どんな学校だっけ。」

「商業科あんねん。遠いゆーてもチャリで20分やで。」

「そっか、ちあちゃんち坂の下だもんね。商業科かぁ。」

話しながら教室に向かって歩いていたら、音楽室のある東校舎から出て来た円香とも会った。

「おはよう、二人とも。」

「おはよー。」

「なあなあ円香、円香は進路どないした?」

ちあちゃんが円香に聞いた。宮高よ――もちろんあたしはその答えを想像していた、けど。

「私? 榮蘭学院。」

――え、榮蘭学院?

「えー、何その学校。どこにあるん?」

聞いたことはある。東京の西の方にある私立の進学校。すごく偏差値の高いとこ。

「円香……そこって東京でしょ? 家から通えないじゃん、なんでそんな所……。」

心臓がばくばくいっている。次に円香が言う言葉を聞きたい。聞きたくない。

「…榮蘭は、全寮制なのよ。受かったら家を出ることになるわ。」

頭がぐるぐるして、考えまとまんない。だって円香、そんなこと今まで一度も言ってなかった。

「そうなん? 寂しなるなぁ。なあ美月。」

「……のに。」

「え?」

「この辺にも頭いい学校あるのに。それに宮高行こうって言ってたじゃん。」

頭では分かってる。子供の頃言ってたことなんて、いつ変わってもおかしくないって。

保育園の文集に書いた将来の夢が、いつの間にか変わったのと一緒。

だけど、だけど…………。

「あたし、何も聞いてないよ。」

「……ずっと悩んでたのよ。言わなかったことは悪かったわ。」

円香は謝ってくれるけどあたしはショックが大きくて、何も考えられなくて……。

今これ以上一緒にいるとひどいことを言っちゃいそうで、先に教室へ行った。


「えー、やちるちゃん、本当!?」

教室のドアに手をかけたとき、ひーちゃんの声が聞こえた。そういえば、やちる達はこの事知ってるのかな。

「やちる、ひーちゃん。」

「あ、美月〜。」

「美月ちゃん、おはよう! あのね、やちるちゃん凄いんだよ。守野市にある被服科のある高校行くんだって!」

え、守野市? 被服科? 嘘だよね? やちるまで、何の話してるの?

「み、美月〜…あのね。」

「守野市って……県の北部だよね。こっからじゃ通えないよ……?」

やちるの言葉を遮って……というより、聞こえないフリして、一応聞く。

でも、そう言ってすぐに後悔した。さっきの、円香との会話を繰り返してるみたい。

「親戚のおばさんが住んでてね、それで梅女……梅咲女子高っていうんだけど、受かったら下宿させてくれるって……。」

その後やちるはまだ何か言ってるみたいだったけど、あたしの耳には何も入ってこない。

ただ、突きつけられたひとつのことだけがぐるぐると頭の中を回ってて、心まで侵食してくる感じが嫌で、今すぐ逃げ出したい。

――円香もやちるも、いなくなる――


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