モドル | ススム | 009

  そしてふたりのChristmas   





 「全くウチの奴らは限度って物を知らんのか」
 
 居間のテーブルから床にまで並び転がった酒瓶、食い散らかした皿の数々、うんざりする様な部屋の惨状を前にアルベルトは溜息を吐く。
 
 「こんな大量のお酒が全部胃袋の中なんて、ちょっと凄いよね」
 
 笑って言いながらジョーは幾枚ものゴミ袋を広げ、その中に瓶や缶の類をぽいぽいと放り込んでいった。
 
 
 酔い潰れてしまった仲間達を、かろうじて残ったジョーとアルベルトが、二人でまずフランソワーズを毛布にくるんで寝室に運び、後は適当に放り込んでおい た。
 取り合えず大量の食器を台所に下げ、ふたりで黙々とゴミを片付けていく。ジョーはやたら手際が良く、あっという間にひとしきりのゴミは無くなってしまっ た。 彼はいつもパーティーの際は下働きを自ら買って出るので、片付けなど手慣れた物だった。
 
 「お前さんはいつも片付けてばかりだな。クリスマスの時くらい楽しんで飲んでもいいんじゃないか」
 
 ジョーは笑って新たにゴミ袋を広げた。
 
 「いつもみんな酔い潰れちゃうからね。僕がやらなきゃ誰がやるんだい?でも今回は君がいてくれて助かったよ。・・・君があまり飲まないなんて珍しいよ ね」
 
 「・・・・・そうか?」
 
 「そうだよ」
 
 そう言ってジョーは布巾を片手に台所へ立って行った。

  一人になると、傍らのクリスマスツリーの華やかなライトが急に強く明るくなった様に感じた。
 パーティーが終わってしまった今、その煌びやかな輝きはひたすら白々しく見えた。
 台所でジョーが布巾を洗う音が聞こえて来る。
 アルベルトはかき集めていた空の菓子袋をまとめてガサッとゴミ袋に突っ込むと、立ち上がって部屋の明かりを消した。
 たちまちツリーは息を吹き返し、暗闇の中に柔らかな光の輪が浮かび上がった。
 
 「あれ?電気なんか消してどうしたんだい・・・・・わぁ・・・・!」
 
 すすいだ布巾を手に台所から出てきたジョーは小さく声を上げた。
  
 「・・・・綺麗だね。パーティーは終わったのに、なんだか今が本当のクリスマスみたいだよ」
 
 「・・・・そうだな」
 
  ジョーは絨毯の上に座ってツリーを見上げた。アルベルトも傍に寄って同じ様に見上げた。
 色とりどりの飾りが艶やかに輝き、光の雫を散りばめてツリーを眺める二人の顔を明るく照らした。
 アルベルトはツリーからジョーの横顔へと目を移した。そうするともう離せなかった。
 小さな光の渦が彼の瞳の中に輝き、瞬いていた。ついと相手がこちらを向いた。アルベルトはどきりとした。
 ジョーはこちらをじっと見つめ、微笑んで言った。
 
 「君の目、とても綺麗だよ。色んな色が輝いていて」
 
 綺麗なのはお前の方だと、言えなかったアルベルトは代わりに手を伸ばし、彼の頬に触れた。
 次にそっと体を抱き寄せると彼はすんなり腕の中に収まった。
 聖なる夜の静けさがひしひしと互いの胸に迫っていた。
 ジョーの体は暖かく、微かに震えていた。ツリーの点滅する光が寄りそう二人の影を壁に映し出した。
 
 アルベルトの胸に頬を寄せ、ジョーはくぐもった声で呟いた。
 
 「君がこんな事するのは・・・・今日がクリスマスだから・・・・?」
 
 アルベルトは息を飲み込んだ。
 
 「・・・・君はいつも、いつも僕を見ていて、僕は苦しかった。・・・・君の手はいつも熱くて、・・・苦しかった」
 
 アルベルトの中で何かが溢れた。
 二人は絨毯の上に折り重なって倒れた。燃える様な情熱がアルベルトの中で唸りを上げていた。唇を優しく重ね、更に勢い付いて舌を押し込み絡ませた。
 ひとしきり味わうと唇を離し、アルベルトはジョーの頬に掛る髪をかき上げて羞恥に染まる顔を覗き込んだ。
 
 「・・・・・まだ苦しいか?」

 ジョーは戸惑った色を浮かべて視線を彷徨わせたてたが、やがて小さく、だがはっきりと答えた。
 
 
 「・・・・苦しいよ。だって・・・・君がこんな恥ずかしい事、するんだもん・・・・・」
 
 
 再び唇を、今度は嵐の様に奪った。ジョーの息が熱く零れた。抱き締めて首筋に舌を這わせながら衣服を捲り上げて白い腹の上に唇を這わせる。
 途端にジョーは焦って身じろいだ。
 
 「・・・・ちょ・・・ちょっと待って・・・・」
 
 アルベルトは動きを止める。性急過ぎたか。ジョーは荒い呼吸をしながら明らかに困惑している。
 
 「ジョー・・・・」
 
 ジョーは短い呼吸を繰り返し、聞き取れない程小さな声でたどたどしく囁いた。
 
 「待って・・・・ここじゃあ・・・・誰かに聞こえてしまうかも・・・・」
 

 アルベルトはがばりと勢いよく立ちあがった。素早くジョーの体を抱え上げると、全速で走り出す。
 
 「え・・・ちょと何処に・・・・こんな・・・・」
 
 しがみ付いて風の様に運ばれ揺らされながら、ジョーは戸惑いの声を上げる。
 
 「静かに。誰かに聞こえるぞ」
 
 言い返されてジョーは慌てて口を噤んだ。
 
 
 階段を駆け上がって部屋に飛び込むと、それこそ皆を起こしそうな勢いでバタンと扉が閉まった。
 
 
 
 
 誰も居ない居間では、ツリーがひっそりと輝き続けていた。
 
 色とりどりの光が優しく、今宵のクリスマスを祝福している。永遠の一瞬がプレゼントになる。
 
 時が止まった様に、いつまでも、いつまでも。
 
   
 
 
 
 
 
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