こどものじかん − 第2話 なつのおもいで − act 1 「やっぱり、山がいいわ。海は毎日見てるんだもん」 終業式を終えたばかりのビビは、台所のテ−ブルで主張した。 夏服の白い半袖のブラウスと青系統のチェック柄のミニスカ−トが爽やかで 高く結い上げたポニ−テ−ルに良く似合う。 「俺も久々に描いてみてぇなぁ〜。 連なる山々、鏡のような湖面、清流のせせらぎ…」 同じく白い半袖のシャツに、ありふれた黒いズボンのウソップも言葉を尽くして賛同する。 実は彼は先程まで“アヒルとタヌキの行列”状態の通信簿の件で保護者(サンジ)から 説教をくらっていたので、それが中断されるなら何でも良かったりなんかする。 「ハイ、じゃあ多数決で山に決定!」 夏の休暇の家族旅行に、ビビが同行するようになったのは数年前からだ。 地方から中央政界進出を狙うビビの父親は、年を経るごとに多忙を極め、のんびりと 旅行などする暇はなかった。 「けどなァ。郊外だと、カヤが熱出すと困るだろう? せめてリゾ−トホテルとか、テ−マパ−クとか…」 おやつにと、夏の新作デザ−トを運びながらサンジが言う。 滑るようにテ−ブルに置かれた“トロピカルフル−ツのフラッペ”を前に、カヤはじっと 聞き耳を立てていた。 「少しくらい、大丈夫よ。 子供は自然と触れ合わせなくちゃ。 お兄ちゃんもお祖父ちゃんも、過保護すぎ!! カヤちゃんを籠の鳥にするつもりなの?」 ゴトリと、ウソップの前に置いたガラスの器が音を立て、斜めにかしいだ拍子に マンゴ−の切れ端が落ちる。 さっと、それを摘み上げて口に放り込むと、ウソップは大袈裟に身振りを交えた。 「要するにさ、サンジ兄ちゃんはアレだよな。 虫嫌いだから。山とか森とかキャンプとか苦手なんだよな〜」 「悪かったな。 おめェやルフィみてェな野生児と違って、俺ァ都会育ちなんだよッ!!」 サンジがウソップの頭を小突いた。 ごく軽く、ではあったが。 「い〜ぞ〜。キャンプは!! 父ちゃんが木の枝を集めて火ィおこしてメシ炊いて、母ちゃんがカレ−を作るんだ!! カブトムシもクワガタもいっぺ〜いるしよ〜〜。 そんで夜はキャンプファイア−だ!! な、な?カヤも行きてぇだろ??」 「うん!」 「「って、おま!どっから沸いて出やがった!!」」 ちゃっかりカヤの隣に座ってフラッペを頬張るルフィに、叔父と甥の息の合った ツッコミが入る。 「にししししし〜〜」 「ルフィさんのお家も、この夏はキャンプに行くの?」 自分の分のフラッペをカヤに渡しながら、ビビが尋ねた。 「おう!この夏だけじゃなくて、毎年行くぞ!! “ザ−サイテキ”だからな」 「搾菜(ザ−サイ)?」 ビビの大きな眸が、キョトンと見開かれる。 ルフィの大口笑いがその中に映る。 「しししっ、違った!“ケ−キステキ”だ!!」 「そりゃもしかして、“ケ−ザイテキ”じゃねぇのか?」 ウソップの言葉に、ぽん!と手を打って。 「それだ!!“ステ−キ”だ!!!食いて〜〜」 「「「ぜんぜん違う!!!(びしっ)」」」 叔父と甥姪の息も、ピッタリだった。 * * * もう一つ、フラッペを作ってビビに渡すと、子供達の方へ煙が行かないように サンジは換気扇の下でタバコに火をつけた。 「毎夏キャンプねェ…。ま、あの二人らしいバカンスの過ごし方だな。 腕白盛りの男二人じゃ、しゃあねェか」 「毎年だったら、ルフィさん達は慣れてるのよね。 じゃあ、今年は皆で一緒に行ったらどうかしら?」 「い!?」 「え゛っ!!?」 「おお〜〜っ!!!」 ビビの爆弾発言に、返って来たリアクションは三者三様だ。 いや、四者か。 「いっしょに?るふぃさんも、ちょぱちゃんも、みんないっしょに??」 尋ねられない限り、自分から話すことがほとんどないカヤが、興奮している。 食べ切れなかったフラッペの溶けた残りを横から攫って口に放り込むと、 ルフィは にしししっ と笑った。 「行こ〜ぜ!楽しくなるぞ〜〜!!」 「「ちょっと待て〜〜っつ!!」」 ウソップとサンジの声がハモる。 何処へ何をしに行くとしても、ルフィが一緒で、のんびりした休暇が望めるワケがない。 だがしかし、止める声はビビの聴覚外らしい。 「じゃ、決まりね。楽しみだね〜、カヤちゃん♪」 「うん!!」 「「……………。」」 この家の男連中は、表現方法はどうあれ、一概に女性には甘い。 その希望を無下にすることなど出来ない性分なのである。 よって、家長であるゼフもまた、体の弱い孫娘を心配し苦言を呈しはするものの 純真無垢な眸に見つめられると 「気をつけて行っておいで」 と言うしかなかったのである。 − Next − ≪ウィンドウを閉じてお戻りください≫ *************************************** (2003.8.2 文責/上緒 愛) |