彼女が花の芽にやってきた!

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第三章 1年目秋の月 1 秋の訪れ

「はっくしょん!」

イトコのロキが都に帰り、ほぼ同時に花の芽町に秋が訪れ、今日は3日目。

すでに半袖で外に出るには寒く、くしゃみがでたユーリアは家に戻り、長袖の上着を羽織る。

「おーい!ねーちゃーん!」

再び外に出ると、ケンタが牧場に立っていた。

「あれ、おはようケンタ。どうしたの、用事?」

「なあ、姉ちゃんの牧場、牛いるんだろ?」

「え、耳が早いね。昨日買ったばかりなんだよ。」

ユーリアのあおぞら牧場には、夏の後半に羊のココア、そして昨日、秋の月2日に牛のアイスが仲間入りした。

「えー、まだ仔牛か。じゃあダメだー。」

何が”ダメ”なのか、ユーリアは分からない。きょとんとした顔のユーリアに、ケンタは説明する。

「明日な、グリーン牧場で牛祭りがあるんだ!牛飼ってる人が自分の大牛を連れて行って、どの牛が一番いいかって、みんなで決めるんだ!ミルクもな、いっぱい飲めるんだぜ!」

「へえ、見に行こうかな。」

「うん、おいで!」


翌日、ユーリアがグリーン牧場に着くと、そこには町の約半数が集まっていた。

「あ、おはよう、ユーリア!」

「ランちゃん!」

ランの脇にはグリーン牧場の牛、モモコ。

「あ、モモコもおはよう。……うん、そうだね。…うん、右端のやつね?」

「ねえ、モモコ、何て言ったの?」

ランが聞いてくる。

「ん、並んでいるミルクの右端のが自分の出したやつだから、是非飲んで感想聞かせてくれってさ。」

「あ、うん。そうそう。やっぱり流石だね、ユーリア。」

ユーリアが動物と話を出来る能力の事は、すでにみんな分かっている。


「美味しい!」

モモコのミルクを飲んだユーリア。表情と声、同時に美味しさを表現する。

「あ、グレイ君。」

通りがかったグレイに声をかける。

「ねえ、いい牛に育てるコツとかってあるのかな?」

グレイは少しユーリアをにらんだ後、そのまま立ち去った。

「ちょ………………こら、待ってよ、この無愛想!」

一瞬あっけにとられたが、すぐに後を追う。

牛祭りの会場を出て早足で歩き続けるグレイを、ユーリアは小走りで追いかける。

「ねえ、何でいっつもそうなの?あたし、グレイ君とも仲良くなりたいって思ってるんだよ。」

グレイはユーリアを無視して歩き続ける。

「会話ぐらいしてくれたっていいじゃない、なんでいつも、はあ、はあ、怒ってる……ぜえ、ぜえ。」

流石のユーリアも、休憩無しで喋りながら走るのは疲れてくるらしい。そして月山のつり橋に差し掛かった頃、グレイが振り向いた。厳しい表情で。

「……煩い。お前、俺に話し掛けるな。」

そのままグレイはユーリアを置いて山を降りた。

ユーリアは、驚いた表情でしばらく立ち尽くしていた。


2 喧嘩

「本っ当にごめんね、ユーリアちゃん!」

「そんな、ランちゃんは悪くないよ……。」

ランがユーリアに謝っているのは、先日グレイがユーリアに取った態度のこと。

「あたしからも一応兄さんに怒っておいたんだけど、兄さんったらいつもの調子で”フン”とか”お前には関係ない”しか言わなくてさ〜。」

ため息とともにユーリアの家のテーブルに突っ伏すラン。ランが持ってきたミルクを飲みながら、2人は話を続ける。

「……あたし、グレイ君の気に触るようなことしちゃったかな。それか、言っちゃった?」

「うーん、でも兄さんは誰に対しても無愛想だからな……。あたしには心当たり、ないけど。」

「ああもう、落ち込む〜。」

友達になりたいのに、拒絶された。ユーリアには今までそんな経験がなかったため、思ったよりショックが大きいようだ。


「え、もうこんな時間?」

時計は夕方の5時半を指していた。

「あ、もう帰る?」

「うん、リックの家に晩ご飯届けないと。」

1人暮らしの従兄であるリックの家に時々食事を届けるのは、ランの役目。彼女曰く、「そうしないといつ栄養不足で病気になるか分からない」からだそうだ。

「あ、そうだ。思い出した!」

帰りかけたランが突然大声で言った。

「何?」

「兄さんがあんな風になった原因。あのね、兄さん、3年ぐらい前に足を怪我して馬に乗れなくなったんだ。それまでは草競馬でクリフとペアで優勝の常連だったんだけど。それから、なんか暗くなっちゃったんだ。」

「そうだったんだ……。」

足の怪我。

(それがグレイ君の心の傷……?)


次の日は道具屋が店を開けている日だった。

ユーリアがドアを開けると、中にいたリックが気付き笑顔になる。

「やあ、いらっしゃい。羊の毛を刈るハサミだろ?入荷したところだよ。」

そういってリックは商品の棚を指す。

「あ、じゃあちょうだい。1000Gだよね。」

代金を払い、商品のハサミを受け取るユーリア。

「………ねえ、リック。」

「何?」

「相談のってくれない?」


「つまり、グレイの力になってあげたいって?」

頷くユーリア。2人は今、雑貨屋の2階のリックの自室で話をしている。

「そりゃあ僕だってグレイのことは心配だし、ユーリアの気持ちもわからない事はないよ。でも。」

「でも?」

「今のグレイの中にうかつに踏み入ったって、余計拒絶されるだけじゃないかな。」

厳しい顔でユーリアに言うリック。ユーリアの表情が止まる。

「ユーリアがみんなと仲良くなりたいって思ってても、現実にそれが可能かって聞かれたら、そうじゃないだろ?ユーリアの行動とか、グレイにはいらないお節介だって思われるだけだと思うけど。」

「……………何、それ。」

少しの沈黙の後、ユーリアが声を絞り出す。

「そんなの……寂しいじゃない。冷たいよ、リック。」

「そうじゃなくて…ちょっと!話聞いて!」

立ち上がって部屋を出て行こうとするユーリアを、リックは止めにかかる。

「聞かないっ!リックの馬鹿アホ!冷血漢!オタク!ニート!!!」

思いついただけの罵声をリックに浴びせ、ユーリアは蹴りでドアを破壊し道具屋を出て行った。


3 泉

『……それで、喧嘩したの?』

「そう!」

馬のブラウン相手に、ユーリアはさっきからずっとリックとの喧嘩のことを愚痴っていた。

『話はわかったけどさ、その…仲直りした方がいいよ?』

「だって、あたし悪くないもん!向こうが謝ってくれるのなら仲直りするけど……。」

『けど?』

「………なんでもないっ!」

あの喧嘩から既に3日経ち、元々みんなと仲良くするのが好きなユーリアは、リックと喧嘩したことを後悔していた。

「やっぱり、言い過ぎたかな……。」

牧場を出て、1人ポツリとつぶやく。

「…でもあたし間違ったこと言ったのかな?………言って…ない!絶対!」

自問自答し、1人で悩み、自分で自分に言い聞かす。この3日間、ユーリアはその一連の行為を何度か繰り返していた。


「ああ、もうっ!」

やけ食いと称し、ユーリアは月山に生えている草やきのこを片っ端から食べ荒らした。

「……すっげえ食べっぷりだな。朝飯食ってなかったのか?」

「あ、一太さん。」

「正解。」

背後から聞こえてきた声にユーリアが振り向くと、声の主はきこりの双子の兄の方、一太。

“正解”というのは、一太と弟の二太を間違えなかったので、という意味。

「えーと、そう。すっごくおなか減っちゃってさ。」

「ふーん。毒キノコには気ぃつけろよ。」

「大丈夫!」

「そういや、全然話変えるんだけどよ。“泉の女神様”って知ってるか?」

「女神……様?」

「ああ。」

一太の話によると、今2人がいる場所よりもう少し奥に入ったところにある泉には女神様が住んでいて、人間の願い事をかなえてくれる存在……らしい。

「……ちょっと、行ってみようかな。」


ユーリアは、実はこの泉を訪れるのは初めてだった。

「こんにちは。」

足元をウロウロしているウサギに声をかける。

泉のすぐ正面に立った瞬間――

「!?」

ユーリアの体の中から懐かしいような暖かいような切ないような、何とも言えない感情が一瞬のうちに湧き上がった。

そして、彼女の目から涙が一滴、ポロっとこぼれた。


やがて泉がうっすらと光り出した。そしてユーリアの目の前に、綺麗な女性の姿が現れた。


「貴女……ユーリアね。待っていたわ。」


4 女神様

ユーリアは、目の前の出来事が信じられずに、ぱちぱちと瞬きをしている。

「……やっと会えた。」

心なしか彼女の目の前の女性――泉の女神は、ユーリアのことを懐かしそうな目で見ているようだった。

「えーと……女神、様?あの、あたしのことを知ってるんですか?」

やっとの思いでそう尋ねると、女神は少し不思議そうな顔をし、

「シンシアやレイシアから何も聞かされていないの?」

と、彼女の母や叔父の名前を出したため、ユーリアはまた驚いた。

「じゃあ、あなたは私に用事があったのではないの?」

「用事……あ、ああそう!あの、あたし友達とちょっと喧嘩しちゃって……。」


「…なるほどね。」

ユーリアは牛祭りの日のグレイとの間での出来事から、リックとの喧嘩までを女神に話した。

「だからもう、どうすればいいのか分からなくなっちゃって………。」

ユーリアに、いつもの元気さが見当たらない。

「……あなたは、あなたの思うとおりに動いていいわよ。」

少しの沈黙の後、女神はそう言った。

「……え?」

「ただ、リックとはきちんと仲直りをしてちょうだい。時には自分から謝らないと、築ける友情も築けないことだってあるの。」

ゆっくりと、ユーリアの表情を見ながら女神は言葉を続ける。

「グレイとも、時間をかければ変化が訪れる可能性だってあるわ。」

「……そうでしょうか……。」

「私を信じて。あなたが“みんなと仲良く、ここで暮らしていきたい”という思いを忘れずにいたら、
きっと、この場所はあなたの味方になってくれる。空も、海も、山も、川も、町も、牧場も、そして、この泉も。」

「女神様……。」

ユーリアは、ぐるりと周りを見回す。

“私はあなたの味方――”穏やかな花の芽町の自然が、そう言っている気がした。

「ありがとうございます、女神様!あたし、頑張ってみますね!」

ユーリアはいつもの元気を若干だが取り戻し、泉を後にした。残された女神は、真剣な表情で彼女を見つめていた。


5 クリフ

『兄さんが、泣いてる……。』


「ふー。」

あれから数日。ユーリアはいつも通り、畑と動物たちの世話をし、町のみんなと話したり笑ったりしながら過ごしてきた。

「あたしの思うとおりに……か。」

彼女の頭には、女神に言われた言葉が絶えず響いている。

「でも、何も考え付かないんだけどな。」

この状態が、ずっと続いていた。

「どうしたの?ユーリアちゃん。」

ボーっと道を歩いていたユーリアに、エリィが声をかけた。

「エリィちゃん、なんでもないよ。ちょっと考え事。」

「そう?ねえ、これからおばあちゃんとお茶するんだけど、一緒にどう?」

「わ、いいね……。」

うん、と返事をしようとしたユーリアの耳に、何かが聞こえた。

「…って言いたいところだけど、ごめんね。今日はやめとくよ。ブラウンがあたしを呼んでるみたい。」

“何か”とは、彼女の愛馬、ブラウンの声だった。何かあったのではと、ユーリアは、急ぎ足で牧場に戻った。


「ブラウン!」

『ユーリア、お帰り。』

「どうしたの?何かあった?」

牧場や動物たちに、特に変わった様子はない。

『ごめんね、そうじゃないんだ。ただ、ちょっと気になって……。』

「“気になった”?」

『うん…実は、さっき兄さんの鳴き声が聞こえた気がしたんだ。』

「兄さんって、クリフ?馬のほうの。」

ブラウンの兄さんとは、グリーン牧場自慢の馬、クリフガード。通称、“馬のほうのクリフ”。

『よく聞き取れなかったけど、泣いているみたいだったんだ。すごく、悲しそうな鳴き声だった。』

そう話すブラウンの方も、悲しそうな顔になっている。

「…分かった。ちょっと行って様子をみてみるよ。待ってて。」

『ありがとう、ユーリア!』


グレイと顔を合わせるのは、あの牛祭での一件以来だった。いい顔はされないだろうというのはユーリアには分かりきっていた。

――もっとも、牛祭り以前もいい顔などされた事はなかったが。

「……グレイ君、あたしは別にあなたにちょっかいをかけに来たんじゃないんだよ。」

それでも、敵意剥き出しの視線で睨まれるのは、ユーリアじゃなくても相当こたえるだろう。

しかも、執り成してくれそうなランは外出中。だが、ユーリアはそんな視線にも負けずにグレイに話し掛ける。

「ここの馬を見せてもらえないかなって思って。」

グレイはまだ睨んだまま。

「…えーと、ほら。もうすぐ草競馬でしょ?どんな育て方をしているのか参考にしたいなって。ここの馬はよく育てられているから、実はちょっとした目標なんだよね〜。」

「……フン。」

なるべくこれ以上溝が深まらないように気を使って話したユーリアをグレイはそう言ってからもう一睨みし、そのまま家のほうへ去っていった。

「……はあ。」

さすがのユーリアもここまで嫌われるんだったらこっちも嫌ってやると考えかけたが堪えた。

とりあえずグレイには“帰れ”とは言われなかったので、クリフのもとへ行った。


「クーリーフ!」

クリフは家畜小屋の隅にいた。

『あ……。』

「久しぶりだね。直接話すのは初めてだけど何回か会っているから、私のことは分かるよね?」

『は、はい。ブラウンの飼い主のユーリアさんですよね、こんにちは。いつも弟がお世話になっています。』

馬とは思えないような丁寧な挨拶をし、恭しくお辞儀のように首を傾けたブラウン。ユーリアは若干面食らいながらも、本題を切り出した。


6 グレイとクリフ

「先に言っておくけど、君が私の質問に答えたくなかったら、答えなくていいからね?」

『はい。』

ユーリアとクリフはグリーン牧場の外れで話をしている。家畜小屋のかげに隠れているので、グレイに会話を聞かれる心配は無い。

「うちのブラウンが教えてくれたんだけど、君、泣いてたんだって?」

一瞬の沈黙の後、クリフはこくんと頷いた。

「何か悲しいことがあった?」

ユーリアは慎重に尋ねるが、クリフは黙ったままでいる。

「あ、言いたくなかったらいいよ。」

ユーリアはそう言ったが、クリフは首を横に振り、小さな声で

『実は…。』

と話し始めた。


『お帰りなさい、ユーリア!』

クリフの話が終わった時には既に夕方だった。慌ててクリフは小屋へ戻り、ユーリアはグレイを探したが家に入ったのか、会えなかった。

『兄さんから話、聞けた…?』

彼女を牧場で真っ先に出迎えたのはブラウン。

「うん。」

『兄さん、何があったの?』

ブラウンは尋ねるが、ユーリアは言わなかった。

「お兄さんを心配する気持ちはよく分かってるけど、これはクリフとグレイの問題だから、ね?」

ユーリアの言葉にブラウンも納得した。

『でも、グレイは兄さんとこんな風に話は出来ないんだよね。』

「うん、だから明日グレイ君をちょっと怒ってくるよ。」


「や、おはよう。」

次の日、月山のふもと。ユーリアに声をかけられたグレイは心底嫌そうな顔をした。

「ちょっとお話しよっか。」

ユーリアは笑顔でそう言ったがグレイはそれを無視し、その場を去ろうとしたが、それは叶わなかった。

まずユーリアは今やレベル3のハンマーで力いっぱい地面を殴り、ヒビを入れた。

グレイはそこにけつまずいたもののすぐに体制を整えようとしたが既に目の前にはユーリアが立ちはだかり、再び笑顔で

「ちょっとお話しよっか。」

と言ったので、グレイは渋々その場に残った。

(ちなみにユーリアはその後ちゃんとヒビを直した。)

「私ね、昨日馬の方のクリフと話したんだけどさ、あの子、ちょっと気になること言ってて。」

依然グレイは黙ったままでいるが、ユーリアは続ける。

「“グレイに謝りたい”って。」

グレイの眉が、一瞬ぴくりと動いた。

「何を謝りたいって思ってるのか分かる?」

「……………。」

どうやら考えているらしいが、グレイは何も言わない。ユーリアは溜め息をつく。

「自分の不注意でグレイ君を傷付けたんだって、あの子言ってたの。あの日以降グレイが笑わなくなったのは自分から落ちたからで、それは全部自分が悪いんだって。ごめんなさいって伝えてって、私言われた。」

グレイは相変わらず黙ったままだが、ユーリアの言葉ひとつひとつに確かに反応している。

ユーリアはと言うと最初の笑顔は既に作っておらず、グレイを睨んでいる。

「ここまで聞いた感想は?」

普段のユーリアからは想像出来ないほど、その声は冷たい。さすがのグレイもはっきりと驚きを顔に出した。

「……あ、」

グレイがようやく口にした言葉は、ユーリアが期待していた種のものではなかった。

「……お前には関係無い。」

その言葉に、とうとうユーリアはブチ切れた。

「誰がそんな事を言えと言ったの!」

ユーリアは後ろの木を思いっ切り殴り、怒鳴った。

「グレるのは勝手だけど、クリフの気持ち考えた事あるの!?あの子だって辛いんだ、あんたが馬に乗れないように、あの子だってもう一番好きなあんたを乗せて走れない!」

それはクリフから直接聞いたわけではないが、容易に察することの出来る彼の気持ちだった。

「クリフはずっとずっと、あんたに謝りたいって思ってた!自分が全部悪いんだって!新米の私に言われたかないだろうけどね、 馬にこんな思いさせて、あんたそれでも牧場の息子!?それでもあの子のパートナー!?」

クリフがあの日以来元気が無いのは勿論グレイも気付いていた。

しかしそこまで思い詰めていたことには今の今まで気付かなかった。

「……俺だ、謝るのは。」

――少し考えれば分かるのにな。

グレイの言葉を聞いたユーリアは再び笑顔になり、「よし!」と頷いた。


7 草競馬

「いー天気!草競馬日和だね!」

今日は秋の草競馬。春の時にはまだ仔馬だったため参加出来なかったブラウンは、今回が初参加となる。

「じゃ、行ってくるね、みんな!吉報待っといて!」

『行ってらっしゃーい。』

ユーリアは留守番をする動物達に手を振り、出掛けていった。

「あ、ユーリアちゃん。」

先に来ていた友人たちが、ユーリアに気付いて「こっちこっち。」と声をかけた。

「おはよ、みんな。早いねー。」

「私たちは朝ご飯食べたらもうここに来る以外やること無いのよ。」

そう言ったのはカレン。

「なるほどね。」

「ブラウンの調子はどう?」

マリーが尋ねた。

「ん、いつも通り問題なし!頑張るよ!」

「頑張れ〜!」


ブラウンとユーリアの出番は第2レース。クリフと同じ。

『あ、兄さん。』

「本当だ。」

偶然にも、2頭のスタート位置は隣同士だった。

『ユーリアさん、ブラウン。』

「おはよう。調子はどう?」

『絶好調です。今日は思い切り走りますよ。』

『僕だって負けないよ。ね、ユーリア。』

本当に元気になったクリフの様子を見て、ユーリアは笑って頷いた。


スタートの合図が鳴るやいなや、6頭の馬が一斉に走り出した。すぐにクリフが他の馬より前に出る。

「なんか良いことあったのかい?グレイ。」

懸命に走る相方の姿を見ているグレイに話しかけたのはリック。

「…は?」

「だって、今日のグレイは何だか機嫌いいからさ。」

あの事故以来、グレイは草競馬のたびに沈んでいたことをリックはよく覚えている。

「……いや、別に普通だろう?」

「グレイが2語文以上の返事してくれるのって、機嫌がいいって証拠なんだけど。」

「………。」

(結局、あの子に僕の助言は要らなかったみたいだね。)

勘のいいリックはグレイの上機嫌の理由を理解した。

「僕もユーリアと仲直りしないと。」

リックの耳に、レース結果のアナウンスが聞こえてきた。


「悔しいー!」

『くやしー!』

1位はクリフ、ブラウンは4位だった。

「また来年もあるよ、ユーリアちゃん。」

「そうよ、ビリじゃ無かったからそれだけでも凄いじゃないのよ。」

ポプリとカレンが励ます。

「……そうだね。来年の春に向けてまた頑張る!」

「さすが、立ち直りが早いね。」

すっくと立ち上がったユーリアの目の前にリックが来た。

「仲直り出来たんだね、グレイと。」

「リック。」

喧嘩をした日以来、二人は話をしていなかった。

「……うん。」

顔を合わせ辛いのか、ユーリアは目を逸らした。

「……僕の作戦、上手くいったね。」

「はい?」

怪訝な顔になったユーリアに対し、リックは笑顔だ。

「ああやって君を怒らせる事でかえって君がやる気を出せるよう促したんだよ。」

ユーリアはぽかんとしたがすぐに吹き出し、

「…うっそだぁ。」と言った。

「本当本当。」

「絶対嘘!そんな作戦立てれないでしょ。」

「何、僕の頭の良さを知らないの?」

いつの間にかいつもの調子に戻っていた。リックとも無事仲直り出来たユーリアの長い秋が終わろうとしていた。


グレイイベント(妄想)でしたー。次はクリフかな?

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