彼女が花の芽にやってきた!

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第五章 2年目春の月

1 新しい年

「おにいちゃん、これなあに?」

「これはね、しおれたお花をもとにもどすきかい!」

「えーっ、すごーい!やってやって!」

「よーし。」

お花を機械に入れて、黒い煙が出て来て、それから……それから………?


たろおの鳴き声で目が覚めた。

「……久しぶりに見たな、お兄ちゃんの夢……。」

正直なところ、ユーリアはこの町で暮らす目的の一つだった“お兄ちゃん探し”を忘れていた。

お兄ちゃんどうこうよりも、この町でみんなとこのまま暮らしたいという思いが強くなり、

そのためにはどうすればいいのかと最近はよく考えている。

……が、これといった名案は思い浮かばず、彼女の牧場生活は二年目に入ろうとしていた。


「おーい、ユーリア!」

ユーリアが家の外に出たと同時に、リックが牧場にやって来た。

両腕には何やら大きい機械を抱えている。

「リック、あけましておめでとう。……それ何?」

「よくぞ聞いてくれた。昨日やっと完成したんだ!」

晴れやかな笑顔でそう言うリック。

「これぞ大発明3号、物質移動装置!」

「はい?」

「このくぼみに物を乗せるだろ、スイッチを押すとこっちの機械に移動するんだ!」

「へえ、すごいじゃん。」

素直に感心するユーリア。

「実験台になってくれない?」

「嫌。」

だが断った。

「あー、やっぱり?じゃあとりあえずこの野菜で試してみるね。」

そう言い、リックはポケットからミニトマトを出した。

「……それ、この間あたしがおすそ分けしたやつよね。」

複雑な表情をしながらも、ユーリアはリックが機械にトマトをセットする様子を真剣に見る。

「はい、スイッチオン!」

ブオ………ンという小さな機械音と共にトマトの姿が消え……隣の機械に凍った状態で現れた。

少しの沈黙。

「……これ……。」

「あれ?おかしいな……。原因を調べて改良しないと。じゃあ、僕はこれで。」

よいしょっと言い、リックは物質移動装置を抱える。

「重そうだね。一つ持とうか?」

リックはユーリアが見た目に似合わず力持ちなのをよく知っているため、「じゃあ頼むよ。」と言った。


「昨日完成したって、昨日たしか普通にみんなと年越ししたよね。いつ作ってたの?」

「もちろん、昼間。」

「……忙しい年末年始に機械いじりって、リックらしいというかなんというか。」

「いいんだよ、他にする事も特にないし。」

ははは、とリックは笑う。

「まったく呑気だなー、リックは。」

口ではそう言うが、ユーリアにはその呑気さがなぜか心落ち着く。

呑気になれるということはこの町が平和で、都のようなストレスや競争心、苛立ちが存在しないから。

「あ、そういえば新年祭って何時からだったっけ?」

「12時だけど?」

「そろそろ始まっちゃう!急ごう、リック!」

物質移動装置を床に置き(もっと慎重に扱えとリックに怒られた)、ユーリアは駆け出す。

「あ、ちょっと待ってユーリア。」

「何?」

「遅くなったけど、明けましておめでとう。今年もよろしくね。」

「……うん!」


2 酒場の夜

「おーい、カレンー?」

「にゃによぉ、ユーリアぁ。ヘンな顔ぉ〜。」

「こら、酔っ払い!」

「す、すいませんっユーリアさん!」

なぜカレンがこんなにも酔っ払っているか。

それは先日の新年祭でユーリアが意外と酒が強いことが発覚し、

「飲み比べしない?」と、軽い気持ちでカレンの方から誘ったのがきっかけ。

ユーリアは渋ったが、飲み代は奢るから、と言われて付き合った。

今2人のテーブルには、大量のジョッキやらワイングラスやらが置いてある。もちろん、空で。

「にゃんであんた、子供のクセに酒豪なのよ〜。」

カレンは酔うとタチが悪い。

「子供じゃない!二十歳超えて半年近くは経ってるんだから。」

カレンも酒の強さには自信がある(でなきゃ最初からこんな勝負はしていない)が、

彼女と同じ量の酒を飲んだはずのユーリアはほんのり頬が赤い程度で、素面とほとんど変わらない。

「カレンお嬢さん、帰りましょうよ……あ。」

審判として同席させられていたカイが、カレンに水を差し出しながら言ったが。

「カレン、寝ちゃったよ。」

一瞬にして熟睡する大の大人をユーリアは初めて見た。

「こら、起きてー。カイさん困ってるでしょー。」

「あ、いいッスよユーリアさん。寝かしてあげて下さい。」

カイはそう言って、軽々とカレンを抱き上げた。

「じゃあ、失礼します。お騒がせしてすいませんっした。」

「おやすみ、気を付けてね。」

カレンを起こさないようにカイはそうっと酒場を出る。

その仕方や彼の表情には、カレンに対する優しい想いがよく現れている。

「あんたこそ大丈夫なのか?」

テーブルの上を片付けながら酒場の主人――デュークは尋ねる。

「全然大丈夫ですよ〜。なんでこんなに強いんでしょうね、長年飲んでるワケでもないのに。」

「そうか、そういえばあんたの母さんもそんな人だったな。」

「……そうなんですか。」

――まさかこの人から、お母さんの話が出るなんて。

それを全く予想していなかった訳ではない。

しかし、取り留めのない日常会話の中であっさりと出て来たので、少し驚いた。

「ああ、あいつは無類の酒好きだったな。新年祭でも必ず最後まで残ってて、俺やゴッツなんかと勝負してたな。」

「そうなんですか、誰が勝ってたんですか?」

「まちまちだな。前回勝った奴が次はダメダメだったり、3人一緒に潰れたり。」

「あははっ。」

デュークから語られるシンシアは、ユーリアの記憶に残っている彼女の姿とは少し違っていて。

でも、その“違い”に不思議と違和感はない。

「あ、カレンってばバッグ忘れてる!」

「そこらに置いとけば大丈夫だ。明日の夜には取りに来るだろ。」

「はーい。」

「しかしあれだな、あいつらが恋人同士になるとは。」

「本当ですよね。」

そう。

カイとカレンは、つい最近付き合い始めた。

カイがカレンをこれからも支えていきたいと告白をし、カレンが(憎まれ口をたたきながらも)頷いたのだ。

「尻に敷かれるだろうな。」

「いいんじゃないですか、そういうのも。」

「……まあ、そうだな。とにかく幸せになってほしいものだ。」

“幸せ”という単語に、思わずユーリアは片付けの手をとめる。

デュークは彼女の方を見て、付け加えた。

「……あんたもな。」

――どんな想いで、それを願うんだろう。

体の奥から湧き出る感情をユーリアは必死に抑え、一言「はい。」と言った。


ユーリアがこの町の人間でいること。父親側につかないこと。

そして、幸せになること。

それが彼女の願いであるとともに、微かな罪滅ぼし。


3 オルゴール

「あれ? 何だろう、この紙。」

春の割に強い日差しにうんざりしていたユーリアが、牧場の端にある大きな木の陰で休憩しようと腰を下ろした時。

その木のうろに、黄ばんだ紙が入っているのを見つけた。

「何々? いぬごやからまっすぐあるいたところにうめる……ユーリア 5さい……ってあたし?」

どうやら紙をうろに入れたのは他の誰でもない、15年前のユーリアらしい。

「よく15年も入ったまま無事だったなあ。何埋めたんだっけ……。」

しばらく考えたが、思い出せない。

「……掘っちゃえ。」

土に分解されていなければ、きっとこの紙が示す場所に“それ”は埋まっているのだろう。

実際に犬小屋から指示通り歩き、鍬でそっと土を掘り返す。

「あ……。」

土から出て来たそれを見て思い出した。

15年前の夏、ユーリアがここを離れて家に帰る前日。

「これ、あげるね。オルゴールって言うんだ。音楽が流れるよ。」

「ありがとう、おにいちゃん!」

“お兄ちゃん”から貰ったオルゴール。

家に持って帰ろうと思ったが、なぜか自分とお兄ちゃんだけの秘密にしたかった。

幼心に、優しいお兄ちゃんとの優しい思い出を、この場所に置いておきたかった。

考えた末こっそり土に埋め、その場所を忘れても大丈夫なように紙に書いた。

「でも、さすがに壊れてるよねぇ……。」

オルゴールはすっかり錆び、うんともすんとも言わない。

「……ダメ元で頼んでみようか。」

ユーリアはオルゴールをリュックに入れ、リックの店へ向かった。


「ああ、多分直せると思うよ。」

「え、本当!?」

「うん。」

半分諦めていたユーリアだったが、リックは意外な返事をした。

「まず泥を払って、油を差して、この辺をこうやって……。」

慣れた手つきでリックはオルゴールをいじる。

「……はい、蓋開けてみて。」

「う、うん。」

キイ、という小さな音の後、オルゴールは綺麗なメロディーを奏ではじめた。

「う…うわぁ! すごい、直った! リック天才!」

「それほどでも。」

「本当にありがとう!」

ユーリアは笑顔で礼を言った。

リックの顔が、心なしか赤くなる。

「……あのさ、ユーリア。そのオルゴールってどこで手に入れたの?」

「これ? 昔ここに来たときにいっぱい遊んでくれたお兄ちゃんがくれたの。」

「……そう。」

「うん…あ、この曲“月の下でおどろう”じゃない?」

オルゴールの復活を喜ぶユーリアの横で、リックは難しい顔をしている。

「……あのさ、ユーリア。そのオルゴールは……。」

「ん? 何?」

「……なんでもない。」

煮え切らないリックの様子をユーリアは少し変だなと思ったが、

特に気にせずオルゴールを開けたり閉めたりして遊んでいた。


4 リックの過去

――最後のネジが、どうしても回せない。

ユーリアが花の芽に来る数年前、リックは遠く離れた町で両親と共に暮らしていた。

その町で生まれ育った父親と花の芽出身の母親との3人暮らし。

姉と兄もいるが、2人とも成人して家を出ている。

その地方の子供は成人したら親元を離れ、自立して暮らすのが一般的だった。(ただし結婚したら親元に戻る例も少なくない。)

そして、リックも成人を迎えようとしていた。


「リックはこれからどうするの?」

「ラカ。」

近所に住むラカは学校に通っていた頃からの友人で、彼女でもある。

「まだ決めてないんだよねぇ。一応希望はあるけど。」

「どんな?」

「とりあえず、機械に関わる仕事かな。」

「ああ、リック機械いじりとか好きだもんね。じゃあA社とか、D社とか? 探せばいっぱいあるわよ。」

ラカはそう言ったが、リックはあまり企業では働きたくなかった。

人に言われた物を作るよりも自分が作ってみたい物を試行錯誤しながら作る方が、自分に向いてると知っていたから。

「ラカは決まったの? この間面接受けてたやつ。」

「ああ、あれ? ダメだった。不況だからどこも厳しいわね。」

「そうか……。」

「だからっ! リックも早く就活しないと大変よ。」

「んー……。」


「決めたよ、ラカ。」

それから1ヶ月後のこと。

「わぁ、決まったの? 就職!」

リックは首を横に振った。ラカは怪訝な顔になる。

「花の芽町に行くことにしたんだ。」

「花の芽町……って確か、リックが昔ちょっと住んでたっていう?」

「そう、母さんの田舎で伯父一家が暮らしてる。この間久しぶりに行ったんだけど、やっぱり僕は田舎で自分の好きにのんびり物作りをしていく方が合ってるかなあって。」

「……ふうん、そう……。」

「それで、さ。ラカもまだ決まってないんだったら……一緒に行かない?」

「え………。」

それはほとんどプロポーズを意味している。

「で、でも……食べていけるの? そんな生活。」

「何とかなるよ。」

「田舎なんて大変じゃない、何もないし、不便だし…その上そんな暮らし………。」

ラカはリックを引き止めようと思ったが、彼は一度決めたらそれを変えない性格だと言うことは知っていた。

「……ごめん、リック。私はそんな生活、無理。あなたには、ついて行けない………。」

「……そっか、分かった。」

リックとラカがその後会うことはなかった。


「リック?」

「…あ、ユーリア?」

突然のユーリアの声で、リックは我に返った。

「どうしたの? ボーっとして。しかもこんな夜に外にいるなんて、珍しい。」

「はは、ちょっとね。昔のことを思い出していたんだ。」

「へえ、昔のことって?」

「……内緒。」

「えー、気になる!」

――あの日みたいに、彼女にそうしたように、最後のねじを回したら。

君は今みたいに笑ってくれるのかな?


5 お見舞い

「リック、いるー………って、あれ?」

ユーリアはカレンダー付の時計を確認した。

月曜日、午前11時。“リックの店”の営業時間なはずなのに、鍵が閉まっている。

「留守? まったく、サボリ魔なんだから。」

しょうがないから出直そう、とユーリアが帰りかけたその時。

「あー、ユーリアちゃん。」

「ランちゃん。」

何かの包みを持ったランが丁度通りを歩いてきた。

「ユーリアちゃんもリックのお見舞い?」

「へ? お見舞い?」

「あれ、違うの? リック、夕べから風邪引いてるんだって。今日お兄ちゃんと飲む約束してたけど無理そうだって、さっき連絡来たんだ。」

「そうなんだ。」

うん、と頷き、ランはカチリとドアの鍵を開けた。(おそらく合い鍵だろう)

「じゃああたしもお見舞いしようっと。なんか心配だし。」

「オッケー。」

ユーリアとランは2人揃って二階のリックの部屋へ上がっていった。


「リックー、生きてる?」

「うわ、暑! なんで換気してないの!?」

「あ、ランちゃん……ユーリアも。」

「お見舞い来たよ! はいコレ、父さん特製粥。それと伝言、ちょっとは健康的な生活をしろだって。」

テーブルの上にある紙切れを適当に払いのけて、ランは紙袋を置く。

「ありがと……後で食べるよ。おじさんにもお礼言っといて。」

「はいはい。」

「リック、私牛乳持ってきたけど……治ってからのがいいかもね。とりあえず冷蔵庫入れとくよ。」

「ありがとう……。」

「ごめんね、風邪引いてるって知ってたら他のモノ持ってきたんだけど。」

「そういえば、ユーリアちゃん、リックに何か用事あったの?」

ランが尋ねた。

「あ、うん。オルゴール直してもらったから、お礼しに来たんだ。」

「へえ、オルゴール?」

うんこれ、とユーリアはリュックからオルゴールを取り出した。

「わあ、古いけど可愛いね……あれ、これって……。」

ランはリックの方をちらっと見、何かに気付いた。

「ランちゃん? リック?」

何故かにんまり笑ったランとすっかり黙ってしまったリックを交互に見るユーリア。

「じゃあ、あたしそろそろ帰るね。牧草刈んないとだし。」

「……うん、ありがとう。」

「じゃああたしも帰ろうかな…。」

ランと一緒に立ち上がりかけたユーリア。だが。

「ユーリアちゃんはまだいなよ。なんかリックが話あるみたいだよ。」

「へ?」

じゃあまたね、とランは帰っていった。

「リック、話って?」

「あ、いやその……。」

――そういえば、前酔ったときランちゃんに話したんだ、オルゴールやユーリアの事を。

「お……オルゴールの調子はどう?」

「ああ、その事? うん、ばっちりだよ。本当にありがとう! リックがいてくれて助かった。」

“助かった”。

何気ないその言葉が、リックの心に優しく響いた。

「ねえ、ユーリア。もしも話……していい?」

「へ? うん、いいけど。」

「もしも、だよ。君に大好きな恋人がいたとする。その恋人は趣味を仕事にしている人で、あまり収入は無いんだ。」

「ふんふん。」

「で、その人にプロポーズされた。受ければ貧乏間違いナシ。ユーリアならどうする?」

かつてのリックの恋人は受けなかった。

ユーリアもそう答えたら、「だよねー。」なんて言って、友人を続けよう……と考えながら、リックは答えを待つ。

「あ、受けるよ。」

ユーリアが答えを出すのに時間はかからなかった。

「だって、お金とかより大好きな人と一緒にいられる方がいいじゃない。」

ユーリアは言った。

――この子は彼女とは違う。

分かった瞬間、リックの心の枷がかしゃん、と外れた。

「……ユーリア。」

「ん?」

「……僕は、君が好きなんだ。」


6 ほんとの心

――僕は、君が好きなんだ。

という、リックの告白から早3日。

『ユーリア、暗〜い。』

「悩んでるの。」

リックとはお互い遠慮なく憎まれ口を叩ける存在。

悩みや愚痴を聞いてもらった事もあって、友人でもあり兄のような存在でもある。

(兄……。)

――そういえば、“お兄ちゃん”もそうだった。

当時は苦手だった虫やヘビで意地悪されたこともあったが、いつも一緒に遊んでくれた。

母親のことで泣きじゃくったユーリアの話を聞いてくれた。

大して使えもしない道具を発明した事もあった。

………リックのように。

「お兄ちゃんって…リックなのかな……ああダメだ、また混乱してきた。」

童顔なため美少女なのにもかかわらず、告白されたことがないユーリア(ロキは別だが)。

当然恋愛偏差値も低く、戸惑うのも無理はない。

『ね、ユーリア。』

「何? キナコ。」

『ワタシは牛だからユーリアの話を聞くことは出来るけど、人間の恋愛は分かんないから、アドバイスとかは出来ないの。』

「……うん。」

『だから他の人に相談した方がアドバイスとかもらえるし、いいと思うよ。友達いるんだし。』

「そうだね…。話聞いてくれてありがと。」


「告白された!?」

「リック君に?」

「しーっ、しーっ!」

ユーリアが一番に足を伸ばしたのは月山。

釣りをしていたエリィといつもの定位置――木こり小屋の前でぼんやりしていたカレンを捕まえ、事情を話した。

「あんた婚約者いなかった?」

「あ…あれは、ロキは親同士が決めただけだよ。」

「そう……やっぱりリック君、ユーリアちゃんが好きだったのね。」

「エリィちゃん、知ってたの?」

驚くユーリアにエリィはまあね、と頷いた。

「リック君、前まで何となく近寄り難いイメージがあったの。ほら、あまり家の外に出ないでしょう? かと思えば夜に一人外でぼんやりしてたり……。」

「あー、確かに。」

「だけどユーリアちゃんとはすごく仲良く話してて、町のお祭りとかにもいっぱい出るようになったから。」

「…そうなんだ。」

「で? 何て返事する気?」

カレンが腕組みをしながら尋ねた。

「それ迷ってて……ていうか、私自身がリックの事どう思ってんのか分かんなくて。」

「難しい問題ね、確かに。」

「今までずっと友達みたいなお兄ちゃんみたいな感じだったから、いきなり言われてびっくりしたし…。」

「分かる、その気持ち。」

「カレン……。」

「だから、あんたにアドバイスあげる。滅多に無い大サービスなんだからね、ありがたく思いなさいよ。」

「はいっ!」

確かにカレンのアドバイスなんて貴重だ。ユーリアは思わずぴしっと姿勢を正した。

「想像しなさい。リックがもしもあんた以外の人と結婚したら、どう感じる?」

「あたし以外の人と……。」

「それか、あんたがもしも例のイトコと結婚する事になったら? 素直に結婚しちゃう?」

―――リックが他の誰かと結婚したら、寂しいと思う。

ロキとあたしが結婚する事になったら、あたしは多分リックの事を考える。

カレンの質問はユーリアが自分の心と向き合うのに十分役立って。

「………あたし、リックの事好きなのかも……。」

みんなと花の芽で暮らしたい。

誰一人欠けてほしくないが、特にリックに隣にいてほしいと思う。

(言わなきゃ。)

昔と今までのお礼、それと、告白の返事。


7 リックとユーリア

「リック!」

リックの店が定休日の今日、彼は店ではなく広場にいた。

「ユーリア。」

「やっぱりここにいた……。あのね、リック。」

「うん。」

リックの方もユーリアが何故今自分に声をかけたのか分かっているのだろう、表情に緊張が走った。

「その……聞いてほしいの。」

ユーリアはリックにされた告白の返事をするだけなのだが、やはり緊張している。

「その……っ、この間、い、言ってくれたこと。」

――あー、やばい。私今すっごいどきどきしてる。

ユーリアは落ち着くため、深呼吸した。

――伝えたい。お礼と私の気持ちを、今目の前にいるこの人に。

―――がんばれ。私。

「私がここに来てからリックはいっぱい話聞いてくれた。からかわれる事も多かったけど、それでも感謝してるの。
でね、リックがもし私以外の女の子に好きって言ったり言われたりしたら、私すごくイヤだなって思った。」

ゆっくり、でもきちんと話す。気持ちがしっかり伝わるように。

「私は、ちょっと意地悪だけどすごく優しいリックの事が好きなの。」

――言えた!

ユーリアの言葉を聞いたリックは一瞬驚きそして、――安心したような笑顔になった。

「……よかった〜……ありがとう、ユーリア。僕今、めちゃくちゃ嬉しい。」

「……うん、私も。」


「そういやさ、ユーリア。あのオルゴール……。」

「ん? これのこと?」

日が陰り寒くなってきたが、二人はまだ広場にいる。

「そう。それをくれた人の事って覚えてない?」

「覚えてるよ、意地悪だけど優しいお兄ちゃん。ね、間違ってたらごめんね。これくれたのってリック?」

「……あ、うん、まあ。気付いてたんだ。」

「気付いてたっていうか、そうかなって思った程度だけど。そうそう、それもお礼言いたかったの。あの頃私と遊んでくれたのリックだけだったから、とっても嬉しかった。」

「……そっか。うん。………僕も楽しかったよ、あの頃。」


晴れて恋人同士となった二人の間に流れる、優しい空気。

ユーリアがこれから超えなければならない壁の存在を思い出したのは、

「ロキ………。」

家に帰って郵便ポストの手紙を見つけた時だった。


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