誰か罰して、罵って。
あの人を好きだと思ってしまう私を。
誰か私に気付かせて。
女に戻りたいと思うなんて、それだけで罪なのだと。
「あの、すいません!」
「ん?」
明らかに自分へ向けられた声にが振り向けば、そこにいるのは小さな少女。
「あの、お兄さん“忍術学園”ってどこか分かりますか?」
「ん? ああ…。お前は学園の関係者なのかな?」
相手が幼子でも、敵に利用されてスパイとなっている場合が無いわけではない。
「あ、あたしは四年生の武庫靜の妹で、武庫遙といいます! お姉ちゃんが前家に帰ってきたときの忘れ物を届けたくて……。」
武庫靜とはも何度か話した事がある。
「そうか。なら一緒に行くか。私も学園に行くところなんだ。」
「はい!」
幼い遙を見ながら、はそういえば、と思い出した。
(昔、似たことがあったっけ……。)
まだが遙くらいの年の頃に出会った、一つ上の少年。
忍術学園に入学する日に道が分からなくなっていたのを、が途中まで一緒に行った。
(今、どうしているんだろう。)
学園を辞めていなければ六年生。
顔も思い出せないが、ひょっとしたら出会っているかもしれない。
――最も、その時はまだ女の子だったので、たとえ向こうが覚えていても気付かないだろうが。
「大丈夫か? 遙ちゃん。もう少しだからな。」
「はい!」
学園の門が見えたと同時に、靜がそこから出て来るのも見えた。
「お姉ちゃん!」
姉の姿を見つけ、遙はたっと駆け出した。
「あれ、遙!」
「はいこれ、忘れていたでしょ?」
「あ、やっぱり家にあったのね……ありがとう。よく一人で来れたわね。」
「あのね、あのお兄ちゃんが連れてきてくれたんだ。」
そこで初めて靜はの姿を見、ぽっと頬を赤らめた。
「先輩……! あ、ありがとうございます!」
「いや、私は一緒に来ただけだから。じゃあな、武庫さんに遙ちゃん。」
「、帰ったのか?」
「留先輩。ただいま帰りました、はい買ってきた釘。」
「おお、助かったよ。ありがとうな。」
留三郎はそう言っての頭を撫でた。今まで幾度も繰り返された行為。
「…もー、留先輩! 私は一年生じゃないんですから。」
子供扱いに怒ったふりをして、温かいその手から逃れた。
そうしないと、とっくに葬った筈の“女の自分”が、また蘇り、主張をする。
「はは、悪い悪い。」
「って、悪いと思ってねーでしょ!」
とう! と、留三郎の体を叩く真似をする。
自分は男だと、繰り返し言い聞かせながら。
「つまりは、は女に戻りたいと思っている……と?」
「ええ、兄様。」
所変わって、忍術学園から離れた小さな茶店。
小声で話しているのはと彼女に少し似ている美女……に変装している彼女の兄。
運良く仕事明けの彼を捕まえたは、昔からこの兄が自分とを一番可愛がってくれていることから、思い切って相談している。
「もちろんが言ったわけじゃ無いけど、私には分かるの。」
それは双子としての勘か、それとも忍者としてか、はたまた女の勘か。
とにかくに関して、の勘が外れた事は無い。
「で、はどうしたい?」
「私…私は、に今以上苦しんでほしくない。幸せになってほしいの。」
――似たもの姉妹だな、と兄は思った。
大きくなって、忍術を学んで強くなっても、根本的な部分は変わっていない。
だが彼は、それが悪いとは思わない。
「よく聞け、。世の中には変わらなくて良いものと、変わるべきものがある。忍であっても同じことだ。」
「……兄様。」
「お前の…お前達の好きにしたらいい。尻拭いは私がしてやる。」
「……兄様!」
の目元が潤む。
兄の言葉は、彼女を十分に勇気付けた。
「爺様共も……も、変わることを酷く恐れている。だから、お前はその壁をぶち壊せ。」
「はい。」
――私だけが幸せになることは出来ない。
だからといって、幸せを捨てることは間違いだと、綾部君が言ってくれた。
なら私は、一緒に幸せになれる方法を探す。たとえ、険しい道のりでも。
私は……私も、可能性が一厘でもある限り、諦めたくない。
“姉様”のを。
バックの画像、文字見にくいですね。ごめんなさい;;