――は、女か?
一旦生まれた疑問が消えることはない。本人に確かめるまでは。
「とーめせーんぱーい。」
「……。」
「最近どうしたんですか? スランプ?」
ずずー、と茶をすすりながらは尋ねる。
このところ調子の悪い留三郎を心配しての部屋訪問。
その原因が自分にあろうとはおそらく気付いていない。
「いや、なんて言うか……ていうかバレてたのか。」
「あれだけ不調なら気付きますって。ちなみに私だけじゃなく、作も心配してます。」
「作もか……。」
軽いショックと心配かけて悪いという気持ちが生まれる。
「んで、少しでも元気付けられればって、土産持って来ました。といっても、前先輩がいなかった時しんべヱが持ってきた南蛮菓子の余りですけど。」
「…そうか。」
不調の原因は目の前にいる。部屋の周りには誰もいない。
同室の伊作は保健室に夜まで缶詰めの予定で、それらの意味するところはつまり。
――確かめるなら、今。
「。俺が今から言うこと、勘違いなら笑ってくれ。」
「何ですか、いきなり。」
妙に緊張する。一回だけ深呼吸をし、まっすぐを見る。
もつられて、真剣な表情になる。
「お前、女じゃないのか。」
意表をつかれた。
混乱する心を必死で抑える。動揺を感づかれてはいけない。
「あはは、何ですかそのぶっ飛び発言。もー、何事かと思いましたよ。」
留三郎の言ったとおり、笑い飛ばす。
しかし、直前に生じた一瞬の間を誤魔化すことは出来なかった。
「本当に女なのか?」
「違いますって。女なのはの方。」
「女なんだろ。」
「違います。」
「だったらさっきの、否定するまでの間は何だ。」
「ぶっ飛び発言すぎて言葉が出てきませんでした。」
こんな言葉で誤魔化しきれないことは分かっている。
留三郎の尋ね方はすでに疑心から確信へと変わっている。
「。六年を――俺を舐めるな。伊達に五年一緒にいない。」
――ああ、もう無理だ。
「そうですよ。留先輩の言うとおり、私は女です。」
沈黙が辛い。
留三郎は自分のことをどう思っただろう。
どうしよう、怒っていたら。裏切り者と、嘘つきと言われたら。
自分から何か言うことも留三郎の顔を見ることも出来ず、は畳を見つめる。
「……聞いていいか。何故だ。」
何が、かは聞かなくても分かる。
「……家の女の双子は、不吉なんだそうです。だから、どちらかを殺すか男として扱うかしないといけなくて。」
周りに誰もいないか常に気配を気にしながら、なるべく小声では話す。
「学園に入る少し前、私は男として生きることにしたんです。一族の人間以外は学園長しか知りません。」
「……そう、なのか。」
留三郎はにわかには信じ難い、という表情をしている。
だが、少し考え込んだ後再びを見た彼の表情は、穏やかになっていた。
「留先輩……?」
「お前、頑張っていたんだな。ずっと。男装したまま五年間暮らすなんて、俺なら出来ない。」
ふわり、と留三郎の大きな手のひらがの頭に優しく乗せられる。
――あ、やばい。
の瞳から涙がこぼれた。
「なんだ、泣いてるのか。“男”がそんなんでどうする。」
笑いながら留三郎はの頭をいつものようにくしゃくしゃと撫でる。
「安心しろ、俺は誰にも言ってないし、これからも言わない。ずっとお前は一番の後輩だ。」
それでもの涙は止まらない。
留三郎は緊張していた心が緩んで涙が出たんだと考え、安心出来るようにと頭を撫で続ける。
――違う、違うんです。
泣いているのは、苦しいから。
先輩が優しくて、それがすごく苦しいからです。
優しくされたら好きになる。今よりもっと。
だけど私は女には戻れない。
受け入れられないのも怖いけど、受け入れられても苦しい。
どんなに好きだと思っても、その気持ちが報われることはない。
こんな気持ち、邪魔なのに。捨てたいのに。
ああ、私はいつからこんな救いようのない馬鹿になった。
誰にも言えない苦しみが涙となり、どんどんこぼれ落ちる。
その間のココロを知らない留三郎は、彼女が落ち着けるようにと頭を撫で続けていた。