――私はあの日、女としての私を捨てた。

それがのためになると信じていたから。他の方法なんて分からなかったから。

だけど―――。


第14話 彼らの心配


「えー、ではこれより。」

おほん、とわざとらしく咳払いをし、八左ヱ門は自分の部屋に集まった友人たちの顔を見ながら言う。

「第1回・なんか最近の様子がおかしいと思わないか? 会を始めます。」

いつに無く真剣な面持ちの五人。そんな中、三郎が手を挙げた。

「八……ネーミングセンス、どうにかしようか。」

「……すまん。」


「代表的な“なんかおかしい”出来事としては、この間のあれか。」

“あれ”とはもちろん、喜八郎との言い争いの後彼らの目の前で泣きながら“分かんない”とつぶやいたこと。

「あと、変にうなされてたこともあったんだ。な、兵助。」

勘右衛門が発言し、兵助も頷く。

「スランプとかで落ち込んだことはあっても、今回みたいになったことはないよね。」

「いったい何があったってんだ……?」

五人それぞれ考え込む。

「心当たりのある奴……いねーよな。」

誰か一人でも心当たりがあれば、そもそもこんな会は開催されない。

それを分かっているから問いを投げかけた八左ヱ門も最後まで尋ねなかった。

「…なあ、俺思うんだけど。この会、も交えたほうがよくない?」

「あ。」

確かに、のことならに聞くのが一番手っ取り早いし、確実だ。

五人は本日食堂当番をしているはずのの元へ向かった。



――一緒に幸せになりたい。にも、女としての人生を歩んでほしい。

だけど、どうすればそれが叶うんだろう。

「ふー、こんなモンかしらね。ありがとうちゃん、助かったわ。」

「いえ……。」

「どうしたの? 最近あんたたち、元気ないけど。」

「あ、なんでもないです。」

食堂のおばちゃんの気遣いに、は心配かけまいと笑顔で首を振る。

「ただちょっと、難しい課題が出ていて……。“たち”?」

嘘はついていない。課題の内容が忍術ではなく、自分との人生に関するものではあるが。

だが、はおばちゃんの心配の対象が自分ひとりではないことに気づいた。

君も最近元気ないじゃない? 他の五年の子たちも心配しているわよ。」

も……?」

そのとき、どたどたと足音が聞こえてきて、三郎たち五人が顔を出した。

「おーい、!」

「あ、いたいた。」

「おばちゃん、ごめん! ちょっと借りてってもいい? 非常事態なんだ。」

「三郎、雷蔵、兵助、八、勘。」

五人の友人は非常事態という割にそこまで急いでいるようには見えず、息も切らしていない。

毒虫が逃げた、三郎が学園内でいたずら三昧などの普段の非常事態のときとは違う彼らの様子に、は首をかしげる。

「ああ、もう手伝ってもらうことは終わったから大丈夫よ、連れてお行き!」

「ありがと、おばちゃん!」

、俺らの部屋行くぞ!」

「う、うん。」


を交え、第1回・なんか最近の様子がおかしいと思わないか? 会は再開された。

「……そんなわけで、の様子がおかしいのは明らかなのに理由がさっぱり分からないから、を連れてきたんだ。」

「何か心当たりあるか?」

五人からこの状況と最近のの説明を受けたは、それまでのよく分からないといった顔から真剣な表情へと変わった。

「そんなこと言ってたんだ、……。」

「ってことはやっぱりあるんだな? 心当たり。」

「うん……あるよ。」

「何!?」

の言葉に、五人はいっせいに身を乗り出して説明を求めた。――が。

「……ごめん、今は言えない。」

静かに、は言った。

「心配してくれるのはすごくありがたい。だけど、これはと私の問題だから。に元気になってもらうには、私が腹を割ってと話すしかないみたい。」

正直なところ、それでも上手くいくかは彼女も自信がない。

だが、の本当の気持ちを聞き、自分もに本当の気持ちを伝える、それがいまに出来る唯一のこと。

「そうか…なら俺たちの出る幕はないのかな。」

「しょうがないな、ここは妹に任せるか。」

「よく分からないけど頑張ってね、。」

友人たちの信頼と応援が、の背中を押した。

「うん……じゃあ行ってくる。」

「…って、今から? もうすぐ暗くなるし、第一が今どこにいるか分かるの?」

「うん。たぶんあそこだと思う。みんな、教えてくれてありがとね。おかげで自分の勘に少し自信が持てたみたい。」


――と、今度こそ腹を割って話をする。

それが吉と出るか凶と出るか。

それは私たち次第。


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