「……ああ言って送り出したのはいいけど。」

が出て行ったあとの部屋でなんとなく解散せずにいる中、ぽつりとつぶやいてかすかに口の端を上げたのは言わずもがな、三郎。

「気になるな。」

「うん、気になる。」

と、兵助や八左ヱ門も同調する。

「今からこっそり追いかければの後をついて行けるはずだ!」

「待ってよ三郎、二人の問題なんだしここで待っておくべきじゃないの!?」

「何を言う雷蔵、二人の問題だからこそそばで見守ってやるのが友情というもの!」

三郎は立ち上がり、反対派の雷蔵に向かって断言した。もちろんこれには意図がある。

「え…ええ〜、そんな………でも言われてみればそんな気がしてこないこともないようなあるような、ああ〜。」

思わずどっちなんだ、と突っ込みたくなる。雷蔵の弱点、迷い癖がみごとに出た。

「はーい、じゃあ二人を見守りに行くべきだという奴足あげろー。」

おどけた決のとり方だが、無事に(と言っていいのかも微妙だが)過半数の賛成が得られた。


第15話 ココロのほころび


裏裏山の中腹、マラソンコースから大きくそれた人気のない場所。

ここにある小さな洞穴はが忍術学園に入学してすぐのころ見つけた、ふたりだけの秘密基地。

「……やっぱり、ここにいたんだね。」

は洞穴の中でうずくまっていた。向こうを向いているため表情は見えないが、泣いているか泣いていたかのどちらかだろうとは分かっている。

「この洞穴、ずいぶん小さくなっちゃったね。昔は二人で一緒に入れたのに。」

となりに座って話をしたい。だけどそれだけのスペースはなくて、後ろから話しかけることしか出来ない。

「昔もさ、ここでよく泣いていたよね、。授業についていけなかった日もからかわれた日も。この間もやっぱりここだった。」

一人でこっそり泣いていたことをが知っていたのをは言われるまで気づかなかったが、驚きはしなかった。

自分もいつだったかが同じようにして一人泣いている姿を見たことがある。

自分の名を呼んで、ごめんねとつぶやいていたを、本当は知っていた。

自分のせいで逆にが傷ついてしまった事実に薄々気づいていたからこそ、自分の想いを消そうとしたのも手伝って半ば強引に留三郎を薦めたりもした。

“周りが一目置くほどの一心同体、なんでも話せる仲良しの双子” 。

ぴったりくっついていた二人のココロは誰も気づかないくらい密かに離れ、むりにくっつけようとしていびつな形になっている。

、教えてほしいの。の本当の気持ち。」

――本当は女に戻りたいだろうという私の勘は、当たっているの?


――言えたら、に全部言えたら、女だったあのころみたいにすがって泣けたらどんなに楽だろう。

の中でに甘えたい気持ちと、あの夜の大人たちの暗くて真剣な雰囲気や“不吉”という言葉が次々浮かんで、ぐるぐる回る。

言いたい。だけど言ってしまって、その後どうにかなるのか。仮に女に戻れたとしても、ならはどうなるのか。

それを思うと、やはり自分の気持ちは無理にでも隠し通さないといけない――。

水面下の戦いで辛くも勝ったのは、後者の気持ち。

「……何の話?」

あいまいな質問の意図を分かっていながら、分かっていないふりをする。

その態度はを怒らせるための燃料になる。

の左肩を思いっきり引っ張って、無理やり自分のほうを向かせた。

「ばかっ!!」

叫び声と同時に、無意識に涙が流れる。

「ばかよ本当!! も、私もっ…!」

…。」

「私のためにが男になったって知ったときから、悲しくて辛いのよ。いつもいつも私に“幸せを手にして”って言うけど、こんなの幸せには遠すぎる。だっては自分を犠牲にしているようにしか思えない。」

留三郎を“女”の表情で見つめていたその直後、必死に兄であろうとするを、自分がどんな思いで見てきたか。

「不吉がどうこうって気にしているだけじゃなくて、一緒に幸せになれる方法を見つけたいの。二人とも、女の子のままで……!」

忍者であっても人としての幸せを手にしているいい例を、何人も知っている。

最初から自分たちにその権利がないのは納得できない。

諦めていたココロにひとかけらのほころびが出来たとき、そのほころびからは希望と信念がどんどん入ってくる。

二人とも一度は幸せを諦めたのも相手のためを思ったから。ほころびが出来、広がっていったのもやはり相手のことを思っているから。

の瞳も、いつの間にか涙であふれていた。

「……そうだよ。私は、女に戻りたいんだ………!!」

それはにとって勇気ある第一歩。偽りの自分から抜け出したいと言う意思表示。

「や…やっと言ってくれた〜……。」

「だって…しょうがないじゃないか〜!!」


――私もも、本当に馬鹿だ。未熟だ。学んだ忍術をもってしてもこのココロは消せない。

一緒に幸せになれる道が本当にあるかどうかも分からないのに、ついに希望が勝ってしまった。

「…もうさ、ここまできたら頑張るしかないね。」

「うん、二人でね。」

ほっとして、泣き笑いになったのもつかの間。

「………おい。」

? 今の話……。」

「どういうこと?」


「………みんな………。」


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