五年間でさりげなく生まれて、広がってしまったふたりのココロの隙間。

いびつなそれは急には塞げないけど、それでも一歩近付いたと、ほっとしたのもつかの間。


第16話 五年の絆


「……どこから聞いてたの?」

思わぬ場面での友人達の出現に、は戸惑う。

それでもなるべく冷静に対応してこの場を切り抜けようと、は五人に尋ねた。

五人は言いづらそうに顔を見合わせ、やがて恐る恐る口を開いたのは兵助。

「……に“ばかっ”て怒鳴ったところ……。」

………ということは、当然その後の会話も全部聞かれていたのだろう。

「あ、あの。これはね……。」

はこの場に適した言葉を探そうとするが。

。私が自分で言うから。」

しかし、その言葉はの方がよく知っていた。

……。」

「……騙していてごめんな。私、本当は女なんだ。」

これが二回目だからか、それとも一人ではないからか。

留三郎に告げた時と比べると、少し気持ちは落ち着いている。

ましてや、女に戻りたいという意思がはっきりとした今、親友である彼らに隠す理由はない。

「立ち話もなんだから……つっても地べただけど、座れよ。この話、ちょっと長くなるんだ。」

念のため周りの気配を気にしながら、七人はその場に腰掛けた。

「えっと……。、その……。」

勘右衛門がに何かを尋ねようとするものの、彼の口から次の言葉が出て来ない。

“何を”尋ねたいのか、自分達は“何が”知りたいのか頭では分かっているのに、混乱するココロが頭に追いつかない。

「うん。一から説明するよ。」

混乱する五人と対象的には意外な程落ち着いている。

その様子はさっきまで泣いていた“女の子の姿”からは想像出来なくて、は一瞬これは現実かと疑った。

の女の双子は不吉な存在らしいんだ。子供の頃、偶然聞いちゃって。祖父様達が“どちらかを殺さなかった以上、を男として扱うことにする”って言ってて。の方がたくましかったからさ。」

随分前に従兄がに口を滑らせた内容と同じ話だが、直接の口から聞くのはやはり辛いものがある。

「私はそんなの嫌だった。姉として、を守りたかったんだ。」

(身代わり、か……。)

が“私のせい”って言ってたの、そういう事だったのかな……。)

誰かが思ったが口には出さない。全員がしんとしている中、山の音との声だけが聞こえる。

「だけど……限界、みたいだ。私の中に残っていた“女の”が主張するんだ。戻りたいって……。」

いつも暴走しそうだったココロを理性で抑えようとしてたのに、周りの状況がそれを許さなかった。抑えては膨らんで、無理に抑えてはまた膨らんで。

と正面から向き合った――最近はそれすら避けていた――ことで、ついに弾けた。

「女に戻りたい、でも男でいないとって苦しくて……だけどのお陰で女に戻る決心がついた。今までごめんな。」

……。俺、こんな時になんて言ったらいいのか……うーん。」

雷蔵がいつものように頭を抱えて悩みだした。

「いい、いい。受け入れられないのもしょうがないよ。」

「違うんだ、そうじゃなくて。その、俺達は友達だよ。」

驚きや戸惑いはもちろん大きいが、それは怒りや悲しみにはならない。

「驚いたけど、だから。」

雷蔵の言葉に、兵助や勘右衛門、八左ヱ門も頷く。

「みんな………。」

友人達の優しさに触れ、はココロがじんと温かくなるのを感じたが。

「……三郎?」

同時に三郎一人が押し黙っていることに気付き、恐る恐る声をかける。

「事情は分かったけど、納得はいかないな。」

「あ……。」

「ちょっと、三郎。そんな言い方しなくても…。」

「いや、私はこれだけは言っておきたい。。」

普段のおちゃらけた三郎からは想像もつかない真剣な態度に、も背筋を正す。

「嘘を突き通すのも苦しいけど、本当の自分に戻ろうとしても、どうしても傷みが伴うんだ。」

「……うん。」

戻りたい、戻れないと葛藤していた傷み。留三郎に初めて告げた時の傷み。

そんな苦しみが今後何度も襲ってくるのだろう。

「俺達に言ったからには分かってるだろうが、このお人よし集団はお前らにだけ苦しい思いはさせないぞ。」

いつものニヤリとしたいたずらな笑みを浮かべた三郎を見て、、そして残りの四人も笑った。

「そーだぞ、俺達に頼れよ!」

「女の子に戻るには乗り越えないといけないもの、あるんでしょ? 俺達に出来ることがあったら手伝わせて。」

「三郎……みんな。ありがとう。」

、よかったね。私も嬉しい。」

仲間と腹を割って話し、そして笑い合う。

それだけなのに、何故こんなに安心するのだろう。

この先待っている困難も傷みも、なんだって乗り越えられるような気がした。


「……ね、三郎。」

「お?」

『――嘘を突き通すのも苦しい――……』

「………なんでもないや。」

――三郎は、そのままでいるの? ――と尋ねそうになって、やめた。

「なんだよ、変な奴。」

自分の傷みを一緒に乗り越えると言ってくれた三郎の、“三郎自身の傷み”は、想像だけにとどめておく。

「三郎、ー! 早く帰ろうぜ、腹減ったー!!」

「おう、今行く!」

「なあ、学園まで競争しようぜ! 最下位の奴は今度の休日に団子を奢ること!」

「いーな。よし、位置について。」

「まて、は人並み以上に走るのが速いんだからな、俺達はハンデの権利を主張する!」

「ええー、待ってよ八!」

人気のない山に、仲良し七人の笑い声だけが響いていた。


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