「行ってきまーす!!」
「行ってらっしゃい、気をつけてね〜。」
その日、1年は組のよい子達は担任・山田伝蔵に引率され、元気に学園を出発した。
「ただいま戻りました。」
「あ、お帰り〜。」
事務員小松田秀作は、外出していた学園生徒が帰ってきたため出門表の名前を二重線で消した。
「くん帰校、と。オッケー、長屋帰っていいよ〜。」
「はい。」
「大変だったねぇ、早朝から委員長命令で“薪割ってこい”なんて。」
「あはは、まあちょうどいい運動にもなりましたから。」
“”は軽く笑って、忍たま長屋へ帰っていった。
「ただいま〜。」
「お帰り、!」
女子用の忍び装束を着たが、男子用の忍び装束を着たに声をかけた。の一人部屋に、前回会議をしたメンバーが集結している。
「兄様に会えた?」
「うん。」
「小松田さんにバレなかったか?」
「全然疑われなかったよ。」
「な、小松田さんなら余裕って言ったろ?」
仕事が忙しい双子の兄にすぐ会える日は今日の早朝しか無かった。
だが、早朝や深夜の外出は所属委員会の委員長か教師の許可が無ければ不可能。
つまり留三郎がに外出を頼んだ形にする必要があった。
しかしが肝心な時に熱を出し、行き着いた答えが――双子の入れ代わり。
「、具合は?」
「留先輩が薬持ってきてくれたからだいぶマシ。休日だし寝てたら治るよ。」
「、それよりお兄さんは知っていたのか? 城の名前。」
「うん、あのね………」
は懐から巻紙を出した――ちょうどその瞬間。
「留三郎っ! ここにいたのか!」
「伊作?」
勢いよく襖が開き、善法寺伊作が血相を変えて飛び込んで来た。
「みんなも聞いて、大変なんだ。1年は組のきり丸としんべヱが…久洞藻城に捕まったって……。」
「何っ!」
場が一気に騒がしくなった。
「ねえ、久洞藻城って?」
「俺も知らない……。は?」
特にその二人と委員会の先輩後輩でもあると雷蔵が青くなった顔を見合わせる。久洞藻城など、この五年間で聞いたこともない。
「……、雷蔵、みんな……大変。」
「?」
「そこよ、間違いない。私たちのご先祖を潰そうとした城も、久洞藻城なの!」
「ええっ!」
名前を聞いたこともない、情報がまったくない城。大昔に忍者の名門・家を滅ぼそうとした城。
「それでっ現状は! 俺達はいつ動けばいい!?」
伊作の続報を部屋にいる全員が待ち構える。
「それが……。」
「待機だ!!」
伊作の後ろに新たな人影、力強く一喝したその人物は。
「木下鉄丸先生!!」
「職員室の床下におったのはお前か、善法寺!」
「違います、潮江文次郎です! 僕は天井裏です!」
「どっちもどっちだ!」
目の前のやり取りに一同はしばらくぽかんとしていたが、すぐにわれにかえった留三郎が木下先生に詰め寄った。
「先生! 待機ってどういう事ですか!?」
「言葉の通りだ。たまたま信頼出来る忍者が二人近くにいたのでな、山田先生は他の奴の安全のためそいつらに任せてきなさった。」
「信頼出来る忍者って……?」
約半時前、一年は組は山田先生を先頭に裏々山をマラソンしていた。
「もう疲れたよ〜。きり丸〜。」
「泣くな、しんべヱ! あと半分だから。」
「まだ半分なの〜? …ぎゃ!」
涙と鼻水でぐちょぐちょの顔が、きり丸の目線から突然消えた――コケた。
「おーい、しんべヱ?」
「痛いよ〜っ!!」
きり丸はため息をつき、前方で足踏みをしながらこちらの様子を伺う喜三太と兵大夫に声をかけた。
「しんべヱ限界みたいだからさー、俺達少し休んでから行くわ! 悪いけど山田先生に言っといてー!」
「了解ー!」
「きり丸、ありがとう〜。」
「いいってことよ……。」
しんべヱの隣にきり丸が腰を下ろし、辺りに人の気配が無くなった――刹那、後ろから何者かに口を塞がれた。
「―――――!!?」
誰だ。分からないが、敵含め知っている人の雰囲気ではない。逃れようと必死で暴れるが、腹を殴られそれ以上何も出来なくなった。
意識が遠退き目を閉じる寸前、同じ状態のしんべヱが見えた……。
前編。まさかの前編。あれだけ続きを待たしておいて前編。(サイトの更新約1ヶ月ぶり、フタゴコロの更新3ヶ月ちょいぶり。)
一話で終わらすつもりが長くなったので……といっても分けるか分けないか悩む程度の長さではあったのですが。ほら、一話が長いと読むほうが大変かなぁと。
「あとひとつ小説読んだらPC終わってご飯にしよう!」とかね。そんなとき一話が長かったら大変ですよね。踏鞴もよくあります。