くの一の女子達の黄色い声が、忍術学園に響く。
「きゃーっ!見て見て、ゴール地点。一位はやっぱり先輩と先輩の最強ペアよ!」
「さっすがよね、お2人とも忍術は6年生を凌ぐ腕前って言われているし、それに……。」
「美男美女だし!」
ミーハーな彼女らのはしゃぐ声に釣られて、忍たまたちも教室の窓から外を見始めた。
普段なら「こら、お前ら!授業中だぞ!」とチョークを飛ばす教師も、一緒になって外を見る。
「すっごいなあ、本当。」
「見ろよ、みんな。先輩たちがゴールして結構時間経つのに、まだ他の5年生たち帰ってきてないぞ。」
「うーん、さすが名門忍者、一族の人間なだけあるな。」
一方、その頃。
噂の2人は、自分達より一刻ほど遅れてゴールした友人達を、余裕の表情で迎えていた。
「よー、三郎に雷蔵!やっと来たか。」
「2人とも、お疲れさまー。」
友人達――鉢屋三郎と不破雷蔵は悔しそうな表情でとを見る。
と、少し遅れて今度は久々知兵助、竹谷八左ヱ門の2人がゴールした。
「っ、おい! に!」
ゴールしたやいなや、竹谷が2人に向かって叫ぶ。
三郎や雷蔵もそうだがこの2人もゴール直後に疲れ果てて地面に座り込む、という事がない辺りが、
忍者を目指す者の集まる忍術学園の上級生である事を物語っている。
「何?八ったら。」
しれっとした様子では答える。
「おまえら、ハンデって言葉知らないのか?」
「ハンデなんて、私たち忍たまにあっては困るじゃないか。」
「そうそう、忍びの世界はいつだって死と隣り合わせの真剣勝負!」
「そうは言ってもさ、5年間お前ら2人に勝てた事がないんだよ、私たち。つく自信もつかなくなるよ。」
「あ、勘。お帰りー。」
はやっと帰ってきたもう一人の友人、尾浜勘右衛門を出迎える。
「た…ただいま…。」
「話聞けよ!」
兵助を無視して。
今日、5年忍たま・くの一が合同で受けた授業は、
2人1組のペアになって与えられた課題を迅速且つ正確に遂行し、学園に戻ってくる――というもの。
当然、早く戻ってきたら良い成績がつく。
こういった合同の授業でペアを作るとき、とは常に一緒になり、ダントツ1位の成績をおさめていた。
「双子って得だよなー。」
「そうそう、誰よりもお互いの事を分かっているし、2人とも優秀。怖いもの無しじゃないか。」
「卒業したら敵にまわしたくない人間ナンバーワンだな。」
丁度昼食の時間だったので、7人はしゃべりながら食堂へ向かう。
入学以来、クラスはバラバラだがずっとこの7人、仲良く励まし合いすごしてきた。
7人の中で唯一のくの一、には同じくの一の友達も多いし、他の6人と一緒にいる時間が長いわけではない。
だけど、そんな事を感じさせない親友グループである。
「おなか減ったね!今日のお昼ご飯、何かなあ〜。」
「お、この匂いは木綿豆腐!」
「豆腐に匂いなんてあったっけ?」
廊下を曲がると、美味しそうな匂いがし、生徒達の楽しそうな声や食器の音が聞こえる。
食堂まで後5歩………そのとき、事件が起こった。
「いたぞ!」
少年の声が聞こえた次の瞬間、7人の目の前に声の主ともう1人、下級生が現れた。
「作兵衛……それに、会計委員の三木ェ門。」
と同じ用具委員の富松作兵衛、会計委員の田村三木ェ門。
この2人が一緒に自分のもとに来る事がどんな状況を物語っているのか、彼には分かりきっていた。
「30分待ってくれないか?私はこれから昼飯」
「お願いします、先輩!」
「昼飯なんて後でも食べれるでしょう!それどころじゃないんですっ!」
「留先輩と潮江先輩の喧嘩なんて、いつもの事だろうが!」
「いつもより激しいんです〜!」
必死な作兵衛と三木ェ門。だが、も譲らない。
「お前たち、たまには私に頼らず自分達で解決したらどうだ?私はさっきまで授業をしていて、昼休みは後一刻ほどで終わってしまうんだ。」
それは真実だった。後輩2人は“どうしよう”といいそうな顔をし、ついに見かねたが
「じゃあ、の代わりに私が行くよ。くの一教室は今日先生の都合で、午後の授業が休みだから時間に余裕があるし……。」
と言った。するとはすぐに表情を変え、
「駄目だ!に行かせるくらいなら私が行く!作兵衛、三木ェ門!案内しろ!」
「はい!」
と、止めるまもなく2人と一緒に走っていった。
「相変わらずのシスコンだな、お前の兄。」
残された6人は、食堂で昼食をとっている。
「そういえばこの間が山賊に会ったときも、なら山賊5人くらい楽にかわすなり騙すなりして逃げれるのにどこからか出てきて、わざわざ2人掛かりでボッコボコにしてきたんだっけな。“は私が守る!”って。」
「その辺の女とは実力が段違いなのにな。」
下手をすればに「失礼ね!」と殴られそうな台詞だが、竹谷はこれで褒めている。
「の小さいころからの口癖みたいなもんなんだ、私を守るってのは。」
「へえ、子どものころからあんな感じだったんだな。」
「うーん……でも小さいころは、結構弱かった。」
「え!?」
以外の全員が驚き、箸や茶碗や豆腐を落としそうになった。
「本当。小さいころはの遠い分家のお兄ちゃんとかによく“の本家の子の癖に弱虫”って馬鹿にされて。」
「意外だな。」
三郎が呟き、他の4人も頷く。
「そのたびに私、仕返ししてたんだ。それでいつもは“自分が兄なのになさけない”って言ってて。“大きくなったら強くなって、を守る!”って言ってくれたんだ。」
「そうだったのかー。」
「私を追い抜くぐらい強くなったのは、学園に入る半年前ぐらいなんだよ。だから昔のを知ってるのはの人間だけ。」
「へえ……強さの秘訣はシスコンだったのか。」
そのとき、食堂のおばちゃんが6人のもとへ来た。
「あんたたち、仲良し同士でおしゃべりもいいけどもうすぐ時間なんじゃないのかい?」
「うわ、そうだった!」
男子5人はあわてて残っている食事を口に入れ、
「じゃあな、!」
「またね!」
「、間に合うかな…。」
「え、ちょっと待って、ひょっとして厠行く時間もない!?」
「おい、食器片付けていけよ!」
と、次々食堂を出て行った。
「いってらっしゃーい。」
1人になったは、少し寂しそうな顔をして、
「……。」
とつぶやいた。