――わたしがを守る!大きくなったら、ぜったい強くなるんだ!

だってわたしは、の………


第5話 のココロ


「………、!」

自分を必死に呼ぶ声に、急に目が覚めた。

「……へー、すけ……。」

目の前にあったのは、心配そうに自分を覗き込む友人の顔。

、大丈夫か?」

兵助が尋ねる。

「お前、俺の部屋まで聞こえる声でうなされていたぞ。あまりに酷いから、様子見に来たんだ。」

汗びっしょりなの顔をそばにあった手拭いで拭きながら平助は言う。

「具合、悪い?保健室行くか?」

「あ、いや。大丈夫だよ。夢見が悪かったんだ。」

「……そうか。」

あれが夢見程度のうなされ方か……?と平助は思ったが、本人が大丈夫と言ったのでそれ以上は言わない。

「一人で平気か?私、今夜は泊まろうか?」

「大丈夫だよ、本当。もう目は覚めたし。」

には同室者がいない。

人数が奇数の場合、現在は3人部屋となるが今の五年生までは1人部屋となっていた。

そしてがその“余り者”となったのにはある理由があった。


五年前、家の故郷――。

「やーい、悔しかったらここまで来いよー。」

の弱虫ー!」

「やめてよぉ!」

自分より少し大きい少年にからかわれている、と呼ばれる少女。

お気に入りの髪飾りを取られて泣いている。

「こらぁーっ!」

「げっ、だ!」

「あんたたち、またをいじめてるね!こないだなぐったの、もうわすれたか!」

可愛らしい外見に似合わず勇ましいのは、当時9歳の

「何だよ、返せばいいんだろ、返せば!」

少年の1人がの髪飾りを投げ返す。

「けっ!お前ら、本家のヤツだからってナマイキなんだよ!」

のばーか、泣き虫ー!そんなんで忍術学園なんか入れんのか〜?に守ってもらってるクセにー!」

捨て台詞と逃げ足の速さは山賊といじめっ子の必須条件らしい。

、大丈夫?」

「うん。ありがとう、。」

本家は山奥にある。

普通他人はめったに訪れないが、かわりに遠方に住んでいる親戚がたびたび訪れる。

さっきの2人のようなやんちゃな親戚のカモになるのはほとんどだった。

、もう泣かないで大丈夫だよ。」

「う、うん。ごめんね、またに助けてもらっちゃった。」

「気にしないでいいよ。わるいのはあいつらなんだから。」

「わたし、忍術学園に入れないかな…。」

しゅんとする

「そんなことないって!くの一は特に、強さだけが大事なんじゃないし。」

「……でも、やっぱりわたしはもっと強くなりたいな。」

双子とはいえは妹。

そのにいつも守られている自分が、は嫌だった。

「あのね、。わたし、大きくなったら絶対強くなる!そいで、を守るよ。だってわたしは、のお姉ちゃんなんだから!」

の真剣な気持ちを嬉しく思い、は微笑む。

「ありがとう、。楽しみにしてるね。」


今となってはそれが良かったのか分からないが、は弱い代わりに気配を消すのが上手かった。

自然に気配を相手に悟らせず近づく腕前は、時に大人をも唸らせた。

“その夜”は不意に目覚め、隣に寝ているはずの母親がいないことに気付いた。

大人たちが夜中に話をすることは珍しくないと知っている彼女はそのまま寝ようとしたが。

(……なんか、イヤな感じがする。)

に気付かれないようそうっと起き、部屋を出た。


「……どうしても、なのですか?」

「無論。」

明かりがついている部屋には、祖父母に両親、叔父叔母……“大人たち”が集まっている。

は彼らの会話を聞き取ることに集中する。

「“女の双子は不吉”。生まれたときに1人を殺さなかった以上、どちらかをこれからは男として育てなければならぬ。」

――!!

胃袋に突然重い石を無理やり入れられたような感覚。

は危うく声をあげそうになった。

女の双子とは、自分たちのことで。

どちらかを男、とは言わずもがな、自分かのどちらかが、これから男として育てられるということだろう。

(そんなの……嫌だよ!)

に教えようと思ったが、“不吉”の二文字が頭をよぎる。

(不吉って…なんだろう。まさか、死んじゃうとか………?)

は続きを聞くことにした。

「…じゃから、男としてやっていけそうなのはじゃ。明日の夜、に全てを話す。」

―――!!!

今度こそ本気で声を上げそうになった。

がくがくとひざが震える。

大人たちの部屋から少しはなれた縁側で、は必死に頭の中を整理する。

が、男?男として育てられるの?なんで?)

『男としてやっていけそうなのは……』

の方が強いから?わたしは弱いから?)

それしか考えられなかった。

(もし、男になったら、これからずーっと、男として過ごすの?)

もしそうだとしたら、は忍たまとして学園で過ごし、卒業して忍者になって。

結婚も、母親になることもできず、ずっと一人で。

本当は女なのに、男として、死ぬまで―――。

(……そんなのダメだ、絶対に!)


次の日、がそばにいないときを狙っては祖父と両親に訴えた。

「わたしを、男として扱ってください!男にしてください!くの一ではなく、男忍者として強くなりたいのです!」

無理だといわれたが引き下がらない。だって彼女には、他に方法がわからなかった。


――わたしがを守るんだ、絶対――


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