――私とはとっても仲良しの双子の姉妹で。

それが突然“兄妹”になるなんて、誰が予想出来た?


第6話 のココロ


が男になると決めた翌々日、が朝目を覚ますと隣にはいなかった。

(………?)

いつもなら先に起きた方が、寝てる方を起こすのに。

は不思議に思ったが深くは考えず、そのまま起きた。

「あ、母様おはようございます……あれ、は?」

居間にいたのは母親のみ。

食卓にはの分の他に、の分の朝食も手つかずで置いてある。

「おはよう、ならもうすぐ来ると思うわよ。」

「え?」

何かおかしい。

自分は朝起きて着替え、外の井戸で顔を洗い、そしてここへ来た。

だって、毎朝全く同じようにしているはず。

だけどまだ、を見ていない。

――――悪い予感がした。

「母様、はどこ?」

「…だから、もうすぐ……。」

「どこにいるんですっ!」

は既に確信していた。に何かが起こっている。

は母親の止める声も聞かず、部屋を飛び出しを探しに――行こうとした。

「あ。おはよう、。」

……?」

襖の向こうにいた双子の姉は、やはりいつもと違う。

気弱な表情は消え、しっかりとした表情になっている。

自分と同じ肩につく位の髪を地味な色の紐で無造作にくくっている。

そして、やはり地味な色の袴を穿いている。

そう。今のは、多少女顔の少年にしか見えない。

「ど、どうしたの?」

当然、は戸惑う。

「……あのね、。私、男として生きていくことにした。」

「……え?」

「今日から私は、男だよ。」


“今日から男”

その言葉通り、それ以来は男として過ごしている。

の人間と大川学園長以外には一切女だと知られていない。

に、「くの一じゃなくて男忍者として強くなりたい」と説明し、は無理やり納得こそしたもののショックを受けた。

なぜ一言も相談してくれなかったの、と。

それでも2人はずっと今まで通り、仲良しの双子だった。


だが、三年生の夏休みに宿題をやっていた時のこと。

テーマが“人体”だったので、学園で新野先生の助手をしている従兄のにみてもらっていた。

「……だから、三年生頃から男の体はがっしりしてより男らしく、女の体はふくよかに女らしくなっていく、と。ここまで大丈夫?」

「……ねえ、兄。もほんとは女の子だから、女らしくなっていくんだよね。」

「……うん。まあ、大きめの制服で誤魔化せるよ。大丈夫。」

「……ほんとは女の子なのに。」

や友人達といるときは決して漏らさない、表情にも出さない、の本音。

「なんで、わざわざ男になんて……。」

「こらこら、の代わりにそうしてくれたんだろう? そんな風に言ってはダメだよ。」

―――え?

は耳を疑った。

――今、なんて言った?

「……そ、そういえばそうだっけ?」

どういう事なのか聞くのは怖いが、聞かずにはいられない。

はっきりと聞くのではなく、向こうが喋るように仕向けた。

「そうだよ、女の双子は不吉だからどっちかが男になることになって、最初はの予定だったけど、が………。」

はふっとの表情を見て自分が喋りすぎたことに気が付き口を押さえたが、既に遅かった。

「あ、いや、違………。」

「うそ………。」

は一滴涙を流し、そのまま走って部屋を出た。


のところへ行こうとした訳じゃない。

大人達に文句を言いに行こうとした訳でもない。

ただ、心の混乱を振りほどくように走って走って走って、走った。

「はあっ、はあっ。」

裏山の雑木林でへたり込む。

頭に浮かぶのはさっきの言葉、三年前のこと、普段の

――私のせい?

学園で、クラスの友人達と「何年生の誰々がかっこいい」という会話に花を咲かせる度、「本当ならもここにいたのに」と思った。

男子のキツそうな実技授業や、それを受けた後のへとへとになったを見る度、「本当ならあそこまでしなくてよかったのに」と思った。

心のどこかでいつも、「なぜ男になることを選んだの?」と思っていた。

―――私の、せい? 私のために、身代わりに……ってこと?

「こんな守られ方……嬉しくないよっ………。」

女として男に恋をし、結婚をし、母になる。

誰もが夢見る“普通の幸せ”を、はあの日、の代わりに捨てた。

……、ごめん、ごめんなさい!」

届かない謝罪の言葉を、何度も叫ぶ。

「本当は私だったのに……。」

は(くの一の)普通の女の子として生きることが出来たはずだった。

それが叶わなくなったのは自分を守ったからなのだろう。

一瞬、今からでも間に合うかな、と考えた。

自分が“男の”に、が“女の”になれやしないか、と。

だが、すぐに無理だと気付いた。自分たちは“双子”であって“複写”ではない。

ましてや周りは忍者、すぐにバレてしまう。

が“女の幸せ”を捨ててしまった事実は、どんなにが嘆いても変わらない。

「……私、私もそうすれば……。」

泣きながらふっと浮かんだ考え。

自分も“女の幸せ”を捨てれば、への罪滅ぼしになる。

――そうだ、そうしよう。

恋愛も結婚もせず、のそばで生きていく。

『先輩。』

紫頭の後輩の姿が脳裏に浮かんだが、振り払うようにぶんぶんと首を振った。


――一人置いて、私だけ幸せにはなれないから。


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は忍者に向いてない、絶対。

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