先輩〜。」

「綾部くん……。」

――もう、終わりにしよう。のために……。


第7話 喜八郎のココロ


先輩、今日五年忍たまは校外実習なんですよね。」

「うん。」

「なら安心。さ、デートしましょう。」

相変わらず本気で言ってるのか分からない。

にもかかわらず、は動揺してしまう。

自分の中でぐるぐると渦巻く色んな気持ちに蓋をして、は喜八郎を見た。

「……綾部君。いい加減、そういう冗談は止めてくれないかな。」

――はっきり言わないと、きっと終わりに出来ない。

は喜八郎の無表情が微かに動いたと感じたが、自分は表情を動かさない。

「冗談じゃないですよ。前も言ったじゃないですか。」

喜八郎も負けじとを見る。

「私は先輩が好きです。一人の女性として、ずっと前から。」

――!!

真っ直ぐ、きっぱりと告げられた事によって、は再び動揺する。

「わ、私は……。」

駄目だ、駄目だ駄目だ。

は自分の感情を押さえつけ、無表情を作る。

「……悪いけど、私が綾部くんの気持ちに応えることはないよ。」

「嘘ですよね、それは。」

「嘘じゃないよ。」

「嘘ですよ、私には分かります。」

お互いに一歩も譲らない。

「……なんでそんなに、私に拘るの? ………“あの時”たまたま私がそばにいたからってだけじゃないの?」

その言葉は残酷だと知っていて、は口にした。

こうでもしないと、彼は自分を想い続ける。

想いを断ってほしい。そうすれば、きっと自分も彼への想いを断ち切れる。

「見くびらないで下さい。」

喜八郎は怒ったような声で言った。

「確かに“あの時”先輩がそばにいてくれたのは嬉しかったし、それは大きなきっかけでした。でも、それが全てじゃない。たまたまでも、誰でもよかった訳じゃない。先輩が好きなんですよ。」

普段からは想像つかないほどの饒舌。

それは綾部喜八郎が本気であることの、何よりの証拠。

「……私は貴女を救いたいです。先輩、一昨年の夏休み明け頃から変わりましたよね。悩んでいるように見えます。」

(……そんな所まで、バレていたんだ。)

優秀な忍者一族が聞いて呆れる。は自分の迂闊さを悔やんだ。

「そろそろ教えて下さいません? 先輩は何故、私をそんなに拒むんですか? 私は聞く権利、ありますよね。」

――もう、言うしかない。

「私は、と一緒にいてあげたいだけ。」

喜八郎は怪訝な顔をする。

「……詳しくは話せないけど、は昔、私のためにある“幸せ”を捨てたの。身代わりに……なってくれた。私はそんなを置いて、自分だけ幸せを手にするなんて出来ないの。」

「……そうですか。でもごめんなさい、私はその理由で納得出来ません。」

今度はが怪訝な顔をする番だった。

先輩がそれを望んだんですか? 自分だけ幸せになれないってのは凄く兄思いの先輩らしいです。ですが、そうしたら先輩が身代わりになった意味が無いじゃないですか。身代わり損ですよね。」

自分の放った言葉は彼女にとってかなり痛いだろうと、喜八郎には分かっている。

だが、あえて言った。

多少手荒でも、こうでもしないときっと彼女を救えない。

「私には先輩が必要です。だから、先輩にも私を必要としてほしいです。」

は何も言えず、ただ俯くことしか出来ない。

今までは、自分がとずっと一緒にいることが、への償いだと信じてた。

か細いその信念が、今にも倒れそうになっている。

「……すみません、たくさん言い過ぎました。」

喜八郎は踏鍬を持ち、長家へ帰ろうとしたが、もう一度を見、言った。

「可能性が一厘でもある限り、私は貴女を諦めません。」


「どうして……。」

喜八郎が去った後、は一人涙を流した。

「どうして、こんな私に愛想尽かさないの? 酷いこといっぱい言ったのに……。」

――好きになってしまう。もっといっぱい、好きになってしまう……。


一方喜八郎は、長家の自室でごろんと横になっていた。

――たくさん色々言ったけど、先輩ならきっと大丈夫。

今度は……今度こそは、大事な人を救う。そばにいて、助ける。

――“秋由”の時の二の舞にはしない、決して――


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どシリアスを目指してみた。

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