月は夜ごと海に還り

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(2)



 白い飛沫を飛び散らせ 、ドルフィン号は太陽に向かって上昇する。あっという間に島は見えなくなり、海さえはるかに遠ざかる。
 目に痛い程晴れた空には雲も無く鳥も居ない。疾走する機体の周りには、もはや空しか無い。
ただ距離が近くなった為に一層ぎらぎらしたした太陽が照りつけて、白い機体を巨大な鏡の様に静かに反射させるのみだった。






爆発音が耳を貫く。灰と煙が一面を覆い、閃光が何度も空を割る。
あちこちには黒こげの死体。瓦礫の山が行く手を阻む。

「予想以上にひどいな・・・」
「もうこの辺りは壊滅している。先へ行こう!!」

  爆音がする方へ彼らは走った。
硝煙の匂いがする。遠くからかすかな悲鳴。銃の乱射音。たちこめる煙は視界を奪い、音と003の力だけを頼りにして進んで行く。


「崩れる!!」
「危ない・・・!!」

もはや建物の形をなさず、真っ黒になった壁の残骸がガラガラと音をたてて崩れて来た。

「くそ・・・!」


銃声がした。
真っ赤なレーザー光線が彼らの中心に着弾し、同時に三方に分かれて飛びのく。
どこから打って来るのか分からない。もうもうと土煙が立ちこめた。

「固まるな!敵は煙を盾にして狙って来る。このまま分かれて進め!!」

003が脳内通信で皆に呼び掛ける。
「北東・・・10時の方向・・・約300メートル・・・戦車が3・・4・・5台よ!人々を蹴散らしてる!!」

あちこちで爆音と共に火の手が上がった。
004は片膝をついてロケット弾を打つ姿勢に入った。

「俺はここで援護する !先に行って周り込め。なるべく至近距離での一対一には持ち込むな!囲まれる恐れがある!!」

それから009だけに呼び掛けた。

『いいか、敵の数は多い・・・加速装置はくれぐれも使い過ぎるな・・・行け!後から追い掛ける!!』


 005と008が逃げ回る村人達を誘導する。
村の広場であったであろうそこは巨大な戦車に占拠され、傾き、煤けた十字架が、廃虚と化した建物がかろうじて教会で あることを示している。戦車から放たれる火が容赦無く地面を舐めまわし、積み重なった死体を覆い、付近の家屋を次々と飲み 込んで行く。
 自分達が駆け付けるのと同時に陰から次々とサイボーグマン達が飛び出す。攻撃をかわしながらレイガンを連射し、地鳴りを上げて
彼らを駆逐しようとする戦車に出来るだけ狙いを定める。
 加速装置で2台・・・3台・・・と攻撃し、制御不能に陥った戦車は右往左往しながらサイボーグマン達に自ら突っ込んで爆発、炎 上していった。

「やったぜ、009!!」
空から敵を狙っていた002が叫んだ。

「まだ後ろから来るわ!」

 地響きがする。鉄の兵隊、ロボット兵達の規則正しい歩みの音だった。ギラギラと光るその両手のハサミ、カギ型のナイフ
は、これからさらに続く殺戮の凄惨さを予告していた。
 空中高く、空気の裂けるかん高い音がして、ロボット兵達の集団の真ん中に爆弾が炸裂した。後方から004がロケット弾を打っ たのだ。吹っ飛び、なぎ倒される鉄の兵隊達、それでも残った大部分は一斉に009達に向かって突進して来た。
もうもうとした土煙に視界は曇り、金属が擦れ合う鈍い音が不気味に迫る。

「ばらけるんだ!敵を囲い込め!!」

加速装置で敵の側面に回り込み、レイガンで一機ずつ倒して行く。相手は面白い様にバタバタ倒れていく反面、数が多いので まるで際限なかった。油断をすればすぐに囲まれる。

「009、後ろ!!」

003が叫びに振り向き、加速して飛びのいた。ビュッという音がしてナイフが体すれすれに振り降ろされ、防護服の肩の 部分が薄く切り取られてしまう。さらに容赦なくロボット達は右へ左へと自分を追い詰め、ナイフを振り降ろしてくる。
 自分の後ろにはまだダメージを受けていない戦車が何台か居て、大砲の部分をぐるぐる回転させながら火を吹いている。002は 006を抱えて火には火をと、空から必死で応戦していた。


 ロボット兵達の動きはその武骨な様相に似合わず、かなり俊敏で緻密だった。レイガンで懸命に攻撃するものの、一機倒す内に
別の一機に横から、背後から襲い掛かられ、常に加速していないとすぐ体を切り刻まれそうだ。

『加速装置を使い過ぎるな』

先程004に言われた言葉が頭をよぎる。

──── でも、これじゃあ間に合わない・・・!

 体が疲弊して来たのが自分でも分かった。息が切れ、動作が一拍遅れ気味になり始める。ビュッ、ビュッ、とナイフが至近距離で
空を切る度に、防護服は薄く裂け、顔に細い傷跡を作った。

「009、ここは俺達がやる!先へ進め!まだサイボーグマンが・・・」

005が暴れる戦車を引っくり返して、ロボット兵達の注意を009から逸らさせる。005、008のふたりがようやく村人達の誘導から戻って来たのだ。傍 から見ても彼、009の疲弊は明らかだった。
 009はためらったが、結局その場を仲間達にまかせることにした。まだ敵は続々とやって来るのだ。今自分がへたばる訳にはいかない。


鉄の固まりが散乱する乾いた大地を、大きく迂回しながら駆け抜ける。


空は晴れている筈なのに煙が青空を灰色に覆いつくし、もはや太陽の光さえ射し込まなかった。





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