ディスタンス
※複数無理矢理表現有り。R18。問題無い方だけ下へスクロール。
廃墟の牢獄。瓦礫に埋まった地下の箱。夜も昼も無い世界の隙間、宇宙の塵捨て場の様な闇の固まり。
崩れかけたコンクリートに四方を囲まれて、濃い暗がりの中に湿気と黴臭さが充満している。
今が夜なのかも昼なのかも分からない。何度か太陽が昇って沈んだ様に思う。此処に閉じ込められてから、少しずつ時間の感覚が狂って
いった。
特殊な鎖が体に幾重にも巻き付いている。サイボーグの力でもそれを引き千切る事は出来ない。右手のマシンガンにはまだ幾つか弾が
残っている筈だったが、もうそんな物は役に立たなかった。
焦燥の後の長い倦怠は眠りにも似ていた。夢現の中で004は何度も彼の柔らかな声を聞いた。彼の囁き声は004の耳元を繰り返し掠めては
闇に吸い込まれて消えて行った。
その声が聞こえなくなってから、初めて004ははっきりと目を見開き、意識を覚ました。
部屋の真ん中に古びたテレビがぽつんと置かれているのに気付く。いつから此処にあったのだろう、
まるで地面から湧き出た様に、それは目の前に突如出現した様に思われた。テレビから千切れかけた様なコードが天井へと無数に伸び、
不気味な生命体の様だ。
なぜか目を離せないでいると、プツンと音がしてテレビがついた。ザアッという砂嵐の画面。灰色の光が暗闇に慣れた眼を刺し、冷たい床を
ぼんやり照らした。
ざらついたノイズ画面を004はじっと見つめ続けた。少しずつ砂嵐は止み始め、画面が暗くなった。
そのまま切れてしまうのかと思えば画面は徐々に鮮明になる。つられて004は眼を凝らす。
画面の向こうは此処と同じ様に暗い。その中で何か蠢くものがある。
彼の声がする。耳の奥から、頭の隅から、柔らかな旋風になって全身を包むその声が・・・
・・・それが生霊の形になって、暗い画面に吸い込まれて行くのを感じる・・・。
004は時が午前零時を告げた事を知った。失っていた筈の時間の感覚が急激に目を覚ます。
秒針の刻む音、規則正しく滴り落ちる地下の水滴、月も星も出ない夜、朝焼けに焦げる東の空、
強く弱く喘ぐ彼の息遣い・・・。
004は体を固く冷たく硬直させる。見てはいけない、
誰かが頭の中で囁く。
・・・数人の男達が群がり、擦り切れた防護服が胸の上まで捲くり上げられて・・・。組み敷かれた体は息を飲む程に細いのを知った時・・・、。
・・・彼は体を捩って抵抗するが、多勢に無勢、手も足も出ない。白い肌の上を幾つもの手が這い回り、
仰け反った胸が暗闇の中で淡く発光している。指が、舌が、彼の弱い部分を弄び、赤くなって腫れあがる
のが暗い中でもはっきり分かる。画面の隅に小さく映る光る物、それは打ち捨てられた注射器だった。
・・・何とか四つん這いで覚束なく逃げようとした体を捕えて、男の手が彼のズボンを引き下ろす。
白い満月の様な尻が丸出しになる。
・・・ひっくり返されて両腿を押さえられると、一番敏感な個所が露わになった。濡れて光るその部分に男の
一人がむしゃぶりつく。彼は体をびくんと震わせ、唇から掠れた様な喘ぎ声を漏らした。
定点の映像は荒く不鮮明で、音声も雑音混じりで微かにしか聞こえない。だから夢だと思った。
手の届かない、くすんだフィルターのかかった様な、有りもしない光景は、自分の疲弊した脳が見せた
悪夢なのだと。記憶では、ほんの数十分前には彼は自分と一緒に此処に居たのだ。
体が、彼の白い体が、この自分の眼前で嬲られる。彼の息が、声が、抵抗の意味を失くしていつの間にか甘く、切なく喘いでいる。
後ろで縛られた自分の手が鎖と擦れ合って歯軋りに似た音を立てる。それに応える様に画面の向こうの彼は甘く濡れた声を
零す。
知らない様で知っている彼の媚態、これまで夢で幾度も見た姿と何が違うのか。
かつて自分は彼を同じ様に犯したのではないか、画面の中の光景はその残像ではないのか。
そうだ、彼はあんなにも感じていた、この自分の愛撫に震えて、気を失うまで感じていたではないか。
テレビの画面はいつの間にか消え、黒く押し黙っている。
重い鉄の扉が開いて、ぐったりした体が部屋の中に突き飛ばされた。一分の乱れも無く着せられた防護服、手足は人形の様にぐにゃりとして
冷たい床の上に投げ出される。004は彼の方を見まいと目を背ける。瞼の裏で、彼の呼吸に合わせて、あの光景が点滅している。
今は閉じられた瞳が再び開いてこちらを見つめる時を恐れる。彼の瞳に浮かぶもの、きっとそれは今まで一番この自分が欲していたものだから。
彼の声が再び耳の奥で甦る。掠れた声は確かにこの自分を呼んでいる。
伝えるべき言葉も失くし、抱きしめる事も出来ず、柔らかな彼の微笑みを胸に抱いて、尚、生きる。
愛しい人よ、声の無い慟哭上げる時は、夜明けも遠い、午前一時。
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