今年は近年稀に見る猛暑だった。

この男もダルそうに歩いていた。

もっとも

この男は昔からこうであったが・・・・
Case By Case 〜二人の事情〜


「・・・・・・・暑い・・・・・・」
その日の最高気温は38度
普通に暑い
「・・・・・・・やっぱ、間違った。」
ダルそうに地図を見ながら歩く青年
獅子雄 聖耶は虚空を見ながら呟いた。
「・・・・・でも、今更帰るのも面倒だ」
そして、また目的地に向かって歩き出す。


そして、歩く事40分
「・・・・・ふぅ、やっとついた」
其処は岬だった。
下には海が広がっている。
聖耶はそこにあるベンチに腰かけポケットからタバコを取り出し、火を点ける。
「・・・・・はぁ、疲れた。」
そのベンチに寝転がり、静かにタバコをふかし続ける。
「・・・・ここは相変わらず人が少ないな」
横目で辺りを見やる。
たしかに、昼間だというのに人は誰一人いない。
それもそのはずだった。この場所はあまりいい場所ではないのだから・・・
「・・・・まぁ、わざわざ自殺の名所に来る変な奴なんて俺くらいか」
そぅ、ここは有名な自殺の名所であった。
だが同時に流れている噂もある。
ここで飛び降りたカップルは、来世でもまた会えるという・・・・
まぁ、誰かが勝手に流した噂だがな・・・
「・・・・ふぁぁ〜、眠い・・・・」
丁度タバコも吸い終えた。
吸殻を灰皿に入れ、そのまま少し眠る為に、目を閉じたのだった。

(・・・・・キエル)
(・・・・・・・・キエロ)
(・・・マエ・・・・アクマ・・・)
(「ボクは悪くない!」)
(ウルサイ、オマエノセイダ・・・)
(ソウダ、ソウダ)
姿は見えねど、声はそこらじゅうから聞こえる。
(「止めろ!!!!」)


その言葉に不意に目を覚ます
「・・・・・・またか」
幾度となく見てきた夢
そして、それは夢ではなく、事実だった。
「・・・・あれから10年か・・・」
10年前、家族での旅行中事故にあい、皆即死だった。
にもかかわらず、俺は・・・・腕に軽い怪我だけだった。
車も大破し、もはや生存など有り得ない状況でだ・・・
それ以来、俺は悪魔だの、化け物だの、人としての扱いをされなかった。
引き取られた先のおばの家でも・・・・
「・・・・・・・」
そんな事を思い出していると、横から視線を感じ
「・・・・何か?」
俺の寝転がっているベンチの横にちょこんとしゃがみこんでいる少女
「・・・・・君は何をしているの?」
その少女はニコリと微笑み、そんな事を言ってくる。
何だ?この少女は・・・
「・・・・別に。お前こそ何をしてるんだ?」
ゆっくりと体を起こし尋ねる。
「君を見てたの。何か、うなされてたし・・」
よっという掛け声とともに立ち上がる少女
そのままフェンスにより
「ここって景色いいねぇ〜、海が無限に広がってるよ」
「・・・・そうか、そりゃよかったな」
俺はまた居眠ろうと横になると
「あぁ!また寝ちゃうのですか!もっとお話しましょうよ〜」
「・・・・うっせ〜な、別に話す事なんてないだろうが・・・」
そのまま目を閉じ
「私にはありますよぅ〜」
だだっ子のように俺を揺らす少女に呆れ、俺はしぶしぶ体を起こし
「・・・何だよ、聞くだけ聞いてやる」
はっきり言ってさっさと一人になりたい気分だった。
正直人と話すのは得意でもなければ、好きでもない。
俺はこの一人になれる空間が好きで、ここにやってきたのだから・・・
「ホントですかっ!」
だが、その少女は俺のことなど考えもせず、嬉しそうにはしゃいでいる。
「・・・・んで、何だよ」
俺は不機嫌そうに言うと
その少女は不意に俺の頬を触り
「何で笑わないんですか?さっきから怒ったり、難しい顔ばっかりですよ?」
ニッコリとしながら言ってくる。
「そんなにイライラしていてもいい事無いでしょ?もっと笑いましょう?」
俺はその手を払いのけ
「・・・・消えろ、俺はそんな話聞きたくない。」


心が・・・


体の全てが否定している。


そんな話を聞くな・・・と・・・


「・・・・何を怯えているのです?ここには誰も貴方を苛める人はいませんよ?」
はっとなり、俺は
「・・・・何故知っている。何故だ!!!」
俺は相手の胸倉を掴み、睨みつける。
だが、少女は微笑みながら
「先ほど、眠られている時に、そんな事を言ってましたよ?悪魔だとか・・」
そしてその手で俺の頬を挟み
「ここに貴方を苛める方はおりません。少なくとも私は貴方の味方です。だから・・・・」



「貴方の笑顔を見せてください」



その一言に

俺は身動きが取れなくなった。

そしてその一言が、これから俺を変える一言になるとも

この時点で知る由も無かった。
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