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「貴方の笑顔を見せてください」 ニッコリと微笑みながら言う少女 俺は言葉を失った。 Case By Case 〜二人の事情〜
「・・・・はぁ?」 俺はオウム返しの如く聞き返した。 すると少女は再び 「ですから、貴方の笑顔を見せてください」 またしてもニッコリと微笑みながら言う少女 俺は自分の頭を抱え一言 「・・・・アホか」 あっさり言って、また横になる。 「あぁ!?そんな・・・こんなに私が頼んでいるのに」 少女が泣きそうな声で言ってくるが 「・・・知るか、つか、お前誰だ」 よくよく考えれば俺たちは名前も知らない。 さっき会ったばかりなのに・・・ペースが乱されてる・・・ 俺は内心苦笑していた。 そんな事はつゆ知らず、少女はポンと手を打ち 「あれ?そういえば自己紹介がまだでしたね。私は冬華・・・・聖 冬華(ひじり とうか)だよ。君は?」 俺は聞いたことを後悔しつつだが、自分も名乗る。 こういう所だけきっちりしているのも妙な話だが・・・ 「俺は獅子雄・・・獅子雄 聖耶だ。」 ふぇ〜と驚いたような顔をして 「獅子雄 聖耶君か〜。ねぇ、『聖』ってどんな字書くの?」 俺は空中にその文字を書いた。 とたんに嬉しそうに跳ね 「きゃ〜、私の『聖』とおんなじ字だ〜。何か運命っぽいね〜?」 嬉しそうにする冬華を横目で見つつ 「そらよかったな。」 うんざりしながら視線を虚空に泳がす。 そして自分に問い掛ける (「俺は何をやっているのだろう」)・・・と そんな思考をあっさり打ち破って入ってくる声 「ねぇ、何でそんなに遠い目をしてるの?」 冬華が顔を覗き込みながら言ってくる 「・・・別に、お前には関係ないことだろう。つか何時までここにいるつもりだ?」 何時まで経っても帰ろうとしない冬華に向かって言うと ん〜と唸りながら考え 「聖耶君が帰るときまでいるよ」 にっこりという。 その笑顔は無邪気で、子供のようだった。 俺ははぁ〜と溜息をつき 「・・・んじゃ、帰るわ」 あっさりと言い放ち、立ち上がると 「もぅお帰りですか?残念です。・・・けど、聖耶君にも事情がありますしね・・」 少し寂しげに微笑む冬華 「じゃあな」 そんな事にこの男が気付くわけも無く、あっさりと荷物を持ち、歩き始める。 そんな俺の手を掴む手がある。 「・・・・まだ何か?」 俺は後ろも向かず、そう言った。 相手が誰なのか、想像は容易だからだ。 「次は・・・次は何時会えますか?」 先ほどまでの元気のいい声ではなく、少し小さな声で、そして震える声で言ってくる。 「・・・さぁな、俺がここに来るのは不定期だし、面倒ならもぅ来ない」 きっぱりと言い放つ俺 そんな俺に後ろから抱きつき 「・・・そんな、そんな悲しい事言わないでください。」 声でわかる。 彼女は泣いている。 何故だか知らないが・・・いや、俺が鈍いのかもしれないが・・・ 「何故君が泣く必要がある・・・」 「私は、どんな出会いであれ、大切にしたい。それがほんの少し、一言二言会話を交わしただけでも・・」 彼女は泣いていた。 声を出さずに・・・ それがどれだけ辛い事なのか俺はわかっている・・・ 「君に一つ助言をしよう」 俺は彼女の手を剥がし、正面に向き直り 「泣く時は声をだせ。すすり泣く事、声を出さず泣く事は誰にも気付かれない。これほど辛いものは無い。」 俺の言葉に素直に従ったのか、冬華は声を出して泣いた。 俺にしがみつき、声を上げて・・・・ しばらく泣くと冬華は 「えへっ、ご免ね」 その顔には笑顔が戻っていた。 初めに見せたあの笑顔に・・・ 「まったくだ、お陰で電車一本乗り遅れた」 雰囲気ブチ壊してあっさりいう俺 「あぁ、酷い・・・そんなにはっきり言わなくても・・」 だが、その顔は微笑んでいた。 「はぁ、とりあえず落ち着いたようだから、俺は帰るぞ」 ゆっくりと立ち上がると、同じように冬華も立ち上がり 「さっきの答え聞いてませんよ?」 相変わらず笑顔で、だが俺に服を掴んだまま言う。 どうやら答えるまで帰らせてもらえないらしい・・・ 「だから・・そんなのは俺の気分・・・」 俺は次の言葉を言う事が出来なかった。 俺の口は冬華の口で塞がれていたからだ。 唖然とする俺をよそに、唇を放し 「えへっ、言わせてあげないよ。それに・・・」 スッと俯き 「私、聖耶を好きになっちゃったから・・・今度は会いに行くよ」 それだけ言い残し、冬華はさっさと走っていった。 俺は呆然と立ち尽くしたまま、その様子を見送った。 「・・・・最近のガキはませてるなぁ〜」 自分の唇に触れ 「・・・というか、会いに来るって・・・俺のいる場所知らないでしょうに・・」 はぁ〜と溜息をつきながらその場を後にする。 相変わらず表情は暗かったが、気分はすっきりしていた。 |