あの日以来、あの場所へは行かず、バイトに明け暮れる日々だった。


そして9月になり


学校が始まった
Case By Case 〜二人の事情〜

国立聖志館学院
近年急激に発展してきた学校である。
高校から大学へはエスカレータ方式により楽が出来るが
それ以上に入試は高レベルである。
競争率は毎年20倍を越える勢いである。
そんな学校の少し開けた場所のベンチにゆっくり座る
「あ〜、暑い・・・・それにしても・・・」
聖耶はゆっくりと自分の手元にある紙を見た。
「成績表」と書かれたその紙にはAやらBやらと並べられている。
「まさか、あんなレポートで通るとは思わなかった。あの教授可笑しいんじゃねぇか?」
紙に書かれている文字の一つに指を当てる
「人間行動学」とかかれたその横には「A」という文字が並べられている。
それを見て、改めて溜息をつく。
「まぁ、いいじゃねぇか。楽して通れるんだからよ。まぁ落ちても頼み込めば何とかなるしな」
不意に自分の後ろから聞こえる声
「・・・相変わらずその頼み込みかよ、さすが金持ちだな、俊哉」
嫌味たっぷりで言ってやったにも関わらず
声の主、聖丞 俊哉は面白そうに笑い、自分のベンチに座ってくる。
「お前も相変わらずはっきり言うな〜、まぁそれがお前のよさなんだけどな」
ポムポムと肩を叩き、手に持っていた缶を差し出してくる。
それを受け取り、プシュと開け、一口飲み
「それにしても・・・」
俊哉が俺の顔をじっと見
「お前、まだ生きてたんだな。俺はてっきりもぅ逝ったのかと思って、香典を用意しちまったよ」
ケラケラ笑いつつ、懐から袋をちらつかせる。
「あのな、そんなに死んで欲しいか?」
ギロリと睨みつける。
が、少しもひるまずに
「あんだよ、冗談だよ。けど、お前言ってたじゃねぇか。「生きてたら、また休み明けにな」って。
んな事言われたら、会ったら冗談の一つでも言わんと面白くないだろ」
わざわざ声真似までして言ってくる俊哉に俺は苦笑し
「・・・・そういえば、そうだったな。忘れていた」
その発言にまた笑う俊哉
しかし、すぐに笑うのを止め真剣な表情をし
「生きていてくれて嬉しいぜ。聖耶・・いや、兄弟」
その顔は優しい微笑だった
「・・・誰がお前の兄弟だ。勝手な事言うな」
そんな感動の場面をブチ壊すような発言
だが、その発言に満足したのか、ニッと笑い
「いいねぇ〜、その反応こそ聖耶だな。変わってなくて安心したぜ」
そう言うと、懐から手帳を取り出し、投げてくる。
それをパシッと受け取り
「それ、今月頼まれてるリストな」
タバコに火を点けながら、あっさり言ってくる俊哉
俺はそれをパラパラとめくり、寒気を感じた。
「・・・ちょっと待て、殆ど毎日じゃないか。」
「当たり前じゃねぇか、お前が夏、姿眩ましたお陰で周りには多大な迷惑がかかってるんだぜ?
それくらい頼まれて当然じゃねぇか・・えぇ?S&Sの「セイヤ」君?」
俊哉のその笑みに俺は改めて愕然とした。
「・・・・そんな事、俺の知った事じゃない。それに・・その呼び方、何とかならないか?俺はそんな風に呼ばれる憶えは無いぞ・・・」
無駄だと解っていても言わずにはいられない。
そんな俺の心を知ってか、知らずか、俊哉はくっくっくと笑い
「何言ってんだよ?お前だって最初ノリ気だったじゃねぇか。ワリのいいバイトだって」
ケラケラ笑いながらいい、更に
「それなら「2S」の方がいいか?何なら「エス」でもいいぜ?それとも・・・」
「・・・・もぅ、何でもいい」
更に続けようとする俊哉に俺は歯止めをかけ
「いいじゃねぇか、そんなけ俺らがココでは有名なんだからさ。悪い気はしないべ?」
ニッと笑いながらタバコの煙を吹きかけてくる。
コホコホとむせながら俺は昔を・・・
5年前、コイツとであったばかりを思い出した。

〜5年前  高校1年〜

「あ〜カッタリ〜」
入学式が終わり、今は教室で先生待ちである。
俺は鞄からウォークマンを取り出し、耳にイヤホンを当てると、曲を流し始める
周りの奴らは既に幾つかのグループに話し声が聞こえる。
その中でも特に大きなグループにそいつはいた。
「いや〜、さすが俊哉さんっすね。ここの受験に主席で合格とは」
中央の椅子に座った生徒に話し掛ける一人の生徒
それに乗じて、他の面々も「すごい」だの「さすが」だのと声を上げている。
そして中央の生徒は面白く無さそうに
「ふん、どうせ親父か誰かが細工したんだろうよ」
そいつがそんな声を上げると、慌てたように周りが
「い、いや、そんな事ないですよ。俊哉さんの実力ですよ!!」
はっきりと解る世辞を飛ばしながら、弁解してる。
周りも同じようなことをしていた。
「・・・・あいつら、アホか?」
俺はポツリと呟く
しかし、あまり小さな声ではなかったらしい。その言葉を聞きつけ、一人の男子生徒がこちらを睨み
「あぁ?お前今なんかふざけた事言わなかったか?」
その行動に何人か続いて、俺の前に立ちふさがる。
「・・・すいませんね、思った事をすぐ口に出す主義でね」
俺はウォークマンを改めてはめなおし、そっぽむく
だが、その行動はやはり相手を怒らせた。
俺のイヤホンを強引に引きちぎり
「てめぇ!ふざけた真似してると、やっちまうぞ!」
俺の制服をグッと掴み、殴りつけようとする
俺は諦め、目を閉じていたが、一向に手が飛んでこない。
少し目をあけると、男の手を掴む手があった。
「やめとけ、初日から面倒はご免だ」
先ほど中央に座っていた生徒が、俺を殴ろうとしてる奴を押さえていた。
そして俺に向き直り
「すまなかったな、俺の知り合いが・・・これは慰謝料と、イヤホンの賠償金だ」
あっさり言って金を置いていく
そしてゆっくりと席に戻る男
これが最初に交わした言葉だった。
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