− 17 − 「お見送りありがとう、李くん。 いっぱい迷惑かけちゃって、ごめんね。苺鈴ちゃんにもよろしく」 フェリー乗り場まで見送りに来た小狼に、さくらは素直にお礼を言った。 苺鈴は、さすがに昨日の今日のことなので、母親から外出を禁じられてしまったのだ。 小狼は、しばしうつむいて靴の先を眺めていた。 行き交う観光客のざわめきの向こうに、波の音が遠く微かに聞こえてくる。 そして、いつもよりほんの少しだけ早くなる、胸の鼓動も。 相手と向き合い、認めなければ、何もはじまらない。 相手の本当の力も、己の本当の心も、何も見えない。 やがて小狼は顔を上げ、言わねばならない言葉を口にした。 「結局、おまえに助けてもらったな」 「そんなことないよ!李くんが助けてくれなかったら、わたし、どうしようもなかったもん! それに、李くんのお母さんにも、いっぱい助けてもらったんだよ? わたし一人の力じゃないよ!!」 さくらは熱心に言った。 いつも、不思議に思う。 どうしてコイツはこんなふうに、ひとのことを一生懸命にかばったり、ほめたりするんだろう? じっと見つめる小狼に、さくらはニッコリと笑った。 「また、香港に来たいな」 「あんな目にあったのにか?」 驚いた小狼に、さくらは笑顔のままで答える。 「うん!だって、わたしなんとなく、この街が好きだよ」 かあああああ…… 何故そうなるのかもわからないまま、小狼の顔がみるみる赤く染まる。 それでも答えられる言葉は少なく、たった一言。 「…そうか」 その様子をこっそりと撮影している知世。 桃矢が堪忍袋の緒を切って、不機嫌に声をかけた。 「おい、怪獣。行くぞ」 「もう、お兄ちゃんったら!…じゃあね、李くん。新学期にね!!」 「…おい!」 小狼は思わず、さくらの背中に声をかけた。 「ほえ?」 振り向いた少女に、少年はぐっと拳を握りしめる。 少女の被る帽子の黄色いリボンをなびかせた潮風が、少年の髪を優しく撫でた。 「カード集め…おまえには、負けないからな!」 返って来るのは、真っ直ぐな笑顔。 トクン と音をたてる、胸の鼓動。 「うん!わたしも、ぜったいに負けないよ!!」 フェリーの出航を告げる汽笛が鳴り響く。 船内には、行きと同じ『春宵情歌』のメロディーが流れ始めていた。 − エピロ-グ − ≪TextTop≫ ≪Top≫ *************************************** (初出01.5〜8 「友枝小学校へようこそ!」様は、既に閉鎖しておられます。) |