君ヲ想フ 〜 I think of you during two years 


 魔女は空に住んでいる /地獄より愛をこめて /バード・トーキング

 白熱青春教室 / 宴日和
/ 只今連戦連敗中



− 魔女は空に住んでいる −

今日も世界のどこかの上空を漂う、空島ウェザリア。
雲の上の小さな町で、航海士が声を弾ませる。

「ねーねー、ハレダスさんとその他の空のおじいちゃん達っ!!
 本当に問題はないの?」

暫く前に突然やってきたかと思ったら、ちゃっかり居ついてしまった
青海人の娘の質問に、長い髭を蓄えた老人達は口々に答えた。

「ないない。なーんもありゃーせん」
「そもそもウェザリアの“天候(ウェザー)ボール”は、“ダンスパウダー”とは
 全く違う技術じゃからの〜」
「降雨地点を絞ることで、海流や気流への影響を押さえる。
 つまり、他所で降る雨を奪ったりはせんということじゃ」

得意気な返答に、ヘイゼルの瞳がキラキラと輝く。

「よーしッ、じゃあ練習を兼ねて降らせてみるわ。
 目標は、“偉大なる航路(グランドライン)”のサンディ島・アラバスタ王国!!」

短い間に“天候(ウェザー)ボール”の基本原理をマスターした娘は、その技を
使ってみたくてたまらないのだろう。
彼女の優秀さは承知しているものの、長年研究に携わってきた天候学者達は
異論を挟む。

「コラコラ!!またそんな勝手なことを…」
「まだ、早すぎるんじゃないかの〜」
「だいたい、そう都合よく目標地点まで行けるとは限らんし〜」
「何せ、ウェザリアの行き先は風まかせじゃからの〜」

しかし、娘は自信タップリだ。
タンクトップに包まれたピチピチのバストを強調するかのように、胸を張る。

「大丈夫!!
 “天候棒(クリマ・タクト)”と“天候(ウェザー)ボール”の合わせ技で、
 風ならいくらでも起こせるから!!
 ちょうど今、さっき吹かせた風でサンディ島に向かってるところだしvv」

ショボくれた目を大きく開いた胸元に釘付けにされていた老学者達は、小悪魔の
返事に唖然とする。

「どおりで急に、いい〜〜い風が吹きはじめたと…」
「いつの間に…、いったいどうやったんじゃ〜〜」

彼等が内心、天才と呼ぶにやぶさかでない娘は、ウェザリアの技術を学ぶどころか
新たな技術をも開発しつつあるようだ。
だが、天候学者等の驚愕を他所に、“天才航海士”は浮かれている。

「フフフッ、ビビ驚くわよね〜。それに、絶対喜ぶわ。
 2月のアラバスタは、雨季じゃないって言ってたもの。
 ホント、我ながらグット・タイミングvv
 せっかくだし、雨の他にも何か降らせちゃおうかしら?
 魚やオタマジャクシじゃ、ちょっとアレだし…。
 こないだ青海に降りた時に、服と一緒に買った香水を混ぜて、香りをつけるとか。
 ついでに花なんか降らすのもいいかな〜vv
 そこら辺に、いっぱい咲いてるし。ちょっとゴソッともらっても、わかんないわよね?」

独り言とはいえ、老人の耳にも聞こえる大きさでの言いたい放題。
普段は人の良い彼等も、さすがに眉を顰めて文句を言った。

「コラコラ、またそんな勝手なことを…」
「怪奇気象を観測する我々が、怪奇気象を起こしちゃーならんじゃろ〜〜」
「大事な庭の花を、ちょっとゴソッともらわれたら、そりゃー気づくわ〜〜」
「この娘、さっきから人の話をゼンゼン聞いとらんしー」

皺だらけの不機嫌顔に、キュートかつセクシーな美人航海士はニッコリ笑う。

「……あ、そうそう。
 おじいちゃん達へのお礼は、“しあわせパンチ”1回ねvv」

その一言で、口髭の生えた鼻の下がだら〜んと伸びた。

「ま…まぁ、しょうがないかのー」
「何事も経験じゃからのー」
「ナミちゃんは、ええ娘じゃからのー」

歳はとっても、所詮は男。
鼻血を流さんばかりのだらしのない顔に、今度はニヤリと魔女の笑み。

「じゃ、そーいうことで。1人5万ベリーに大サービスしちゃうvv
 よろしくね、おじいちゃん達っ!!
 ……さあ、がんばろ!!2月2日まで、時間ないし」

肩まで伸びたオレンジの髪を靡かせて、ガッツポーズと共に走り去る後ろ姿に
しわがれ声がこだまする。

「なにィー!!」
「タダじゃないのかー!?」
「くやしい、また騙されたー!!」


  空島ウェザリアは、今日も美人航海士の思うがまま日和である



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企画1作目の「Letter of thanks」を書いていて、そのアンサーとして
思いついた話です。
それぞれが、それぞれの場所で修行中の2年間。
アラバスタで共に戦った6人もまた、ビビちゃんを思い出していると
いいなぁ……っつーか、むしろ思い出せや!!!…みたいな。
毎度恒例、管理人による管理人のための願望話。
順次Upの予定です。

− Nami −

最初に思いついたのは、やはりナミさんでした。
移動可能な空島って、アラバスタに行けるんじゃ…。
でも、今や余りに有名な賞金首ですから、行けても降りはしないだろうなと。
なので誕生日には、雨をオプション付きでプレゼント。
遅ればせながら、お誕生日ネタキープです。

2012.2.13 上緒 愛 姫誕企画Princess of Peace20120202





− 地獄より愛をこめて −

今日も乙女の心を持つニューカマー達が、雄叫び上げて跋扈(ばっこ)する
“偉大なる航路(グランドライン)” モモイロ島 カマバッカ王国。
幾多の苦難を乗り越え、今なお“男”を保つ料理人が肩で激しく息をする。

「ぜェ ぜェ ぜェ…。
 やった…、手に入れたぜ22巻目を…。」

そこら中、モモイロだらけのオカマ王国。
パステルピンクの城壁に身を潜めた彼の手が握るのは、一本の巻物だ。
ビビッドピンクの花柄やショッキングピンクのハート、はたまたレースにフリルと
装飾まで乙女な“攻めの料理”のレシピだが、今回はシンプルな水玉模様だ。
リリアン編みの紐を解く手ももどかしく、巻物を広げる。

「なになに…?
 “真面目で責任感が強く、うっかり過労死しそうなタイプに絶大なリラックス効果。
  さらにはストレスに強い心を養い、日々の激務に耐え得る健やかな身体を創る
  究極のレシピ”」

出だしに記された、主な効用。読み上げた料理人は、彼が3度の食事と3時のオヤツを
食わせる顔ぶれに思いを馳せる。


……真面目、責任感、過労死…。
   ウチのクソゴムに限って…、ないない。
   クソマリモ……、問題外。
   長っ鼻……、却下。
   トナカイ……、自分でなんとかすんだろ。
   海パン……、サイボーグだし。
   アフロガイコツ……、骨だし。
   んナミすわぁあ〜〜んvv、……ちょっと違う。
   ロビンちゅわぁあ〜〜んvv、……だいぶ違う。


最後の2人の回想では、鼻の下が顎にくっつくほど緩んだが、“客”への評価は
冷静かつ客観的だ。
結論。現在のクルーには、このレシピは必要ない。

「………っつ!!」

ガクリと、料理人は膝をついた。
スイーツドレスの罠をかいくぐり、オカマ達のキスとデートの誘いを振り切った
苦労は、無駄に終わってしまうのか…。
項垂れた彼の目に映る、水玉模様。ベビーピンクの地に浮かんだ空の色に、
ハッと片目を見開く。


……いや、まて。まてまてまて。
   真面目で責任感が強くて、その上勇敢で天然で。
   更にはキュートでチャーミングでビューティフルかつノーブル。
   ああ、それは。その人の名は…!!


短い間、彼の作った料理やスイーツを喜んで食べてくれた彼の人。
奇しくも手にしたレシピは第“22”巻。
運命すら感じる面影に、片膝ついて両手を広げる。

「マイスイートプリンセス・ビビちゅぁあ〜んvvこれはまさに、キミのためのレシピ!!
 一国の王女として、日々のストレスと戦う君に、このレシピを愛と共に捧ぐ…vvv」


  『まぁ、ありがとうサンジさん。嬉しいわ』


ハートを撒き散らす料理人の前には、優美に微笑む脳内王女。
見渡す限り、オカマという人種の男しかいない島で、妄想癖が悪化した料理人である。
だが、美しい白昼夢は長くは続かない。

「チョ〜ットお待ちなさい、ヴァナタ!!!」

巨大な頭と巨大な顔。濃いというより仮面なメイク。
過酷な現実への強制送還。目の前に立っているのは、オカマの中のオカマである。

「ゲッ、カマキング!?
 人が美しい思い出にひたっている時に、そのツラを割り込ませるんじゃねーッ!!!」

失敬な料理人に、アミタイツの一撃を入れたオカマ王は厳かに言う。

「“99のバイタルレシピ”はカマバッカ王国に伝わる新人類(ニューカマー)拳法の奥義。
 すなわち!!門外不出なんだっチャブルよ、ぐるぐるボーイ!!!」

わかッチャブル!?と、咽喉仏もあらわにそっくり返るエンポリオ・イワンコフ。
残念ながら、オカマ王にかかれば“黒足”も赤子同然だ。
吹っ飛ばされ、ピンクのガレキに塗れた料理人は、咥え煙草もそのままに空に向かって
独白した。

「ごめんね、ビビちゃん…。
 地獄に捕らわれちまった俺は、また一つオトナの階段登るキミのバースデーに
 スペシャルレシピさえ送ってあげられない。
 ……けれどッ!!この地獄を生き抜いて、自由の身になったあかつきには、
 特急カモメ便でアラバスタに届けるよ。
 もちろん、それまでにこのラブコックの手で、更に磨き上げたメニューにアレンジ
 して、そして…ビビちゃんが、んナミさんやロビンちゃんもビックリのセクシャルな
 BODYになったらどうしよう!!俺、もう…どうしよう!!!vvv」

ニッコリ笑って振り向くビビの姿を想像しただけで、胸が高鳴り鼻の奥がツンとする。
恋!?これが真実の恋!!?いや、むしろ愛!!!
思わず四つん這いになった料理人は、鼻血の池を作っていた。
原因は、揺れるバストの白昼夢を見たためである。

「ヴァナタ、ゼンッゼンわかってないッチャブルでしょ!!」

コイツ、ホントにどうすりゃいいの?と、呆れ顔のオカマ王などとっくに視界から
締め出して、料理人は鼻血を拭う。
彼の考えることは、唯一つ。オカマ達を蹴散らし99のレシピの全てを手に入れて
元の世界に戻ることだ。
本物のレディが生息する世界へ。そのためには…。

抜き足差し足忍び寄る、数多の気配。
体育会系の汗と化粧の混じった、強烈なニオイ。

「大出血してたしィー、だいぶ弱ったんじゃない?」
「今だ、着せちゃえ着せちゃえ、プリンセス・スイーツドレスv」
「きっと、サンジキュンvに似合うわ〜vv」

フリフリでヒラヒラな服を手に、スネ毛もあらわなニューカマー達が襲い来る。
悲鳴と共に身を翻す料理人。

「ギャーッ!!寄るな触るな近づくなーッツ!!!」

後はただ、ひたすらに蹴り捲くり逃げ捲くるのみ。

「んもおぉ〜〜ン、ワ・イ・ル・ドvv」
「あいかわらず、照れ屋さんなんだからぁ〜vv」
「一緒に、お茶しましょうよォーうvv」


  モモイロ島 カマバッカ王国は、今日も地獄日和である




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− Sanji −

2番目は料理人です。
登場の順番は管理人のビビカップリング推奨度…ではなく、独断と偏見による
“アラバスタ編メンバー”内でのアニバーサリーイベントに気が回りそうな順。
レディーファーストで、ナミさんに1番を譲るラブコックでした。
地獄からの生還後、アラバスタに送られたレシピは忙しいビビちゃんの若さと
美貌の秘訣となる予定。(管理人脳内)
良かったね、サンジキュンvv

2012.2.19 上緒 愛 姫誕企画Princess of Peace20120202





− バード・トーキング −

今日もトリ達が空を舞い、村人と仲良く暮らす“南の海(サウスブルー)” トリノ王国。
そんな平和な光景の立役者でもあるトナカイ船医は、屈めていた腰を伸ばした。

「よし!今日はこのぐらいにするか」

足元には、パンパンに膨れた愛用のリュック。中身は採取したばかりの薬草だ。
島の中央に聳える大樹は、まさに植物の宝庫だった。

「ゴアァー」

植物採集に励むトナカイを見守っていたトリが、一声鳴いた。
人間以外の言葉も解する“ヒトヒトの実”の能力者は、サクラ色の帽子をのせた
頭を僅かに傾ける。

「おまえの巣にか?
 そうだな…、足の怪我の様子も気になるし、寄らせてもらおうかな」

ゴアァと、嬉しそうに鳴いて後ろを向く。海王類並に大きな背中に、小さな身体が乗った。
植物の生い茂った枝から巣のある枝まで、ひとっ飛びだ。
背中を降りたトナカイは、巣の真ん中に近づいた。島の村人とトリ達との諍いを納める
切欠となったヒナは、以前より鳥類らしく成長している。

「大きくなったなー、おまえ。よしよし、足を見せてみろ。
 ……うん、もう大丈夫だな。って、うわああぁ乗っかってくんなー!!」

懐いてくれるのは嬉しいが、なにしろゾウ並の巨体だ。遊び疲れたヒナが丸くなって
眠る頃には、トナカイは精根尽き果てていた。
そんな彼に、親鳥が嘴に咥えた花を差し出す。もてなしのつもりか、子守のお礼か。
傘ほどもある大きさの花には、たっぷりと蜜が含まれていた。

「ゴアア」
「わぁ、甘ぇな〜♪ありがとう」

“わたあめ大好き”で知られる甘党のトナカイは、一口舐めて笑顔になる。
見晴らしの良い巣の端っこに座って、ゆっくりと味わった。
昼は薬草の採取と実験、夜は図書館の本を読みふける毎日。
疲れた身体に、甘さが染み通る。

「ゴアァ〜」
「ゴア〜」

トリ達の、のんびりと間延びした声。目の前を、薄茶色の羽毛がふわりと舞う。
その光景に懐かしさを覚え、トナカイは蜜を舐める手を止めた。


   クエェ〜 クエッ クエッ


のんびりと間延びした声が、ふかふかの羽毛の感触が、蘇る。

「ゴア?」

ぼんやりと遠くを見るトナカイに、トリが呼びかけた。
巣のある枝の上からは、いつもより遠くが見渡せる。まんまるな目に水平線を映して、
トナカイはポツリと言った。

「オレな、おまえらの他にもトリの友達がいたんだ…。」

ゴアァと答える声は、トナカイの話を促したようだ。

「“カルー”っていってな、砂の国の超カルガモで…。
 オレや他の仲間達と一緒に航海してたんだ。短い間だったけど」

冬島のドラム島でトナカイが船医として乗り込んでから、砂の国に着くまでの間。
トナカイが一番話をしたのは、カルガモのカルーだ。

寝ぼけた船長に齧られては、逃げ回り。
剣士の昼寝の枕にされては、汗臭さに顔を顰め。
航海士にペンにするため羽根を引っこ抜かれては、悲鳴を上げ。
海王類を釣り上げようとする狙撃手に竿にくくりつけられては、暴れ。
食糧不足に悩む料理人に意味深な目で眺められては、恐怖に慄く。
そんなカルーに毎日のように泣きつかれて、仲間達への通訳をした。

  『かわいそうだろ、嫌がってることすんなよ!!』
  『オレもカルーも、非常食じゃねぇからなッ!!』

そうやって、カルーの為に文句を言って回っている間に、仲間達と話すことにも
慣れていった気がする。

「……………。」

じわりと、まるい目に涙が滲む。それを隠したくて、トナカイは声を張り上げた。

「カルーはな、飛べないトリだけど凄いヤツなんだぞ!!」
「ゴアァー ゴア?」

話し相手は長い首を傾げる。飛べないトリ?それってトリ?

「そうだ!!この世界には、飛べないトリだっているんだ。
 でも、カルーは立派なトリだ。飛べない代わりに、ものすごく足が速いんだ。
 カルーは“超カルガモ部隊”の隊長で部下がいっぱいいて、オレもストンプって
 ヤツの背中に乗せてもらった。まるで風になったみたいで、カッコよかったぞ。
 それにカルーは、ビビを…砂の国のお姫様を何度も命懸けで守ったんだ!!」

得意そうに青い鼻を膨らませるトナカイに、聞き手は首を揺らす。

「ゴア ゴアー?」
「どこの国かって?“偉大なる航路(グランドライン)”のアラバスタ王国だ。
 ええと、確かサンディ島って島だったな。真ん中に大きな川が流れてて、
 砂ばっかりで、真っ白な石の建物があって…」

記憶を頼りに説明するトナカイに、今度は何度も長い首を縦に振る。
そして、恩人ならぬ恩トナカイに申し出た。

「おまえ、アラバスタに行ったことあるのか…?
 え!!オレを乗せて飛んで行けるのか!?」


  『トニー君』


他の誰とも違う呼び方をする声が、雪花石膏のように白い手の感触が、蘇る。
会いたい、と思った。きっと新聞を読んで、心配しているだろうから。
自分は元気で、他の皆もどこかで絶対に元気でいて、頑張っていると伝えたかった。
あの声で、言って欲しかった。固い蹄の手を、ぎゅっと握って欲しかった。


  『トニー君、大変だったのね。でも、1人でも頑張っているのね。凄いわ
   そうよ、皆も絶対に元気でいる。それぞれの場所で強くなるために、頑張ってるわ
   だから、私も頑張らなくっちゃ。皆に負けたくないもの…



大きく乗り出しかけた身体を、トナカイは引っ込めた。
約束したのだ。ぐるりと世界を回ったら、2周目にはまたアラバスタへ行こう。
ビビに会いに行こうと。
砂の国を指し示す“永遠指針(エターナルポース)”は、メリー号からサニー号に
移されて、航海士の荷物の中で大事に保管されている。
ぎゅっと口をへの字曲げて、トナカイは言った。

「アイツ等も頑張ってるのに、オレだけが会いにいったらダメなんだ…。
 みんな、一緒じゃなきゃ。それにオレ、賞金首だから。
 もし海軍とかに見つかって、ビビに迷惑がかかったら大変なんだ」

例え賞金額が50ベリーでも、ペットだと誤解されていても。
自分は“麦わらの一味”の船医トニートニー・チョッパーだ。
健気な決意を固めるトナカイに、暫し頭を捻ったトリは熟考の末、再び申し出る。

「え?おまえがカルーに会って、オレが頑張ってるって知らせてくれるのか?
 飛べない勇敢なトリに会ってみたいって?」

それからは、アルバーナ宮殿やカルガモ鳥舎の位置を伝えたり、お土産に持って
いってもらう薬草を選んだり、アラバスタでの戦いのことを話したり。
花の蜜のお代わりをもらっても、まだ話し足りない。


「ん〜、タヌキチ。今日も帰りがおそいど〜〜」
「ほんど〜〜に、トリ達と仲がええなタヌキチは〜〜」


  トリノ王国は、今日もトナカイとトリのお喋り日和である



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− Chopper −

3番目は船医です。トリ繋がりで、カルーからビビちゃんへ。
“南の海(サウスブルー)”から“偉大なる航路(グランドライン)”のシャボンディ諸島
まで送ってもらったなら、アラバスタにも行けるんじゃ…?
でも、自分だけ抜け駆けして会うのは気が引けるようです。後も怖いしね!!
(料理人には包丁持って追いかけられそう…。かなり本気で)
それに一応賞金首なので、やっぱり遠慮。例え50ベリーでも…。

2012.2.27 上緒 愛 姫誕企画Princess of Peace20120202






− 白熱青春教室 −

今日も数多の生物が苛烈な生存競争を繰り広げる、“偉大なる航路” ボーイン列島。
その狭間で生き抜くため、狙撃手は減量と勉強に励んでいた。

「はいっ、ヘラクレスン先生!!」

樹木の幹に手製の黒板を掲げただけの青空教室。
ヘラクレスンの植物講座に勢い良く手が上がる。

「何かね、我が生徒ウソップン?」

島の先輩住人は、すっかり板についた先生ぶりで発言を許可する。
一時の“超メタボ”体型から、ようやく“メタボ気味”体型にまで痩せた教え子は、
彼等を取り囲むうっそうとした森を示して、質問を口にした。

「今までのところ、この島ってほとんど雨も降らねぇし、川も湖も見当たらねぇ。
 なのに、こんなに植物があるってのは、どうしてだ?」
「我が生徒ウソップン、それは良い質問だん!!」

カブトムシ型のフルフェイスメットを被った頭が、何度も頷く。
そして、黒板にスラスラと文字を書いた。


  『ボーイン列島白熱教室 本日のテーマ:水はどこからやってくる?』


手袋についたチョークの粉を払いつつ、ヘラクレスン教授…もとい先生は、唯一の
学生に問いかけた。

「まず、考えるだん
!!
 雨も降らず、川も湖もないこの島で、我々はどうやって水を手に入れているだん?」

質問を質問で返され、狙撃手はこの島に来てからの毎日を思い出す。
水を手に入れる手段は、2つあった。
一つは明け方、草木の葉にたまった露を集める方法だ。
効率が悪そうに聞こえるが、とんでもない。巨大な植物の葉を傾ければ、あっという間に
樽一杯の水が集まるのだ。
もう一つの方法は、更に簡単だ。この島で良く見かける蔓草…といっても、太さはドラム缶
並だが…に一定の角度と深さで穴を開けると、真水が噴き出してくる。
島に住む他の生き物達も、この2つのどちらかで水を得ているらしい。

「そうか…。この島の水源は植物そのものなんだな、ヘラクレスン先生!」
「さすがは我が愛弟子、ウソップン!その通りだん!!」

ヘラクレスンは満足そうに頷くと、説明を始める。

「私の思うところでは、このボーイン列島そのものである食肉植物は、海を突き抜け
 地下深くにまでまで根を張り、水脈から水を得ているのだん。
 島の植物の多くは、食肉植物に寄生する形で水と養分を得、その見返りに餌となる
 大型生物が住みやすい環境を形成する…」

スラスラと、島の生態系をわかりやすい図で示すヘラクレスン。
熱心にノートを取った狙撃手は、再びビシッと手を挙げた。

「ヘラクレスン先生!!
 けど、水が噴き出す蔓草は蛇みてぇにあちこちに絡みついているだけで、根っこが
 なかったんじゃねぇか?あの水はどこから来てるんだ?」
「またまた、非常に良い質問だんウソップン!!さすが我が生徒だん!!」
「いやいや、それはヘラクレスン先生の教え方がスゴ腕だからだぜ〜!!」

讃えあう2人。褒めて伸びる・褒めて伸ばすタイプの理想的な師弟関係である。
互いに良い気分になったところで、ヘラクレスン先生の講義が再開した。

「実はウソップン。この島には年に1度、短いながら雨季があるだん。
 あの蔓草は、雨季に降った雨を吸収して、次の雨季まで蓄えているのだん。
 そして、これが雨を浴びると一気に発芽する蔓草“ウォーターバレル”の種!!」

手渡されたのは胡桃大の、固い殻に覆われた種子だ。
講義によると今の時期はドラム缶程度だが、雨季の直前に蔓の太さはロープ程に
萎びる。それが雨を吸うとクジラ並の太さになり、島からはみ出す程だという。
話を聞いた狙撃手は、腕を組んで考え込んだ。
生徒の自主的思考を尊重する教授…ではなく先生は、暫しその様子を見守る。
やがて狙撃手は、自らの思いつきを口にした。

「なぁ、ヘラクレスン先生。食肉植物は危ねぇし無理だと思うが、コッチは使えるよな。
 例えば砂漠の国とか、水が貴重な場所では絶対に役に立つ」

生徒の発言が意外だったのか、ヘラクレスンはヘルメットの中で首を傾ける。

「フム、私は植物学者ではないので、よくはわからんがん…。
 この島の植物は、固有種が多いん。気候の違う島で、育つかどうか」
「それは、おれもわかってる。多分、品種改良ってのが必要だろう。
 けど、試してみる価値はある。
 少なくとも、砂漠の国の連中にとっては百年かける価値だってあるぜ。
 そういう国に送ってやれば、きっと……」

真剣な狙撃手を、ヘラクレスンはヘルメット越しに観察していた。
武器となる“ポップグリーン”だけでなく、彼は“誰かの役に立つ”植物への関心が高い。
強くなりたいと語った理由もそうだが、“自分のため”ではなく“誰かのため”に努力する
タイプの人間なのだろう。それも、具体的な“誰か”のために。

「我が生徒ウソップン、砂漠の国に知り合いがいるのかん?」

興味を引かれ、ヘラクレスンは尋ねてみた。
すると狙撃手は鼻高々と話し始める。

「ああ、いるぜ!!砂の国アラバスタ王国の王女様だ!!!
 ビビっていって、こいつがまた国思い、国民思いのイイヤツでさ。
 そもそも、おれ達“麦わらの一味”とビビとの出会いは、“偉大なる航路”に入った直後。
 冒険が、更なる大冒険となる幕開けだったってわけだ……」

ボーイン列島白熱教室は、キャプテ〜ン・ウソップ大冒険談に早代わりした。
この島については知らないことのないヘラクレスンだが、“東の海”や空島などの話は
珍しいらしく、いつも熱心に聴いてくれる。
良い聞き手がいてこそ、話も盛り上がるのだ。
ここでもまた、話し手と聴衆の理想的な関係が築かれている。

さて、“キャプテ〜ンウソップ大冒険・アラバスタ王国編”が終わる頃、周囲には
夕暮れが迫っていた。
大法螺が散りばめられた物語を楽しんだヘラクレスンは、最後を締めくくる
“東の港での別れ”の感動にハンカチを濡らしつつ、狙撃手に尋ねた。

「……で、そのビビという姫君はウソップンの想い人だったのかん?」

左腕を空に突き上げるポーズを取っていた狙撃手は、とたんに長い鼻と肉の残った
丸い頬を赤くする。

「そ…っ、そそそそ、そんなんじゃねぇって!!(/////)
 ビ、ビッビビはよ、仲間っつーか、同士っつーか、そんなこんなカンジなトコで。
 それに、おれには故郷にカヤってヤツが……って、いやそのあの(/////)」

さっきまでの流暢多弁は何処へやら。
若者らしいしどろもどろのうろたえっぷりに、ヘラクレスンは深い感動を込めて呟いた。

「我が生徒ウソップン、青春だん…!!」
「だから、そんなんじゃねーって!!!(/////)」

耳から首まで真っ赤になり、ムキになって否定する狙撃手。
ますます、“若いってイイだん”な目をするヘラクレスン。
だが、その時。


  ドドドドド… ゴゴゴゴゴ…


足元から響く地鳴りに、ヘラクレスンがすっくと立ち上がる。
狙撃手も、あわてて辺りを見回した。

「な、何だ…?また、島が動くのか!?」
「いや…違うだん。これは……、これは昆虫達の大暴走だん!!」

言い終わるやいなや、森の樹木をなぎ倒し、巨大なカブトムシ及びクワガタムシが
突っ込んでくる。

「これはマズイん!!
 走れ!!!我が生徒ウソップン、西へ…夕陽に向かってダッシュだかん!!!」
「ギャアアアアア…!!!!」


  ボーイン列島は、今日もコイバナに夕陽に向かって猛ダッシュにと、青春日和である



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- Usoppu -

4番目は狙撃手です。
ボーイン列島での修行とアラバスタ…で、接点を考えていったら
オリジナルな植物設定が。(超適当なので読み流してくださると有り難く…)
理屈っぽいお話で、すみません。
修行編登場の師匠(役)キャラでは、ヘラクレスン先生が一番好きかも。
謎の人物ですが、とっても親切ですよね。ホントに良い人だん!!


2012.3.4 上緒 愛 姫誕企画Princess of Peace20120202





− 宴日和 −

今日も、かつての海賊王の副船長と、未来の海賊王とが修行を続ける
“凪の帯(カームベルト)” 無人島ルスカイナ。
海岸に面した岩場で、“麦わらの一味”の船長が師匠となった男に尋ねる。

「なァ、レイリー。本当に間違いねぇんだな?」

“冥王”と呼ばれ、今なお世界に怖れられる男は、呆れた様子で弟子に答えた。
呼び名に“先生”とか“師匠”とかを付け足させることは、初日から諦めている。

「間違いないぞ。
 ルフィ、君は昨日も一昨日も、私に確認しただろう?」
「んー、そうだった気もすんだけど、ずーっと前だった気もするし、ついさっき
 だった気もすんだよなー。
 だって、おれ。昨日も一昨日も殴られて、そのまま寝ちまったんだもんなぁ」

あっけらかんと、自分を殴った相手に白い歯を見せる。
島での過酷な修行もサバイバルも、彼の本質を変えることは出来ないようだ。
落胆よりも感嘆が多く混ざった溜息に、レイリーは説教を加えて吐き出した。

「だから、君は“覇気”の扱い方が雑すぎるのだと何度も言っているだろう。
 いい加減、殴られずに眠れるよう、学習しろ!!」
「うん、わかった!
 そんで、ホントに今日なんだな!!」

筋は良い。素質も申し分ない。
それでも出来が良いのか悪いのか、評価に悩む弟子はしつこく念を押す。
幾つかの事柄以外には、むしろ“こだわり”が無さすぎる彼には珍しいと思いながら
レイリーはもう一度、答えてやった。

「……ああ。今日が2月2日で間違いない」
「そっかぁー。よし、そんじゃぁ…」

麦わら帽子を乗せていない頭が一度、大きくうなづく。
そして、顔をほとんどを口にして、海から吹きつける潮風を吸い込んだ。
深く、深く、ゴム製の上半身が風船のように膨らむまで。

「おい、ルフィ。一体何を……」

するつもりか、と。尋ねかけたレイリーは、次の瞬間に答を得た。


「ビビ〜ッ!!おまえ、元気かーッ!!!
 ちゃんと、笑ってるかーっ!!!!」



ビリビリと鼓膜が震える。
たまらず、レイリーは両手で耳を塞いだ。


「ビ〜ビ〜ッ!!おれは、元気だぞーッ!!!
 今日はおまえ、めでたい日なんだなーッ!!!
 よかったなあぁーッ!!!!」



たまらないのは、人間だけではない。
鼓膜どころか、大気そのものが振動していた。
たまたま飛んでいた海鳥が、空からボタボタと落ちてくる。
“麦わら”の船長がようやく叫ぶのを止めると、岩場から沖までの海面は
鳥と魚と小型の海王類の白い腹で埋め尽くされていた。
皆、気絶しているのだ。

「声に“覇王色”の覇気を纏わせたのか…?」

レイリーは、思わず声を洩らす。こんな使い方があるとは…。
独創的な弟子を、褒めてやっても良いだろう。
そう思って見やれば、満面の笑顔がこちらを振り向く。

「レイリー、何かわかんねぇけど晩メシが捕れたぞ!!にししししっ
「…………………。」


 ドカッ!! バコッ!!!


高らかな音と共に、2段重ねのタンコブがゴムの頭に出現する。
“武装色”の覇気を纏わせた拳は鋼鉄より固い上、ゴムの身体にも大ダメージなのだ。

「“覇王色”を使うなら、ちゃんとコントロールしろと言っとるだろうが!!
 ダダ洩れな使い方をしおって、何の修行にもならんわ!!!」

ぶしゅうぅ〜〜と、岩場に倒れた“麦わら”の船長は、そのまま高鼾をかきはじめた。
無駄な説教を切り上げて、レイリーは大の字に転がる弟子を見下ろす。
鼻提灯の下で半開きの口は、むにゃむにゃと寝言まで呟き始めていた。

「やれやれ…。」

疲れ果てては気絶するように眠り、目覚めてはまた気絶するまで特訓する。
その繰り返しの毎日。強くなって当然なのだ。“覇王色”の源である意志も、気迫も。
強くなりすぎて、コントロールが追いつかない程に。
白い髭で覆われた口元が、苦笑に歪む。

このまま寝かせておいても、心配はないだろう。
命の危険を感じる相手の接近には、勝手に目が覚める程度には“見聞色”も鍛えてある。

レイリーはシャツを脱ぎ、折角の獲物を捕らえに海に飛び込んだ。
今夜は、大したご馳走だ。


  『……今日は、ビビのめでてぇ〜日だぞぉ…。
   肉だぁ…、宴すんぞぉー……、……みんなァ……』


離れていても船長が誕生日を祝おうとするとは、なんと幸せな乗組員(クルー)だろう。
弟子の寝言を思い出し、海に浮かんだまま空を仰ぐ。

「そんなところも、彼はお前を思い出させるよ。
 ……なぁ、ロジャー」

かつての副船長は、彼の船長だった友の面影に呟いた。


  2月2日

  無人島ルスカイナは、今日も絶好の宴日和である



                                     
− Next crew −


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− Ruffy −

本来なら大トリを務めるべき船長ですが、熟考の末、ブービーです。
“めでたい日(誕生日)=宴(肉が食える日)”とインプットされていそうな彼なので
仲間のバースデーは案外、しっかり覚えているのかも。
もちろん、この4日後にも3月早々にも、同じことを繰り返しては懲りずに師匠に
殴られます。
強さは増しても、思わずガックリ来るくらい、大半変わってないもんね船長!!
……まあ、そこんとこは他の連中も目糞鼻糞だったけど。(笑)
(外見だけでも、ドラゴ○ボールみたくバージョン変わるのかと思った私が間違って
いたよ…。)

2012.3.12 上緒 愛 姫誕企画Princess of Peace20120202






− 只今連戦連敗中 −

今日も霧と湿気が立ち込める、“偉大なる航路” クライガナ島 シッケアール王国跡。
古城の一室で傷の手当てを受ける剣士が、思い出したように言う。

「……そういや、お前も一応“プリンセス”だったか」

島の先客である“ホロホロの実”の能力者、ゴースト娘のペローナは、包帯を巻く手を
止めて
眉を吊り上げた。

「ムッ、一応とはなんだ、一応とは。
 私はれっきとした“ゴースト・プリンセス(自称)”だぞ!!」

ツインテールの頭に乗せた、黒い十字架付きの王冠を指差し主張する。
実はチープなイミテーションなのだが、突っ込むどころか気づきもしない様子の剣士は
何やら感慨深げな声で続けた。

「いや、別にお前がどうこうじゃねぇが…。
 “プリンセス”つっても、色々いるもんだなぁと」
「はァ?お前、海賊のくせに私の他にもプリンセスの知り合いがいるのか?
 どんなヤツだ」

すっかり慣れた手つきで治療を再開したペローナは、新しい包帯を取り出しながら尋ねる。
“バーソロミュー・くま”によって、この島に飛ばされてきた者同士。
重傷常習者と臨時の看護婦という関係の彼等だが、治療と看護の合間に雑談する
程度には親しくなっていた。

「……そうだな」

本来は無駄話をしないタイプの剣士だが、治療中は修行も出来ず暇だからだろう。
さっきまでは読めもしない新聞の見出しを眺めていたが、今度は会話で時間を潰す気に
なったらしい。暫しの間を置いて、重い口を開く。

「あー……、とんでもなく頑固で、クソ真面目で、馬鹿がつくほどお人好しで…。
 あと、結構マヌケだったか」
「………お前、変わった知り合いが多いな」

どんなプリンセスだと、疑問符を浮かべながら救急箱を閉じる。
それを待っていたように、剣士は眺めていた新聞を突き出して言った。

「おい、これ読んでくれ」
「……ムッ。お前、暇なら文字くらい覚えたらどうだ。
 毎回、私に読ませやがって腹立つな。…で、どの記事だって?」

文句は多いが、何だかんだと怪我人には親切なペローナである。
それにコイツなど、“ネガティブ・ホロウ”を使えば何時だって、ノミにでもダニにでも
できるのだ。かつて、スリラーバークで

  『みなさんと同じ大地を歩いて、すいません…。(しくしく)』

と膝をつかせた上から目線の余裕を持って、2月3日付けの新聞を受け取った。
示された記事は三面で、大きくはない。
長い髪を結い上げた娘(どうやら王女らしい)と、砂漠の中の白い建物。
小さな写真と並んだ見出しには、“砂漠の国の奇跡”と書かれていた。


   『昨日、2月2日。世界政府加盟国であり、3年に及ぶ大旱魃と内乱から
   目覚ましい復興を遂げるアラバスタ王国では、第一王女の誕生日を祝う
   式典が催された。
   式典の最中、王都アルバーナ上空では突如雲が沸き、柑橘類の香りの
   する雨が色とりどりの花と共に降り注いだ。
   雨季でもない時期の原因不明の怪現象に、雨を尊ぶアラバスタ国民は
   『神が王女を祝福したもうた』『王女の奇跡』
   と、歓喜に沸いた。
   なお、巨大な鳥が宮殿内で目撃されたとの情報もあり、今回の怪現象との
   関連を指摘する声もある』



「……やりやがったな、魔女め…。」

読み終わるや、唸るように呟かれた声に、ペローナはぎょっと顔を上げる。

「お前…、魔女の知り合いまでいるのか!?」

無愛想で、いかにも“友達少なそう”なクセに。
意外と広い交友関係に驚きを隠せない“幽霊王女”に、剣士は記事を眺めたまま
片頬だけで笑って見せる。

「ああ、いるぜ…。とびっきり悪辣なヤツがな」

剣士が思い浮かべるのは、金にがめつく情に篤い、オレンジ色の髪の航海士だ。
どうやったかは知らねェが、あの女に違いない…と、確信する。
新聞から視線を外した剣士は、包帯を巻かれた頭を枕に静めた。

「おい…、どうかしたか?」
「…………。」

立派に国を復興させつつある王女。
自在に雨を降らせられるようになった魔女。
それに引き換え…と、剣士は我が身の不甲斐無さを思わずにはいられない。
稽古という名の真剣勝負。現在まで、連戦連敗中。
越えるどころか、まだ“鷹の目”に一太刀さえも入れていないのだ。

「おい、お前…。傷が痛むのか?痛み止めでも飲むか?」

黙り込む剣士に掛けた声が終わらないうちに、ドアが開け放たれた。
ノックも無しの無礼にムッとした顔で振り向くペローナだが、咎めるわけにはいかない。
“鷹の目”こと、ジェラキュール・ミホークに“ホロウ”が効かないことは確認済みだ。
暗く湿った怨念渦巻く古城の主は、上からどころか頂上目線で言い放つ。

「怪我の手当ては済んだか、ゴースト娘。
 ロロノア、さっさと剣を取れ。稽古の続きだ」
「はァ!?オイ、ちょっと待て。コイツ、アバラが4〜5本は折れてて、当分は絶対安静
 ……って、平気な顔して立ち上がるお前もお前だ!!」

呆れた声を背に、包帯だらけの剣士は腰に三本の剣を差す。
女共に遅れを取っては男がすたる。

「……さて。今日こそは一太刀入れてやるぜ」

口元に浮かぶのは、何千回叩きのめされても消えることのない不敵な笑み。

「……いい度胸だ。だが、私に一太刀入れるのに無傷で済むと思うなよ、ロロノア」
「ああ…、上等だ」
「お前ら、馬ッ鹿じゃないのかー!?」


  クライガナ島 シッケアール王国跡は、今日も修行日和である



                                     − 終 −


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− Zoro −

熟考の末、大トリは剣士となりました。
6人の中では一番、“誕生日”とか気にしなさそうなので。(笑)
そんな彼に、どうやってビビちゃんを思い出させるかを考えたら、1日遅れと
いうことに。一応、最初(と3つ目)の話と繋がっています。
この後、“鷹の目”に一太刀入れる代償に隻眼になった…のかどうかは不明。
何やらゾロビビともゾロナミともつかない感じですが、特にカップリングはありません。
そういや彼、2年間、ペローナちゃんとミホークさんち(城)に同居してたんですね。
幼馴染み(くいな)といい、たしぎさんといい、さりげに女性キャラと一番縁深い。
モテているかどうかは、また別ですが…。


さて、2012年の姫誕企画も、これにて〆といたします。
“麦わらの一味”の更なる大冒険と、ビビちゃんの活躍を願って。

今年も、ありがとうございました!!

2012.3.12 上緒 愛 姫誕企画Princess of Peace20120202

(2012.4.1 本文一部修正)