月は夜ごと海に還り

第六章(2)にモド ル | 第七章 (1)へススム | 009


(3)




「どう思いますね、博士?」

コックピットに戻ってからしばらくして、007は問い掛けた。

「うーむ、あの青年が目覚めてみん事には・・・。しかし目覚めて問い正した所で彼もB.Gのサイボーグ、容易に我々に真相を話すとは思えんな」

「リアを放って置けなかった009の気持ちはよく分かる。いかにも彼らしいじゃないか・・・敵の自分を殺さなかったという 事実があるんだから、こっちに連れて帰ればもしかしてB.Gから足を洗ってくれるかもしれない、そんな望みがあるんだと思うよ。もちろん僕らだって・・・ 同じ思いだからね」

008が前向きな考えを述べたが、004はあくまでも冷めていた。

「そう上手いこと行けばいいがな。恩を仇で返される可能性の方が高いかもしれない。B.Gだって自分の戦艦が急に行方不明になったことを知ったら、執拗に 捜索するだろう。リアと我々の関わりが分かれば、お互いにとってかなり危険で面倒な事になる。今回の事件で彼があっさりB.Gと手を切る事が出来るなら、 俺達だってあんな苦労せずともすぐ逃亡出来た筈だからな」

002がイラついた様子で004に目を遣る。

「今はそんな事どうでもいいさ。それより俺がまだ納得出来ねえのは・・・」
「何だ?」
「009が拉致された経緯だよ。幾ら体にダメージがあって十分動けなかったっつっても、あいつ程の能力の持ち主がだぜ、 あっさり敵に連れてかれるなんて変だと思わねえか?相手が女や子供の姿でもしていてつい油断したって言うなら分かるけどよ。B.Gに拉致される位なら、手 足がちぎれながらでも振り切ろうとするのが普通だと思うがな。・・・捕えられたら最後、何されるか分かんねえってのによ」

「・・・・・・」

「004、アンタが俺達に説明した状況、本当にあれで全部かよ?」

『002!!』
当のふたりと001を省くその場に居たメンバー全員が、脳内通信で002を制止する。自分の目の前で009を攫われた004にとって、彼の問い掛けは残酷 な筈だった。しかしそこで引き下がる彼ではない。

「俺だって今更こんな話蒸し返したくねえさ。でも、あいつが一瞬何らかの精神的なショックでも受けて、ふいを突かれちまったとしか俺は考えられねえんだ よ。些細な事かもしんねえけど、あのデリケートな009の事だからな、後でどんな障害が出るか分かんないぜ。俺はそれが心配なんだよ。しかもその当の敵を 命懸けで助け出す・・・」

「・・・・・・」

「何か大事な部分が抜け落ちてる気がするんだがな」

「ゼ、002・・・」

ギルモア博士はおろおろして額に汗をかき、007は004の背後で大慌てになって『ストーップ!』の形に口をぱくぱく させた。
006は005の巨体に隠れて、脚の間からこっそりふたりを覗いている。

「・・・なぜ009本人に聞かない?」
黙って一通り聞き終わると、一拍置いて表情を変えずに004は口を開いた。
「聞けるものならとっくに聞いてる。つらい話を本人に思い出させたくないからな」
「ではあのリアって奴に聞け。瀕死状態だった俺より詳しい話が聞き出せるかも知れん。それが不本意なら、解決の見込みの無い話で皆の不安を扇るのはよせ」

静かに、きっぱりと004は言い放った。002は不満そうに舌打ちしながらもそれ以上追求することは出来なかった。


 博士は汗を拭き拭き急いで話題を変えた。
「まあ、なんだね。今回の事と云い001の急な覚醒と云い、この島に来てから奇妙な事ばかり起っている気がするのう」
007が同意する仕種で肩を竦め、クーファンの中で後は任せたと言わんばかりにぐっすり眠っている001の頬を軽く突っついた。

「全くでさぁね。ほら・・・あのここに来た次の夜だったけかなあ、何か妙な人影を見たってやつ、あれも確か009だったな。 全部009がらみと来たもんだ。ホントにあいつは・・・神か悪魔か、それとも得体の知れない何かがあいつに魅せられ ちまってるんじゃないかと思いたくなるね」

005がはっとした様子で顔を上げた。

「どうしたネ、005?」

怪訝そうに006が仲間の顔を覗き込む。

「いや・・・」

 部屋の中を見渡して、003は009の様子を見に先程メンテナンス室へ行った事をすぐに005は思い出した。


 そして今の007の言葉を、彼女の耳が拾っていない事を祈っていた。




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