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 目を閉じて004は、彼の匂いや体温を全身で感じようとした。
 彼に触れる時はいつも、それが僅かな触れ合いであっても、体の奥底から熱くこみ上げて来る物があった。嘗ての悲しく忌まわしい出来事から彼に出会うまで に  失っていた、人間らしい本能の源だった。
もう甦る事は無いと無意識にでも確信していた本能の源、それを出会いの後、009は少しずつ揺り起していった。だが当然道のりは半端では無かった。今こう して 実際に彼を抱き締めている事が奇跡に思える程だった。或る時彼は言った。君を愛する事は、君にとっても僕にとっても、天からの大きな罰なんだよ。何故罰な のか と聞くと、そりゃそうだよ、愛すればその人の過去も過ちも全て請け負う事になるんだから、と。そして屈託無く笑って続けた。
嫌って云う程君が愛してくれるんなら、また話は違うけれどもね。
 
 
 
  
「004・・・・」
 
長い抱擁に戸惑った009が遠慮がちに体を離そうとした。
  
髪から指がほどかれ、頬へと滑り下りて来た。009はさり気無く顔を背けた。だが004はそれを許さずに追い掛け、彼の顔を掬い上げる様にして唇を捕え た。009は体を捩って僅かな抵抗を示したが、結局許した。 
最初は柔らかく緩やかに、角度を変えると深くなった。相手が身じろぎするのも構わずに004は抱き締める力を強くし、唇を割って舌を押し込んだ。009は 思わず息を吸い、焦って体を引こうとしたものの、柔らかい舌に絡め取られ強く吸われて、殆ど身動きが出来なかった。 
待って、かろうじて吐いた言葉は004にとって何の意味を成さなかったどころか、益々心を逸らせた。腕に力がこもり、濡れた唇が首筋に埋められた。
体の力が抜けそうになのを必死で耐える。待って、再度囁けばそれを封じる様にまた唇は塞がれる。 
 
「ジョー、・・・・・部屋へ・・・・」
 
吐息と共に囁かれ、同時に熱い膨らみを腹部に感じて身震いした。
 
「・・・・っ、駄目だ」
 
両腕を胸の間に入れ込んで必死で押し返した。乱れた呼吸をきまり悪く感じながら掠れた声を上げる。
 
「駄目だ・・・・僕達、此処でもうこんな事は・・・・せめてリアの事がある今は・・・・」
 
 
004の瞳の奥が見開かれ、かっと燃え上がった。
 
「何故だ」
 
冷然とした声と共に勢い良く手が伸び、009の肩を掴み上げ揺さぶった。
 
 
「・・・・・あんなキスでほだされたのか!!」
 
 
009は茫然とした。相手が何の事を言っているのか、なぜこんなにも激昂するのか、理解出来なかった。
放心して004の恫喝する瞳を見つめたが、次の瞬間厳しい眼差しになって、きっと唇を引き結んだ。
 
相手の手を掴んでぐいと引っ張り、そのまま早足で歩き出した。
 
 
「一体何だ」
 
 009は返事をしなかった。彼の背中は一切の問い掛けを拒否していた。痛い程に手を掴まれ、004は半ば引き摺られる様に彼の後に続いた。
 階段を駆け下り、すぐ傍のエンジンルームに縺れ合って雪崩れ込んだ。モーターの唸りと共に金属と重油の匂いがむっと体に纏わりついた。ガシャンとドアが 閉まると同時に009は004の唇に喰らい付いた。バランスを崩して体が壁にぶつかる。004の髪に両手の指を絡ませて固定し、乱暴に舌を絡めた。009 は片手でもどかしそうに自分のマフラーを剥ぎ取った。訳が分からない儘、004は煽られて押し込まれた舌を吸った。モーターの低い回転音に混じって呼吸が うるさい程響き渡った。
004は何とか相手の体を抱きこもうとしたが、逆に渾身の力で床に押し倒された。009は004の体に乗り上げ、真剣な顔で忙しなく腰のベルトを外した。
 
「おい、何事だ」
 
相手の予想外の行動に半分気圧され気味だった004は焦って口走った。だがこれから起こる事への甘美な期待に、驚きながらもとても抵抗など出来なかった。  
 009は無言で004の防護服の中をかき分け、熱を持って膨張したものを剥き出しにし、何の躊躇いも無く勢いよく口に含んだ。
 
「・・・・っう・・・・」
 
004は思わず呻きを漏らした。
 
既に十分熱く硬くなっていたそれは、009の口の中で転がされ跳ね回った。筋の一つ一つを舌先で丹念に舐め上げ、音を立てて先端を吸った。喉奥まで深く 咥え込み、粘膜にゆっくりと擦り付けながら何度も動かし、根元に甘く噛みついたかと思うと、横咥えして更に隅々まで舐め尽す。
 
 濃厚過ぎる口での愛撫に004の官能はどんどん体を駆け上がって行った。圧し掛かっている009の体を自分の下に引き入れて主導権を奪い取ろうと何度も 試みたが、その度に009は手を跳ねのけ、頑なに口を離さなかった。ようやく離れたかと思うと今度は身を捻ってブーツごとズボンを脱ぎ棄てた。
 目を見張る004の口に指を含ませた。唾液を染み込ませる様にして004が舐めねぶったそれを、009は我が身の後ろにあてがい、揉みしだく様にして中 に侵入させた。
ぎゅっと眼を閉じて息を殺し、何かに憑かれた様に痴態を見せ付ける。彼の白い腿をゆっくりと撫で廻して004は更なる官能を待った。
 
 ようやく004の濡れた先端に009の同じく濡れた蕾があてがわれる。009のそこは004の熱の固まりをゆっくりと飲み込んで行った。
二人の唇から溜息が洩れる。一体となるべく熱は狭い中をじわじわと押し広げた。
 
「ん・・・・んっ・・・」
 
009の赤い唇が抑え切れない声を発すると、それが合図になったかの様に細い腰が動き出した。徐々に動きは早くなり、呼吸も荒くなっていった。
004は腕を伸ばして009の背中のジッパーをぐいと引き下ろし、両肩から上着を剥いで白い肌を剥き出しにさせた。たちまち零れ出た薄赤い乳首を親指の腹 で撫で上げる。
 
 「あ」
 
009は仰け反って下を締めつけた。
 
004は夢中で009の腰を掴んだ。下から激しく突き上げられて009の体はがくがく揺れた。004は今度こそ相手を押し倒そうとしたが、それでも009 は残酷なまでに譲ろうとしなかった。004はもどかしい思いで突き続け、何とか今以上に快楽を得ようと彼の体を撫で回す。乳首は唇と同じ色をして004の 指の下でぷるんと震えた。
 快楽に溺れながらも009の目には切ない色が浮かんでいた。夢中で腰を蠢かせる姿にはどこか悲壮な物があった。心に渦巻く思いを性欲に変えて吐き出して しまおうとしているかの様だった。鉄と油の匂いの中で空気が重く湿っていた。
 途切れ途切れの嬌声が004の体の奥を打つ。互いの腰の動きが早くなった。
 009は004の上でびくんと体を硬直させ、二、三度痙攣した。例え様も無い恍惚に004の全身が痺れ、やがて二人の体から力が抜けた。
 
 009は004の体の横にぐったり手を付き、荒い息を何度も吐きだした。
 唾液に濡れた唇を拭い、垂れた前髪の間から004をきっと睨んだ。
 
 
 
 「これで・・・・これで・・・・いいだろ・・・・」
 
 
 




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