月は夜ごと海に還り

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 (3) 


  海の真上、上空は風がかなり強い。

 002は両足の噴射を調節しながら、敵の機体に近付いて行く。
 強烈な風とふたつの戦艦の至近距離のエンジン音が鼓膜を打ち、耳が千切れそうだ。何度か機体に張り付いてはみるものの、激しい振動と不規則な動きに翻弄 されて体が離されてしまう。003が目星をつけた出入り口を必死で目指した。
 ドルフィン号では、皆が彼の一挙一動を固唾を飲んで見守っている。吐き出される黒い煙が目を打った。霞む視界とコントロールの効かない体。002は歯噛 みした。

──── くそ・・・!時間がねえんだよ!

両手両足で熱を持った胴体にしがみついた。まるでロッククライミングの様だ。

──── いや、スパイダーマンかな・・・

この状況には不似合な想像に思わず苦笑いが漏れた。
ぐっと伸び上がって、扉らしき窪みにやっと手を掛けた。

「もう少しだ!」
仲間達は身を乗り出した。

その時003が悲鳴を上げた。
002が手を掛けたその部分から、爆音と共に火が吹き出したのだ。
彼は大きく吹き飛ばされた。

「002!!!」
『002、002!!』
真っ青になって呼び掛けた。皆の頭の中の彼へのチャンネルはノイズ音と強い風の音。
『・・・・・・』
『・・・・・・』
『・・・・・・』

『・・・・・・応・・・・・・大丈夫・・・入り口・・・』


 途切れ途切れに聞こえる擦れた音声。皆はもう気絶寸前だった。
 間一髪で爆発に巻き込まれるのを避けた002は機体の左翼にしがみついたまま、身動きが出来ない状態だった。
唯一侵入可能と思われた入り口からは、今の爆発による巨大な炎の塊が空中まではみ出して空を舐めている

万事休すか。

『002、駄目だ、戻って来い!』
『冗談言・・・な!009・・・死なせ・・・のかよ!!』
『このままでは君だって危ないんだぞ!』
『やな・・・った!!』
『ひとまず帰ってくるんだ!!!』
『・・・い や だ・・・!!!』

どうすればいい。道は模索し尽くした。
ふらついた003の体を005が支えた。
「神様・・・」
彼女は涙混じりに呟く。

 その時突然コックピットの隅で柔らかい光が炸裂した。
 光は空中の002の頭の中にも一瞬で届いて流れ込み、彼の脳とコックピット中を虹色の光で充たした。

『002、そのまま上に登って尾翼まで進むんだ!!そこの屋根の一部が弱っている部分がある。そこをレイガンで穴を開けろ! 早く!!』




001が覚醒したのだ。





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