物狂おしきこの世界

 山アが持って来た報告書と数枚の写真。

 土方は報告書をぺらっと眺め、次に写真を一枚ずつ繰ってみる。
 長い髪のテロリストと腑抜けた顔をした白い髪の男。
 顔を見合わせて笑う二人、スーパーの袋を手に並んで歩く二人、相手の長い髪に指を絡めて弄ぶ男…など。

 最後に、路地裏の様な場所で顔を近づけて寄り添う二人の姿を確認し終わると、土方はそれらを脇に投げ出し、煙草を咥えたままどさりと後 ろに 倒れて畳に寝そべった。
 口の端から煙を吐きつつ、両腕を枕に暫し宙を見つめる。
 何度か煙が立ち昇った後、土方は起き上がり、廊下をゆっくり歩いて外へと出た。

 空に冬の色をした雲が流れる。冷えた風が体に纏わりつきに首をすくませた。
 土方は歩きながら少しづつ足を速める。
 通り過ぎる風が、頭の中でさっき見た写真を一枚、また一枚と剥がして、煙草の灰と共に彼方へ飛んで行く。

 桂と万事屋。
 嘗ての盟友で、幼馴染でもあるという。だがそれだけではなかった。

 一枚、写真が飛んで行く。

 二人は予想外で予想通りの仲だった。だがそれだけではなかった。

 また更にもう一枚。

 あの桂が心許す相手は男。

 彼が寄り添うのは、紛れも無く男の性を持つ者なのだ。

 自分はずっと桂を追って来た。
 真選組副長として追い続ける自分はあいつと同じ男だった。

 土方の胸は悲鳴の様に高鳴る。意図せず目の端に涙が溢れる。そして物狂おしい笑いが込み上げる。

 不条理な泣き笑いに顔を歪め、写真をまた一枚と頭の中で切り裂いて、それらは風に乗り、粉々になって灰と共に散って行く。


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