◆ 14 ◆
「すげぇ・・・」
「やばいっすよこれ」
暗闇の視聴覚室に、チカチカとTVの画面だけが光っていた。その光の中で、豊満なボディを誇る女性が男に貪られ、あられもない姿で喘いでいる。
それを食い入るように観ている、青少年が2人。
『ほら、もうこんなに濡らして・・・いやらしい体だ』
お約束のようなセリフを吐いた男は、手で舌で、更に女を攻める。
『あっんんっ・・・そんなとこ・・舐めちゃ・・・いやぁっ』
『嫌?体は喜んでるぜ。下の口は正直だな?ん?』
『あっああっ・・・だめぇ・・・!』
彼女の太股は、ごつい男の手につかまれて左右に大きく開かれていた。その間に男は顔をうずめる。卑猥な濡れた音と蠢くモザイク。はっきり見えないせいで、余計に妄想をかき立てられた。
『あっ・・・ん・・・あっ・・やああん!!』
ボリュームを落としているのにもかかわらず、シンとした室内に女の嬌声がやけに大きく響く。高耶と楢崎は、たびたびボリュームを絞っては、イスを引きずりTVににじり寄った。
(やべぇ・・・)
ビデオが佳境に入るにつれて、楢崎の下半身に予想外に熱が集まりだす。疲労となんとかは反比例するというのは本当のようだった。ましてや普段、潤いのない禁欲生活をしている身には、刺激が強すぎた。そしてそれは、記憶の無い高耶も同様だった。
これはマジでやばい。そう思った高耶と楢崎は、誤魔化すように軽口を叩く。まだ中盤のこんなところで値を上げるのは、青少年らの小さなプライドが許さなかった。
「男の攻めセリフ、陳腐っすねぇ」
「ああ、ベタベタのセリフだな」
「現実にこんなセリフ言うやついるんすかね」
「いたら、そいつ変態だろ」
「あはは、そうかも」
『あ・・・あんっ・・あああああっ!!!』
「・・・・・」
「・・・・・」
画面の中は、更にすごいことになってきた。
「・・・隊長、大丈夫っすか?トイレなら出てすぐ右側にありますよ」
「うるせぇ。そういうお前こそ、さっきから下半身がもぞもぞしてるぞ」
「隊長こそ」
ふたりは、あははと笑い合い、必死に平然を装う。忍耐力レースのようだ。目前の画面と、己の下半身に全神経を集中させ、必死に耐える。
だから・・・気付かなかった。近付くその気配に。
「高耶さん?ここにいるんですか?」
背後のドアが、静かに開いた。
「!!!」
とっさに高耶はTV画面を背で覆い、楢崎は、机の上のビデオを隠した。
その様子を直江は、訝しげに見ている。
「こんな時間に一体何を・・・」
「い、いや、テレビを観たくなって・・・なあ?」
「そ、そうっす!」
高耶は後ろ手にTVのスイッチを探った。早く消さなければ。
幸い、入り口からTV画面は見え難い位置にあり、視聴覚室は普通の部屋に比べて広いため、この音量では聞こえてないだろう。そう願いたい。
高耶の指が小さな突起に触れる。
(これか!)
TVの主電源と信じて思い切り押した、その瞬間、
『あああっ・・・!イクーー!!』
部屋に、大音量の嬌声が響き渡る。
高耶の押したのは、音量「大」のスイッチだった。
「下ろせよ!」
「静かにしてください。皆を起こしますよ」
「だったら、下ろせ!人を荷物みてぇに運びやがって!」
恨めしげに目の前にある直江の背中を睨みつける。
(ったく、信じらんねぇ・・・)
あの直後、ビデオは塵と化した。文字通り、直江の力によって粉砕されてしまった。そして、巻き添えをくったTVやビデオデッキがプスプスと煙を上げるなか、直江は、茫然と立ちすくんでいた高耶をひょいと肩に担ぐと、青ざめる楢崎を背にさっさと退室したのだった。
何もそこまで怒ることないだろうと、高耶は思う。健全な青少年ならエロビデオくらい興味を持つのは当たり前だろう。ここまでブチ切れる直江の心境がわからない。
「あ〜あ、あと4本もあったのに・・・」
「何か言いましたか?」
「ムッツリスケベっつったんだよ」
「聞き捨てなりませんね」
「お前だって、ホントは観たいくせに上品ぶりやがって。毎日こんな男まみれな生活じゃあ、そうとう溜まってんだろ?」
そして、それを自分で処理するには、オカズが必要だ。
「心配には及びません。あんなもので、私のは処理できませんから」
(どの口でそんなことを言うのかこの人は)
直江は、ふつふつと込み上げる怒りを押さえて言い捨てた。
「あんなもので悪かったな」
「・・・己の五感で感じることができなければ、満足できません」
他人の睦み合いなど見てどうするというんだ。たったひとりの愛しい人の、肌を声を表情を匂いを味を感じられなければ、この身は発熱しない。
「ふ〜ん、お前、恋人いるのか?ここに・・・うわっ!」
ドアを開けた直江は、高耶をベッドの上に乱暴に落とした。
「部屋に着きましたよ」
「ったく、何なんだよさっきから!」
「あなたは、あんなもので満足できるんですか?!」
直江は、息荒く叫んだ。その迫力におもわず高耶は息を呑む。
「この程度じゃ足りないくせに」
(いつも、あんなにオレを貪って、貪って、それでも足りないと訴えてたくせに・・・!)
「何言って・・・」
意味がわからないと、戸惑う高耶の様子に、直江は苛立つ。記憶がないのだからしかたがない。それはわかっている。だけど怒りは収まらない。
直江は、ベッドに手をついた。ギシリとスプリングが軋む。
「今夜は、あのAV女優を思い浮かべながら、自慰にふけるんですか?この手で?」
高耶の右手を掴み、目の前に持ち上げた。
「なっ!!!」
何を言い出すんだこの男は。そんなことを口にするな馬鹿野郎と、高耶は真っ赤になって睨みつける。
「・・・離せよ!」
掴まれたままの右手に、直江の指が深く食い込んだ。
「あの甲高い嬌声を思い出しながら果てるんですか?」
直江の膝がベッドに乗った。更にスプリングが軋む。四足になって迫ってくる男は、何かの獣のようだった。高耶は、その不穏な空気に、思わず後ずさる。背中に冷たい壁が当たった。
「わ、悪ぃかよ!男ならこれくらい・・・・うわぁっ!!」
高耶は、己の下半身に目をやり、絶句した。直江の右手が高耶の股間を握っている。
「ななな、なにすんだ!!」
高耶はパニックになり、足を蹴り上げた。直江はその足を素早く掴むと左右に大きく割り、その間に体を入れて閉じられないようにしてしまう。その一連の動作は手馴れたものだった。
(じょ、冗談だろ?!!)
目を剥く高耶の目前で、直江の右手が、無防備になったソコを、再びゆっくりと握りこんでゆく。
「ビデオなんかより、もっと気持ちいいことをしてあげますよ」
直江は、不敵に微笑んだ。
2005.7.18 up次は・・・ウラ?
※あまり期待しないでください。