サンタが家にやってきた 9



 ◆      9      ◆
 
 
ピンポーン。

時間通りだった。
インターホンのモニタを見ると、社名入りの赤いジャンパーを着た黒髪の青年が、不機嫌極まりないといった表情で映っている。
「こんにちは、高耶さん」
直江は、そんな彼を笑顔で迎えた。
「今日も寒いですね」
「こんにちは。バイク便・エクスプレスサービスの仰木です」
それを黙殺し、高耶はマニュアル通りのあいさつをする。
「お届け物を受け取りにきました」
「昨夜、いえ、今朝少しは眠れましたか?」
あの後、直江の引き止め工作にあった高耶がこのマンションを出たのは、新聞配達のバイクとすれ違うような時間だった。
シャワーを終えた高耶に、生年月日までしっかりメモ済みの彼の免許証を返した直江は、嫌がらせのように、具体的に己の犯した所業を並べたてて詫び、それと同じくらいにしつこく愛を囁いて、夜が明ける頃にやっと彼を開放したのだった。
「お荷物はこちらの封筒ですか?では、この伝票に、配達先の住所と電話番号の記入をお願いします」
「あんなことになって、本当に申し訳ありませんでした。どうか事故など起こさないようにしてくださいね」
「ご利用は初めてですよね?メンバーズカードは、お作りいたしますか?こちらポイントをためると、お得な割引サービスを受けることができます」
「高耶さんは大学生ですよね?今日は学校はお休みですか?」
「料金は1900円になります。初めてご利用ですので、現金払いでお願いいたします。次回からお振込みでのご利用も可能です」
「バイトは何時までですか?昨夜のお詫びに、夕食をご馳走させて頂けないでしょうか?」
「2千円お預かりいたします。100円のおつりになります」
「本音を言うと、今日のクリスマスもあなたと一緒に過ごしたいんです」
「こちら伝票の控えになります」
「もしかして・・・彼女とご予定があったりしますか?」
「今からだいたい30分くらいで、配達完了となります。お届け次第、お客様へ報告の電話を入れさせていただきます」
「ああでも、ファーストキスもまだなら、彼女のいる可能性は無・・・」
「お客様」
バシッと、伝票を叩きつける。
「連絡先は、こちらの伝票の番号でよろしかったでしょうか?」
「ええ、それが私の携帯の番号です。いつでも連絡してきてくださいね」
「・・・お客様」
高耶の声のトーンが地を這う。
それにも動じず、直江は熱心に高耶をくどく。
「今夜、おつきあいいただけませんか?」
「・・・確認は以上です。失礼しました」
高耶は、荷物を掴んでさっさと退散しようとした。だが、その荷を引っぱるヤツがいる。
「・・・荷物を渡してください」
「私のこの気持ちも、一緒に受け取っていただけるなら」
「お客・・・・・直江」
「はい」
いい返事だった。
高耶は、はぁ〜っと大きく息を吸い込む。
「いいっ加減にしやがれ!!この色ボケ男!!ふざけるな!!」
「いいえ、真面目です」
「何でオレのバイト先を知ってんだよ!」
「隣のビルのテナントで、あなたがアルバイトしてそうなところは、ここしか思いつかなかったので。問い合わせてみたんですよ」
「しかも、指名なんかしてくんな!」
「そんなこと言われても、あなた以外の人間に興味はありませんから」
「ここは、そういう店じゃねぇ!」
「指定した時間通りに、あなたが来てくれる・・・素晴らしい会社ですね」
「・・・・・」
もはや、何を言っても無駄だった。
「いいから、これを渡せよ。時間ロスすっと、オレが怒られるんだからな」
「ああ、それは大変ですね。急ぎじゃないので安全運転でいってくださいね」
「急ぎじゃないなら自分で届けろよ。近いだろここ。だいたいなんでこんな時間に家にいるんだよお前。会社は?」
「今日は昼からの出勤なんです。・・・イブの翌日にそういうことにしておくと、いろいろ厄介払いができるので」
そう言って、直江は意味深に笑う。
「・・・ムカツク野郎だな」
つまりは、それだけおモテになるということか。厄介だというくらいに。
高耶は、ふつふつと怒りが込み上げてくるのを感じた。
なんだかわからないが、とても気分が悪い。
「そんなにモテるんなら、オレなんかを食事にさそったりすんなよ。よりどりみどりなんだろ?」
「それは、嫉妬ですか?」
弾んだ声が返ってくる。
「なっ!だ、誰が!!もういい!行ってくる!」
「あっ、待ってください。その荷物の届け先ですが・・・」
足早に去ろうとする高耶に、今思い出したといった風に、直江が言った。
「この方に直接渡してくれませんか?」
一枚の名刺を渡される。
「昼過ぎでないとつかまらない人なので、ゆっくり行ってくださいね。安全運転で」
「ああ、わかった」
「では、これから大事な予定が入っているので、お先に!」
「へ?」
すでにカバンとコートの通勤ルックだった直江は、慌てた様子で靴を履き、先に玄関を出た高耶の脇を疾風のようにすり抜けてエレベーターへと走っていった。
カチリと、ワンテンポ遅れて背後でオートロックの扉が閉まる。
唖然とした高耶に、男は、エレベーターの扉の間から笑顔で手を振った。
エレベーターは、高耶を置いて下降していった。
「・・・なんだあいつ?」
実は、ものすごく焦っていたようだ。
「全く、大事な用事に遅刻すんじゃねーぞ!」
男の慌てた姿がなんだか可笑しくて、高耶は笑った。
「さてと、オレも急がなきゃな。え〜と、場所は○○駅の前だったな。んで、誰宛っつったっけ?」
さっき渡された名刺を見る。
「橘不動産の橘 義明様、か」
確認してポケットにしまい、高耶は、ん〜と、ひとつ伸びをする。
中庭に面したマンションの廊下には、燦燦と太陽の光が差し込んできていて気持ちいい。なんだかいい日になりそうな気がした。
「よっしゃ、がんばるぞ」
高耶は、足取り軽く出発した。


晴天の元、赤いユニフォームのライダーが走りだす。
時を同じく、それに追いつかれないよう車を飛ばす男がひとり。


----サンタの受難はまだまだ続きそうだった。


Happy Merry Christmas?


(Fin)

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え〜、楽しく書けた話でした。ただまあ、品質に関しては・・・ノーコメントで。作文って難しいですね。
途中からノロノロ更新でしたが、書いてる実時間は、私にしては画期的に早かったです。
とりあえず、チャレンジ作品だったということで(エロとかも・・・)、ご勘弁ください。

それにしても、バレンタインにクリスマス小説を書いてるってどうよ・・・

2005.2.14 up