◆ 24 ◆
「そろそろアジトに引き上げるぞ。そいつら連行しろ」
嶺次郎が撤収の号令をかけた。
「了解!」
「おい、立て!」
捕らえた伊達の者たちを立ち上がらせる。30人もの猛者たちだったが、霊枷をさせられていては無力に等しかった。
「おまんら、牢獄でたっぷり情報を絞りとっちゃるからな」
「覚悟しちょれよ」
隊士らは、わははと笑いながら捕虜たちを連行する。
勝利に浮かれていた彼らは・・・油断していた。
「ぅぐっ!!!」
鼓膜を破るような爆破音と共に、隊士の一人が吹き飛ばされた。
「何っ!!」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。唖然とする隊士らの前を、高耶めがけて男が突進していく。伊達の指揮官だった。その手にあるはずの霊枷がはずれている。
「うおおおおお!!!」
(無駄死にはせん!景虎も道連れだ!)
指揮官の手には青白い念の塊が生まれていた。それは鋭く尖った形に変化し、高耶の胸を目掛けて放たれる。
高耶は目を見開く。
「隊長!!」
「高耶さん!!」
捕虜たちと高耶の距離は、ほんの10メートルほどしかなかった。
自分を目掛けて来る鋭利な青白い刃、その合間に立ちふさがった直江の背中。ぶつかり合う念の衝撃。
長く感じたそれは一瞬の出来事だった。
高耶の頬に、鉄臭い生温かい液体がふりかかる。
「なお・・・え?」
「高耶さん・・・無事でしたか?」
ゆっくりと振り返った直江は微笑んでいた。左の腕からは血が止め処なく流れている。
「直江っ!!」
直江の目が静かに閉じた。そのまま人形のように倒れこむ。
「直江ぇぇぇ!!」
高耶は我を忘れて直江の体にすがりつく。
「目を開けろ直江!」
赤く染まる体を掻き抱いて高耶は叫ぶ。
「直江ぇぇぇ!!!」
地面には赤い染みがみるみるまに広がってゆく。
「あ・・・ああ・・・」
高耶の中で、いつかの赤い映像がフラッシュバックした。
血みどろになって倒れる直江の姿。燃える炎。そして誰かの悲しみの咆哮。
「ああああああ!!!」
体の奥底から、何か底知れぬものが湧き上がる。
「ああああ!!・・・直江ぇぇぇ!!!」
すべての影を打ち消すような白い閃光が高耶から放たれた。
一拍遅れてすさまじい爆発音が轟く。その衝撃に大地が震え、巻き上がった砂塵は同心円を描きながら津波のように人々を襲った。広場にいた者達は皆、次々と投げ飛ばされ地面に叩きつけられた。
「やめろ仰木ぃ!!」
「隊長ぉ!!」
溢れ出した力が暴走するのを止められない。直江を抱きしめたまま、高耶は感情のままに荒れ狂う。
「てめぇら許さねぇ!許さねぇぇ!!!」
機関銃のような高耶の念攻撃に、霊枷を付けられた伊達の捕虜たちはひとたまりもなかった。次々ともんどりうって倒れてゆく。鬼八の炎をまとい赤い瞳をぎらつかせる高耶は、鬼そのものだった。
「ひっ・・・ひいぃぃぃ!!」
すでに直江に始末されていた指揮官は幸運だった。そう思えるような恐怖だった。
最後のひとりが倒れても高耶の暴走は止まらない。あたりに念を乱射する。敵も味方も関係なかった。
「ああああああ!!!」
念と共に溢れ出した炎が空中を乱舞する。その炎に炙られた地面からは、ゆらゆらと陽炎が立ち昇り、もはや素手では触れられない温度に達していた。広場を囲む木々は爆風で枝葉をもがれ、わずかに残ったそれも炎に焼かれて塵となる。炎はやがて幹に燃え移り、気が付けば広場は炎に包まれていた。そこはまるで地獄の釜のようだった。
「なんてことじゃ!!」
嶺次郎は目を剥いた。
「やめろ仰木ぃ!!」
必死に消火に当たりながら潮が叫ぶ。このままでは皆焼け死んでしまう。
「隊長!目を覚ましとうせ!!」
兵頭が叫ぶ。高耶の元に行こうとするが炎に阻まれて行き着けない。
「やめとうせ!隊長ぉぉ!!」
熱さと恐怖に叫ぶ仲間の声も、今の高耶の耳には入らない。
「高耶さん!!」
その時、高耶の腕の中で声がした。高耶がびくりと体を揺らす。腕の中に視線を移すと閉じられていたはずの鳶色の瞳がそこにあった。
「なお・・・え・・・」
視界が涙で歪む。
「私は生きています。大丈夫だから落ち着いて!」
体を起こした直江は、高耶の頬を両手で包み込む。
「ほら、生きているでしょう?」
「直江・・・っ!」
高耶の目から涙が溢れ出る。その涙に口づけながら直江は高耶を抱きしめる。
「直江・・・直江・・・!!」
嗚咽で震える高耶の背中を優しく撫ぜながら、大丈夫だ、と直江は何度も伝えた。
「もう何も怖くない・・・だから力を納めてください。このままだと仲間を殺してしまいます」
「仲間・・・」
高耶は、ぼんやりとあたりに目をやる。炎に囲まれて阿鼻叫喚に逃惑う仲間たちの姿があった。
高耶の瞳に正気の光が戻る。
「あ・・・・・これ、オレが・・・やったのか?」
足元からガタガタと震えが登ってくる。
「落ち着いて高耶さん!あなたならこの炎を消すことができます」
「オレ・・・が?」
自信なげに直江を見つめる。
「想像するだけでいい。炎が消える去るのをイメージしてください。あの炎はあなたの思い通りに従います」
「そんな・・・無理だ!火を操るなんてできる訳ない!」
「じゃあ仲間をこのまま焼き殺すのですか?!」
「嫌だ!!」
高耶は涙を飛び散らせて首を振る。
「私を信じてください!」
高耶は顔を上げる。
「落ち着いてやればできます。目を閉じて、イメージして・・・」
高耶は直江の胸にしがみ付いたまま、ゆっくり目を閉じる。ひとつ深呼吸をして、瞼の裏にイメージを描き出す。
広場を燃やす炎が空に舞い上がりそのまま消え去るのを・・・燃える木々から炎が剥がされ、舞い散る火の粉も冷たい塵となって静かに土壌に落ちるのを・・・
再び目を開けた時、広場を燃やしていた炎はすべて消え去っていた。そして直江の笑顔を確認したあと、高耶は意識を手放し直江の腕に崩れ落ちた。
こんな狂気の高耶さんも大好きです。
それにしても迫力ある文章って難しいですね〜
伊達の侵入者の指揮官、何か名前付けようと思ったんですが、めんどくさくて、「指揮官」で通しました。
おかげでなんか書きにくかったです。(自業自得)
2006.02.06 up
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