カーテンコール 5



 ◆      5      ◆
 
 
「おい。こんなとこでいつまで油売ってるんだよ?」
「・・・長秀」
直江は、いつかの千秋のように春日山城址の石碑にもたれ、タバコを吸っていた。
「景虎が餌食(えじき)になってるぞ」
直江は吸いかけのタバコをシルバーの携帯灰皿に押し付ける。彼が持つには安っぽいものだ。
それを大事そうにあつかう様子から、誰にもらったかは一目瞭然だった。たぶんブレスレットのお礼なんだろう。
「・・・景虎に、ブレスレットをプレゼントしたんだってな?」
千秋の脇を通り過ぎかけた直江は、足を止めた。
「そっくりだったな」
「・・・・・・」
千秋と視線が交わる。
「おまえ、これからどうするんだ?」
「・・・あの人に、永遠を証明する」
---私は生き続ける。あの人とともに。
(全く、この主従は・・・)
「今生でもつきあってやんねーよ」
直江は口の端だけで笑い、宴へと戻っていった。


(ほんとにまあ、あの2人の不器用さは天下一品もんだよ)
もっと楽な生きたかだってあるだろうにと、遠ざかる直江の背を見ながら千秋は思う。
(でも、できねーんだよなぁ、あの頑固主従は)

何が起ころうが、人が何を言おうが、結局自分の道を貫きやがる。
なのに巻き込みやがるからタチが悪いったらない。
全く心配ばっかさせやがって。心配と迷惑しかさせねぇで。そばで見守ることしかさせねぇで・・・
こんな手ごたえの無いボランティアを400年も、よくやったぜオレも。
だいたい、明らかに相思相愛のくせして、くっつくまでにどんだけかかってんだか。
400年の痴話げんかに付き合わされた身にもなってみろ。
もー知らねぇ。金輪際、絶対あいつらの世話はやかねぇ。
永遠でも世界の果てでも勝手に見て、ベタベタのハッピーエンドでも迎えてくれ。
だから、オレはもう本当に、絶対に・・・

「なぁに、ニヤニヤ笑ってんのよ長秀。気持ち悪いわねぇ」
「・・・晴家」
いつの間にか、綾子がそばに来ていた。
酒豪対決は団体戦のようだ。そのために直江と千秋をわざわざ呼びにきたらしい。
綾子は千秋の顔を覗き込む。
「ねえ、何かいいことでもあったの?」
「・・・まあな。持病の偏頭痛がやっと治ったんだ」
「あらまあ!それはおめでとう!じゃあ、今夜はそのお祝いにパーっと飲みに行かない?」
「おまえなぁ、どんだけ飲むつもりだ?」
はぁっとため息をついた。ザルにもほどがある。
「だいたい、早く帰らねーといけないんじゃなかったのか?」
千秋がそう言うと、綾子の顔が曇った。
「予定がかわったのよ」
(さては・・・)
「慎太郎は出張か?」
綾子は今、慎太郎と暮らしている。
彼と同居してからというもの、どんな用事があろうともつきあいもそこそこに、彼の帰宅時間までには飛ぶように帰るようになっていた。
「そうなの〜だからつきあってよ長秀。家でひとりで待つのって寂しくって」
「はぁ〜?なに女みたいなこと言ってんだ」
「女なの!」
「他のやつらに言えよ」
「だって〜、鯨メンバーは夕方には四国に帰るっていうし、色部さんは明日も診療があるし、景虎と直江は海を見に行くっていってて、そのあとは言わずもがなだろうし。ほら、やっぱり邪魔したくないじゃない?」
---消去法で千秋が残ったということらしい。なんとなく複雑な気分だ。
「だからぁお願い!つきあってよ」
綾子が手を合わせる。
「あのなぁ、そんな一晩や二晩待ちゃいいだろう」
「・・・もう嫌なのよ、待たされるのは。二百年も待たされたんだから」
「まぁそうだが・・・・っておい!おまえ・・・?!」
(二百年って・・・)
「さ!まずは第一ラウンド行くわよぉ〜!」
そう言って、目を見開く千秋の腕をぐいっと引っぱる。
綾子に引きずられながら、千秋は苦笑した。
(成田の力もたいしたことねぇなぁ)
本人には決して言えないセリフを心の中でつぶやいた。



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 短いですが、区切りがいいのでここで止めときます。次がラストです。(たぶん)
ミラケットに行けない無念をぶつけながら、こんな時間(午前5時)に書いてます。
2004.10.17 up