モデルルーム-Xmas Type 2



 ◆      2      ◆
 
 

「昼と晩、何食べたい?」
 洗濯を終えた高耶が、買い物に行くと言い出した。
「あなたの食べたいものでいいですよ」
 ソファーテーブルの上には、ノートパソコンや、いろんな書類が山積みになっていた。手持ち無沙汰だった直江は、仕事をすることにしたらしい。
「仕事忙しいのか?」
「ええ、年末ですしね。休日返上で働いていますよ」
 苦笑する直江の顔を高耶は見下ろす。なんとなく顔色が悪いような気がする。目の下にもうっすらクマができていた。
「今日くらい休んだらどうだ?疲れてるんなら、ベッドで寝とけよ」
「ありがとうございます。でも、もう少しきりのいいところまでやってしまいます」
 そう言って直江は、買い物賃として1万円を手渡した。
「こんなに使わねーよ」
「今日はクリスマスイブですよ?夜はパーティをしましょう。なんでも好きなものを買ってきてください」
「・・・わかった。精の出るもの作ってやるから、仕事がんばれ」
 スーパーの場所を聞いて、高耶はマンションを出た。玄関まで見送りに行った直江は、扉が閉まるなり物憂げなため息をつく。
「高耶さん・・・簡単に騙されすぎです」



「直江〜できたぞ」
 直江がキッチンへ行くと、赤いエプロンをつけた高耶が、茶碗にごはんを盛っているところだった。テーブルには、湯気をたてた美味しそうな料理がずらりと並んでいる。レバニラ炒めや鶏肉の梅しそ和え、ほうれん草のお浸し、あさりの味噌汁にロールキャベツは牡蠣入りだった。どれも体によさそうなものばかりで、高耶の心遣いに胸が熱くなる。
「こんな短時間で、よくこれだけ作れましたね」
「立派なキッチンだったからな。デザインだけじゃなくて、使い勝手もすごくいい」
 新妻はご満悦のようだった。
「あ、箸とか茶碗はなかったから、100均で買ってきた。あと調味料とかもいろいろ」
「すみません、気付きませんでした」
 色違いの茶碗と箸に、直江は笑みをこぼす。
「なんだよ」
「幸せな旦那様の役にひたっているだけですよ」
「早く食え。いただきます!」
 照れたのか、高耶は、ぶっきらぼうにそう言って手を合わせた。
「いただきます」
 直江もそれにならう。手を合わせてから食べるのは、いつ以来だろうか。「いただきます」とこんなに心から思ったことは、今までなかった気がする。
「直江、醤油とって」
「はい、高耶さん」
 いつの間にか、自然に名前で呼び合っていた。
 こそばゆい程の、幸せな家のモデルがここにあった。


「高耶さんも、そろそろ休憩してください」
 昼食の後片付けを終えた高耶を、直江はリビングへ呼んだ。テーブルの上に散乱していた書類は、いつの間にか片付けられている。
「いや、オレはいい」
「これも仕事ですよ。リビングの居心地を確かめてもらえませんか?」
 そう言われては断れない。高耶はエプロンを外してソファーに腰掛けた。
「テレビでもみますか?DVDも何本か用意してありますよ」
 突然くつろげと言われても、どうしていいのかわからない高耶は、勧められるままアクション映画を観ることにした。液晶大画面のTVで見る映画は迫力満点で、高耶は仕事を忘れて楽しんだ。
「あ〜面白かった!」
 高耶は、ごろんとソファーに寝そべる。だいぶリラックスしてきたようだ。
「楽しかったですね」
 直江のすぐ隣に、寝転がった高耶の頭があった。
「・・・何やってんだよ」
 大きな手が、高耶の髪を優しくすいていた。
「嫌ですか?」
「・・・別に」
 嫌などころか心地いい。そんな自分が恥ずかしくて、目を閉じる。くすりと漏れた声にも気付かないふりをした。



「風呂沸いたぞ。先に入れ」
 ソファーでゴロゴロしたあと、高耶はまた精力的に働き出していた。
「いえ、私はあとでいいですよ。高耶さん先にどうぞ」
「いいから、オレが晩飯作ってる間に入ってろ」
 高耶は、直江をバスルームに追いやる。
「じゃあ、すみません。お先にいただきます」
 そう言って一番風呂をもらった直江が、浴室から出てくる頃には、クリスマスディナーがずらりと勢揃いしていた。
「すごいですね・・・」
 思わず感嘆のため息をついた。
「別に、大したもん作ってねぇよ。チキンだって、単なるカラ揚げだし。サラダも普通のポテトサラダだし・・・」
 照れくさそうに、ぼそぼそと言う。
 他には、グラタンやオニオンスープ、シーフードパスタといったものが並んでした。これらは、みんな高耶の得意料理だった。
「家でよく作る料理だから、味はまあまあいけると思う。あ、これは初めてなんだ。いっぺん食べてみたくってさ」
 嬉しそうに生ハムメロンを指差して言う。
「あっと、ごめん。メロンなんて高いもん買ってきて。そのかわり他は節約したから!」
「そんなの気にしないでいいですよ」
 ころころ変わる、高耶の表情を楽しげに見ながら直江はシャンパンを手に取る。これは直江が準備してたものだった。栓が飛ばないようにハンカチをかぶせ開封する。ポン!という音が布の中ではじけた。
「メリークリスマス」
 ふたつのグラスがカチンと合わさる。それを合図に、ふたりだけのクリスマスパーティがはじまった。





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なんか、他サイトさんの某小説に、似てるような気が・・・(汗)
すみません・・・


2005.12.25 up