◆ 3 ◆----こいつの目的は何なんだろう。
にっこり微笑んで、高耶を---不法進入者を室内に招いた男は、今帰ってきたところなのかヒーターにスイッチを入れ、やたら高そうな黒いコートを吊るしている。
ファッション誌かテレビドラマから出てきたようなやたらとかっこいい男だった。
「どうぞ、座ってくださいサンタさん」
その目は日本人にしては色素が薄く、鳶色をしていた。
「どうかしましたか?」
声は低く、艶やかな響きをしていた。
「サンタさん?」
高耶は、はっと我にかえる。
(オレ・・・もしかしなくても今こいつに・・・見とれてた?)
そんな馬鹿なと、ぶんぶんと頭を振り、ソファーにどさっと腰をおろした。
「おわっ・・・」
なんだかとてもすわり心地がいい。ふにふにとソファーを手で押してみる。
そんな高耶の頭上に影が落ちてきた。
「それで、サンタさんは、私に何をプレゼントしてくれるのですか?」
目を上げると、男が満面の笑みを浮かべて立っていた。
----この男は、本気でオレにプレゼントをせびる気らしい。
唖然とする高耶の前で、何を頂けるのかドキドキしますね、などと言って男は乙女のようにわざとらしく胸に手を当てている。
「おい。胸よりも頭に手を当ててみろ」
高耶はぎろっと睨みつけた。
「そんなに睨まないでください」
地元の不良どもを一発で黙らせる高耶の睨みを、くすっと笑って受け流した男は、
「ああ、熱いコーヒーでもいかがですか?」
そう言って、キッチンへと行こうとする。
「あっ、ちょと・・・」
こっそり通報されてはたまらない。高耶があわてて追いかけた。
「どうしましたか?ああ、トイレはそちらです」
「あ、サンキュ。・・・じゃなくて!」
わたわたと慌てる高耶を、男は面白そうに観察する。
「今、熱いコーヒーを入れますから。冷えたでしょう?とりあえずお湯で手を洗って温めますか?」
「・・・そうする」
とりあえず今は、通報する気はなさそうだった。
(一体こいつの目的は何なんだ?)
高耶は、何度目かの問いを目の前で優雅に座る男を見て考える。
ふたりは、リビングのソファーで向かい合ってコーヒーを飲んでいた。
(だいたいクリスマスイブに、こんな男前なヤツがひとりでいることがおかしいだろう。もしかして、この容姿を差し引いて余りあるくらい性格が悪いとか・・・)
「もらいもののお菓子もありますよ」
高級そうなクッキー缶をテーブルに置かれた。
食べるべきかどうか迷う高耶を相変わらず面白そうに観察してくる男に、高耶は今の状況も忘れてムッとする。
(何考えてんだこいつ・・・油断ならねぇ)
「食べないのですか?」
高耶が物欲しげにしながらも食べようとしないのを見て、男は小皿にクッキーを数枚のせると、高耶側のテーブルの隅に置いてやった。
(ごくり)
高耶の喉が鳴る。
そろそろと手を伸ばして、一枚口に運ぶ。
(うめ〜)
空腹の身にその甘さがじ〜んと染みわたった。残りのクッキーもパクパクとあっという間に平らげる。
小皿が空になると男は、今度は多めにクッキーを盛ってやった。
そして、今度はテーブルの中央近くに置く。
すると、警戒しながらもじりじりと、高耶がにじりよってきた。
男を睨みながらソロソロと手を伸ばし、一枚ずつ素早く掴み、黙々と頬張る。
----男は、笑いをかみ殺すのが大変だった。