●2005年12月11日(日)・エオウィンと
、ナスリリック(コアマンソー城・抜け穴3)
ジミー「さて……」
エオウィン「ジミー、一つ質問があるの」
ジミー「ああ、プレイヤー氏とちがって、時間はたっぷりある。何でも聞いてくれ」
エオウィン「どうして、アサンを行かせたの?」
ジミー「ブッ! せっかく、二人きりになったというのに、別の男の話題かよ」
エオウィン「……どんな展開を期待したのよ」
ジミー「そりゃ、まあ、あんなこととか、そんなこととか……」
エオウィン「……この記事で、本当にそんな展開があり得ると思う?」
ジミー「……プレイヤー氏の目の黒いうちは、確かにあり得んな。だが、忙しさに目を回しているだろう、今の状況下なら、ドサクサに紛れて思いがけない展開が……」
エオウィン「期待するだけムダね。たとえ、作者の頭の中でどんな妄想が展開していようと、それを記事書きする段階で、より健全なストーリーに修正されるわ」
ジミー「そう言い切ってしまうと、つまらんな」
エオウィン「それに、作者って、割と原作付きキャラクターの『らしさ』は尊重するから、私がエオウィンであるかぎり、そうそうアラゴルン様やファラミア卿以外の人物になびくはずがないのよ」
ジミー「……だったら、今から名前を変えてみないか。そうだな、リリー・ポッターとか……」
エオウィン「(ジト目で)本気で言ってる?」
ジミー「すまん」
エオウィン「冗談はともかく、さっきの質問に答えてちょうだい。どうして、アサンを行かせたの?」
ジミー「……あの男の存在は……オレがこのパーティーでリーダーシップを取るのに邪魔だからな」
エオウィン「……理由その3、あるいは、その4ってところね」
ジミー「どういうことだ?」
エオウィン「以前の私なら、さっきのあなたの解答を聞いて、単純に怒るか、軽蔑していたでしょうけど……今なら分かるのよ。あなたが、そんな感情的な理由だけで、パーティーの大事を決めたりしないって。あなたは、その頭の中でいろいろ考えているんだけど、私に対しては、それを口にしないで、どこか見下されるような言動を装いがちだって。本来は計算高いあなたのことだから、さっきも、上手く取り繕って、私を尊敬させるような答えを口にできたはず。でも、あなたはそれをしない。どうして?」
ジミー「……理屈を並べ立てて、自分を正当化することも、立派に見せることもできることはできるが……君に対しては、そういう小細工をしたくない。それなら答えになっているか?」
エオウィン「もう一息かしら」
ジミー「君はリーダーになって、洞察力を高めたみたいだな。それと同時に……残酷になった。オレにもっと恥ずかしい言葉を口にしろと? 君には、飾ることのない、ありのままの自分の気持ちを示したい。そういうことだ」
エオウィン「どうして、なの?」
ジミー「いい加減にしろ。愛しているから、に決まっているだろう。今まで何回、同じことを口にしたか分かるか?」
エオウィン「私から言わせたのは、これが初めてね。今までは、本気に聞こえなかったり、私の意志に反していたりしていたから」
ジミー「で、今回は本気に聞こえて、君の意志にかなっているわけだ。それで返答は?」
エオウィン(ジミーに、そっと口づけする)
ジミー「……」
エオウィン「……」
ジミー「……ぅん? アラゴルンやファラミア以外には、なびかないんじゃなかったのか?」
エオウィン「……ここには、二人はいないわ。それに、私だって、昔のように、守られることだけを望んでいる女じゃない。一人の戦士として、自分の意志で運命を切り開くつもりよ。それに、私があなたになびいたんじゃなくて、私があなたをなびかせたの。最初から、そうだったでしょ?」
ジミー「ああ、最初からな」
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アサンを行かせた理由。
それは「アサンが死を求めている」からだった。
アサンは、エメリックを除く仲間を、拝龍教団に殺された。
その瞳をのぞき見たところ、アサンの心の中には、「自分の身を犠牲にしても、教団に復讐する」という想いが強く根付いていた。その想いを、オレは危険だと思った。オレの誓いは「パーティーの全員が生き残ること」。それを達成するには、死を求める男を仲間に入れるわけにはいかない。
時間をかければ、アサンに根付いた死神を追い出すことはできるかもしれない。だが、その前に決戦が行われる、とオレは確信していた。
自暴自棄に駆られた男を引き連れることは、願い下げだ。だからといって、そんな男をただ置き去りするほど、無慈悲にもなりきれない。そこで、アサンには重要な使命を託した。
フランに戻って、援軍を準備してくれ、と。
アサンは無責任な男ではない。託された使命があるなら、自分の想いよりもそちらを優先するだろう。
……アサンの気持ちはオレには、十分、推察できた。オレも一時だが、同じような気持ちになっていたから。
拝龍教団との戦いで、一度、エオウィンとメリー、エリスタンを死なせてしまったとき。あれが、オレにとって最悪な状況だった。自分の無力さを嘆き、絶望と復讐の衝動に突き動かされてしまう……理性でどうにかできるものではなかった。
幸い、オレには、ジャリアルやエメリックがいた。二人がまだ生きている限り、オレはリーダーだった。リーダーとして、賢明に振舞うことを自分に課することができた。それゆえ、「復活の杖」の存在に気づき、状況を修復することができた。
オレは、まだ幸運だった。かけがえのない仲間を取り戻すことができたのだから。
それでも、あの一件は、リーダーの任を貫けなくなるぐらい、精神的に打ちのめされるできごとだった。
アサンはどうだ? オレよりも長時間打ちのめされ、さらに教団の拷問を受け続け、なおも健全な思考を保つことができたろうか?
そうは思わない。
結局のところ、アサンを救うのは、より大きな使命を与えることしかない、とオレは思った。
だから、行かせたのだ。
もっとも、初めから、こう何もかも論理的に、きちんと考えていたわけではない。
エオウィンに言ったとおり、アサンの存在は、「オレがリーダーシップを取るのに邪魔だ」と感じたりもしていたのだ。人間の思考は、一つに割り切れるものではない。数多ある想いの断片の中から、自分の思考に筋道をいかに通すか、そのための手段が「言葉」なのだと考える。
言葉を司る、我が神オグマに栄光あれ。
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ジャリアル「二人とも、すっきりした顔つきやな」
ジミー「まあな」
エオウィン「とにかく、私は役目を果たしたわ。リーダーの任は、ジミーにお返しします」
ジミー「いや、もう少し、エオウィンにはリーダーを続けてもらわないと」
エオウィン「どうしてよ?」
ジミー「ナスリリックの気持ちは、オレには分からない。彼女とのことを書けるのは、君だけだ」
エオウィン「私に記述なんてできるわけない」
ジミー「必要に応じて、助言はするさ」
エオウィン「どうしても、私に書けと?」
ジミー「ナスリリックの気持ちを大事にしたいならな」
エオウィン「……書くわ」
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囚人番号842番。
それが、ナスリリックに付けられた呼称だった。
彼女と私には、ある共通点がある。それは、家長の娘として一族を背負って立つことを期待されていたことだ。そのため、彼女の誇りの高さは共感できた。
もちろん、人間とドロウという種族の違いゆえ、いくつかの差異はある。
一つは、私の生まれたローハンのエオル家が、多くの人間の名家と同様、男系であるのに対し、ドロウの社会は女系であるという点。私の場合は、兄たちが戦いで館を留守にしがちだったために、やむなく家を守る必要があったわけだが(そして、私自身、家に縛られたまま自由もなく朽ち果てる人生に嫌気が差していた)、ナスリリックは家系を継ぐ者として、私以上に責任感を持ち合わせていた。
もう一つは、家柄という束縛の大きさだ。ドロウの社会は、我々人間よりもはるかに家柄を重んじる種族だ。人間に「家と個人のどちらが大切か?」という質問をしたら、出自や階級にもよるだろうが、おおむね半々に分かれるだろう。しかし、ドロウの場合は、十中八九以上が「家の方が大切」と答えるそうだ。
そんな差異はあっても、私は結局、ナスリリックを理解でき、共感もできた。彼女は、ドロウの常として家系の対面を、個人の情念よりも上と見なしていたが、想いそのものを否定することはなかった。少なくとも、その薄赤く光る目には、内面の激情をありありと映していた。
私も、このミス・ドラノーアの廃都で多くのドロウと遭遇してきたが、大部分の瞳は氷のように冷たく、よそ者を見下すような計算高さが見え隠れしていた。一方で、ナスリリックの瞳はよりストレートで、燃えるようだった。私も戦士として、相手の目を見ることにかけては、自信があるつもりだ。怯えているのか、自信があるのか。そして冷徹な相手か、激情家か。相手の目を見れば、その力量や戦闘スタイルまで、ある程度、推測もできる(もちろん、こちらの眼力で相手を威圧することもできる。戦士にとって、目はそれほどまでに重要な部位なのだ)。
牢獄から救い出したときも、ナスリリックの瞳の焔は、何ら変わっていなかった。依然として、誇り高く、そして自分を捕らえた教団員に対する怒りをはっきりと映し出していた。
「礼は言わせてもらう」そう言ってから、ナスリリックは事情を説明した。「お前たちも見たであろう。連中は、我が連れ合いを含む同胞たちの魂を奪い、操り人形にしている。その奪われた魂を取り戻すべく、我は行動していた。そして、連中の秘密を知ったのだ。連中は、<魂の器>という強力な秘宝を用いている。それさえ壊せば、操り人形にされた者の動きを止め、それ以上の被害の拡大を防ぐことができる。もっとも、奪われた魂を元の体に戻すことは不可能らしいがな」
「助ける方法はないの?」 私は尋ねた。「神々に祈れば、死者の蘇生すらできるはず」
「だが、亡者の蘇生はできない」 ナスリリックの声音は苦々しかった。「我らは、偽りの希望などにすがらない。失われた者は、もう2度と戻らない。できることは、これ以上の損失を止めることだけだ。それも急いでな」
「だったら、一緒に行動しましょう」 私は勧めた。ジミーの顔に目を向けると、あまり乗り気ではないようだったが、私は無視した。ジミーは合理的な理由で、アサンのパーティー加入を敬遠したが、私は合理的じゃない。それに、ナスリリックを一人にすると、やはり自暴自棄に走りそうだった。「ほら。協力すれば、不可能なことも可能になるわ」
「バカを言うな」 ナスリリックは冷たく言った。「我らは、暗闇の中を素早く動ける。お前たちのように、鎧の音をガシャガシャ鳴らしながら、敵を呼び込むような奴らと一緒に行動しては、可能なことも不可能になるだけだ。お前たちは好きにしろ。その代わり、我に干渉するでない」
「そうして、捕まったのは誰よ!」 私は思わず、激情に駆られて言い返した。「また、捕まっても、今度は生き延びられるという保証はないのよ!」
しかし、ナスリリックは返答しなかった。ただ、暗闇の呪文を唱えて、その中に姿を消しただけだった。消える瞬間、薄赤い瞳が瞬いたような気がした。それはウィンクのように私には思えたが、パーティーの誰も気づいていないようだった。
「彼女の言うことは正しい」と、ジミーは言った。「ドロウとじゃ、行動や戦闘スタイルが違いすぎる。互いの特性を上手く生かすには、別行動が一番だ」
「でも、今の彼女は一人なのよ」 私は聞き分けのない子のように、不満を口にするしかなかった。「それを、あなたは放っておこうって言うの? 見捨てるとでも? いくら合理的だからって、そんな考え方」
「誰が放っておくと言った?」 ジミーは穏やかに、しかし理を諭すように言った。「味方を見捨てるわけないだろう? 拝竜教団は敵、それと戦う者はみんな味方と言ったはずだ。利用できる味方の力は、最大限に利用する。それこそ勝利の鍵だ。ナスリリックも、そのことは承知している。だから、オレたちに<魂の器>のことを教えたんだ。もしも、自分が失敗したときには、オレたちが後を引き継げるように、と。彼女は彼女にできる限りのことをする。オレたちは、オレたちにできる限りのことをする。それが役割分担ってものだろう」
役割分担……確かに、ジミーの言葉は正しい。
そして、その言葉が正しいなら、ジミーのするべきことは明らかなのだ。
それは……ジミーが元どおり、パーティーのリーダーとして、私たちを率いて勝利にまで導いてくれること。それこそ、彼の果たすべき役割なのだ。(つづく)
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