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1:改造技術の系譜

Aメカニックライダー

 V3によってライダー4号と後から呼称されたライダーマン(結城丈二)の技術は、V3以前の物とは明らかに異なる。結城を改造したのは、結城の助手たちである。すなわち、結城自身の技術が、ライダーマンを作ったわけである。
 では、
結城の技術と、ショッカー技術の違いは何か?
 それは、純粋に
「機械工学」に基づくという点である。ライダーマンには、「生命工学」「オカルト科学」も全く見受けられない。まず、変身にはマスクの装着が必須である。そして、マスクの装着と同時に、強化服が全身を覆い、右腕の武器(アタッチメント)が機能する。
 念のため言っておくと、
ライダーマンは改造人間というより、(ほぼ)生身の人間である。失った右腕だけを機械に置き換えただけである。ただの人間なのだから弱いはずである。ちなみに、戦闘訓練も受けていない。ただの機械工学者が、自分の設計・製作した強化スーツと小道具を駆使して戦っているに過ぎない。すべては自分を陥れ、助手たちの命を奪ったヨロイ元帥への復讐のためである。
 
結城の技術は、彼の所属していたデストロンの改造技術の一部だけである。デストロンの前期怪人は、動物の能力に機械兵器を取り付けた改造人間である。結城の担当は、機械兵器の部分であろう。もしかすると、ハサミジャガーの両手の刃も、クサリガマテントウの左腕の鎖鎌も、結城の設計したものかもしれない。

 大幹部ドクトルGがカニレーザーに変身して、V3に敗れた後、デストロン怪人の様相は大きく様変わりする。これまでの「機械工学」主流型から、「オカルト科学」主流型に移行するのである。同じ動物モチーフでも「ジシャクイノシシとドクロイノシシ」、「バーナーコウモリと死人コウモリ」の性質の違いは、名前からでも容易に分かるだろう。
 怪人の性質が変わったので、
結城たち機械工学者は、肩身の狭い思いをしたかもしれない。現代だと、リストラの危険性すらある。いや、悪の組織の場合、旧勢力の者は粛清される危険性すらある注3)。
 そんな中、
結城は自分が組織にとって不要な存在でないことを証明する。それは、強力な攻撃兵器の製作だけでなく、強固な防護スーツの製作である。結城のスーツのすごさは、プルトンロケットの爆発をも耐えたことから証明されている(苦笑)。ふつう、爆発と同時に肉体も四散してしまうはずだが、結城は生き延びた(瀕死の重傷を負ったかもしれないが、少なくとも肉体そのものの損傷は復元可能なレベルで抑えられた)。ちなみに、ダブルライダーもカメバズーカの原爆爆発から無事生還している。仮面ライダーの肉体の強固さは、実は侮れない物があるのかもしれない。注4

 さて、強固な防護スーツを作られて困るのは誰であろう、同じ強固な鎧をポリシーとするヨロイ元帥である。このヨロイ元帥、腕にとげ付きハンマーを装着しており、何となく、装備品の傾向がライダーマンと似通っている。結城丈二をライバル視するのも、むべなるかな。案外、結城の企画を盗み出して、自分の率いる部族に採用していたのかもしれない。そして、結城に抗議されたから、陥れたとか。

 いずれにせよ、結城の裏切り以降、しばらく悪の組織の主流は、「機械工学」から離れていく。おそらくは、優秀な機械工学者の多くを粛清してしまったのかもしれない。我々の見えないところで、「機械工学」主張派と「オカルト科学」主張派の派閥争いがあったことも考えられる。キバ・ツバサの部族組織があっさりV3によって壊滅したため、首領の気持ちが「機械工学」主張派に傾きかけたのを察して、「オカルト科学」主張派のヨロイ元帥が陰謀を企んだことも推察される。結果として、悪の組織は優秀な機械工学者を失い、「オカルト科学」主流のゴッド機関に移行するのである。

 それに立ち向かうは、同じく神の名を持つ神敬介ことXライダー
 
Xライダーは、ライダーマンをさらに進化させたメカニックライダーである。レッドアイザーとパーフェクターのパーツを頭部に装着する変身セタップは、ライダーマンのマスク装着をより洗練させたものだし、万能武器ライドルもまた、ライダーマンのアタッチメントを受け継ぐものである。その本来の目的は、「深海開発用改造人間カイゾーグ」であり、バイクのクルーザーは水中航行と飛行のいずれも可能というスーパーマシンである。周辺メカニックの豪華さという点では、Xライダーは(スーパー1の登場以前は)、最強のライダーと言えるだろう。
 この
Xライダーを設計した神博士は、明らかに機械工学者であり、それゆえ機械工学者不足のゴッド機関に狙われることになる。ゴッドに優秀な機械工学者が不足していることは、怪人の質(神話怪人および、動物の力を宿した悪人軍団)以外に、2つの点から主張できる。
 まず、第1点は、
Xライダーのライバルであるアポロガイスト。彼は、一度Xライダーに敗れた後、再生手術を受けて甦ったが、その寿命は短く、寿命を延ばすには、Xライダーのエネルギー源であるパーフェクターを必要とした。すなわち、ゴッドにはパーフェクター(と似たようなパーツ)を自力で製作する技術がないことである。

 もう1点は、アポロガイストが倒された後、登場した巨大幹部キングダークである。キングダークは、巨大なロボットであるが、機動に超エネルギーを生み出すRS装置を必要とした。このRS装置の設計図をめぐって、Xライダーとゴッドの争奪戦が展開されるのが、後半の展開になるのだが、はっきり言って、これはお粗末といえないだろうか? 巨大ロボットを動かすのに必要な装置を自力で作ることができないにも関わらず、巨大ロボットを作り出してしまった悪の組織って……。やり方が杜撰というか、泥縄式というか。注5
 実際には、RS装置がなくてもキングダークは動いたわけだが、おそらく稼働時間が極端に短かったのだろう。試しに作ってしまってから、エネルギー効率があまりにも悪いことに気付いたため、それを打開する方法をRS装置に求めたと言える。ゴッドの首領(真相は違うかもしれないが)にして、キングダークの操縦者(おそらく設計者でもある)呪博士は、神博士の旧友らしいが、きっと研究熱心な反面、うかつな人だったのだろう。比較的用意周到だった神博士に比べて、せっかちすぎる点が欠点だったんだろうな。

 さて、以上の点から、ゴッドには優秀な機械工学者が不足しており、Xライダーとは技術体系が違うことが明らかになった。そして、優秀なのはXライダーの方だということも分かった。
 だが、
Xライダーにも欠点はある。それは、ライダー伝統の特訓による強化が、不可能であるという点だ(現にXライダーの特訓話は少ない。注6)。Xライダーは、所詮メカの申し子である。メカは、作られたときの性能が物をいう。どんなに努力と根性を重ねても、作られたときの性能以上の効果を発揮するとは考えられない( 注7)。
 
1号〜V3までは、変身者の肉体能力向上によって、変身後の能力が増大することが証明されている。それは「機械工学」ではなく、「生命工学」あるいは「オカルト科学」に付随する効果といえよう。純粋に「機械工学」で製造されたXライダーには無縁の世界である。Xライダーを強化するには、強化パーツの存在が不可欠なのだ。
 そこで登場するのが、
V3ライダーの持ってきたマーキュリー回路の存在である。マーキュリーとはどういう意味か? よく知られているのは「水星」、すなわち「深海開発用」という「水の属性」を持つXライダーにふさわしい名称と言えよう。
 しかし、マーキュリーには、ローマ神話の神「メルクリウス」の意味もある。メルクリウスとは、ギリシャ神話の「ヘルメス」に当たり、学芸・商業・雄弁を司る神である。また、熟練の技を司るともされる。この「熟練の技」こそが、
Xライダーに関係する部分と考えられよう。
 さらに、マーキュリーには、「活気」「元気」という意味もある。これは、人との交渉に役立つ「意気込み」という意味であろうが、スポーツなんかでも分かるとおり、人間の戦いにおいても「意気込み」は大切である。
 すると、マーキュリー回路の性能としては、
神敬介の人間としての「戦う闘志」を、Xライダーのメカの性能向上に反映させる装置と考えられないだろうか? この装置の装着によって、Xライダーは「性能がすべての、ただの機械化人間」から「努力と意志の力で限りなく成長する機械化人間」すなわち「従来の仮面ライダーに匹敵する存在」に生まれ変わったのである。

 マーキュリー回路の装着によって、Xライダーは従来のセタップから、変身ポーズをとる「大変身」を会得。さらに、新技として「真空地獄車」を会得した。個人的には、セタップやXキックのほうが、Xライダーらしいと考えるが。
 では、このマーキュリー回路を設計したのは誰だろうと考えると、やはり、
仮面ライダー1号こと本郷猛ではないだろうか? 少なくとも、一文字風見の経歴から考えて、「機械に精神力というオカルト的属性を付随させるすごい装置」を作れるとは考えられない。やはり、これはショッカー科学を熟知したIQ600の超天才・本郷にしてなせる技と考えるべきだろう。
 この時期以降、
1号ライダーが単独で姿を現すことはライダー史上、一度もない。いずれのゲスト出演においても、ライダー軍団を率いるリーダー・重鎮としての登場である。2号ライダーV3の助っ人頻度の多さと比べても、やはり1号は、どっしり後方に構えて、悪の組織との戦況分析や情報戦、その他の表に現れない支援活動を旨としていたと考えられる。
 マーキュリー回路についても、
Xライダーに欠けているものをきちんと理解し、的確なタイミングを見計らって、V3に持たせてやったというのが真相ではなかろうか。
Bへつづく