彼女が花の芽にやってきた!

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第五章第六章  第七章     第八章


序章 あおぞら牧場との出会い

バス停はない、電車の線路も通らない、山と海に囲まれて、車で来る事だってできない。

船が来るのは1年に2〜3回。それに乗るのが唯一、ここに来る方法。

「船の時期だったのが、せめてもの救いかもね。」

そんなド田舎の荒れ果てた牧場―――もはや牧場ともいえない有様だが―――の片隅で、そうつぶやく少女がいた。

彼女――ユーリアは、先週、10年ほど前までこの牧場の牧場主だった祖父を亡くした。


ここは、ユーリアにとって思い出の土地だった。

5歳の夏休みの約1ヶ月間、彼女はここで暮らしていたのだから。

大好きだった母が亡くなった後、父親の仕事が忙しく、母方の祖父のもとに預けられていた彼女。

そんなユーリアといつも一緒に遊んでくれた男の子がいた。

昔のことだし、顔も名前も思い出せないけど、こうして思い出の土地で、

一緒に遊んだ日々を思い出してみると――――――…………


「……ちゃん、ゆっちゃん!」

「おにいちゃん!」

(そうだ、あの子が2〜3歳年上だったから、あたしはあの子をお兄ちゃんって呼んでた。)

 そしてあたしはゆっちゃんって呼ばれてて……)

「ほら、かわいいけむしさんー!」

「やだーっ!」

(………………………)

「へびー!」

「うわーんっ!」

(……………………う…………う…………)

「このボタンをおしてみて!」

ぽちっ(機械のボタンを押して、)バン!(何かが破裂。ユーリアの顔は黒焦げ。)

「うわーーんっ!」

「やーい、へんなかおー!」

「美しい思い出はどこ行ったのよー!」

つい、叫んだ。

しかし、もう1度会えるなら会ってみたい、と彼女が思っていたことは事実。

牧場の生活にあこがれたのも事実。

そして、父親に従弟との結婚話を切り出され、

「結婚の前にあの子に会いたい」

と思って、祖父の葬式の後に

「牧場をやりたい。」

と父親に言って、3年経ったら家に戻る条件付でしぶしぶ許してもらって、

今日からここで暮らすことも、全部、事実なのだ。


第1章 〜1年目春の月〜
1 トモダチ〜グレイ&ラン〜

ユーリアが全身筋肉痛と戦いながら牧場の整備を始めて、はや3日。

ようやく耕作地がきれいになってきた。

石を割り、岩を割り、草を抜き、切株を割り、山の幸で空腹を満たしていた日々も、今日で終わりだ。

ユーリアは今、町長の情報どおりなら、かわいい馬がもらえると期待しながら、

この町のもう1つの牧場、グリーン牧場に向かっていた。

「………なんで俺が、こんな目にあわねーといけねーんだ。」

同時刻、グリーン牧場のあととり息子グレイは、超仏頂面でぼやいていた。

どうやら彼は不覚にも朝寝坊をして、妹のランが朝食を作り、うっかりそれを食べてしまったために、

朝っぱらからなぞの頭痛と腹痛と吐き気と下痢のオンパレードだったらしい。

薬を飲んで、何とか持ちなおしたので、今はわずか30分のうちに妹が作り上げた

焦げた鍋、焦げたフライパン、家のすべての食器を使ったと思われるほどの大量の食器を、

3時間かけて洗い終わったところだ。

「兄さーん!おーーいっ!兄ーさーんっっ!」

(何だ、休憩しようと思ってたのに。)

不満いっぱいの顔で、それでも、彼は妹が呼ぶほうへ行った。

なんだかんだ言っても、彼は妹に甘いのだ。

「あ、兄さんやっと来た!あのね、仔馬の貰い手、見つかったんだ。あおぞら牧場の あととりの子がね…。」

(ああ、あの噂の……)

「あおぞら牧場のユーリアです。よろしくね、グレイ君、ランちゃん。」

「うん!よろしく!うちも牧場だし、分からない事あったらなんでも聞いてね!ほら、兄さんも!」

「……なんだ、子どもじゃないか。」

「ちょっと、兄さん!」

「………都育ちの子どもには無理だ。」

人見知り度0%で有名な妹、ランとは対照的に、無愛想度120%で有名な兄、グレイは

それだけ言うと、さっさと家畜小屋へ消えていった。

「あ……ごめんね、ユーリア。うちの兄さん無愛想なんだ。悪い人じゃないんだけど……。」

「あ、大丈夫。気にしてないよ。そんなに。」

実は、さっきのグレイの発言はユーリアの心に存在する怒りのスイッチを押しかけた危険発言だったのだが。

「グレイ君とも友達になれたらいいな。ね、ブラウン。」

「あ、馬の名前付けてくれたんだ。いい名前だね。がんばってね。

……ううん、頑張ろう。時々見に行くから。」

「うん!あ、ねえ、種を買いに行きたいんだけど、花屋さんって今日開いてるのかな。」

「え〜と、今日は……水曜日だから、うん、開いてるよ。もうそろそろ9時になるし。」

「あ、よかった!ありがとう。じゃ、またね!」

「うん、バイバイ!」


2 トモダチ〜ポプリ&エリィ〜

晴れた日の昼下がり、花屋の娘、ポプリとケーキ屋の看板娘、エリィは花壇を眺めながら

アフターヌーンティーの時間を過ごしていた。

「わぁ〜、おいし〜!やっぱりエリィちゃんの焼いたクッキーは最高だね!」

「ありがとう。ポプリちゃんのハーブティーも最高よ。」

「そういえば、新しい牧場主さんの話は聞いた?」

「うん。私はマスターから聞いて、マスターは酒場のデュークさんから聞いて、デュークさんは

 グリーン牧場のダッドさんから聞いて、ダッドさんは実際その子を見たランちゃんと

 グレイ君から聞いたらしいんだけど、なんでも12,3歳ぐらいの超美少女で、髪は茶色でさらさらで、

 高くてかわいい声してるんだって。」

「……なんか、どこまで真実か分からないんだけど……」

「……うん。私もそう思う。だいたい12,3歳ってのがおかしいわよね。」

そんな話をしているまさにそのとき、噂をすればなんとやら。

「あの……こんにちは。」

噂の牧場主、ユーリアが花屋を訪れた。

「………………」

2人の少女は絶句した。噂の牧場主は、噂どおりの、12,3歳ぐらいの超美少女で、髪は茶色でさらさらで、

高くてかわいい声の少女だった。

「あの………?」

「あ、ひょっとして、あおぞら牧場の………?」

しばらく2人は固まっていたが、ようやくエリィが口を開いた。

「うん。あたし、ユーリア。よろしくね。」

「うん、よろしく。私はね、そこのケーキ屋で働いているエリィっていうの。」

「あ、あたしはここの花屋の娘のポプリだよ。ねえ、ユーリアちゃんっていくつなの?小さいのにえらいねぇ〜。」

このポプリの発言もまた、危うくユーリアの怒りのスイッチを押すところだった。

「ポプリちゃん、あたしは19歳!多分、2人と同年代!!」

その瞬間から、噂の内容に「超童顔」が加わったのはいうまでもない。


「ねえ、二人にちょっと聞きたいんだけどさ………この町に私より2,3歳年上の男の子いるかな?」

「「え?」」

ユーリアの目的である、初恋のお兄ちゃん探し。早速始めたらしい。

「えっと、まずマスターは違うわよね、ぶどう園のカイさん?カイさんいくつだったっけ?」

「4年前に来たとき19って言ってた気がする〜。ううん、そう言ってた。ポプリあの時カレンちゃんに聞いたもん。」

(最近来た人なんだ………じゃあ違うかな)

「ハリスさん……は、もう少し上よね。あ、クリフ君とグレイ君!」

「あー!そうだ、二人とも今年で21……だったっけ?」

「グレイ君って……さっき会った人か。クリフ君って?」

「10歳くらいまで山のきこりのおじさんと暮らしてたんだけどね、ある日ふっと出て行っちゃって。

最近この町に戻ってきたの。今も山で暮らしているんだよ。」

「そ、その二人って小さい頃ここにいたの?」

「うん、グリーン牧場はポプリたちが生まれる前からあそこにあったみたいだし。」

(じゃあ、そのどっちかがおにいちゃ「あぁーっ!!」

考え事の途中でいきなりポプリが叫んだので、ユーリアはかなり驚いた。

「リック君!すっかり忘れてた!」

「あー!ホントだ。あ、ごめんね。道具屋のリック君も今22歳で、昔からこの町に住んでたよ。」

この時点で候補は3人―。ユーリアはとりあえずまだ会ってない2人のうちの1人に会うべく、海へ向かった。


注・クリフの設定ちょっと変えました。ゲームでは主人公より後に花の芽へ来るし、昔住んでた、という話もありません。ごめんよクリフ。


3 海での出会い

”道具屋は水曜日は定休日で、主人のリックはその日海にいる事が多い”と聞いたユーリア。

海に着くと、確かに男の人がいた。

長身で、オレンジ色の、少し長めの髪をしたその人は、静かに海に入っていって……

「だっだめっっ!」

ユーリアはリックの所まで行き、思わず彼の腰のあたりに抱きついた。

「!?」

「自殺なんてだめっ!」

その青年は、呆れ顔でユーリアのほうを向いた。

「……ちょっと待って。誰が、いつ、どこで、何するって?」

「え………?」

「とりあえず、離して。」

「あっごめんなさい。」

ユーリアは慌てて彼から離れ、2人は浜辺へ上がった。

「あ、あの、あなた何しようとしてたの?」

「貝を拾おうとしてたんだ。今晩のおかずに。自殺じゃないよ。」

苦笑しながら、その青年は答えた。

「それより君は?見ない顔だね。観光の人かい?」

「あ、あたし、あおぞら牧場のユーリア。よろしく………」

「え!?あの牧場主の?だって、君まだ12,3歳ぐらいじゃないか!」

ユーリアの自己紹介が終わる前に、その青年はそう言った。

ユーリアの怒りのスイッチまで、後3mm……。

「あたしは、1・9・歳!」

「あ、そうなの。ごめんごめん。君、小っさいから分からなかった。」

その言葉に、ユーリアの怒りのスイッチは押されてしまった。

普段はわりと普通の明るい少女で友達作りも上手く、初対面の人にもいい印象をもたれたりするが、

何かの拍子にこの『怒りのスイッチ』が入ると、一瞬の間に怪力・暴力的になり、何をするか分からない。おお怖。

ユーリアはなんと、リュックに入っていたハンマーを青年向かって振り下ろした。

レベル1とはいえ、頭にあたったらいたいどころじゃないぞ、コレ。

「ちょちょちょちょちょちょちょっと!!危ないじゃないか!」

青年はなんとかそれをよけ、ユーリアはリュックの中にそれをしまった。

どうやら1回何か怖い事するといつものユーリアに戻るらしい。

「そう言うあなたは?まだ名前も聞いてない。」

「ああ、ぼくはリック。1丁目で店をやってるんだ。年は22歳。よろしく、ユーリア。」


その日から、リックとユーリアは、良き?ケンカ友達になったそうだ。


またしても注・リックは海にいません。自殺もしないし貝だって採ってません。本当スイマセン(汗


4 釣った魚は

「え!!いいんですか?ありがとう!」

「いいんだよ。釣り友達ができるのは僕もうれしいし。早速やってごらんよ。」

「うん。えーと……。」

1時間後――。

「――ユーリアちゃん、釣りの経験は?」

「――えと……今日がはじめて。」

「――へえ……って嘘でしょー!!??」


やさしい釣りおじさん、グレッグさんを絶叫させたのは、他でもないあのユーリア。

春の月18日、牧場にも少しずつ慣れてきて、初めての草競馬も無事済んだ(出てないけど)ユーリアは

山で釣竿をもらい、人生初の釣りに挑戦した。

「趣味を持ってみたらどうだい?」というグレッグさんの言葉に乗せられ。そして、話は冒頭に戻る。


「んー……どうしよう。」

20匹(!!)の魚を釣った彼女は、それらをどうしたものかと頭を悩ませたが、

せっかくなので町の人たちにおすそ分けすることにした。

「あ、エリィちゃん、ジェフさんも!」

「「ユーリアちゃん。こんにちは。」」

「あれ、ジェフさんも釣り?じゃあお魚いらないかな。おすそ分けしようと思ったけど。」

「わぁ、ユーリアちゃんってばこんなに釣ったの!すごいわねぇ。1匹ほしいな。」

「え?ジェフさんのは?」

「あー……マスターね、釣りはさっぱりなのよ。まあ、ここでのんびりすごすのが楽しいみたいだけど。

小声でぼそりとつぶやいたエリィも、どこか幸せそうに見えた。ユーリアは魚を渡して2人と別れた。


「一太さん、二太さん、源さん!」

「おー、牧場主!」

「俺たちに用事か?あ、増築か?」

「いや、まだお金ないから。あのね、お魚のおすそ分け。はい。」

「おう、ありがとよっ!」

不思議な小人のコロボックルにも渡してきたし、山の人達はこの江戸っ子木こりトリオで最後かな?そう思ったが、ふと気付いた。。

「あ、あの子……。」

「ん?どうした?」

「山によく来てるじゃない。髪の長い美人の子。話し掛けようとしたらどっかいっちゃうから今まで話したことなくて……。あの子今日はいないね。」

「ああ、カレンか。ぶどう園の娘でい。ほら、そこに見えてる。」

「あ、あれってぶどう園なんだ。そういやまだ行ったことないや。ありがとう、行ってみる。」

あの子にもあげようかな。ぶどう園の人ってそういやまだ挨拶してない。どんな人かな……。

そんなことを考えながらユーリアは山を降りた。


バターン!!

ぶどう園に行く坂をあがった瞬間ユーリアの耳に飛び込んできたのは、

――バターン。

「………え?」

「父さんの馬鹿!あたしの好きにさせてくれたっていいじゃないー!!」

「なんだとっカレン!わがまま言うんじゃない!!」

――そして、親子げんかと思われる2種類の声。

そして、娘の方と思われる声の主――長い髪の美人―カレンは、ユーリアに構わず山へかけていった。


5 釣った魚は《2》

辺りは暗くなりかけている。木こりの3人組はいつのまにか家に入っている。

そんな状況でユーリアはカレンの姿を見つけた。

「あ、あの…カレン、さん?」

「………」

「あの…ゴメンね、あたし、その、さっきの会話聞いちゃって…。」

「………」

「あ、あたし今度そこの牧場に住みはじめたの。名前はね…。」

「別にいいわよ。自己紹介なんかしなくったって。どうせ、すぐいなくなるんだもの。」

え?

「…誰が?あたしが?」

「さあ?」

…………

ユーリアは少し考えた後、カレンの隣に座った。しばらくの沈黙。

やがて、カレンが口を開く。

「あんたさあ、何でこんな所に来たのよ?」

「え?」

「あんたさ、都会にいたんでしょ?こんな田舎に何で来たのよ。」

「えっと…。」

「あたしさあ、踊り子になりたいのよ。都会に出て、たくさんの人の前で踊るの。小さいころからの夢なの。」

「へえっ…素敵。」

「でもね、父さんが許さないのよ。さっきのケンカも原因はそれよ。」

「そっか…ねえ、お母さんに言って、お母さんと二人でお父さんを説得するってのは?」

「母さんは頼りにならないわ。いっつも暗い顔してて、父さんの顔色ばっかりうかがってて。

あんたは何でこんな所に来たのよ。都会にいれば何でも思い通りになって、自分のやりたいことやれて、不便なことだって全然ないんじゃないの!?」

「……それはねぇ、誤解だよ。」

「え?」

「あたしもねぇ、カレンさんと似てるかも。状況。うちの親父も、あたしに自分で自分の将来決めさせてくんないの。

学校を卒業したら嫁に行け!って。しかも親の決めた相手とだよー?ありえないでしょ。

どうやってそれを避けるか考えてたときおじいちゃん死んじゃって、3年経ったら家戻るから!て条件で無理やりここで暮らすこと認めてもらったの。

都会は確かに便利だけどね、田舎に憧れちゃうもんなんだ。田舎の人が都会に憧れるのと一緒でね。

3年たったら3年たったでどうするかが問題なんだけどね。」

「そうだったんだ…。」

「あ、私のケースは真似しちゃダメだよ。どうしても都会に行きたいなら、お父さんを説得するしかないよ。踊り子になりたい理由とかちゃんと言って。」

「……あんたってさ、へんな子よね。」

「へっ!?」

「見た目子供っぽいし、実年齢だってあたしとそんな変わんないでしょ?なのに言うこと大人っぽいもの。」

「そう?まー、自分でいうのもなんだけどあたし結構厳しい状況下の中生きてきたしねー。」

「ふうん。あのさ、あたしのこと”カレン”って、呼び捨てでいいよ。」

「えっ…」

ユーリアがカレンの顔を見たら、カレンはわずかだが、笑っていた。

「そろそろ…帰ろっか?……ユーリア。」

「……うん!!あ、ねぇ、お魚食べない?釣りすぎちゃって。」

「……あたし魚嫌い。じゃ。」

カレンは少しぶっきらぼうで、ひねくれてて、でも。

「また、明日ね!」

でも、そう叫んだカレンとはきっと、親友になれる。そう感じることができた。


6 鷹使いさん

「ユーリアちゃん、ほら、ここ。」

「わぁ、イモムシ?よく見るとなんかかわいいね。昔は嫌いだったけど。」

「でしょ?ユーリアちゃんが分かってくれて嬉しいな。前まで虫が好きなのは私とケンタ君達だけだったもの。」


今ユーリアと話しているのは町長の娘で図書館の受付をしているマリー。

数日前、農業の本を探しに図書館へ言ったとき初めて話をして以来、よく虫や牧場の話で盛り上がる間柄。

今日は月曜日で図書館が休みなので、2人は山へ来ていた。


「そろそろ逃がそっか。」

「そうね。じゃあね、イモムシさん」

イモムシを逃がしてすぐ、鳥がそれをさらった。

「あー。」

「食べられちゃった。」

「…まあ、しょうがないよね。食物連鎖。食べなかったら鳥が死んじゃうし。」

「あ、それってあれ?こないだマリーちゃんのところの本でで読んだよ。プランクトンを小魚が食べて、小魚を魚が食べて、魚を大きい魚が食べて、大きい魚を人間が食べる。」

「そうそう。それの陸上版…」

話をしていたら突然、別の場所から別の声が聞こえてきた。

「かわいそうじゃないっ!」

声の主は…

「ランちゃん?」


声が聞こえてきた場所に行くと、ウサギを抱いたランと、鷹を連れた知らない青年がいた。

「マリーちゃん、あの人誰?」

「クリフ君。山で暮らしてるの。会った事なかったっけ?」

「うん。」

(お兄ちゃん候補の人か〜。)

「かわいそうって、ケインはえさを食べなきゃ生きていけないんだぜ?」

どうやらこっちも食物連鎖の話をしているらしい。なんてタイムリーな。

「…あなたの言うことはわかるけどっ。…理屈じゃ、割り切れないの!」

そういうと、ランはウサギを逃がして自分も走って帰っていった。

「あー、ケインのご飯…。…ご飯取られちゃったな。魚で我慢してくれるか?」

そのとき初めてクリフと目が合った。男前だった。

「あ、ごめんなさい、聞いちゃった…。」

「お前…牧場のやつだっけ。名前は?」

「あ、あたしユーリア。19歳。」

ほんのわずかだが、ユーリアは”19歳”を強調した。

「俺は、クリフ。よろしくな。こいつは、ケイン。……俺の友達さ。じゃな。」

そういってクリフは去っていった。


「世の中にはさ…いろんな考えがあるよねー。」

「そうね…。ランちゃんも素直な子だから…やっぱりウサギを助けずにいられなかったのね。」

「ランちゃんが誰かと口げんかするなんて、はじめて見たかも。」

「そういえば、あたしもクリフ君以外と口げんかしてるとこ、見たことない。よっぽど性格が合わないのかしら?」

「んー?まあ、そうかもしんないけど…。」

なんとなくあの二人はお似合いのような気がした。そんな気がしたのはあたしだけだろうか?

そんな考えが出てきた午後だった。


……もーいろいろすんません。ホンマに。設定変えまくりで。


7 花祭り

「花祭り?」

「そう。毎年町の若い女の子の中から投票で一人選んで、女神様の格好をしてもらうんだ。ダンスも踊れるし、結構賑やかなお祭りだよ。」

「へえ、楽しそう!行きますよ!」

花屋の放浪オヤジ……もとい、ポプリちゃんのお父さんのバジルさんがわざわざ朝からユーリアのところに教えに来た。

この町には季節ごとに独自のお祭りやイベントがある。都にはなかったこの慣習を、ユーリアは楽しんでいた。

「あ、そうそう。ユーリアちゃんも女神様の候補にエントリーしといたから。」

「へ?」

バジルの意外な言葉に、ユーリアは思わず間の抜けた声を出してしまった。

「言っただろ。町の女の子の中からって。君もこの町の一員だからね。」


「ユーリアが女神様候補?」

「そうなんだ。もし選ばれちゃったらどうしよ〜…。」

「……ぷっ……。」

「何笑ってんのよ、リック!」

「いえ、別に。」

ここはリックの店。

あの日以来、けんか友達になった2人。ユーリアは店によく遊びに来たし、その逆も時々あった。

お互いがお互いを”全く気を使わずに一緒にいられる相手”と認識していた。

「ね、リック。このブラシいくら?」

「2万G。」

「嘘だ!あんたねぇ、まじめに商売しなさいよ!」

「大丈夫。客が君じゃないときは、僕はいたって真面目だからさ。」

こんな調子で他愛もない話をするのは、いつのまにかユーリアの楽しみのうちの1つになっていた。

ちなみに怒りのスイッチはあれ以来押される事はなかった。


「うわぁ、ユーリアちゃん可愛い〜。」

「本当。よく似合ってるわ。」

「……本当に?」

「本当に!!」

投票で選ばれたのはユーリアだった。

ほとんど圧勝だった。

「ほら、行くわよ女神様!」

他の女の子達に着替えさせられたユーリアは、みんなと一緒に町の人たちのところへ出た。

そして、みんなと話をして、王様である薬屋さんと踊って、楽しい時間をすごしたユーリア。

やがてお開きの時間がきて、みんなが帰り、そろそろ自分も着替えて帰ろうかと思ったそのとき、1人、広場を訪れた人がいた。

毎年参加しているのに今年はなぜか来たがらなかったと、ユーリアはその人の娘から聞いていた。

「リリア……さん?」

花屋の女主人のリリア。


8 お母さん

「リリア…さん、ですよね?ポプリちゃんのお母さんの…。」

友達にそっくりなピンクのふわふわの髪、愛らしい顔立ち。それらは彼女がその子の母親だという事を物語っていた。

しかし、その人――リリアは何もしゃべらず、ずっとユーリアを見ている。

「あ……あ………」

「え!?」

やっと口を開いたと思ったら急に泣き出してしまったリリア。

「シ……」

「し?」

「シンシア……。」

(!!)

シンシア。

それは紛れも無く、14年前に亡くなったユーリアの母親の名。

「ごめんなさい…。ユーリアちゃん、ごめんなさい………。」

「リリアさん…?」


それから彼女は少しずつ語りだした。

シンシアと彼女は同い年で、この町で生まれたときからずっと一緒の大親友で。

これからもずっと一緒だと思っていたのに、二人が19歳の秋の月に

ユーリアの父――当時都で1,2を争う有名会社の御曹司が花の芽に――土地を買い取るために、やってきて。

「あたし達の花の芽町を買い取るなんて冗談じゃない!都に帰れ!」

と、勇ましく食って掛かったシンシアをユーリア父が気に入って。

「あんたが俺の嫁になるならこの土地は諦めるよ。」

と、交換条件を出してきて。

シンシアは町のために犠牲になって、嫁にいったのだと――。


「嘘―――。」

「ごめんなさいね、今までずっとあなたを避けて。あなたの父親のしたことを思うと、どうしてもあなたに会えなかった――。」


数年後、自分も結婚して娘も生まれたころに、シンシアが死んだと言う知らせが届いた。

シンシアの実家であるあおぞら牧場に娘であるユーリアが来ていることも知っていたが、

会う気にもなれなかったし、自分の娘ともあわせる気も無かった――。

そして月日が流れ、ユーリアが牧場主になった。

だけどやっぱり会う気にはなれなかった。と………。


「あなたがうちに来た時は奥に隠れていたの。今日も留守番していたんだけど、 ポプリとパパに怒られちゃった。いつまで避け続ける気だって。シンシアが知ったらどう思うかって。 何よりも町のみんなが、あなたがシンシアにそっくりだって。一目見るだけでもいいじゃないかって。 一目見たら―――泣いちゃったけどね……あなた―――本当にそっくりだわ。あなたのお母さんに。」

そういって、彼女は帰っていった。


家に帰ったユーリアは布団の中で考えていた。

さっき聞いた話――。確かに自分の父親はそういうことを言いそうだ。

はじめて聞いた話でまだ少し混乱しているけど――。

母親が自分の幸せを、人生を、犠牲にしてまで守るほど大好きだった花の芽町。そこに、今自分が住んでいる。

まだ暮らし始めたばかりで、初めてのことだらけで、これからも何があるか分からないけど。

「お母さん………あたし、がんばる。お父さんに負けない。ここであたしの幸せを、見つけてみせる…!」

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