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あたし、青山美月。なんと、今日から中学生!
あたしが通う市立宮野西中(通称西中)は市内で1番生徒数が多くて校舎も大きいし、それに自然も豊かだってことで結構有名なんだ。
それに制服もかわいいし、カバンや靴下が自由だし、すごく自由な感じなの。
「円香、やちる!おはよー!」
この二人は生まれたときからの幼なじみ。もちろん中学も一緒!
実は小学校卒業するちょっと前に絶交されちゃったんだけど、他の友達の助言もあって無事仲直りできたんだ。
「あのねぇ、桜すごいきれいだよぉ〜!うちの窓から見えたの〜。」
「え、ほんと!?いいな、やちるん家は。うちの窓からじゃ見えないもん。裏の橋本さんちに隠れて。」
「美月、空。」
円香が空を指差した。きれいな、澄んだ青い空。
「え、わぁっ!すごいきれい!いい色ー。きっと今日いいことあるよ!」
「美月はほんと青い空好きよね。」
「うん。お姉ちゃんの青空好きうつっちゃったからね。」
「そういえば葉月ちゃん今どうしてるの〜?新婚生活〜。」
「あ、そうそう。昨日電話来てね、赤ちゃんできたって!」
「「え〜!」」
「わあ、すごぉい!おめでとう〜!!」
「じゃ、10ヶ月ぐらい経ったら美月叔母さんね。」
円香がいたずらっぽく笑った。
「いいもんっ!おばさんじゃなくっておねーちゃんって呼ばせる!」
仲良しのなっつん、ひーちゃんと合流して、各自自分の名前を掲示板で探した。
「自分のクラス、確認できた?」
「うん!」
「せーので言おうね。」
「うん、せーの!」
「1組!」
「3組!」
「3組!」
「6組!」
「8組!」
「え〜。」
思わず、五人全員でガックリ。
「うっわ。見事バラバラ。」
「いいなぁ〜。円香とひーちゃんはおんなじクラスで。」
「でもなんか3組って1クラスだけ場所が離れてるらしいの…。」
「他に友達いなさそーだしね…。美月の8組は?」
「えっと…友達ってか上小出身自体8人しかいないよ!」
「なんか半分以上坂の下の東小から来てるらしいしね。」
「あ、そうそう。あたしねぇ、なんかうわさで聞いたんだけどぉ、東小や六小から来た人、ガラ悪いらしいから気をつけたほうがいいよ〜。」
「え……?」
やちるの一言に、あたしとひーちゃんは思わず顔が強張る。
「もうっ、やちる!あんたいーかげん噂好き卒業しなさいよ!ほら、ひなと美月怖がってる!」
「あんたはきつすぎるわよ。」
なっつんはやちるに怒り、さらに冷静な円香がそれをたしなめる。
大丈夫かなぁ…。名簿見たらあたし以外の上小出身は男子ばっかりだし…。不安だなぁ…。
入学式も無事住んで、先生の指示通りに教室へ入るあたしたち。
「じゃあね。」
「あとでね〜。」
「美月ちゃん、頑張ろうね…。」
「ま、何とかなるでしょ。」
小学校からの友達みんなと別のクラスになったあたし、青山美月。
ほんとに大丈夫かな〜……。
窓の近くに知ってる男子たちが見えたから、どうやらみんなも同じ小学校の仲間同士で固まってるみたい。
とりあえずあたしは自分の席を探した。青山、青山。女子の1番。あった。
「ねえねえ、名前なんていうの?」
「え…。」
いきなり後ろの席の子に話し掛けられた。知らない子だし、東小か六小の子だろーな…。
『東小や六小の子、ガラ悪いらしいよぉ〜。』
さっきのやちるの言葉が頭に浮かんだ。どうしよう……
なんとなく怖くなって答えられずにいたら、その子は女の子5,6人のグループのほうへ行ってしまった。
すると。
「あの子暗い。近寄んないほうがいいかもー…。」
クスクス、という笑い声とともにそんな声が聞こえてきた。
「仲良くなれそうな子、いた?」
「ひーちゃん、円香…。」
放課後、げた箱の所でひーちゃんと円香に会った。
何でか分かんないけど、なんとなく本当の事言いづらかった。
「ん、まあね。」
「そう。ならよかった。」
「あたしたちもね、円香ちゃんの前に座ってる子と意気投合しちゃって。関西から引っ越してきたんだって。森さんっていうの。今度紹介するねっ。」
「そっか。よかったね。」
一人ぼっちはあたしだけ…?
入学してからはや三日。いまだに友達を作れないあたし。
周りの子たちはみんな違う小学校の子とも仲良くなってて楽しそう…。
話しかけようと思っても、どうしてもやっぱり例の噂が気になるあたし。
だけど、さらに厄介な噂が流れ出して…。
入学直後にあたしに話しかけた子が噂の火付け役。
「くらーい。」が、「陰キャラー。」(注:陰気なキャラのこと)になって、
「キモーイ。」とか……とにかくいろいろ。
何で悪い噂ってこんなにすぐに広まるんだろ。
「そうそう!人の噂も…えーと…何日?」
「四十九よ。おばか。」
「そうだよ〜。みんなきっとそんなのすぐに忘れちゃうって〜。」
今朝も学校に行くときにみんなが励ましてくれた。
…てゆーか、他のクラスにもすでに広まってるなんてショック。
でもね、悪い噂って消えないんだ。
小3の時アメリカから引っ越してきた木原さん。下の名前は忘れたけど。
やちる級の可愛い子だったからみんなの注目集めてた。
それに嫉妬したいじめっ子の女の子が、その子の変な噂を流して。
…どんな噂だったのかも、忘れたけど。
それからその子は嫌われ者になって、半年ぐらいで転校しちゃった。
でも、あたし知ってたんだ。
木原さん、泣いてた。あたし、見た。話した。
『全部、嘘なのに』
そう言ってた。
なんで守ってあげらんなかったのかな。今でも時々思い出す。
噂は全部本当とは限らないもんね…。でもみんな信じちゃうんだ。
あたしも噂、聞いたよね。入学式の日。
噂は全部本当とは限らないのに……。
今日は入学4日目。委員や係を決める日。
「じゃあ、自分がやりたい委員か係の所に自分の名前かけー。一人ひとつは何か書けよー。」
この人は担任の藤井先生。男、30歳。
六年前あたしの一番上の兄ちゃん、まい兄こと青山舞人が中1だったときの担任。
ちなみにまい兄、留年しました。成績不振で。
普通3年で留年なんかめったにないって、同じ高校に通ってる2番目の秋兄、言ってたのに。
…………まあ、それは置いといて。
今日もあの声が聞こえてくる。
陰キャラとか、キモイとか。
今朝、あたしが間違っていた――噂を信じて話し掛けられなかったあたしが。
そう気付いたまではよかったけど、最初に話し掛けてくれた子に謝ろうとしても
他の子のところへ行っちゃったから……。
あ、忘れてた。
黒板に目を通す。
でえも、別にやりたい委員とかないしなぁ…。
教科の先生に授業の用意を聞いたり宿題を集めたりする教科係ってやつでいいかぁ。
お、家庭科係、誰も書いてないや。それでいっか。
「あたしもこれにしよっと。」
あたしが黒板に名前を書いたあと、他の子がその下に名前を書いた。
名前や目標を書く紙を渡された。
さっきの子、どこに行ったんだろ?あ、いた。
「青山さん?だよね。」
「うん……えっと…」
「あたし、関あかね。六小出身だよ。」
「関さん?あ、あたしはね、上小。」
「あかねでいいよ。友達にそう呼ばれてるんだ。よろしくね。」
友達……
「あ、あたし、美月!下の名前。あのね、あたしも友達にそう呼ばれてるの。こ、こちらこそよろしく!」
「うん!」
でも、話せた。うれしい。
友達が、できた!うれしい!
やっぱり噂は噂でしかなかったんだ。あかねは優しそうだし、仲良くなれそう。
噂……
「あかね、あの、その、あたしのこと…」
「変な風に思ってないのかって?」
す、するどい。
「あたし、そういう噂なるべく信じないようにしてるんだ。百聞は一見にしかず、だしね。噂より自分の勘を信じてるから。
「………ありがとう。」
あかね、偉い。あたしもいつかそんな風に考えられるようになりたいな。
ううん、なろう。絶対。
「「美月ー!」」
「何組?」
教室に入ると、すでにみんなグループができてる。
「美月ちゃんっ!!どうだった!?」
「青山さんってなんかくらーい。」
「気にしちゃダメよ、美月。」
………ちょっと待って?
「全員書いたかー?」
「それじゃあ、各委員、係ごとにこの紙に記入してー。」
あまりにびっくりしたから、なんか上手くしゃべれなかったけど。
美月とは仲良く慣れそうな気がしたから同じ係を選んだの。」